マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

264 / 288





兄だってたまには慎重になる。





第二百五十九話~進むにはまだ早い~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナとピチューはポケモンセンターの治療室に運ばれ、サトシ達はここにいても何も意味はないと考えて再びオーキド研究所へ戻って行った。というよりも、戻らなければいけない状況だった。ミュウツー達伝説が目覚めないヒナたちを心配して一般人もいる中で姿を現そうとしたり、オーキド研究所にいるポケモンたちがもう待てないとばかりに外へ出ようとしたり…まあ、オーキド研究所にいたポケモンたちは全てフシギダネのソーラービームによって無理やり黙らせたりしたのだが…。あと、サトシもこのままここでヒナたちの怪我が治るまで見守ることはできないと分かっていた。このままここにいても事態は解決しない。あの黒髪白服の少女を捕まえなければ何も終わらないと分かっているからこそ、ヒナの元を離れて行った。

 

 

 

―――――とにかく、オーキド研究所に戻ってきた一向は、ある意味異様な集団となっていたのだ。

そしてそんな彼らを出迎えたオーキド博士とケンジは驚いていた。なんせ無表情なサトシの真後ろには人生で滅多に会うことがないだろうとされている伝説たちが並んでいるのだから。しかも全員怒ったような表情でこちらへ来ているのだから驚くのも無理はないだろう。普通なのはハルカであり、怯えているのはシトロンぐらいなものだ。…でも、オーキド博士やケンジはサトシだからという理由で納得したようだ。ただ気絶しそうなケンジはその怒気に圧倒されているようだった。フシギダネは待ってましたとばかりにサトシの元へ駆け寄り、つるを出して戦闘ならいつでもできるぞとアピールする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サ、サトシ……?」

「ほう、これはまた珍しい光景じゃのう」

 

 

 

「……フシギダネ」

『ダネ?』

「皆に伝えてくれ、まだ時間はかかるけれど、時が来たら大暴れするぞってな」

『ピィカッチュ…!』

『…ダネフシ!!』

『待て、俺たちも向かおう…!』

「暴れるなよ。その殺気は全部あいつに向けろ」

『ピィカッチュ』

『分かっている…!』

 

 

 

今こちらにいるのはオーキド博士やケンジはもちろん、人間だとサトシとセレナとハルカとシトロン…そしてポケモンだとピカチュウである。それ以外のポケモンや伝説たちは何があったのかを話すために、フシギダネと共にオーキド研究所にある迷いの森に直行していた。

そして、サトシと共にいたヒカリとアーロン、ギラティナ…そしてシェイミ達はいない。

 

 

 

 

「伝説がいるのはサトシだから納得できるけど…何かあったの?」

「ケンジさん…でしたっけ?ちょっといろいろと僕にも説明できない事情がありまして…」

 

 

 

 

 

 

「フフフフフ―――あの女コロシテヤル」

 

 

 

 

 

「…それで、あのサトシと同じように恐ろしい表情を浮かべてる女の子はどうしたの?」

「こっちもこっちでいろいろと…僕、ツッコミを入れるのに疲れました」

「何があったんだい!?」

 

 

 

 

シトロンは遠い目であの時の惨状を思い出していた。幼いヒナとピチューが倒れ、進化したリザードンが我を忘れて襲いかかってくる光景を――――――――――サトシがキレた瞬間のあの冷気をシトロンは忘れていない。

何もできなかった事実にも心に突き刺さってはいるのだが、それ以上にあの恐ろしい光景は一生忘れられないと分かっていた。だからこそ、ケンジに質問をされてもシトロンは答えられない。あの衝撃をどう伝えればいいのか分からないからだ。そんなシトロンの様子に相当怖いことが起きたのだろうとケンジは直感で分かり、冷や汗をかく。

 

そしてそんな様子を見ていたオーキド博士は真面目な表情でハルカに近づいてから話しかけてきた。

 

 

 

「ハルカ、一体何があったんじゃ」

「実は―――――――――」

 

 

 

ハルカが話した内容に、オーキド博士や密かに聞いていたケンジの表情が険しくなる。サトシの妹であるヒナが重傷を負っていたこと、ピチューの負傷…そしてリザードンの暴走。ハルカは淡々と事実をすべて話した。…サトシが少女にキスをされていたことに関してはハルカは無意識ながらも話してはならないと本能で感じ、オーキド博士やケンジにいうことはなかったため、周りの空気はサトシやセレナが恐ろしい雰囲気を漂わせていること以外はない。

 

 

「そうか…そのようなことが…サトシとヒナのママさんになんて説明したらいいかのぅ…」

「だからこんなに怒っているのか…でも分かるよその気持ち…酷過ぎる…!」

 

