マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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無意識ではなく、自覚する。





第二百六十四話~決めたのは自分のため~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトシ達がバトルをしている頃、セレナ自身もあるバトルフィールドへやって来ていた。だが、バトルフィールドといっても、そこには誰もいない、薄暗い大きな部屋のようにも見えたのだった。

 

 

 

 

 

「誰もいないわね…」

 

 

 

 

セレナは周りをしっかりと確認してから独り言を呟き、すぐにバトルフィールドの奥に繋がる道へ行こうとしていた。すべてはサトシを…あの女を探すために。

 

だが行こうとしていた道の先から誰かがこちらへ近づく足音が響く。セレナはその足音を聞いて立ち止まった。そしてフォッコをボールから出して警戒態勢を整える。

 

立ち止まって見えてきたのは、サトシやセレナにとって因縁があり…探し続けていたあの白い少女だった。

 

 

 

 

 

 

「久しぶり……かな?いきなりだけど死んで!」

『ドォォォラァァ!』

 

 

 

「くっ!フォッコ、かえんほうしゃ!!」

『フォコォ!!』

 

 

 

 

白い少女はセレナに姿を見せるなりいきなり歪んだ笑みを浮かべてから隣にいたペンドラーにどくどくの技を仕掛けさせてきた。セレナやフォッコを殺そうとする凶悪な攻撃を見てセレナ達は反射的にそれを避け、白い少女を鋭く睨みながらもフォッコに向かって攻撃を指示した。でもそれを軽やかに避けたペンドラーと、ペンドラーに乗った少女にセレナは思わず舌打ちをする。その派手な舌打ちに少女が肩をすくめていたが、セレナは気にせず睨み続けていた。

 

 

―――――――敵意を隠さないのは…目の前にいるのがサトシ達の仇であり、セレナにとっての許せない敵であったからだ。

 

殺して潰して…二度とサトシの目の前に現れないようにしたいほどの憎き少女が目の前にいるのだから、敵意を隠す必要なんてない。そうセレナは考え、感情のまま行動をしている。

 

 

 

 

その事実に白い少女は楽しそうに笑う。

 

 

 

 

「あなたのこと、覚えてる。クロが唯一興味を持ったんだもの。あと、【お兄ちゃん】もね」

「何をいってるのか分からないし、分かりたくもないわ…とにかく叩き潰してやりたいのよ!フォッコ、かえんほうしゃ!!」

『フォコッ!!』

 

 

 

「フフ…せっかちな人。ペンドラー!どくづき!!」

『ドォラァァアアッ!!!』

 

 

「躱してから、めざめるパワー!」

『フォッコォオッ!!』

 

 

 

 

セレナの強い負の感情と、少女の歪んだ感情がぶつかりあう。フォッコとペンドラーもその気持ちを感じ取ったのか、気迫漂う雰囲気をお互い出しあい、攻撃へと転化する。だが同じ威力なのか…それともわざと手加減しているのだろうか…毒と炎の攻撃がぶつかり合うだけでどちらかが不利な状況にはなっていない。

 

不自然なほど、ちゃんとしたバトルが成立していたのだ。

 

 

 

―――――――だが、少女は何を思ったのか、いきなり楽しそうに微笑んできた。それはまるで、サトシがバトルを楽しんでいるかのように、サトシと同じような笑みを浮かべたのだ。いつもなら愛しいと感じてしまう表情を見て、セレナは一瞬動きを止める。その隙を逃さず、少女は仕掛けてきた。

 

 

 

「【キリキザン】!アイアンヘッド!!」

『ッッ!!』

 

「痛ッ!!」

『フォコッ!!?』

 

 

 

後ろからやってきたキリキザンがセレナに強烈な頭突きにも似た攻撃を食らわせる。隙ができていたセレナにそれを避けるすべはなく、キリキザンの素早い攻撃によって壁へと叩きつけられた。それを見たフォッコがすぐにセレナのもとへ近づき、怪我がないかどうかを調べる。

セレナはキリキザンの攻撃をもろに受けた腹を押さえ、痛みに耐えながらも少女を睨み付けていた。フォッコも同じように少女と敵であるポケモンたちを睨みつける。

 

 

 

それを見て、少女はさらに笑いながら口を開いた。

 

 

 

 

「ペンドラー、フォッコを吹き飛ばしなさい。そしてどくづき」

『ドォラァァアア!!』

 

 

 

『フォコッ!?…ッ!』

 

 

 

「フォッコ!?―――――――」

「―――おっと、行かせない。キリキザン、【捕まえなさい】」

『ッツ!!』

 

 

「くっ!…離しなさいよ!!」

 

 

 

吹き飛ばされ、セレナのように壁へと叩きつけられたフォッコを見て、痛む身体を無理やり動かしてフォッコのもとへ向かおうとする。だが、それを見た少女がキリキザンに指示を出したせいで髪を無理やり掴まれ、行動を抑えられた。抵抗しようとすると鋭い刃で押さえつけられ、首に傷をつけられる。無理やり動けば重傷を負わせるのだというような行動に、セレナは動けずにいた。

 

 

