マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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―――――聞こえるのは大きな慟哭


第二百七十三話~予期せぬ力は微笑んだ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ア、アーロン様…本気ですか…ッ!」

「ルカリオと戦う…んですか?」

 

「ああそうだよ」

 

 

ヤマブキシティからクチバシティへ行く途中の森の中。ポケモンや人間たちがあまりいない森の奥深くで休憩していた時にふと思いついたかのようにアーロンが言った内容を聞いて、ルカリオが目玉を飛び出すのではないのかというほど驚き、ヒナは小さくアーロンの言った言葉を繰り返していた。そしてその話を聞いたギラティナたちはまたかというように頭を抱え、ヒナに怪我をする内容だったら殴られてでも止めなければと決意する。

だが、そんな彼らの心配は杞憂となり、アーロンが言った内容は、とても簡単かつ怪我をしないような内容であったのだ。

 

ルカリオが使う武器は精神統一の時に使っていたハリセンのみ。ヒナはその身一つでルカリオに膝をつかせるのが目標となる。

 

「…つまり、模擬バトルのようなもの…ですよね?」

「そうだね。ただしポケモンの技を使わないバトルになるのだけれど…やるかい?」

「やります」

 

『ッ…ヒナと…戦う…だと…!』

「ルカリオはちょっとやりにくそうね」

『ポチャァ』

『そりゃあそうでしょ…ハリセンしか使えないとしてもルカリオにとってはヒナちゃんに攻撃すること自体やりたくないだろうし…』

『ルカリオの修行にもなりそうでしゅね』

『ポチャポチャ』

「ええそうね。主に精神面での修行になりそう…」

 

 

 

ルカリオがこれほどの苦痛はないというような渋い表情を浮かべて微笑み合っているヒナとアーロンを見つめているのをギラティナたちは他人事のように雑談していた。もちろん模擬バトルと言うことは怪我をする可能性は高いと考えてはいたのだが、ルカリオ自身がヒナと戦うという言葉とその反応に同情するだけで終わった。アーロンがヒナと戦うというのなら全力でギラティナは止め、ヒカリも少しはギラティナに協力したかもしれないが…ヒナを妹や娘のように溺愛するルカリオ自身が戦うというのならまあ大丈夫かという感情の方が強く、ハリセンという致命傷にならない武器ならばなおさら平気だろうと安心していたのだ。もちろん当の本人であるルカリオはどうやってヒナと戦えばいいんだとはじまりの樹でアーロンと決別した時のように悩みまくっていたのだが…。

 

 

 

「ルカリオ、波動は我にあり。――――つまり?」

『…波動の思うがままに従います』

 

 

アーロンの一言によって、ルカリオはヒナと戦う決意を決め、ハリセンを手にとる。

それはまさしく、いろんな戦いを経験した歴代の戦士のような雰囲気を漂わせていたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「えー、バトル形式ということで…審判は私ことヒカリが行います!ルカリオの攻撃技、およびヒナちゃんの武器使用は禁止となります!それじゃあ…バトル開始!!」

 

 

『行くぞッ!』

「速ッッ!!?」

 

『チッ…やはりサトシに似たか…ッ』

「え…舌打ちするほどのことかな?」

 

 

 

「甘いよルカリオ…君の妹弟子はそんなに弱くない」

『ええそうですねアーロン様…ですが私にも兄弟子としての意地があります!』

「よし来い!受けて立つんだからね!」

 

 

ハリセンで戦うということに対してルカリオは了承したが、バトルを長引かせるつもりはなく、速攻で終わらせようとまるででんこうせっか並みの速さでヒナに近づき…その頭上にハリセンを振り下ろす。だが目前にルカリオがいることに気づいたヒナはすぐさま身体を捻って後ろに下がり、地面に転がりながらも受け身をとってそのハリセンから避けることに成功させた。

 

