マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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怒るのは誰でもできること。


ただその種類が違えば鋭い攻撃となって襲いかかってくるのは言うまでもない。





第二百七十七話~激怒したのはだぁれ?~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルバーは憎んでいた。悪いのは奴らなのだと、ただそれだけを信じて、怒っていたのだ。

 

 

「父上に対する暴言…か。いや、俺に対する挑発か…潰す」

 

 

ロケット団と名乗るのは、シルバーにとって正義のような存在だとそう誇っていた。たとえそれが、シルバー自身小さい頃にロケット団が悪として栄えていたとしても、今は違う。皆が笑って、そしてちゃんとお互いを支え合って生きているのだから…。人がポケモンを利用するのではない、人とポケモンが共存して生きていける世界を作ろうとしている。そんなロケット団を、シルバーはとても誇りに思っていた。悪いことをしていたロケット団が嫌いと言うわけじゃないが、それをやればいろんな人々が悲しむとシルバーは知っていた。ポケモンたちが傷つくのを、シルバーは知っていたのだ。

だからこそ、シルバーは全てを変えてくれたサトシに憧れるのと同時に、感謝していたのだ。父を変え、ロケット団を変え、そして悪を別の方向へ塗り替えてくれた存在。

 

 

――――――――それをすべて奴らは否定した。それが許せなかった。

 

 

「チルタリス、すべて叩き潰すぞ」

『チルゥ!』

 

 

チルタリスは、親のような存在のシルバーが怒っている感情を感じ取っていた。激怒にも似たものを【奴ら】に向けているのも分かった。だから叩き潰す。

シルバーがもういいと笑うまで、チルタリスも同じように怒る。

 

「なッ!?何だお前!?」

「ガキがまだいやがったか…!」

 

シルバーが見た先にいたのは、サカキが作ったロケット団が使っていた衣装に酷似しているものを着る奴らの存在。こちらに向かってポケモンで攻撃しようとして来ているが、シルバーが来なければさらに酷くなっていたであろう悲惨な光景を目にして、さらに怒りが込み上げてきた。

ポケモン達が傷つき、泣いている。ポケモンを庇おうとしている人々が、傷つき倒れている。

 

奴らが人やポケモンを傷つけようとしていたのなら、こちらも容赦はしない。

 

 

 

 

「りゅうのはどう」

 

『チルゥウウウウウウッッ!!!』

 

 

 

 

ロケット団の名を踏みにじった所行を後悔させてやる。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――――――――ドォォォオッッ!!!

 

 

 

 

最初の爆発から、その後何度も続く船の揺れと破壊音にヒナたちは焦っていた。

 

「な、なあヒナ…この船傾いてないか?」

「言わないで…」

「もしかして…シルバーがこれやったんじゃ…というか今もやってるんじゃ――――」

 

「――――お願い言わないで!シルバーがやっただなんて話聞きたくないの!」

「おまえ聞いてるだろ!早く止めないとあいつ犯罪者になるぞ!船沈没させた容疑で!!」

『グァァアウ』

 

 

ヒナ達が焦る理由は、今現在も続いている揺れと激しい轟音に船が耐えられるかどうかという問題だった。何故シルバーがこんなにもキレているのか分からない…とは言い切れない。ヒビキもヒナも、ロケット団と名乗る連中がポケモンや人間たちを襲うこの光景に怒りがあったのだから、何かきっかけがあれば暴れていたのかもしれないのだ。ただ、ヒナはアーロンの言った通りに周りの状況を確認して、そしてポケモンや人間が集められているということに気づいた。人質になる可能性に気づいたのだ。だからこそ、無傷でどうにか人質たちを解放できればいいと思ってはいたのだがそれは全て破壊音と大きな閃光によってできなくなった。

 

でも、シルバーが暴れているのならば、それはもう無関係だろう。とにかく一刻も早くロケット団を名乗る奴らを止めなければならないとヒナたちは走る。まあその前に船を沈める勢いで暴れまくるシルバーを止めなければならないだろうと考えて今はシルバーの元へ走っているのだが…。

 

 

 

「おい!あのガキをどうにかして止めろ!こっちには人質がいるんだ!」

「誰か博士を連れて行け!こちらの研究を手伝うための必要なもんだ!」

 

 

「っ!」

「っておいどうしたヒナ!いきなり立ち止まって!?」

『グァァ?』

 

「…ヒビキ、今の聞いた?」

「何が?」

 

 

ヒビキとゾロアークが仲良く首を傾けるのと同時に、ロケット団の嫌な怒鳴り声が聞こえてくる。

その声に、ヒナたちは嫌そうな顔をした。ゾロアークは鋭い爪を研いで奴らを斬ってやろうかという殺気立った目をして声のする方向を睨む。

 

