マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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エピローグ~マサラ人は帰っていった~

 

 

 

 

 

 

「ピチュー…会えて嬉しい」

『ピチュゥウ!』

『ガゥゥ!』

 

 

 

ヒナはシロが言った言葉を完璧に理解してはいなかった。

それでも、シロが悲しんでいたことも、何かを伝えようとしていたことにも気づくことができた。

何が言いたくてわざわざここへ来たのかは分からないし、考えようとすると身体が震えて恐怖が込み上げてくるのを感じるが…。

 

だから、今は何も考えず、目の前に広がる喜びだけを感じていたいと思えた。

 

ようやく会えたピチューは以前と同じように泣いていた。それでもヒナとリザードンは、ピチューを一目見て逞しくなったとも思えたのだ。ピチューがどんな修行をしたのかも、何をしてきたのかもヒナは知らない。ピチュー自身もヒナやリザードンが何をしてきたのかも分からない。それでも、今はこのまま抱きしめあってちゃんと現実であるということを感じていたいと思っていたのだ。

 

 

 

 

 

『ミュゥゥウウ!!!!』

 

 

「ミュウ?…ミュウも来たんだ…」

『ピチュゥゥウ!』

『グォォ』

 

『ミューゥ!!』

 

そんな彼女たちに近づくのは、同じく涙を浮かべてやって来た伝説の存在であるミュウの姿。

ミュウはヒナたちに近づいて抱きついていた。ヒナたちの幼いころを知り、ずっと見守ってきているからこそ泣いていた。ミュウがヒナにヒトカゲのたまごを渡す以前のこともちゃんと知っていたからこそ喜んでいた。

親のように見守ってきたからこそ、庇護すべき存在だと思っていたヒナ達がちゃんと逞しくなって、お互い再会し喜んでいることに耐えられなくなって出てきたのだ。

 

 

『おいミュウ!マサラタウンで迎えようと言っただろうが!』

『優れたる操り人の妹が成長し、恐怖で怯えていた存在に対し最後にようやく向き合えることができたのだ…そして再会し喜び合う姿…飛び出してしまうのも無理はない……グズッ…』

『クゥゥーン?』

『キュゥゥウウン?』

『泣いてなどいない…泣いてなど…ッ!』

『レビィィ!』

『ッッ――――――』

『くそっ…こんなところで…ヒナっブッフォッ!』

『落ち着きなさい。彼女たちが喜び合っているというのに…水を差す気ですか?』

『上等だ貴様。喧嘩なら買うぞ!!』

『フォォォオォ……落ち着け』

『ガォォオオオ!!!?』

『ダークホールは止めろ!!…ああ?他の奴らはどうしたかって?あれだろう…大きすぎて人間に見つかるから止められたんだ』

『クゥォオオ』

『でかすぎるのも難儀ですよね…あのギラティナのように人間の姿になれたらいいんですが…』

『無理だろうな…そんなことができるのは大昔から存在するミュウかギラティナぐらいだ…』

『クゥゥゥウン?』

『ディアルガとパルキアたちは?』

『アルセウスはともかく……サトシがいる傍で人間にはなれんよ。むしろ恐怖で気絶する』

『ビィ…』

 

 

「ふふ…すっごく久し振りで…なんだかマサラタウンみたい」

『ピチュゥ!』

『グォォオ!』

『ミュゥ!』

 

話が脱線しつつも姿を見せてヒナたちの少々近くで見守っているのはマサラタウンでよく来てくれるポケモン達だ。その姿を見てヒナがようやく笑みを浮かべて笑った。笑うその姿にピチュー達が安堵しつつも笑い、そしてミュウ達がますます近づいてもっと笑えと言ってくる。

少し騒々しいその光景も、マサラタウンで見てきたものと似ていて、幼い頃を思い出すようでとても胸が苦しくなった。

 

 

「はいはいはい!!ほらここにいると他の人間にも見つかるぞ!解散するならさっさとしろ!」

 

 

幸せそうな彼女たちに大きく手を叩いてこちらに注目しろとばかりに叫ぶのがシゲルの父。ヒナ達は目を見開いて驚く。何故伝説のポケモンたちがいても驚愕しないのだろうかと…何故平然としているのだろうかと疑問に思ったからだ。だがそんな彼女たちの心境を感じ取り、苦笑したシゲルの父が答える。

 

 

「サトシもそうだが…ヒナ、お前は本当にあの両親にそっくりだ。破天荒な部分に俺もよく巻き込まれていたよ。だからこんな些細なことなら驚けない」

 

 

「そう…ですか…」

『グォォ…』

『ピチュゥ…』

 

『おい待て貴様。ヒナはそんなに破天荒じゃないぞ!』

『フォォオ…現実をよく見ろミュウツー』

『…少しはサトシに似ているとは思いますが…それでも納得がいきませんね。そこの人間、ちょっと話し合いでもしましょうか?』

『ミュゥゥウ!』

『レビィイ!』

『クゥゥウウウ!!!』

「おい待て!落ち着け!!」

「ハハハ…」

『グォオ…』

『ピチュゥ…』

 

