マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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「……チッ」


不機嫌そうに歩く。こんなことがあってはならないという表情で歩く。






第二百七十六話~船にて急ぐは問題ばかり~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナは焦っていた。それは、ボールで激しく揺れるリザードンの主張のせいか、それともヒナが隠れた机から通り過ぎる強暴なポケモンを従えた悪党たちがいるせいか…いや、両方かもしれない。

 

 

「…どうしよう」

 

 

 

ヒナは焦っていた。だが、焦って行動してしまってはいけないとアーロンから教わっているからこそ乱れる息を整え、深呼吸を何度もして落ち着いてから現状を確認していたのだった。

もちろん、波動を使いながらもいまだにボールから出せと激しく揺れて主張するリザードンのボールをぎゅっと握りしめて落ち着かせながらだが…。

 

 

「大丈夫よリザードン、今はまだボールの中にいて…」

 

 

 

(波動を使って見えたのはたくさんのポケモンと、人が激しく蠢く光…それと、人が泣いてるような声)

 

 

 

ヒナが現在いる場所は船でヒナ自身が使っている客室の中。甲板からすぐに船の中に入り、占拠したと叫ぶ人やポケモンから隠れて一時的に安全になるであろう場所を目指した結果だった。だが、ずっとここにいても意味はないだろうとヒナは考える。外で聞こえていた悲鳴が近くで聞こえてくる。扉が壊され、部屋を荒らされる音が響く。その音にリザードンが反応してまたボールを揺らすが、ヒナはもう一度大丈夫だよと笑ってリザードンのボールを撫でたことから揺れはおさまった。

 

 

(そろそろここも危ない…出ないと)

 

 

このまま扉から出るとあのロケット団と名乗る悪党達に見つかる可能性が高いと考え、ヒナはすぐに部屋にある窓を開けて波動で確認し、脱出した。

 

外から出て聞こえてくるのは、様々な声と音。悲鳴のような声に、嘲笑うような声。破壊音やポケモンの叫び声。

 

 

―――――怖いと感じた。

 

 

 

 

あの時のように、痛みや苦しみはないのだけれど、それでも自然と身体が震える。冷や汗が出て、目眩がする。でも、リザードンに知られたらすぐにボールから飛び出して守ろうとしてくるだろうと考えて両頬を強く叩いて無理矢理気合いをいれた。

だが、それでもヒナの様子がおかしいと感じ取ったリザードンがボールを揺らして主張するため、ヒナは苦笑した。

 

 

「ごめんねリザードン…でも、ロケット団が人質をとってるなら、このまま暴れることはできないから……」

 

 

ヒナはリザードンを出せないでいた。それは、ロケット団が人質を使って脅してくるという可能性があるからだった。人質がいなければ暴れてしまってもいい。それぐらいの強さはヒナもリザードンも手に入れた。だが、船に乗る客や船員が人質としていることによってロケット団を捕まえようと暴れた結果、負傷者が出てしまっては意味がないとも考えていたのだ。なるべく、最善を目指していこうと考えていた。

それをボールの中から聞いていたリザードンは少しだけ不満そうにボールを小さく揺らしてから静かになる。リザードンも人質がいる場合を考えて、この黒くて大きい身体だとロケット団にすぐ見つかってしまって隠れている努力が水の泡になると分かったからだった。

 

 

 

(とりあえず、ロケット団の目的を聞かないと…かな。アーロンさんが教えてくれた、現状把握の確認を急がないと)

 

 

 

ヒナは隠れながら行動を開始した。ロケット団が何故船を占拠したのか、何故悪党のようなことをしているのかを理解しなければならないからだ。そして人質を解放できるのかどうか、ロケット団がどのくらいいるのか人数確認もしなければならない。

アーロンが教えてくれた―――――知らなければ問題は解決しないという通りに従って、波動で見えた大きい輝きのある場所へ急いだのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「我々が望むのは、ただ唯一の悪を貫くロケット団の再生と新結成!!正義などいらない!」

「サカキ様が新ロケット団の頂点に君臨し、再びの悪を目指すこと!!」

「我らはロケット団!!」

「悪を貫くロケット団だ!!!」

 

 

 

(つまり、お兄ちゃんの意思に従わなかったロケット団の残党ってことね…)

 

 

フロアにて聞こえてくるロケット団達の叫び声にヒナはため息をついた。この事が兄であるサトシに伝われば、いろいろと問題が起きるのは目に見えて分かることだからだ。

 

今現在ヒナがいる場所はフロアの隣に位置する部屋の中。壁に耳を寄せて、ロケット団の声を聞いていたのだ。ヒナはまだ、波動を完全には使いこなせていないため、密集する空間で知り合いのいない人やポケモンの敵と味方の判断がつきにくい。アーロンやルカリオならできることを、ヒナはまだできないでいる。

それでもフロアから聞こえてくる泣き声と悲鳴に、ロケット団と名乗る悪党と、船にいた客である人質がいるとわかった。

 

 

