消えかけた絆は、己の【覚醒】へ導く。
第二百六十六話~妹にとってのプロローグ~
暗く深く闇へ飲み込まれてしまったヒナの心に、ルカリオやヒカリは悲しんだ。それは、長年連れ添った相棒に拒絶され、離れて行ってしまったことが原因で起きたこと。
リザードンのことを気にしていたギラティナとミュウはこのまま反転世界でヒナと一緒にいるのはお互いのためにならないだろうと考えて【ある場所】にリザードンを預けた。ピチューはヒナのことが心配だったようだが、結局はすべてを拒絶し、攻撃してくる以前とは別人のように変わったリザードンと一緒にいることに決めたらしく、彼女のそばを離れない。
もちろん、リザードンとヒナが会うことがなければ起こらなかった事態を引き起こしたアーロンに、ギラティナが怒るのは無理はないといえるだろう。だが、アーロンは、それでも大丈夫だと言っていた。
『アーロンの大丈夫はヒカリちゃんの大丈夫と同じくらい信用ないからね!ヒナちゃんもリザードンもアーロンが会わせたせいで心を閉ざしたんだ!!』
「だが、それはお互いの【声】を聞いた結果だろう。傷ついた心を知るにはお互いをちゃんと見なければならない。その結果なだけだよティナ」
『…何が言いたいわけ?』
反転世界を歩くアーロンは迷いなくヒナのいる場所へ向かう。それを嫌そうな表情を浮かべたティナがアーロンの後ろを歩いていた。
数百年前といえど、一時は仲間として旅をしたことがある二人だからこそ……アーロンの性格がよくわかるギラティナだからこそこれからの未来が想像ついた。
ある意味、ヒナの兄であるサトシが喜ぶか激怒するかの反応を示すであろう事態を予想したのだ。
だが、ギラティナが止める前にアーロンはヒナ達がいる部屋に突撃し、動揺するルカリオ達を無視しつつもヒナに向かって話しかけていた。
「ヒナちゃん…いや、ヒナ。君は弱いね」
「っアーロンさん!?」
『アーロン様!?いったい何を…!』
『ミュミュゥ!!』
『アアアアもう知らない…』
「ヒナ、いつまで閉じ籠っているつもりだ。君がそうして嘆き悲しんで…それでリザードンは、ピチューは元気になると思っているのかい?」
「…私は」
瞳に暗闇が映るヒナはアーロンの話を聞いていた。聞いていて、でもいつものように元気な反応はないことに、ヒカリたちが見守る。このままでいいとはヒカリ達も思ってはいないし、ヒナやリザードンのためにならないことも分かっているからだ。もちろん、ヒナとリザードンと同じくらい傍にいたピチューにとってもよくないこと。
それをアーロンが行動し、もとに戻そうとしているのだと思っていたのだ。
――――――――このときは。
「ヒナ、私と…いや、私たちと一緒に旅をしようか。君に挫折しない鋼の強さを教えてあげよう」
アーロンの言葉に、その優しい声に…ヒナの瞳が大きく揺れる。それは、まだ弱いけれど、意思のこもった色だとアーロンは思った。
「……リザードンやピチューとまた一緒にいられる?」
「もちろんだよ」
アーロンの優しさに満ちた魅惑の選択に、ヒナは頷いた。リザードンやピチューと一緒にいられるのならなんでもやると、まるで悪魔の囁きのようなアーロンの言葉を聞いてしまったのだった。それを見て、前へ進もうとしているとルカリオたちが感動している中――――
『アーロンを監視しないと………』
ギラティナは珍しく真顔になって小さく呟いたのだった。