少女はセレナの怒鳴り声に首を傾けて、歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

「何で?なんで離さないといけないの?なんであなたもそんなこと言うの?…あ、そっか!クロが言ってたもんね。あのニセモノが私の玩具のように、【お兄ちゃん】の玩具になるんだって!」

 

 

「…何を、言ってるの?」

 

 

 

「あなたは、【お兄ちゃん】を愛してるけど、【お兄ちゃん】はあなたを愛していないわ。【お兄ちゃん】が…サトシが興味を持ってるのも、ただの仲間だからでしょう?愛してるのに愛されないなんて、可哀想」

「っ……」

 

 

 

 

サトシに似た笑みを浮かべながら、少女は言う。その言葉はセレナを挑発しているように見えるが、すべて事実だったのだ。サトシがセレナを愛していないのも、仲間として行動をしていると言うことも…。笑みが同じだからこそ、その言葉が酷く突き刺さる。

 

 

 

 

「全部ぜんぶあなたの独りよがりだったんでしょう?好きだからそばにいたいのも、あなたの我が儘。【お兄ちゃん】はそんなこと望んでないのに――――」

「―――知ってるわ」

 

 

 

少女の言葉を遮るかのように、セレナが感情を抑えた声を出す。まるで、胸の内に隠していた強い衝動を押さえつけるかのような声色で言うその言葉に、少女が歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

「へぇ…なら、あなたは分かっててやってたんだ。【お兄ちゃん】に迷惑なことも、無理やり――――」

 

「――――――だからなに?愛してるなんて感情…サトシに伝えるにはこうするしかないじゃない。サトシはもう、私の手に届かない位置にいるんだから…私がサトシの隣に立てるまでに、誰もそばにいさせないためには…こうするしか……」

 

 

 

 

「それっていつになるの?」

 

「っ…」

 

 

セレナは言葉を詰まらせた。少女の言うように、どのくらい時間をかければいいのか分からないからこそ、不安があったからこそ、今のセレナの行動があるのだと、少女がそう指摘したからだった。サトシが嫌がる好意を口に出して言うのも、やきもちを妬いてサトシの行動を制限しようとしていたのも全部全部自分自身がサトシと同じ位置に立てるまでの対策だった。サトシがセレナ以外の女性を見ないように…自分以外の生き物と恋をさせないようにするための方法だったのだ。

 

 

 

少女はその言葉を聞いて面白そうに言った。

 

 

 

「フフ…結局は自分のためにやってるんじゃない!あなたの気持ちが【お兄ちゃん】に迷惑をかけてるのよ。自分のために行動し、気持ちを押しつけているんだわ!!」

 

 

「迷惑…ね…」

 

 

 

セレナは笑う。少女のように、歪んだ笑みを浮かべながらも、笑う。その表情は他人から見ればすぐに消えてしまいそうな儚い印象をもたせるだろう。セレナ自身が誰もが見ても美人だと言えるからこそ、その印象は強い。だが、サトシ達から見れば強い気持ちを押さえつけ、暴走した時のように歪な笑みを浮かべていると見えただろう。

 

笑いながらも、徐々にキリキザンの拘束に抵抗する力を強めるセレナを見てキリキザンが首元に刃を突きつけようとした。そんなキリキザンの行動にセレナは動じない。

 

 

 

 

 

 

 

セレナは髪の毛を掴まれている部分に向かって自分から手に取り、無理やりキリキザンの刃となっている部分で切り取ったのだ。切り取ったことによって拘束がなくなり、すぐにキリキザンや少女から離れる。

 

 

 

そんなセレナの行動に、フォッコを押さえつけたペンドラーと、セレナを拘束していたはずのキリキザンが驚愕する。もちろんフォッコもだ。

 

 

 

 

―――――――――――だが、少女は動揺しなかった。

 

 

 

 

 

「ありがとう…あなたのおかげで少し目が覚めたわ……。迷惑になるのなら…感情を押しつけているのなら…私はサトシのために動く。愛しているからこそサトシの隣に立ってみせる。隣に立つためならなんだってするわ!サトシを守れる盾に、サトシの矛になってみせる!いつかじゃない、今すぐにでも!」

 

 

 

 

「…その答えが、切り刻まれた髪の毛ってことかしら」

 

 

 

 

 

乱雑に切り取られた髪の毛は、まるで最後にあったヒナのように、肩まで短くなっていた。唯一ヒナと違うのは、その瞳の強さだろう。暗く深く沈んでしまったヒナの瞳と違い、セレナは前へ進もうとする力強さと、その意志の強さがあった。

 

 

 

少女はその違いを感じとり、大声で笑った。

 

 

 

 

「そう…そう!あなたを気に入ったわ!ニセモノとは違って、壊しがいのあるイキモノ!

 

 

 

 

 

…私はシロ!何色にも染まれるのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「…シロ…ね。覚えたわ、その名前を―――あなたを殺すまで、忘れないでいてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

お互いに睨み合い、セレナはヤンチャムのボールを手にとって戦おうとする。

 

 

 

 

 

 

すべてが終わるのが、どちらかが壊れるまで…そんな雰囲気のなか――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――やってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あなたがヒナちゃんを苛めた子?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




To be continued.





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