(フロア全体に『ねむりごな』か『うたう』を発動させれたらいいんだけど…無理よね)

 

 

今いるのは攻撃特化のリザードンだけ。リザードンはねむりごなもうたうも使えないことからヒナはできない考えを捨ててちゃんとできることを考えようとした。

人質が無傷で解放され、かつロケット団を捕らえる方法を―――――。

 

 

 

(船を操縦してる部屋に行ってみようかな…何かあるかもしれない……)

 

このままここにいても意味はないと考え、ヒナは移動を開始する。

すぐに解放しなければいけない人質達のことを考えて、やれることを探そうと、部屋から出て船にある操縦室を探しに向かった。

通信が使えるならば、兄に連絡をとろうと考えて…。

 

 

 

――――――そして、フロアから離れて歩いた廊下の先で見つけたのは船の案内図。

 

 

 

「何がなんだか…操縦室書かれてないし…!」

 

 

案内図といっても、客室についての案内図でありその他については書かれていない。

それをじっと見て、集中していたせいだろうか…。

 

 

 

「他にも隠れた奴等がいないか探せ!」

「ハッ!」

 

「っ!?」

 

 

廊下の曲がり角から聞こえてくる足音と声。不幸にも案内図がある場所は部屋があるが全て鍵がかけられており開けることができない。そして扉を壊して隠れたとしてもその音で見つかる可能性の方が高く、足音が近くなっていることで隠れる時間がないこともわかった。

ガタガタと激しく揺れるリザードンのボールを手に持ち、ヒナは構えた。

暴れることを覚悟した。

 

 

(姿が見えたら、リザードンと一緒にフロアにいるロケット団に見つからないように攻撃しよう…!)

 

「待て!そこを動くな!そしてあいつらに接触するな!」

「えっ!?」

「いいから動くな!!」

 

 

構えて、動き出そうとした瞬間、声が聞こえてきた。その声は聞いたことのある人の声だとヒナはわかったが、それでも何もするなと言われてはいそうですかと頷けない。ロケット団が騒ぎだしたら攻撃しようと考えて構えた体勢のまま待つが、やって来たロケット団は【ヒナに気づかず】そのまま通りすぎていった。

 

 

「…何で?」

 

「へへっ!驚いたかヒナ!」

 

 

ロケット団が通りすぎた後ろ姿を見てヒナは呆然とした。何故隠れてもいないヒナを見つけることが出来なかったのだろうと…。

だが、その答えは、まるで霧が晴れるかのように姿を現す人物によって出された。

 

 

 

 

「…久しぶりね、ヒビキ」

「おう!久しぶり!」

『グァァゥ!!』

「ってゾロアーク?進化したの!?」

「まあな!シルバーと特訓して進化した!今や頼れる相棒だぜ?」

「そっか、さっきのロケット団達に向かってゾロアークがイリュージョンして幻影を見せてくれたのね…ありがとう」

『グァァァ!』

 

「そ れ よ り も っ !ヒナは何でこの船に乗ってんだよ!」

「フスベシティに用があって乗ってるの…ヒビキは?」

「俺はアサギシティでポケモンショーがあるから見に行くんだ。シルバーがチケットを手に入れたからな!」

「…え、待って。シルバーもここにいるの?」

 

 

「ん?…あいつ何処に行った!?」

 

 

ヒビキが廊下から飛び出してすぐ近くにある甲板に出る。ゾロアークがマスターであるヒビキを追うために、何故かヒナの手を握ってから走り出したため、ヒナも一緒になって甲板に出た。ゾロアークがイリュージョンで誤魔化しているからか、ヒビキが騒いでも誰も気づかない。

ヒナはため息をついて、いまだに辺りを見ているヒビキに話しかけた。

 

 

 

「シルバーとさっきまで一緒にいたってことよね?甲板にいたの?」

「いや違う!甲板から見えるあそこにいた――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ドォォォオンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが指差した方向から見えた大きな閃光と爆発。そして、船を揺らす威力のある破壊音が聞こえてくる。悲鳴とポケモンの声が不協和音となってヒナ達の耳に届いたことから、その衝撃の凄まじさが伝わり、現状が最悪なことを理解する。理解はするが、【それ】が違っていてほしいともヒナ達は考えていたのだ。

ヒナとヒビキはお互い顔を見合わせて、数秒間立ち止まっていた。冷や汗を流して、ゆっくりと首を動かし二人は黒煙が立ち上る場所を見つめる。

 

 

 

「緊急!誰かが反撃したぞ!殺せ!!」

「反撃者は赤髪の少年だそうだ!殺してポケモンを奪え!」

 

 

 

 

そして聞こえてきたロケット団の声に、ヒナ達は走り出した。

 

 

 

 

「シィルバァァァア!!!!」

「もう!シルバーのバカァ!!」

 

 

 

それはまさに、人質を無傷で解放できるのかどうかという考えが水の泡になった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







――――――不機嫌そうな表情を崩さず、ただ歩き続ける。






「潰す」




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