マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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懐かしい声が聞こえた。






第二百七十八話~すべては奴のせいです!~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルバーのチルタリスによるはかいこうせんによって船が沈没し、あわや大惨事かと思われたヒナ達であったが…偶然にも船の緊急信号を察知したポケモンレンジャー含めた警察たちによって無事に救われた。

 

 

 

だが――――――――。

 

 

 

 

 

「…いっとくけど、全部シルバーのせいだからね!」

「違う、ロケット団と名乗った詐欺集団のせいだ!」

「どっちもどっちだろ!!」

 

 

 

「もう!ここは一体何処なの!?」

 

 

 

船から脱出することに成功したヒナ達であったが、その後来たポケモンレンジャーたちに顔を青ざめた。あの場にいたロケット団と名乗る男たちははかいこうせんによってどこかへ吹っ飛んだのか、それとも逃げて行ったのか…いつの間にかいなくなっていて、残ったのは人質たちを救助したヒナ達だけ。ちなみに人質たちは船にあった救命ボートにのって助かっていた。

だからこそ、ヒナたちはこの状況がやばいと理解していた。

 

人質となっていた人間たちはこの騒動を起こしたのがあの悪党たちだと分かっている。だがヒナたちが救出し、シルバーが暴れた事実も知っているのだ。このままポケモンレンジャーたちの元へ行けば暴れたことを知られ、いろいろと面倒なことになると少々混乱した状況の中で考えた。焦ったヒナは冷静を失ってそう考えてしまったのだ。

 

ヒナにとっては、ピチューと会うために一人で行くことを決心した船出での騒動であり…アーロン達が大丈夫だと信用してそのまま送り出してくれた先でのトラブル。アーロン達は悪党を追い払ったことに対しての事実を褒めることはないだろう…むしろ心配し、派手に船を沈没させたシルバーを止められなかった件に関してのアーロンの説教の方があり得るとヒナは考えていた。だが説教よりも怖いのはシルバーが捕まるかもしれないという状況。

今ポケモンレンジャーたちが船に来ればわかるだろう…船にいるのはリザードン達を出しているヒナたちの姿だけであり、あの悪党たちはいない光景。そして明らかにチルタリスが暴れたであろう痕跡。このままではいけないとヒナはヒビキ達を連れてリザードンに乗って空を飛び船から脱出していた。ゾロアークはとっさにイリュージョンでバチュルになってヒビキの腕にくっつき、重さをごまかして…そしてチルタリスはそんなリザードンの横に飛んで後を追いかけていた。

ヒビキはただシルバーが捕まるのを恐れて苛立ち、リザードンの背中に乗ってからすぐにシルバーの頭を殴っていた。殴られたシルバーは反撃してヒビキの横っ面に平手をぶちかましていたが、リザードンの背中で暴れていたためこのままではリザードンが傷つくと判断したヒナの拳によって二人仲良く殴られて気絶させられていたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

どこかの陸地の森の中にヒナたちはいた。

リザードンは三人を背中に乗せて飛んだため少し疲れた様子でいた。チルタリスとヒナは飛び疲れたリザードンを心配していた。だから森の中で降りてリザードンを休ませながらもここが何処なのか町を探すことになったのだった。

ゾロアークとチルタリスも森の中に入ってから起こされたヒビキ達によってボールの中に戻され、ヒナもリザードンにお疲れさまといってからボールに戻していた。

 

 

 

「ああもう…とっさに逃げちゃったけどあれ逃げない方が良かったよね…あいつらが船占拠してそれを止めようとしたんだから…ちゃんと説明すればなんとかなったはずじゃ…」

「船沈没させたのはシルバーだってあの時捕まってた兄ちゃん達に言われたらどうするんだよ!?」

「それは船の耐久力が弱かったせいだろう」

「「そんなわけあるか!!」」

 

 

