マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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旅の始まり―――――――








第二百七十五話~旅立ちとお別れ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね…ヒナちゃん」

「…はい。お久しぶりです……シゲルさん」

『…………グォォ』

 

 

 

 

「もう!急に現れるからびっくりしたわ!」

『ポチャァ!!』

「ああもしかして…彼が【そう】かい?」

『はい、アーロン様』

『ははは…と言うことはあれかな?』

『あれでしゅね』

『あれだろうな』

「…何よあれって?」

『ポチャァ?』

『聞かない方が幸せな事だ』

 

 

 

リザフィックバレーに突如現れたのは少しだけ微笑んでいる知的そうな青年―――――シゲルだった。

シゲルが現れたことに対してヒカリ達は驚いているが、アーロンは何処か納得したような表情を浮かべており、ルカリオやギラティナ、そしてシェイミは苦笑して遠い目をしている。何があったのかよく知らないヒカリとポッチャマは彼らの表情を見て首を小さく傾けていたが、聞かない方が良いというルカリオの忠告に従ってそれ以上の追及はしなかった。

その一方でヒナとリザードン、シゲルは苦笑しつつも挨拶をしていた。シゲルにとってはヒナたちが連れ去られた原因を作った失敗という過去があり、そしてヒナたちにとってはシゲルがあの事件によって罪悪感を抱いているのではないかと不安になっている。

 

「……………」

「……………」

『……………』

 

 

 

『…………グォォオオオオッッ!!』

 

 

「うわっ!?」

「危ない…!」

『グォォ…!!』

 

 

そんな微妙な空気を変えたのが、ヒナの兄であるサトシの手持ちのリザードンだった。だがリザードンは兄が怒った時のように少々過激にかえんほうしゃをシゲルを中心にぶっ放していたが、それを避けようとするシゲルや、シゲルを守ろうとするヒナ…そしてそんなヒナを守ろうとするヒナのリザードンによって避けることができた。サトシのリザードンはヒナが余裕で避けられるようにと手加減をしていたのだろう。リザードンはそんな辛気臭い顔をするなとばかりに炎を小さく吐いて、大きな声で一喝した。

 

 

『グォォオオオオオオっ!!!』

 

 

「……ああ、やっぱり君はサトシのポケモンなんだね…ヒナちゃん、あの時はすまなかった」

「そんなことないです!あれは、誰も予想できなかったことですし…それに、シゲルさんは何も悪くない…だから、謝らないでください!それに、私は…私たちはもう大丈夫ですから」

『グォォオオオオッ!!』

 

 

 

「ヒナちゃんに炎が当たったら危ないのに…」

『ポチャァ』

「いや、彼はちゃんと手加減しているよ。あのリザードンならば避けられないぐらいの炎を吐くことは容易だろうからね」

『サトシのリザードンならこっちにも炎を当ててきそうでしゅ』

『ああ、やりかねないな…あのリザードンなら』

『サトシ君と同じようにバトルジャンキーだからね…まあだからこそ大丈夫と言えば大丈夫かな?』

「それって全然大丈夫じゃない…」

『ポチャポチャ!』

 

 

 

ヒカリ達はシゲル達の様子を見て、サトシのリザードンが炎を吐いたことに対して驚愕し、ヒナに当たったらどうするのかと話していた。そんなサトシのリザードンはサトシに似ている点が多くあり、ヒナを傷つけようと行動しないから大丈夫だろうとアーロンが話したり、ヒカリがバトル大好きで好戦的な性格をしているリザードンに遠い目をしていたり…そんな会話が繰り広げられていた。

 

 

「とにかく、ヒナたちの怪我を治そうか。話はそれからでも遅くはないだろう…ルカリオ」

『分かりましたアーロン様!』

『ミィ…ミーも手伝うでしゅよ!』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

シゲルがどうして来たのかという話を、ルカリオ達によって喧嘩でつけた怪我を癒してもらいながらも聞く。するとシゲルはリザードンと再会したと話を聞いたからこちらまでやって来たと言う。やって来たのは、ヒナたちにとっての弟であるピチューの居場所を教えるためであった。

 

 

 

 

 

 

「え!?ピチューの居場所を知ってるんですか!!」

『グォォ…!』

 

