マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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終わりと、始まり。






第二百八十話~そして事態は急変する~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セレビィの呼び出したエンテイ達が背に乗れと言うように鳴き声を上げてゆっくりと座り込む仕草をとったため、ヒナたちは背中に乗る。ヒビキは恐る恐る…シルバーは感激で目を潤ませながらもゆっくりとその背に乗った。

 

そして立ち上がったエンテイ達はセレビィが一声鳴いてから頷き、ヒナたちがちゃんと掴まったのを見て走り出した。

木々が軽く風に流されて通り過ぎるのが見える。周りの光景がすべて遠くに感じるかのように通り過ぎる。素早く走っていると言うのにあたってくる風が心地よく感じる。

それはまさに、トレーナーにとって貴重な体験でもあった。

 

 

…たとえヒナたちがまだトレーナーではないとしても。

 

 

 

 

 

「うぉぉおぉお!!!!すっげぇぇえええ!!!」

「やかましいぞヒビキ!!…だがまあ悪くないな!」

「この調子なら…すぐに町につくはず…!!」

 

『クォォオオ!』

『グゥウォオ!』

『クォォオン!』

 

 

走り出した先がアサギシティだと言うことも知らずに、ヒナたちはウバメの森を抜けて近くの町へ行くのだと誤解したままエンテイ達に掴まっていた。

その声を聞いたエンテイ達は、驚くだろうなと悪戯を達成したかのような笑みを浮かべて、ただ町を目指して前へと進む―――――。

 

 

 

 

そしてようやく見えてきたのは、海が広がりポケモンショーを開催するための準備を行うアサギシティの町。

エンテイ達は他の人間たちに見つからないようにアサギシティが見える近くで立ち止まってヒナ達を降ろした。ヒナたちは目の前に広がるアサギシティを見て目を輝かせて笑う。

 

 

「アサギシティだ!」

「あれ?ウバメの森からアサギシティって遠いよな?何で…?」

「近くの町じゃなく…アサギシティまで送ってくれたみたいね…ありがとうエンテイ、スイクン、ライコウ!」

「そっか!サンキューなエンテイ達!」

「…礼は言っておく」

 

 

 

『クォォオオっ!』

『グォォオオっ!』

『クォォオンっ!』

 

 

 

エンテイ達はヒナ達からの礼を聞いて満足したかのような表情を浮かべ、軽く咆哮をしてから走り去って行った。その姿は一瞬で見えなくなったが、ヒナとヒビキは腕を振ってさよならと叫び、シルバーは何も行動せずただエンテイ達が走って行った方向を見つめていただけであった。

伝説だとしてもポケモンは心優しく、そして困っている所を助けてくれた…そう、ヒビキ達は学びエンテイ達に感謝していたのだ。

 

そして、しばらくしてからアサギシティに行くため歩き出すヒナ達。

歩いているヒナにシルバーが話しかけた―――――。

 

 

 

 

 

 

「…ほぉ、エンテイ達もマサラタウンにいるか…ヒナ、その様子だと他にもいるんだろ?」

「そ、そうかなぁ?」

「伝説といってもただ珍しいだけのポケモンだろ?マサラタウンにいるんならもっと探せばよかったぜ…!」

「ヒビキ、探しても見つかる可能性はないぞ。腐っても伝説は伝説だからな…ヒナ」

「ごめんなさい」

 

 

ヒナはシルバーに詳しく説明しろと若干凄まれながら言われたため、冷や汗を流して目線をそらしながらもエンテイ達もセレビィと同じようにマサラタウンに遊びに来ていることがあると答えた。

 

その言葉にシルバーはため息をついて呆れたような表情でヒナを見て、ヒビキはそんな珍しいのがいたのかと呟く。シルバーはまだマサラタウンに何かいるだろうとヒナを訝しげな目でじっと睨むが、ヒナは少し下手な口笛をしつつシルバーから隠れるようにヒビキの背中に隠れ、謝った。

ヒビキはヒナの気弱な表情を始めてみて戸惑いつつも早くアサギシティに行こうぜ!と叫んで走って言ったのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

【さぁさぁやって参りましたポケモンショー!!!】

 

 

 

