マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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コツコツコツ…と、音が響き渡る。



その音は、【彼ら】にとって胎動にも似た安らかな子守唄だった。





赤ん坊のように守られているとは思ってはいない、むしろその逆ということを理解していた。
それでも、その音を聞いていたいと思えた。





コツコツコツと、音が聞こえる。



彼らにとっては、心地よい音色でもあったのだ。








第二百六十一話~終わらない、終わらせない~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サトシ!良かった無事だった!」

「サトシなら怪我すること絶対にないと思うかも?」

「ユリーカ!無事かい!?」

「あ、お兄ちゃんだ!このポケモンさんってどんなお名前なのか分かる?」

『デネデネ!』

「え、ええっと…というより、何なんですかこの状況は…」

 

 

 

 

セレナたちがサトシと同じようにパルキアの空間からやって来て、見た光景はまさにカオスだった。パルキアは怯えながらもやることはしたとばかりに空間に引っこんでいったためユリーカが行っちゃった!?と叫んだり、シトロンが動いたら駄目だよと諭したりいろいろとカオスではあるのだが…それを超えるようなことをサトシは行っていた。

 

まず、縛り付けられている黒服たちがピカチュウの電撃を目の前で浴びるかもしれないぐらい迫られ、そしてサトシがその黒服のうちの1人の胸ぐらを掴み、無表情で持ち上げている。もちろんサトシは見た目まだまだ子供なため持ち上げると言っても上半身までなのだが…。

 

 

 

このままならばサトシ達の脅しにも似た尋問にすぐ屈服し、黒服たちがあの少女の居所を吐くのに時間はかからないだろうと思っていた――――――。

 

 

 

 

 

だが、サトシが表情を変えたことによってシトロンたちはすぐその考えを捨てる。

 

 

 

 

 

 

「これは…」

「どうしたのよサトシ?」

 

 

 

 

胸ぐらを掴んでいた黒服を乱雑にだが離し、黒服男たち全員のある一点を調べ始めた。その表情や雰囲気は今まで感じてきていた鋭い冷気がなくなり、何かを理解したような諦めを含んでいる。

 

 

そしてサトシがため息をついてピカチュウに向かって口を開く。

 

 

 

 

 

「……ピカチュウ、【あれ】に向かってアイアンテール」

『ピ?…ピィカッチュ!』

 

 

「何…どういうこと?」

「ああー!!あれってもしかしてイッシュ地方で見た首輪…かも!?」

「首輪…?」

「あの黒服たちがつけているチョーカーのことでしょうか?」

「ハルカ!あれって一体何なの?」

『デネデネ?』

「あれは…ううん。実際に見た方が早いかも。でも一応言っておくと彼らもある意味被害者になるわ」

「被害者…ってことはもしかして…」

「うん。カスミの考えていることで合っているかも」

 

 

 

サトシが見つけたのはイッシュ地方のある戦いで見たチョーカー…いや、【首輪】だった。黒服に隠されていて見えなかったため気づかなかったが、胸ぐらを掴んだことで露わになったそれに、現状の敵をようやく理解することができた。

 

だからこそ、サトシは目の前にいた敵を被害者と認定したのだ。イッシュ地方で見た…あの生き物を操る首輪をした彼等だからこそ。

 

 

 

 

「っ…こ、ここは………ヒィ?!」

「落ち着け。ここに敵はいない」

『ピィカ』

 

 

「…一応言っておくけど、首輪してる時の記憶って残ってるものなの?」

「うーん…どうなんだろう。ポケモンは記憶あったみたいだけど、人間はなかった……かも?」

「記憶あったなら怯えるのも無理ないわね…」

 

「正気に戻った…ああ、そういうことですか…なんて酷いことを…!」

「どういうことなのお兄ちゃん?」

『デネ?』

「……ユリーカは知らなくてもいいことだよ」

「ぶー!子ども扱いしないでよ!」

『デネデネ!』

 

 

首輪を外され、我に返った黒服たちが真っ先に見たのは目の前にいたサトシ。サトシを見て敵なのだと判断し怯える様子にサトシは落ち着いてくれと怒気を隠しながらも言う。

だが、黒服たちの表情は変わらない。むしろ怯えの中に戸惑いだけがあるような感じだ。サトシを良く知る者ならば怒らせてはいけない強者だとすぐに分かるが、初対面から見れば見た目は何処にでもいるただの子供だ。そんな子供に怯える要素が何処にあるのだろうかとサトシは思えた。…まあ、あの女ならば話は違うかという考えも思い浮かんだが、それでも敵意は見せていないのだから、怯える要素は何処にもないだろうと考える。

 

一方カスミたちはサトシを見て怯えてしまっているのは記憶があれば仕方ないことだと考えて納得していた。冷静にして落ち着かせた方が良いかとサトシを彼らから離そうかどうか迷ったが、今のサトシに近づいていい状況なのだろうかと悩む。ここにいるセレナならばそれをものともせずサトシに近づくだろうが…今の彼女はサトシに見惚れてしまっているため意味がない。

 

 

 

黒服たちは困惑し、怯えながらも言う。

 

 

 

 

「何言って…お、お前が俺達を…そうだ、俺のポケモンは何処へやったんだ!?」

「……何言ってるんだ?」

『ピィカ?』

 

 

「とぼけるな!お前が俺たちをここに連れてきただろうが!!」

 

 

 

彼らの言っている内容が理解できないとサトシは考えた。もしかしたらかつてのロケット団のあの三人組のようにサトシの変装をした人間が連れてきて首輪をつけたのだろうかという考えが思い浮かぶ。あの首輪を作った張本人が敵だとしたらそれはあり得るかもしれないと思えたのだ。

 

 

だが、その思考は一つのスピーカーから聞こえてきた声によって消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハローハロー元気にしてますか?笑える余興をありがとう人間ども。暇つぶし程度にこのビル用意したのに一瞬で計画を無意味にしたのには笑っちゃったぜ!まあこれぐらいなら想定内なんだけどな!もはやこのビルはゴミ同然だしいらないかなーって思うんだけどそれでいいよなぁ。いらない玩具はゴミ箱にってやつ?ゴミを片づけるのも俺がやらなきゃだし?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、さようなら》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ逃げろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

スピーカーから聞こえてきた感情の籠っていない声が聞こえなくなった途端。嫌な予感がしたサトシが叫ぶのと同時にビル全体が大きく揺らぎ崩壊する―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――そして次の瞬間、部屋のいたるところから爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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