兄の行動が斜め上に向かっている。
ロケット団が兄のピカチュウを狙っているというのは知っていた。前に兄がマサラタウンにいる時も襲いかかってきたし、「なんだかんだ~」という前世でよく聞いていた口上も聞けて、懐かしいなと思えたけれど…。
そんな兄とロケット団の追いかけっこが何故か終止符を打たれそうだという。
兄がポケモンセンターでテレビ電話をしてくれた。これってテレビ電話って名前でいいんだよね…?
兄の傍にはピカチュウはおらず、おそらくポケモンセンターで回復してもらっているのだろう。カスミさんたちもいないけれど、どこかで待っているのかな?
とにかく、兄は満足したような表情でロケット団からの被害がなくなりそうだと言ったのを聞いて、私は首を小さく傾けた。
「こんどはなにをやらかしたのおにいちゃん?」
「やらかした…いや別にただロケット団のアジトに行っていろいろと話し合いしただけだって」
「それぜったいただのはなしあいじゃないよね!?」
兄はまた何か暴走したようだ。というのも、話し合い(物理)はリザードンの件でもう分かっていることなのだから。ちなみにその話はタケシさんから教えてくれた。そういえば今はタケシさんではなくてケンジさんと一緒に旅しているというのも兄から話で聞いた。いつか直接会って話をしてみたいと思う。
まあその前に、私はロケット団について少し疑問に思うことがあり、兄に向かって聞いてみた。
「おにいちゃんどうしてアジトのいばしょがわかったの?」
「…人って全力出せば知れることも多いんだぜ」
「つまり?」
「細かいことは気にするな」
「すごくきになるよそのいいかた!?」
気になるような言い方をする兄は口笛を吹いて頑なに言うつもりはないらしい畜生。
「じゃあもうおいかけられたりしないの?」
「一応はな。というよりも悪のロケット団より正義のロケット団の方がかっこいいだろっていう話をした」
「せいぎのろけっとだん!!?」
「おう。ロケット団って悪巧みとかしてくるからピカチュウを狙ったんだろ?だったらロケット団としての悪意を根本から変えていけばもう安心安全」
「つまりピカチュウがねらわれないためにこうどうしたの?」
「まぁな。ぶっちゃけロケット団がうざ…いや面倒だったからその原作のフラグを叩き折ったまでだ」
(ああ、うざかったんだ…)
実に兄らしい行動だと思えた。確かに兄はポケモン優先で行動することが多いからピカチュウが危険な目にあっているのが許せなかったのだろう。
でもそのやり方が素晴らしく斜め上に向かっているような気がする。
何故正義のロケット団にしようと思ったんだ兄よ。
「それでそのあとはおそいかかってこない?」
「…どうだろうな」
兄が疲れた表情をして私ではなくどこか遠くを見つめていたので、作戦はもしかしたら失敗だったのかもしれない。詳しく聞いてみたら兄が渋々口を開いて教えてくれた。
「あいつらはもうピカチュウを攫おうとはしなくなったんだ。でも何故か俺をロケット団の指導者としてぜひ入ってほしいと攫われることが多くなった」
「え、ピカチュウじゃなくておにいちゃんのことを?」
「まあ俺自身の問題だし、どうにかできる問題なんだけどな。カスミやケンジに迷惑をかけているのが気がかりというか…」
「いやおにいちゃんじぶんのこともきにしよう!?」
ポケモンとバトルできる兄のことだから何かあれば自分の力で解決していくということは分かっていた。でも毎回兄が攫われるというのは妹の私としては不安になる。
あと、兄は他人に迷惑をかけるという行為が嫌いだ。私が生まれる前は問題児だったらしいからこそそんな感情をもってしまったのかもしれないが。だからこそ兄は自分自身のせいでカスミさんたちに迷惑をかけるのが嫌なのだ。
そしてロケット団は兄を指導者として入ってほしいというのだ。…まあ正義のロケット団にするという作戦は成功しているらしいし、もう悪いことはしなくなるかもしれないが。でも攫おうとしている時点ではどうなのだろうか…。
よし、何とか兄を元気づけよう。
ロケット団が兄に指導者になってくれというのならば、なるふりをしてあまり関わらないようにすればいいのではないか?そうすればもう兄を攫おうとはしないだろうし、カスミさんたちに迷惑は掛からない。それにロケット団も正義に目覚めて万々歳だ。
私はこの考えを兄に伝えようと口を開いた。
「じゃあおにいちゃんしどうしゃになったら?もうあくどいことしてないしあまりかかわらなければだいじょうぶでしょ。そうすればもうカスミさんたちにめいわくとかかからないよ?」
「……なるほど」
そう言って兄は納得したような表情を浮かべ、笑顔になった。
でも笑顔が少しだけ違っていて、私は嫌な予感がした。
(…あれ?もしかして言っちゃいけないフラグだった?)
「ありがとうヒナ!俺、指導者になって正義のロケット団の黒幕として君臨する!!」
「まっておにいちゃん!そういういみじゃないよ!!!」
だが兄は私の言うことは聞かず、テレビ電話をきってしまった。
やる気満々の兄に、余計なひと言を言わなければ良かったと思うが、もう遅かった。
この後、兄がロケット団とどう関わっていくのかはまだ聞いていないし私としては聞きたくないと思っている…。
妹の心境。
お兄ちゃんちょっと落ち着いて話聞いて…