何があったのか詳しく聞けないシゲルの父の姿にヒナたちは引き攣った笑みを浮かべる。

だが、シゲルの父の声に反論したのが伝説達であり、攻撃してきそうな雰囲気を感じ取ったシゲルの父は即座にモンスターボールからピジョットを出して反撃できるように体勢を整える。ボールから出されたピジョットはまたかとでも言うかのようにため息をついてシゲルの父を見つめていた。

 

「…………何も、できなかったなぁ…」

『ピチュゥ』

『………グォオ』

 

ヒナはそんな騒々しい彼らを見ながらも考えていた。思い出すと苦しくなるが、それでも悔しいという感情はあった。強くなったと思ったのに、まだまだ弱い部分があったとよく理解したからだ。

 

 

 

「私…皆に負けないくらい、強くなりたい」

『ピッチュゥ!!』

『グォォオ!!』

 

 

両手を見て、ヒナは決心するかのように言う。もっともっと強くなれるのなら強くなりたいと…そう覚悟を決める。いつか、シロを見ても笑えるように…いつか、シロと向き合えるように。

そう考えながら、ヒナは未だに騒々しいミュウツーたちに抱きついて叫んだ。

 

 

 

 

「帰ろう…マサラタウンへ!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、守らなくても大丈夫…か」

『ピッカァ』

 

 

 

 

 

サトシは騒々しいヒナたちの周りを見て寂しげに呟いた。そんな声に同意するかのように、ピカチュウも耳を垂れ下げて小さく鳴き声を上げる。

わざわざジョウト地方へやって来たのは、妹を守るためであった。カロス地方での旅を中断して、妹の身が危なくないようやるべきことはやろうと行動をするために動いた。ポケモンセンターで迎えに行ったらもういない現状に気づいてすぐシトロンたちにその場で待ってもらうよう何も考えず頼んだぐらいには焦って飛び出して…守ろうとしていたのだ。

 

だが、今のヒナを見れば大丈夫だと伝わる。このまま一緒にマサラタウンへ帰らなくても大丈夫だろうと理解する。

カロス地方の旅に戻ってもヒナたちは逞しく成長するだろうと…そう感じていた。

リザードンやピチューがヒナを守ろうとするように、ヒナもリザードン達を守ろうと成長すると考えて…妹が離れていく寂しさに小さく笑ったのだ。

 

 

 

「サトシ」

 

 

 

「…離せ」

「嫌」

 

 

そんな彼に近づくのは、ポケモンセンターで待っているはずの旅の仲間の1人であるセレナ。

セレナは真面目な顔でサトシに近づいて…そしてサトシに抱きついてきた。決して離さないとでもいう強い意志を持つセレナの行動にサトシは疲れたかのような声で反論した。

セレナはサトシの後ろを追いかけていたのだ。待っていてくれというサトシの声を無視して、走ってきていた。

 

だからこそ、セレナは離れない。

 

 

 

「ぜんぶ、全部見たよ…サトシが守ろうとしていたことも…何もかも…」

「…無駄足だったけどな」

「そんなことない。サトシがいなかったら、ヒナちゃんは見ようとしなかった…だから大丈夫」

 

 

 

「止めろ」

 

 

セレナは笑って、そしてサトシに向かって近づいた。

こちらに向かって顔を近づけていくセレナにサトシは思わず彼女の口を手で抑えた。サトシは少々困惑していた。セレナがサトシにキスをしようと行動したのが初めてだったからだ。

だが、セレナはサトシが拒絶しても傷ついたような表情にはならない。口元を抑えられたサトシの手を握って、口から離して言うのだ。

 

 

「止めない。私は、サトシのそばにいたいから…このままじゃいけないって分かったから」

 

 

セレナは泣きそうな顔で笑う。サトシの傍にいられるのなら何でもしてみせるという覚悟を込めて笑う。

そんなセレナに、サトシは苦笑した。セレナの考えが変わっても、意志が違う方向に向いてもこちらを見る目の色は変わらないことに気づいたからだ。

だが、すぐにサトシの表情は変わり、好戦的な目に変わった。その色はまるでバトルをする前のサトシと同じだとセレナは感じ取って笑う。

 

 

 

「いつかサトシのことを奪ってみせる。何年経ってでも、あなたの心ごと私が守れるくらい強くなってそばにいるわ!」

「やれるもんならやってみろ」

「ええ、やってみせるわ!…だから、今は一緒に帰りましょう…?」

「帰るって…ポケモンセンターに戻るだけだろ…ほら、行くぞセレナ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

『ピィカッチュゥ…』

 

 

 

 

サトシ達の態度は最初に会った頃と変わらないというのに、以前とは違い仲良く一緒に帰る二人の後ろ姿を見て…ピカチュウは肩をすくめて呆れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 







THE END…?

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