ビル全体が燃え上がり、爆発した衝撃で崩壊していく。ビルの近くにいた何も知らない無関係な人間は逃げていき、何があったんだと叫びあっている。崩れていくビルに残された人々やポケモンたちのことを考えてポケモンレンジャーを呼ばなければと叫ぶ人もいた。
「アクロマァ…あの野郎潰す…!」
――――――――――そんな時に、ビルから飛び出してくる形で現れたのはイッシュ地方で滅多に見られないであろう大きなポケモンを従えた少年と、人間達であった。
ビルが倒壊するという大騒ぎの中、サトシは連れてきていたピジョットに乗って崩れゆくビルから飛んで離れていくことができた。もちろんサトシ以外にもセレナ達人間がいたが、それは一緒に来ていたミュウが技の1つであるへんしんによってサトシのピジョットと同じ姿になり背に乗せて空を飛ぶことで回避できた。そして操られていた人間たちやポケモン達は同じくサトシが連れてきたヨルノズクの力強いねんりきによって地上へと降ろされる。
ビルに集まってくる野次馬な人々の視線をものともせず、サトシ達はピジョットに乗り飛んでいくことができたのだった。
――――――サトシがまず先にしたことは、プラズマ団が復活しているかどうかという情報を調べるということだ。あの操られていた人間たちが首につけていた機械はイッシュ地方でヒナやレシラムが実際につけられている場面を見たものだからこそ、プラズマ団が関与しているのではないかと考えたのだ。そして、その機械を使って伝説を操ろうとしたプラズマ団の残党がいるかどうかを探してもらうためにここまでやって来たのだった。サトシ達がやって来たのは、世界の裏側に位置する反転世界。つまり、ギラティナが管理する世界だった。
プラズマ団の残党がいないとしても、調べるうちに何かしらの手掛かりはつかめるかもしれないと思ったからこそ、ミュウに頼んで反転世界まで連れてきてもらった。すべてはあの操られた機械を使った連中を探すため。そしてヒナ達を傷つけたあの少女を見つけるためだった。カント―地方からカロス地方までの距離は遠いため、何処にアジトがあるのか分からない。もしかしたら別の地方にも同じように拠点があるのかもしれない。そう考えたサトシはすぐに見つけられる方法を考えた。
広い世界から一つの手がかりを探すため…奴らを叩き潰すため。
――――――だからこそ、世界の裏側を管理するギラティナに殴り込みに行き、調べてもらうことにしたのだ。あの黒服の男たちがつけていた操る機械をギラティナに見せて、それに似たものを作っている奴らはいないかどうかを確かめるために。
もちろん、ミュウの道案内によって突然来たサトシ達にギラティナは驚く。
『ちょっミュウ?!サトシ君達連れてどうしたの!?』
『ミュゥ!!』
「良いから黙ってプラズマ団探せ」
『ピィカ』
『理不尽すぎじゃない!?いや探すけど!!というかプラズマ団壊滅したんじゃ…』
「何か文句でもあんのか?」
『ピィカッチュゥ?』
『イエナイデス』
「うわーい!ここすっごく楽しいねデデンネ!」
『デネデネ!』
「こらユリーカ危ないだろ!!」
「ちぇ…はぁーい…」
『デネ…』
「というか、ギラティナがなんか大変そうかも」
「その逆じゃない?あのサトシの無茶ぶり聞いてちゃんと探してるんだから…」
「俺様なサトシも格好良い…!」
「こっちはこっちでいつも通りね…いや、戻ったと言えるのかしら…」
「ああ、もしかしてさっきのセレナの…」
「そういうこと。サトシが怒った時そっくりだったからびっくりしたわ」
サトシ達の異様な雰囲気に圧倒されたのか、冷や汗をかきながらもギラティナはすぐさま行動にとりかかる。そんなサトシ達を見るカスミとシトロンはちょっとだけギラティナに同情しつつも苦笑していた。そしてセレナがサトシを見て頬を赤く染め、幸せそうに笑う様子を見て、先程呪詛のように呟いていたあの状態から元に戻ったのだと安堵する。
――――――セレナたちが会話している間にもギラティナはちゃんとサトシの知りたい場所を探すことに成功していた。普通ならば世界中を見てすぐに奴らのアジトの場所を知ることはできないだろう。これは、裏側の世界をすべて管理しているギラティナならば容易いことだからこそできたこと。世界からたった一匹のシェイミを見つけた時のように、ギラティナはすぐにある場所を見つけることができたのだ。
だが、その建物も罠かもしれないとギラティナは言った。もっと時間をかければ分かることが多いけれど、それでもざっと調べれば、わざと目立つように作られている操るための機械や大量に用意されたポケモン達のことが分かったのだ。そんないかにも怪しげな、ギラティナにとって嫌な予感がする建物の中でも、サトシ達は構わず行こうとする。
「再起不能にしてやる」
『ピィカ』
「ああ…またカオスになるんですね…」
「とりあえず燃やさないと気が済まないかも!」
「燃やすだけじゃない…潰してやるわ」
「ユリーカも一緒に行く!」
『デネデネ!』
「駄目だよユリーカ!危ないんだからお留守番!」
「嫌!私だってできることぐらいあるんだから!ここまで来たらくっついてでもついて行くからね!」
『デデデネ!!!』
「ユリーカ!!」
「ああもう…諦めなさいシトロン。ユリーカは本気みたいなんだから。それにあのビルで襲われたように待っているだけでも危険があるかもしれないし、私たちが近くで守れば大丈夫なはずよ。あとサトシ達の暴走を止めるためにもこのままここに止まっていても意味ないし…」