 

ハルカが話した内容にオーキド博士は何か考えるかのように表情を変え、ケンジは素直にヒナたちが怪我をしたという事実を聞いて憤る。シトロンはその時に会った状況を思い出してまた顔を青ざめ、ハルカは苦笑していた。

ハルカはもちろんヒナたちのことを考えて怒ってはいる。でもそれ以上にハルカにとってサトシは絶対なのだ。サトシを怒らせ、さらにはいろんな意味で行動を起こし……つまり、サトシを知る者にとって踏んではならない地雷をことごとく踏みまくったあの少女が生きていられるのだろうかと別の意味で心配していたのだ。まあ、サトシが行動する時はハルカも行動する時であり、ヒナたちを傷つけた分のお礼はするつもりではある。バシャーモと一緒に燃やすぐらいしてやろうかと思える程度には……。もちろんそれはケンジも同じだ。

 

 

とにかく、今この場にいる皆が怒るのは無理のないことだ。だがまだまだ常識人であるシトロンはその空気に困惑し、顔を青ざめているのは仕方ないと言えるだろう。このままサトシが行動するまでここにいるのかと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――ここでオーキド研究所にある鏡が揺れ動かなければ…。

 

 

 

 

 

 

 

『ブフォッちょっアーロン押さないでよ!これ意外と痛いから!!』

「ああソレは悪かったね。でもティナなら慣れているだろう?」

『そうだね慣れちゃったね主にアーロンのせいで…!!』

 

 

「か、鏡から人間が現れたぁぁあ!!?」

「これは興味深い…!」

 

 

 

鏡が黒く揺れ動き、そして光り輝く。その異常な変化にいち早く気づいたサトシが鏡の方へ振り向いた。その行動に気づいたオーキド博士たちもサトシと同じように鏡を見る。鏡が揺れ動いた後、現れたのはギラティナとアーロンだった。

ただしギラティナが後ろにいたアーロンに蹴りだされる形で来たため、サトシ達から見れば鏡から突然現れた金髪の女性が地面に向かって勢いよく倒れてるように見える。そして後ろから青い服を着た青年の足が見え、落ち着いて見れば蹴られたんだなと納得できる光景が広がっていた。もちろんこれは、ヒカリから見ればいつもの光景であり、ため息をつく要因でもあったりする。

 

 

 

だがサトシはそんな漫才のような会話に付き合っているつもりはない。早くあの黒髪の少女を捕まえてやりたいと心から願うからこそ、サトシはギラティナに向かって近づき、話しかけた。

 

 

「それで?どうだった?」

『あー……ボチボチ?…ってピカチュウの電撃止めて!サトシ君のポケモンある意味伝説以上だから!―――とにかく、今来たのはカロス地方に異変が起きているからだよ』

 

 

 

 

「カロス地方…ですか!?」

 

 

 

シトロンは思わず叫んでしまった。カロス地方にはシトロンの妹であるユリーカがいるからである。まさか妹の身に何かあったのではないかとギラティナに近づいてから話を聞いた。ギラティナは複雑そうな表情で頷き、口を開く。

 

 

 

『今ユリーカちゃんとカスミちゃんに襲いかかってる連中がいる。どうにもヒナちゃん達を攫った奴等と関係があるみたいなんだ…』

「ユリーカ…僕、カロス地方へ向かいます!!」

「待てシトロン」

「止めないでくださいサトシ!!」

「そういう意味じゃない。止めはしない…けど落ち着け。ユリーカにはカスミがついてるから大丈夫だ」

「どうしてそう言えるんですか…!?」

 

 

 

いまだに怒っているサトシが笑う様子をシトロンは混乱する頭の中見ていた。もしもユリーカに何かが起きたという事を聞かず、落ち着いていたのならばシトロンは目の前で笑うサトシに安易に近づいたりしなかっただろう。現にいま、ハルカとケンジは直感で近づいてはならないと分かり後ろに一歩下がっている。…ハルカは無意識のうちにだが。他にもギラティナが微妙そうな表情を浮かべ、アーロンは微笑みながらもその様子を見守っていた。オーキド博士は鏡の謎が気になりじっくりと観察したいような表情を浮かべていた。

 

 

セレナは先程まで呪詛のように殺気を込めた独り言を呟いていたのだが、サトシが笑った瞬間黙り、頬を赤らめたのは言うまでもない。

 

 

そしてそんなサトシの笑みを目の前で見たシトロンは一瞬で落ち着き、顔を青ざめ気絶しそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カスミもある意味、俺と同じだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。