その反射能力はある意味人間ではなくポケモンのように感じ、ルカリオは思わずヒナが小さなサトシのように見えてしまい舌打ちをした。

ルカリオにとってヒナは本当に可愛がっている妹のような存在なのだ。そのヒナがあの【見た目人間中身強暴ポケモン】のような兄のサトシに似てきたことに内心で嘆き悲しむ。いつか周りの人間たちに【見た目可愛い少女だけど中身がポケモン】なんだと言われたらどうしようかとバトルの最中だというのに一瞬だけ思い悩んでしまったぐらいだ。でもその思考はアーロンから言われた妹弟子という言葉で消し去ってしまった。アーロンが言った【妹弟子】という意味を、ヒナを人外の一歩手前だと決めつけずに妹弟子なのだから強くなってきたからなのだと考えれば少しは救われる気がしたのだ。まあそれはある意味幻想にすぎないのだが…それでもルカリオは妹弟子であるヒナが強くなってきたことに対して嘆き悲しむのではなく、自慢できるような心でいなければと兄弟子としてそう覚悟した。

 

いや、それでもサトシのような常識外にはなってほしくはないと心の底から願ってはいるのだが…師匠であるアーロンがいる時点でそれは無理かと少しだけ諦めていた一番弟子のルカリオであった。

 

 

 

―――――――――その間にもバトルは激化する。

 

 

『目を閉じていては何もできなくなるぞヒナ!!』

「そんなことないッ…よっ!!」

 

 

 

『ッ――――本当に、お前は強くなったな…!』

 

 

通常のバトルのようにルカリオはスピードを最速のままヒナの周りを走り回り、かげぶんしんのように動く。その動きに翻弄されまいとヒナが目を閉じて精神統一を図ろうとするが、ヒナの身につけているグローブが青く光るのを見てルカリオが動き、一瞬の隙を見つけてハリセンを振り下ろそうとする。

だがヒナも負けておらず、ハリセンを振り下ろそうとしたルカリオがこちらに近づいたのを一瞬で目を開けて見る。その後、しゃがみこんでからカポエラーのような体勢をとり、両手に思いっきり力を入れて飛び上がってからルカリオの顔面に蹴りを入れようとした。

もちろん、いろんな戦いを経験してきたルカリオがカポエラーのような体勢で無理やり飛び上がらないといけないほどの小さな幼女の攻撃が当たるわけもなく…かといって可愛いヒナが無理して怪我をさせるつもりもないためすぐさま後退し体勢を整えていった。

無意識ながらもルカリオは笑っていた。模擬バトルでの戦いを通して感じるヒナ自身の強さと、その信念を受け取っているのだから。

ヒナ自身も笑っていた。ルカリオと戦うことによってポケモンのように経験値が溜まるような…もっともっと強くなるようなそんな予感がしていたのだから…だから笑っていたのだ。

 

 

 

そんなポケモンと人間の戦いを邪魔しようとしてくる【奴等】の妨害を…外野が行っているとも知らずに。

 

 

 

『ポチャポチャァ!!』

「こらこら…今は彼女たちに近づいては駄目だよ」

『というか、むしろヒナちゃんを守ろうとして近づいてない?やっぱりこのバトル無謀なんじゃッッグフォッ!』

「私は無駄なことは好かないんだ」

『ッ…だったら俺にいちいち殴りかかって来るのも無駄な事だろ!!』

「それは無駄じゃないと思っているよ。ティナを殴るのは私の宿命だ」

『そんな宿命いらないッッ!!!』

『つまらないこと言ってないであいつら止めるでしゅよ!』

『ポッチャマァァ!!!』

 

 

 

『―――――――――――――ッッ!!!!』

 

 

 

 

森の中にいた野生のポケモンたちが、ヒナとルカリオの模擬バトルを見て…あれがバトルではなく一方的に攻撃されていると勘違いしたらしい。ヒナの才能の弊害か…ルカリオを敵に認定してバトルを止めようと飛び出してくるのだ。それを止めるのはもちろん審判であるヒカリ以外の仲間たち。言葉で説得しようとしてもポケモンたちは嘘をつけ!あの女の子が可哀想だろ!このままじゃ怪我をしちゃうよ!と叫ぶだけで話を聞こうとしない。だからこそ無理やり止めているのだが…アーロンがいつものようにポケモンを怯えさせ、やらかしてしまうほどの行動をとっていないせいで止まることがない。アーロンにとってヒナを守ろうとしているポケモンたちは対して悪いわけではないと分かっているし、手加減をしても簡単に止められるポケモン達だと分かっているからこそギラティナに殴りかかったり会話をしたりという余裕があったりする。

 

 

 

その間にもバトルは苛烈していく。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

(届かない…あと一歩なのに…とどかないっ!)