アサギシティの中央で開催されたポケモンショー。幸いにもヒナ達はポケモンショーに遅れることなく…予定よりも早い時間に着き、ついでだからヒナも見に行こうぜ!とヒビキに誘われて行くことになった。

 

ポケモンショーは五日間行われ、ヒビキ達が見に行く予定だったのは三日目に行うバトルショーを見ようとしていたのだった。だがヒナ達が着いたのは二日目に行われる予定のコンテストショー。何回でも見れるチケットをシルバーが持っているおかげで、ヒナ達は喜んでショーを見に行く。

 

アサギシティの中央で行われているポケモンショーは物凄い歓声とポケモンたちの雄叫びによって幕を開けた。舞台の中心にいる一人の司会役がマイクを使って皆を盛り上げていく。

 

【さて!最初の登場はァァア!!?今注目のアイドル!ルチアだぁあ!!!】

 

 

「おいでチルル!皆をキラキラ輝かせよう!って感じだね!!」

『チルッ!』

 

 

舞台から煙が舞いあがり、そこから大きくジャンプして登場した水色の可愛らしい衣装を身につけた少女がやってきた。少女はまだトレーナーになったばかりのような幼い年齢をしているとヒナは感じたが、それ以上にチルルと呼ばれたチルットが少女に懐き…楽しそうに飛び回りながら周りをポケモンの技でキラキラと輝かせているのが見えてヒナたちも歓声を上げる。

 

 

「チルル!しんぴのまもりからのチャームボイスよ!」

『ルゥ!』

 

 

チルットがクルッと一回転をして身体を光り輝かせ、その状態のまま大きな声を上げて観客の真上から星空のように光が散っていった。チルットはまるで星空の中を泳いでいるかのようにキラキラと光りながらルチアの周りを飛んで、そして大きく羽を広げる。

 

 

「フィニッシュ!」

『チルゥ!』

 

 

 

ルチアがお辞儀するのと同時にチルットもその頭に乗って小さくお辞儀をした。その可愛らしい仕草と先程の素晴らしいショーに観客たちは盛大な拍手で盛り上りを見せる。もちろんそれをじっと見ていたヒナ達も笑って拍手を贈ったのだった。

 

 

 

 

【新人アイドル、ルチアの演技でしたぁ!それでは次の――――】

 

 

 

ショーはチケットを持っていない人がせめて音だけでもと聞くぐらいの盛り上りを見せ、ヒナ達もそのショーを見て楽しんでいった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「いやぁ面白かったな!バトルだけじゃなくあんな演技もできるんだからポケモンって奥が深いよな!」

「あ、ヒビキもしかして興味もった?ならホウエン地方のポケモンコンテストも見て見たらどうかな?」

「ふむ…俺も少し興味があるな…あのポケモンショーの技…バトルで応用できそうな何かがある気がする」

「シルバーはポケモンバトル一直線か…」

「おれもポケモンバトルに決まってるぜ!ショーは面白かったけどな!」

 

 

「あ!もしかしてポケモンショー見に来てくれた子たちね!」

 

 

ポケモンショーを見終わったヒナたちは誰もいなくなった舞台の上に座って今日あった出来事を話し始めていた。舞台はこの五日間使われるため取り壊しはまだ行わず、そして誰もいない。そう思い舞台で身振り手振りでそれぞれポケモンショーでこんなのが楽しかったと話していると、ヒナたちの後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。

後ろを振り返ってみると、そこにいたのはポケモンショーの序盤で出てきたルチアという少女。

 

 

「えっと…ルチアさんですよね?」

「覚えててくれたの!?うれしい!」

「チルット使いのルチアさん…俺たちに何か用ですか?」

「いいえ!私はただあなたたちに興味があって来ただけなんだ」

「興味ぃ?」

「ええ!君たちのお名前は?」

「えっと――――」

 

ヒナ達はルチアが来たことに驚きつつも話し始めた。ルチアは舞台にいた時と同じように輝くような笑顔で笑う。舞台で見たあの派手な水色の衣装はさすがに身につけておらず、可愛らしい青色のワンピースのような服を着ていた。