シルバーが船のせいだと言うその言葉にヒビキとヒナが怒鳴る。船の耐久力が弱いとシルバーは言うが、ポケモンバトルに対応できる船ではなかったのだからはかいこうせんなどの大技に耐えられるわけはないとヒビキは叫び、シルバーはそれを鼻で笑った。どんな問題が起きても良いようにするのが普通だろうと幼い頃サトシと話をしていたシルバーはそう考え、単なる船側の設計ミスだと思い込んでいたのだった。もちろんそんなシルバーの心境を船を作った人々が知ればそんなことわかるわけないと喚くだろう。はかいこうせんやらりゅうのはどうやらポケモンの大技を船の内部で連続でぶっ放すような行動をするだなんて予想はできないのだから。

一方ヒナは、シルバーが暴れたことによってヒナ自身焦ってちゃんと考えずに森の中まで連れてきてしまったが、ポケモンレンジャーたちに説明すれば何とかなったはずじゃないかと森の中を歩きながらも冷静さを取り戻した頭で考え後悔していたのだった。なにかしらの面倒事は起きるかもしれないが、それでも説明すればアサギシティまで送ってくれたかもしれない…そうヒナは考え頭を抱えていた。だが、やってしまったことはしょうがないとこれからのことを考える。

 

そんななか、シルバーはヒナを見て首を小さく傾け口を開いて言う。

 

 

 

「ヒナ…髪切ったのか?」

 

「すっごく今更っ!?」

「おお!俺も気になってたんだ!まああいつらがいたから言える状況じゃなかったんだけどさ」

「失恋したのか?」

「なんだヒナ?お前誰か好きな奴いたのか?」

「失恋じゃないし!…まあ、いろいろあったの」

 

 

 

ヒナは肩まで切られている髪の毛を一束手に取ってため息をついてヒビキ達に言った。詳しく説明しないヒナの言葉に首を傾けていたが、それ以上は聞く気がない二人はヒナと同じように歩くことに専念したのだった。

 

だが、歩いていても森から抜けることができず、気がつけば日が傾き…夜になってしまった。さすがに夜の中でポケモンを出さずにいるのは危ないと考えたリザードンがボールをガタガタ揺らして外に出て、ヒビキ達もゾロアークやチルタリスを出して歩き始めた。

 

 

「腹減ったぁ…ちょっと休憩しようぜ」

「そうだな、ここで日が昇るのを待った方が良い。このまま森の中を歩いていても体力を消耗するだけだからな…」

「まあ確かにそうね…」

 

森の中は野生のポケモンたちがこちらをじっと見ているような視線が多い。ほぼ半日歩き回っていたヒナにとってそれは警戒するべき対象であった。ヒビキとシルバーはその視線に気づいていないが、それでも野生が多くいる森の中は危険だと十分わかっていたようだった。

 

リザードンの炎によって森の中が明るく照らされ、その周りでヒナたちが夜を過ごすための準備を始める。近くに落ちていた小枝を拾ってリザードンに火を吹いてもらいたき火にしたり、チルタリスが空を飛んできのみを集め、シルバーたちの元へ届けたりしたのだった。たき火の周りで座り、きのみを食べながらヒビキは周りで起きている現象に引き攣りながらも声をかけた。

 

 

「なあヒナ…お前小さい頃からそうだったけど……なんか悪化してねえ?」

『グァァゥ?』

「え?そう?」

『グォォ…!』

「さすがにおかしいだろ…その野生のポケモン達の懐き具合は」

『チルゥ』

 

 

きのみを食べながらこの後どうするのか話し合っていたヒナたちに近づいてきたのは、ずっと視線を感じていた野生のポケモン達であった。攻撃してくるかとヒナは警戒したが、野生のポケモンたちはヒナに近づいてその周りをうろちょろするだけだったため警戒するのを止めた。ただの純粋な好奇心でこちらに来たのかと考えたヒナだったが、リザードンはそうは考えておらずヒナの周りで悪戯しそうなゴースやゴーストたちに威嚇して追い払っていたり、明らかにヒナしか懐いていないというのに全然気づかない様子にヒビキとシルバーは顔を見合わせてため息をつく。

 

 

だがそれでもポケモンが大好きな三人は、ヒナの周りをうろちょろする野生ポケモンたちを歓迎した。ジョウト地方の野生のポケモンにヒビキは少しだけキラキラと目を輝かせ、シルバーはポケモン達を観察して…そしてヒナは膝の上に乗ったホーホーを撫でて楽しんでいた。