 

 

『どうしたヒナ!その調子だと俺に近づくこともできないぞ!』

「分かってるよルカリオ!!」

 

 

 

笑みがだんだんなくなっていく。焦りが余裕を消し去っていく。

 

 

 

戦いの中で変わっていく感覚があるのには気づいていた。鋭くなっていく波動に気づいていた。

 

 

 

 

目を閉じなくても青い輝きが見える。

 

 

 

目を閉じなくても波動が伝わる。

 

 

 

それでも、私は波動を使えない…!

 

 

 

(波動を違うものに…攻撃として使えないと意味がない!でもそのやり方をアーロンさんから教わってない…いや、違う…自分でやらないと!!!)

 

 

 

ヒナにとっての波動はただ感覚を鋭くさせて人が何処にいるのかを探すためにしか使用してこなかった。もちろんそのための修行しかアーロンはしてこなかったのだが…それを恨んではお門違いだろうということも気づいていた。

【わざと】攻撃してこないルカリオは、先程の接近攻撃に警戒して近づいてこないだけだろうと気づいていた。でもそれでも一瞬の隙が生まれてしまっては必ずこちらに近づいてくる。その一瞬がある意味ヒナにとってもチャンスとなるが、それはハリセンが頭に叩きつけられてしまう諸刃の剣と同じだということにも気づいていた。

 

 

このままではいけない

 

 

 

もっと他の方法を考えないと…

 

 

 

 

ヒナは必死に考える。鬼ごっこの時のように、精神統一をしていた時のように…何度も何度も考える。思考が、波動の力を鋭くさせる。でもそれは、散策能力が強くなっただけにすぎないと思ってしまう。

 

 

 

(いや、もっと違う方法に…もっともっと波動を強く鋭くしないとっ!)

 

 

 

ヒナは唐突に思った。波動が鋭くなるのが素早いルカリオを探そうとするからこそならば…その思考を一気に変えよう。探そうとするのを止めて、波動に集中しよう…そう考えたのだ。

 

何故そう考えたのかは分からない。激しいバトルによって体力を消耗させたせいで思考が鈍ったか、ヒナの無意識の本能がそうさせたからか。どちらにせよ、このままではヒナ自身が負けてしまうと分かってはいたのだ。

 

 

 

『考えている暇があるのか!!』

 

 

「ッッ!!」

 

 

 

 

 

ハリセンが振り下ろされるのが、分かった。見なくても分かった。波動が身体に循環するのがわかる。まるで心臓から流れる血液のように、身体中を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――心臓の鼓動が、聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何っ…!?』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ルカリオがヒナから後退したのがわかる。

 

ヒナの攻撃を本能で危険を察知し避けようとしたからだというのが分かるが…その周りの惨状が酷くなったと感じた。

審判役を務めているヒカリが茫然とするのが目に見えた。周りにいるポケモン達やポッチャマ達が驚いているのも見えた。

ルカリオが、バトルの最中で隙ができているというのに顔を手で覆い隠し、悲しんでいるのが目に見えた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――ヒナが、己の両手を見て驚いているのが分かった。

 

 

 

 

 

『ナニアレっ…あんなのあり?』

 

「ふむ…さすがヒナだ。最初のバトルだというのにあれならすぐに身につきそうだね…だが、あれだけで満足はできないよ…もっともっと…そうだね、はどうだんぐらいは放つようになってもらわないと」

『お前ヒナちゃんを第二のルカリオにしたいわけッ!?』

 

 

 

 

当然、ギラティナも嘆き悲しみ…そしてアーロンは満足そうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 







少しだけ今よりも月日が経った頃。


ヒナ達はそこにいた――――――。



燃えるような炎と炎がぶつかり合う、その激しい場所へ…彼女たちはたどり着いたのだ。














「―――――――久し振り、リザードン」


『―――――――グォォォオオッ!!』







――――――ようやく、再会する。





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