「ああ、ピチューは僕が送り届けたからね。今いるのはフスベシティにある【りゅうのあな】だよ」

「遠ッ!」

『グォォ!』

 

 

シゲルが言った場所は、現在ヒナたちがいるジョウト地方のやや北上に位置する場所。キキョウシティの近くにあるリザフィックバレーからは地図で見たら近くにあると錯覚するが、現実は山や川といった自然が多く存在し、ヒナたちの壁となって立ちはだかる。つまり、遠回りをしていかないといけない場所にあるのだ。それをヒナは知っていた。ジョウト地方やカント―地方でアーロンと波動の修行をしながら旅を続けていたからこそ、地図だけで近いと判断するのはいけないと理解しているからだ。

だからこそ、ヒナの反応にシゲルは苦笑して、頬をかく。

 

 

「フスベシティには今僕の父がいるんだ」

「父?…って、シゲルさんのお父さん!?」

「そう。僕のお父様…父はピチューの進化系統には異様なほど詳しくてね。ヒナちゃんのピチューも強くなりたいと望んでいたし…預けたんだ」

「強く…?」

『…………』

「そうだよヒナちゃんにリザードン。ピチューも君たちのように強くなりたいと望んでいるんだ」

 

 

「そっか…ふふっ…ピチューも同じ気持ちなんだね…」

『グォォ』

 

 

強くなりたいと言う言葉にヒナは目を見開いて…そして少々泣きそうな顔でリザードンを見て笑った。ヒナの表情を見てリザードンは力強く頷いて微笑む。すべてはヒナの力となるために、もうあんな悲惨なことを起こさないように行動した結果なのだから…リザードンはややその方向が違ってはいたが、それでもヒナを守ろうとする意志は変わってはいない。

 

 

だが、ヒカリは納得できていないと言う表情でシゲルに向かって言う。

 

「ねえ!あなたのお父さんがピチューの進化系統に詳しいってことは分かったけど…それで強くなるのと何か関係があるの?強くなりたいのなら、このリザフィックバレーのような特訓ができる場所かそれこそサトシに預けた方がいいんじゃ――――――」

 

 

 

「―――――――僕の父はこう見えてカント―地方のチャンピオンだったんだ…まあ、今は辞退しているから【元】という言葉がつくんだけどね」

「元チャンピオン!?」

『ポチャァァ!!!?』

「へ…!?シゲルさんのお父さんってチャンピオンだったんですか!!?」

「そうだよ…もっと詳しく言うのなら、君のお父さんも元チャンピオンだ」

「え…えええええ!!?」

『グォォ…?』

『グォオオオオオ…!!』

 

『ちょっと待って…そんな話聞いたことない…』

「あれ?サトシから何か父に関して聞いたことがあるのかい?」

『ああいやそういうことじゃなくて…うん、気にしなくていいよ』

 

 

ヒナは困惑していた。父には生まれてから出会ったことがなく、兄であるサトシは数回しか会っていない現状での話だったからだ。旅人として外にでているという話を母のハナコから聞いたことがあったが…ただそれだけ。カント―地方のチャンピオンになっていたという事実を聞いたことはない。だからこそ、ヒナはいきなり出てきた父の話に困惑し、そして驚愕していたのだ。

そんな様子にヒナのリザードンは首を傾けてカント―地方のチャンピオンについてサトシのリザードンに話を聞き、その言葉にサトシのリザードンは少々好戦的な色を隠さない目で答えた。好戦的な色の中には、マスターであるサトシの父親が元チャンピオンと言うことは、強いと言うことであり…そして戦ってみたいという感情を込み上げていた。

一方でギラティナもいろいろと困惑していた。シゲルやヒナとサトシの父について語られたのだから…困惑するのと同時に、驚いていたのだ。だが、彼の心境を詳しく知る人物は【もう】ここにはいない。

 

 

 

そんな彼らの反応を見て、シゲルはアーロン達を見てから小さく頷いた。その行動にヒナとヒナのリザードンは首を傾けていたが、シゲルは気にせず話を続ける。

 

「ヒナちゃんにはすまないけど、この場所へ行ってもらいたいんだ」

 

そしてシゲルが懐から取り出したチケットをヒナに渡した。

 