ちなみにそんな彼らの手持ちであるリザードン達はというと…リザードンはヒナに悪戯しようとしたポケモンを追い払ったり膝の上に乗ったホーホーに殺気のこもった視線で見たり、そんなリザードンをチルタリスがため息をついて落ち着かせたり、ゾロアークが面白そうに見ていたりとしていた。

そんな状況の中で、ヒナは思い出したかのようにヒビキに声をかけた。

 

「そういえば…ヒビキのゾロアークってイリュージョンできるけど…何にでも変身できるの?」

「ヒナ、ゾロアークのイリュージョンは変身ではなくただの幻影だ。メタモンのように飛行タイプの姿に変わったとしても飛べないし、その技を使うことはできない。つまりただの見せかけだがその分なんにでもなれる」

「シルバーお前が答えんなよ!!…でもシルバーの言うとおりなんにでもなれるからな!ゾロアーク!!」

『グァァァゥ!!』

 

 

ゾロアークが一回転をして身体を変化させ、近くにいたヒナのリザードンになる。黒い身体の色違いのままの相棒に似せた姿にヒナが感激し、野生のポケモンたちは目を丸く見開いて驚いていた。だがリザードンは自分の姿を似せたゾロアークに苛立ち睨む。だがそんな視線を見てゾロアークは笑ってもう一度一回転をして次はシルバーに似せた。

 

「人間にもなれるんだ!」

「喋ることはできねえけどな!それでも人にはなれるぜ!」

「俺の姿で悪戯したこともあったな…チルタリス」

『チルゥ!』

「うぉ!?ちょッこっちに向かって攻撃してくんなシルバー!あの時は悪かったから!」

「チルタリス」

『チルルゥ!』

「はかいこうせんは止めろォォオ!!」

 

「うわぁ……ん?あれ?ゾロアーク、どうしたの?」

『…!』

「なに?」

 

 

ゾロアークはヒビキ達の騒動の中もう一度イリュージョンをして、今度は己のマスターでもあるヒビキの姿になっていた。そしてにっこりと笑った表情でヒナに近づき、両腕を広げて抱きしめようとして―――――。

 

 

 

『グォォオォォオ!!!』

『っ!…グァァゥ!』

『グォォオオッッ!!!』

「ちょっ、リザードン落ち着いて!ほらゾロアーク怪我してるからね!」

『グァァ』

『……グォォ!』

「喧嘩は止めなさい!」

 

 

「何だ?!どうかしたのか!?」

「あのゾロアークのことだ。リザードンの怒りを買うような悪戯をしたんだろ?」

『チルゥ』

「あー……」

 

抱きしめようとしたヒビキに似せたゾロアークをリザードンが尻尾でぶっ叩いたことにより吹っ飛ぶ。その威力の強さによってゾロアークはイリュージョンを解き、腹を押さえてリザードンに向かって叫んだ。その騒動を見てヒナは膝に乗っていたホーホーを地面に降ろしてから炎を放とうとしているリザードンを抱きしめて落ち着かせた。ヒナに抑えられたリザードンはゾロアークを見て鋭く睨むが、当のゾロアークは反省した様子を見せずに笑って今度はヒナの姿になって舌を出して挑発していた。その姿を見て喧嘩は買うわよこの野郎!とばかりにゾロアークに近づこうとしたが、ヒナの手によって抑えられたのだった。

一方ヒビキとシルバー、そしてチルタリスはその喧嘩の発端となった状況を見ていなかったことからいきなり始まった騒動にヒビキが驚き、シルバーとチルタリスは学校で毎日のように見てきたゾロアークの悪戯好きの性格から予想してため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――そしてそんな騒がしそうな光景を見るのは、一体の小さなポケモン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……レビィ!』

 

 

 

 

ヒナを見て楽しそうに笑ったポケモンは、どこかへ飛び去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







懐かしい声が聞こえた。



よく耳にしていたその声が聞こえたんだ。





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