ルチアがヒナたちに興味を示したという言葉にヒビキが首を傾けて声を出して驚き、そしてそんなヒビキを見て微笑みながらも名前を聞く。その言葉にヒナたちは三人で顔を見合わせた後、自己紹介をした。

 

 

「ヒナちゃんにヒビキ君、そしてシルバー君か!よろしくね!私はルチアよ!!」

「よ、よろしくお願いします…」

「ふふ…ねえ、あなたたちには輝くような夢はあるの?」

「夢…ですか?」

「ええ!情熱に燃えてキラキラと輝くような夢!って感じだね!」

「はぁ…」

「夢ならあります!俺、世界一のポケモンマスターになってサトシさんを倒したいんだ!」

「おお!あの無敗で最強のトレーナーだね!頑張れヒビキ君!」

「…俺は、世界中にいる全てのポケモンを育ててみたい」

「それは大変そうだけど、でも壁が多いほど燃えるよね!応援してるぞシルバー君!」

「………えっと」

「ヒナちゃんはなにか夢はあるかな?」

「まだ、ない…です」

 

 

ヒナは少し恥ずかしいと言うように顔を俯き、ルチアから視線を逸らす。ヒビキ達はヒナが夢を持っていないことに関しては何も言わなかった。何も言うことはなかった。

ヒナの表情を見たルチアは優しい笑みを浮かべてヒナの頭を撫でる。突然頭を撫でられたことにヒナは驚き、ゆっくりと顔を見上げてルチアを見た。

 

 

「大丈夫よヒナちゃん。まだ夢が見つからなくてもいつか追いかけたいって思うほどの情熱的な夢が見つかるはずだわ。私だってヒナちゃんぐらいの時は何も見つからなかったもの」

「ルチアさんも…?」

「ええそうよ。…でも、悩んでいてもいつか必ず見つかるの!私も、周りを見て…おじさまのおかげでコンテストの魅力に気づくことができたの。ヒナちゃんも焦らないでゆっくりと探してみて!」

「ゆっくりと…ですか?」

「ええ!そうすれば情熱でキラキラ輝く夢が見つかる!って感じかな!」

 

「でもルチアさん、まだ新人アイドルなんだろ?」

「チルットであそこまでの技を鍛えたのは尊敬しますが…」

「まだまだこれからよ!私もトップを目指していかなきゃって感じだもの!」

「あはは…」

 

ヒナはルチアの言われた言葉を聞いて考え込んだ。夢はきっと見つかるとそう信じて旅をしているけれど、ルチアにそんな彼女の焦りを感じ取ったのかもしれないと思ったからだ。ルチアはヒビキ達から応援と言えるかよく分からない言葉をかけられて舞台の中心でくるくると回ってから決めポーズのようなことをし、叫んでいた。

そんな彼女を見て、ヒナはそっと懐からモンスターボールを取り出して、リザードンの入っているボールを見つめる。リザードンはヒナが何も言わなくても言いたいことが分かるとでも言うかのようにゆらゆらとボールを揺らしていた。その揺れは、一番最初に船に乗った時と同じような感じがして…リザードンは何時でもヒナについていくとでも言いたいかのようだとヒナは思った。

 

 

「あ!ヒナちゃんいい笑顔!その気持ちを忘れちゃ駄目だよ!」

 

 

だからこそ、ヒナは笑顔で笑ったのだ。

 

 

 

 

「はい!ありがとうございますルチアさん!」

「ルチアさん!チルットをあそこまで鍛え上げたのには何か特別なことをしたんですか!!?それともコンテストでいうポロックか何かを――――」

「―――――シルバーが暴走するぞヒナ止めろ!」

「ヒビキも止めなさいよ!あ、ごめんなさいルチアさん!シルバーについてはいつものことなんで気にしないで…」

 

「ふふふっ!あなたたち本当に素敵ね!」

 

 

ルチアの輝くような可愛らしい笑顔にヒナたちは一瞬騒動が収まり、そしてルチアと同じように笑った。それは、舞台の上だからか…それともルチアによって引き出されたのか…楽しいというような感情をおさえず、4人はキラキラと輝かしい笑顔で笑い合っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