「これは、アサギシティまで行ける船の直行便。すぐ近くにある港の船から行けるチケットだ」

「アサギシティ…」

「港に着いたらすぐに迎えが来るはずだから待っていてくれ。…すまない、僕にできることはこれぐらいしかないんだ」

 

「え…?」

『グォォ…?』

「研究員としてやるべきことがあって…これからそこへすぐに向かわなければならない…本当ならヒナちゃん達を送り届けなけばならないんだけれど、すまない」

「そうですか…分かりました。ありがとうございます」

『グォォ!』

 

 

「え…でも私たちもついていけば何とか…!」

『ポチャ!』

「いや、これ以上の旅路はヒナとリザードンだけで行った方が良い。あまり一緒にいるのも、守られるという感覚で波動を鈍らせてしまうからね…それに、何か起きても問題を解決する力は身につけさせたつもりだよ」

『ええそうですね…妹分として見るのなら、ヒナは誇らしく育った。それにリザードンもだ』

『グォォオオ!!』

『いろいろと不安すぎるけど…まあそれ言ったらサトシ君に怒られるから気にしない方が良いか…』

『ミィィ…ミーはそろそろ花運びに行かなきゃならないでしゅから帰るでしゅよ!』

『え、ちょっ…あのカオスを俺一人で止めろと!?』

「それについては問題ないよティナ。私が行こう…ルカリオ、ついて来てくれるかい?」

『はい。喜んでお供します!』

「…私はホウエン地方でコンテストがあるからそっちに行くけど?」

『ポチャァ!』

『えぇ!?じゃあヒカリちゃんともお別れってこと!?』

「あのねティナ、こっちもいろいろと準備があるのよ!……ごめんねヒナちゃん。アサギまでなら送れると思ったんだけど…頑張ってね!大丈夫よ!ヒナちゃんならできるわ!」

『ポチャァ!』

「はい!ありがとうございますヒカリさん!」

『グォォ!』

「ええ!どういたしまして!…またマサラタウンに寄るから、その時は一緒に遊びましょうね」

『ポッチャ!』

「はい!その時はコンテスト技について教えてください!ピチューが喜びます!」

『グォォゥ!!』

「ふふ…分かったわ!楽しみにしてる!!」

『ポチャァ!』

 

 

シゲルは申し訳なさそうな表情でヒナたちを見て言った内容は、研究員としての仕事を多く抱えているという話だった。シゲルはまだまだ研究員としては下の方に位置する。ある研究でリーダーとして抜擢されたとしても、ある程度の実績を持っていたとしても、まだまだ勉強することはたくさんあるのだ。だからこそ、ヒナたちを置いて旅に出るのがとても不安だった。

そんな声に反論して、ヒカリがシゲルに向かって言うが…その言葉をアーロン達によって止められ、結局は一人で行くということになった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アサギシティへ目指す船に乗り、ヒナはリザードンの入ったボールを見て微笑む。

 

 

 

「ピチューに会ったら…まずは抱きしめないとね」

 

 

 

 

リザードンのボールが小さく揺れて、ヒナが言った言葉を肯定するように応えてくれた。小さく揺れるボールにヒナはまた笑って、そして出発した船からだと見えなくなった方向にいた、ずっと一緒にいてくれたアーロン達の姿をみるかのように、じっと立っていた。

 

 

 

「私の夢…か…やりたいこと、見つけないとね…」

 

 

 

 

 

アサギシティに行き、そしてフスベシティに迎えが来るという人に会い、シゲルの父に会う。長旅のようでそうでないこれからのことを考えて、ヒナは小さく笑った。

 

 

これからの旅で問題が起きないようにしなければと考えて、アーロン達がいるであろう方向をじっと眺めて――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――だから、気づかなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この船は我らロケット団が占拠した!ポケモンを持つ者はそのボールをこちらへ寄こせ!そうすれば身の安全は保障してやろう!!――――――抵抗する人間およびポケモンは殺すぞ!!」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナもある意味、サトシと同じくトラブルメーカー体質なのだということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







旅の始まり―――――――
問題が起きるのは『基本』である。必要なのは問題が起きてからの解決策を探すことだろう。


数年後にて大ヒットとなった書物『マスターが話す有り得ない実話』より一部抜粋。








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