「カスミ…仕方ないな。でも僕たちから離れて行動しちゃ駄目だよ絶対!何かあったらすぐ戻るからね!!」
「わかった!」
『デネ!』
「念のために私のサニーゴと一緒に行動してもらうわ。だから早く行きましょう。先に行っちゃったあのカオス共の面倒を見るためにも」
『サニ!』
ユリーカは先ほどと同じように留守番をして待っていることができないと叫ぶ。それは、大切な仲間たちが行くところへ自分も行けないという事実が嫌だったからこそ…何か手伝いになれるようなことがあればいいのだと考えて兄であるシトロンに頼み込んだのだ。シトロンはもちろんその頼みを断ったが、ユリーカは頑なであり…カスミが間に入って先程のビルのようにまた襲われたら危ないということやこのままここにいても意味がないということを話した。その言葉にシトロンは仕方なく頷き、絶対にユリーカを守ろうと覚悟を決める。もちろんカスミもそのまま連れて行こうとせず、ボールからサニーゴを出して一緒にいてもらうことにした。
『アハハ…行ってらっしゃーい』
そんな光景を見て苦笑しながらも、手を振って見送るギラティナがいたが、サトシ達は気にせずに歩き続けた。
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サトシ達がやって来たのは、カント―地方のとある建物。森の奥深くにある研究所のような建物の一室に彼らはいた。部屋の中は暗く、書物が多く置いてある場所らしい。扉を開けて部屋から出ると、そこは真っ白い廊下が続いていた。長い長い廊下の足元近くにライトがあり、その光りによって真っ暗やみな空間が照らされている。それでもまだ廊下の先がどのような状態になっているのかが見えずにいた。
まるで嵐の前の静けさのような重苦しい空気と静寂な建物内にシトロンが冷や汗をかく。
「ミュウ、あいつらを呼んできてくれ。多分ここで正解だろうから」
『ピッカ』
『ミューゥ!』
サトシは一緒について来ていたミュウに向かってオーキド研究所に待機してもらっている仲間たちを呼ぶことに決めた。そしてその声を聞いたミュウは真剣な表情で頷き、テレポートをして移動していったのだった。
「なんかお化け屋敷みたい!」
『デネ!』
『サニ!』
「こら、変なこと言うんじゃないよユリーカ!」
「でもユリーカの言うとおりかも…誰もいなさそうなのに音が聞こえない?」
「音…?」
「こう…機械が擦れているような…何かが動いてるような…?」
「ちょっと待ってください…それってっ!!」
「起動音か…」
『ピィカッチュ?』
「えっちょっ危ない!!!」
「待って壁が?!サトシ!!!!」
「何これ凄い!忍者屋敷みたい!!」
『デネデネ!?』
『サ、サニゴォ!!』
「うわぁっありがとうサニーゴッ!!」
『サニ!』
「っおいお前等平気か?」
『ピィカァ!?』
「サトシは大丈夫?!」
「俺は平気だ…くそ、カスミ!ハルカ!シトロン達を頼んだぞ!」
「そっちこそ暴走するんじゃないわよ!!!」
「わかった!…でもセレナは平気なの!?」
「はっ?一緒じゃないのか!!?」
『ピィカァ!?』
「私は大丈夫よ!」
「おいセレナ、そこで待ってろ!危ないと分かったら逃げろよ」
『ピィカッチュ!』
「サトシが言うなら喜んで!!…って言いたいけど、あの女がいるならできない。絶対に、許せないから」
「…なら、危険な行動はするな。死ぬな…あと殺そうとするのも駄目だからな」
「ええ!私、ちゃんとサトシの隣に帰ってくるからね!」
サトシ達は長い廊下の先を歩く。薄暗い廊下を歩いていたらハルカが何かの音に気づいて立ち止まった。そして動き出したのは床や壁といった建物自体だった。床や壁が動きだし、サトシ達の間に壁が新たに作られる。床が動いたことによって広い部屋ができ、上から迫ってきた壁によって三つの道ができたのだ。その三つの道にサトシ、セレナ、シトロンとカスミとユリーカとハルカが別れた。上から迫った壁に押しつぶされそうになったシトロンをサニーゴが助け出したり、セレナが無理矢理にでもサトシの元へ行こうとして逆に孤立してしまったりと騒動があったが、何とか壁越しに怪我がないかどうか話を聞いて動き出す。サトシはピカチュウに頼んで壁をアイアンテールで破壊してもらおうかと考えたが、建物内に響き渡る不気味な起動音のせいで余計なことをすれば逆に危ないと考えた。ヒナたちを狙った手口やあのビルを破壊したやり方から、相手は正当な方法を使ってこないだろうと分かっていたからだ。そしてタイミングよく動き出した壁を見て奴らが何処かで見ているのではないかという考えもあった。隠しカメラのような機械は薄暗いせいで見つけることができないが、誰かが見ているのは確実だろうと考え、ミュウにテレポートでセレナたちと無理やり合流すると言う手段も使えないだろうと分かった。…まあ、ミュウは仲間たちを呼びに行っているため今はサトシ達の傍にはいないが。
サトシは自分と同じように一人でいるセレナのことが心配になったが、このままでいてもしょうがないと考えて覚悟を決める。
さっさと終わらせて帰るという覚悟を―――――。
そして周りはそれぞれ、行動を開始した。シトロンたちは無事サトシ達と合流するために…そしてサトシは主にアクロマを探すために。セレナは、ヒナたちを傷つけ…そしてサトシにキスをした少女を探すために歩き始めたのだった。
「フフッ…ねぇホーちゃん。いつものように、力を貸してくれる?」
『ギャァォォオオオオオオオッッ!!』
「そう…ありがとう」