その後、ルチアと別れたヒナたちはポケモンセンターへやって来ていたのだった。

ポケモンセンターに来た理由は、シルバーが父上に電話をするため…ヒナはフスベシティまで送ってくれる人を待つためジョーイさんに話しに言ったのだ。ヒビキはシルバーが電話を終わらせてヒナが戻ってくる間、ソファに座り込み考えていた。ソファから見えてきた景色にはいろんなトレーナーが出入りをしていて、ジムバッチを手に入れようとして負けたもの、ポケモンを勇気づけているもの…そして、ポケモンセンターの大きな窓から見えるバトルフィールドでバトルをする者がいた。

 

 

「終わったぞ…おいどうしたヒビキ」

「いや、ちょっと考え事」

「フン…馬鹿の癖に考え事するとはな…」

「シルバーの中の俺ってどんだけ馬鹿なんだよ!?」

 

「ごめん待った?…ってなに喧嘩してるの!!?」

「喧嘩してねえ!売られただけだ」

「馬鹿に馬鹿と言っただけだ」

「馬鹿じゃねえよ!」

 

「ほら喧嘩しない!!」

 

ヒナの一喝によってヒビキとシルバーは騒ぐのをやめ、再び静かになる。まるでヒナたちだけが海のように静かで、周りはポケモン達やバトルやらで騒がしい。それはまさにヒナたちの空間だけ周りとは違っているように思えた。

そんななか、シルバーが口を開く。

 

 

「父上から連絡があった…悪いが俺は学校に戻る」

「え?明日のバトルショーは見に行かないの?」

「ああ」

 

学校に戻ると言ったシルバーの言葉にヒナは驚いて声を上げた。だがシルバーは感情のこもっていない声で一言言う。それを聞いてヒビキがソファから立ち上がってから口を開いた。

 

「俺も学校に戻る」

「ヒビキも?」

「何だ?一人になるのが不安か?」

「そんなんじゃねえし!…ただ、もっと強くならないと駄目だって思っただけだ」

「そっか……じゃあ、お別れだね」

 

ヒナは寂しそうにヒビキとシルバーを見て呟いた。ジョウト地方にいるヒビキ達に会える確率はとても低く、また会えるとしたら数年後のトレーナーになった時だと思っている。だからこそ、ヒナはようやく会えた幼馴染とトラブルメーカーのような悪友に向かって寂しげな笑みを浮かべたのだ。一緒に居られたのは短い時間だったけれど、濃い時間でもあったと思い出しながらも…。

そんなヒナに向かって、ヒビキは声をかけた。

 

 

「俺は強くなる!強くなってサトシさんに勝てるぐらい最強になる!――――だから、また会おうぜ!…今度会う時はマサラタウンで!」

「馬鹿が。また船の時のように偶然出会う可能性もあるだろうが馬鹿が」

「馬鹿を何度も言うなアホシルバー!」

「あはは…うん。でも今度会ったときは……その時はマサラタウンの方がいいな。皆でトレーナーになったら一緒にバトルしようね!」

「おう!!」

「…フン」

 

 

三人はそれぞれ拳をあわせて、笑顔でまた会う約束をした。今度会う時はマサラタウンで、そこで会うのなら強くなってからだとヒビキは考えていたからだ。その言葉に寂しさを我慢してヒナは笑う。また会えるのならば大丈夫だと考えて笑ったのだ。

シルバーはいつものようにフッと笑ってヒビキに小さく喧嘩を売りながらも別れを言った。

 

 

 

「……またね」

「おう、またな!」

「じゃあな」

 

 

 

 

――――――寂しさを押し込めて、三人はそれぞれの道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 







ポケモンセンターで待っていたヒナは後ろから来たジョーイに声をかけられたため振り向いた。

「あなたがヒナちゃんね?町の外で迎えが来ているそうよ?」
「あ、はい!ありがとうございますジョーイさん!」

ジョーイの言葉を聞いてヒナは走り出した。すべてはピチューに会うため、マサラタウンに帰るために…。

ジョーイから言われた言葉の通りに、ヒナは走る。そして町はずれにある森の中に入ったヒナが見たのは―――――。





「久しぶりね。元気そうで安心したわ」



ポッポたちと戯れる、少女であった。





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