 

 

「早く人質を使え!たくさんいるんだから壁がわりにはなるだろうが!!」

「さっさとポケモンを回収しとけ!売るためのいい商売道具だ!!」

「早くフロアに戻るぞ!」

 

 

「…聞こえた」

『グァァウ!』

「フロアにいこう!このままだと皆が危ない!」

「いやわかってるけどその前にシルバーはどうするんだよ!?あのままでいいのか!?」

 

「いいの!あいつなら絶対に生き残るでしょうし…それに今はこっちの方が大事!私たちでやるべきことをしておきましょう!」

「…だぁぁ畜生!!シルバーが船を沈めても知らねえからな!!!」

「不吉なこと言わないでよ馬鹿ヒビキ!!」

『グァァウ…』

 

 

ヒナ達は方向を変えてフロアに向かって走って行く。

 

やるべきことを、やるために―――――――――。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ヒッ…怖いよ…お父さん!」

「大丈夫だ…大丈夫だからな」

 

 

暗闇内で聞こえてくる大きな衝撃と破壊音にフロアの隅に集まっている人々とポケモンたちは怯えていた。だが、その不安を消し去ろうと大人たちが子供たちを守るかのように奴らの壁となっている。大人たちのポケモンも、大人しくしてはいるが、何かあればすぐに守れるようにしようとしていたのだ。だがソレはフロアにやって来た一人の男の声によってかき消される。

 

 

「お待たせして申し訳ない…博士?」

「クッ…なにが目的だ!」

 

博士と呼ばれた中年の男は、立ち上がって叫んだ。その叫び声に、ポケモンたちが攻撃できる隙があればすぐに攻撃してやろうと構える。それを見てロケット団の男は嘲笑う。

 

「フッこのポケモンがどうなってもいいのか?」

『キュゥゥウウ!!』

 

「ミニリュウ!!?」

 

ミニリュウを掴む男に、博士は一歩前へ歩く。だがそれを見てロケット団の男はミニリュウを小さな檻に閉じ込め、両手を上げて言う。

 

「このミニリュウは博士が研究している大切な素材でしょう?これがどうなってもいいと?」

「ミニリュウを物扱いするな!!!!」

 

 

博士の叫び声をロケット団の男は鼻で笑った。まるで、物を物扱いしない博士を嘲笑うかのように…。そして博士の近くで攻撃できるのならばしようと構えていたポケモンたちは捕えられてしまったミニリュウを見て歯痒い感情を起こしていた。攻撃してどうにかしてやりたいという気持ちがあるのに、ミニリュウがいることによってそれができない。

男は全て分かっているかのように、笑いながら言う。

 

 

「さて。博士…来てもらいますよ?それが嫌だと言うのなら…ナットレイ、やってしまいなさい」

『ナットォォォオッッ!!』

 

「クッ…!!」

 

 

ナットレイがこちらに向かって鋭い棘を飛ばそうとしてくる。博士は避けられなかった。それを避けてしまったら後ろにいる子供たちや小さなポケモン達が傷ついてしまうと分かっているから。そして近くにいる大人たちも避けることはできないでいた。博士と同じ感情で、避けてしまったら子供たちもポケモンたちも傷つくと分かっているからこそ…ポケモンたちは、抵抗したらミニリュウが傷つくと分かっていたから、止められなかった。

 

 

だが、その瞬間だった。大きな漆黒の風が棘を吹き飛ばしていったのだ。

ロケット団の男たちはその風を見てポケモンの技だと気づき、叫んだ。

 

「誰だ!今こちらに向かって抵抗したのは!!?」

 

その怒声に反応するのは、幼い少年の声。そしてその声のする方向を見れば、トレーナーの適正年齢にはまだ達していないであろう幼い2人の少年少女たちが立っていた。

 

 

「誰だって?…フッ!ただのマサラ人だ!」

「馬鹿!素性ばらしてどうするのよ!!」

「名前は言ってねえんだから良いだろ!――――ってことで、後は頼んだぜ?」

 

「ええ、任せときなさい」

 

 

 

 

少年…いや、ヒビキが扉前から消えた―――――と思った瞬間だった。

ヒナが放ったボールから出てきたポケモンが、大きな炎をロケット団が従えているナットレイに向かって放ったのだ。ナットレイが一撃で倒れたことに、ロケット団の男は愕然とする。そしてようやく見えたのが、黒い身体をした、立派なリザードンの姿だった。

 

 

「リザードン…色違いだと!?」

「色違いのリザードンか!これは高く売れるぞ!捕まえろ!!」

 

 

 

「…高く売れる?捕まえろ?…リザードンは私の相棒よ!!色違いだ何だと言って私の相棒を貶さないで!!!」

『グォォオォオオオオオッッ!!!!!!』

 

 

リザードンがヒナの声に応えるようにロケット団たちに向かって大きく咆哮する。その凄まじい声は空気を震わせ、ポケモンたちをひるませ…そして怯えさせることに成功していた。リザードンはそんな怯えたポケモンたちを見て鼻で笑った。まるで、こんなんで私に敵うと思ってるわけ?とでも言うかのように…。

 

「何を怯えている!相手は一体だ!!捕えてしまえ!!」

 

「リザードン、かえんほうしゃ」

『グォォオオオ!!!』

 

だが、ロケット団は諦めきれていない。

強くて色違いのリザードンは希少価値が高く、ポケモンバイヤーの視点で見れば大金持ちの連中がこぞって買いに来ると知っていたからだ。ポケモンたちを叱咤させ、無理やり攻撃させようとしていた。だが、何体も集まっての集中攻撃もリザードンの放つかえんほうしゃには敵わない。すべての攻撃が無効化される。

 

 

――――――それほどまでに、強いポケモンだとロケット団を名乗る連中は気づいた。

 

 

 

「クッ…ならば人質を使え!最悪ミニリュウを壁にしてもいい!さっさとリザードンを捕まえろ!!」

「ここには人質がたくさんいるんだ!そいつらを使え!!」

 

 

「どこに人質がいるって?」

 

 

ロケット団が叫んだ声に反応したのは、先程ヒナと一緒にいたヒビキの声。

人質がいたはずの方向を見てようやく気付いたのは、人々の腕の縄が解かれ、後ろの壁が壊されて逃げていく人質たちの姿。檻が壊され、ミニリュウが博士と共に逃げていく姿。

 

 

「クソガキが…何しやがった!!」

「落ち着け…あの少年の隣にゾロアークがいる…おそらくイリュージョンでもしてこちらの目をごまかしたんだろう…これも希少価値が高い」

 

 

「希少価値?ゾロアーク、お前って結構珍しいの?」

『グァァゥ?』

「いや普通怒るところでしょ…」

『グォォ…』

 

 

ロケット団の連中が言った言葉にヒビキは首を傾けて隣にいるゾロアークに聞いた。だがゾロアークはヒビキと同じように首を傾けてどうなんだろう?とでも言うかのように鳴き声をあげる。彼らの様子を見てヒナとリザードンは頭を抱えてため息をついて呆れていた。

 

「まあいいわ…これで人質もいなくなったんだし…これで終わらせるわロケット団!!観念しなさい!!」

『グォォオオ!!!』

「捕まえてジュンサーさんのとこに連れてってやるからな!」

『グァァアア!!!』

 

 

「クッ…だがまだだ!まだ……ッ!?」

 

 

 

―――――――大きな閃光と、破壊音がフロアに襲いかかった。

 

 

 

ヒナ達にとっては幸か不幸か…ロケット団の近くにあった壁がフロアの向こうにいたポケモンによって破壊され、崩れていく。その壁があった場所からやって来たのは、目が血走った―――ヒナたちと同じ年齢の赤い髪の少年。

 

 

「ここにもいたか…貴様等!ロケット団を名乗る愚図共は皆滅却してやる!!」

 

 

シルバーは親の仇でも言うかのように、ロケット団と名乗る男たちを見て怒鳴った。その声と表情に、ヒナたちは慌ててシルバーに向かって叫んだ。

 

 

 

「ちょっシルバーがなんかおかしくなってる!?」

「待て待てシルバー!!お前これ以上暴れたら船が沈没するぞ!!」

 

 

船は傾き始め、そろそろ暴れると沈んでしまうと分かった。でもヒナ達ならば手加減して戦えたのだが…激昂状態で戦闘狂(バーサーカー)となっているシルバーだとすぐに船を沈没させてしまうと分かっていたから焦って止めようとした。だがその声は今のシルバーには届かない。

 

 

 

 

「知るか!チルタリス、はかいこうせん!!」

『チルゥゥウウウ!!!!』

 

 

 

「ふざけんなぁぁぁあああ!!!!」

「シルバーの馬鹿ぁぁああああ!!!!」

 

 

 

 

 

大きな閃光がロケット団に向かって放たれるのと同時に、ヒナはリザードンに…ヒビキはゾロアークに助けられながらもカオスとなったフロアから脱出することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






不自然に傾く船を見下ろすのは、飛行タイプのポケモンに乗るロケット団と名乗っていた男たちの姿。




「このままで終わらないぞ…必ず、悪を我らの物に!」



彼らはポケモンに乗り、飛び去って行った。野望を胸に、どこかへと行ってしまったのだった。






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