マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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怒ったら怖いのはどっちも一緒。





第二百五十八話~兄とセレナは似ている~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトシ達のことを待っていた女性は10人中10人が見て美しいと言えるぐらいとても美人であった。パッチリとした赤い瞳とほんのりと赤く彩られた口元…そして形の良い大きな胸が女性の着ている黒いコートからはっきりと分かった。綺麗な足が短パンからのぞき出ているためコートを着込んでいてもとても涼しそうだ。そして、何より艶やかな金色の髪が太陽に照らされてキラキラと輝く姿が良く似合うと誰もが思うぐらいとても美しい姿…。

 

 

 

 

――――――――――久し振りに会ったはずのギラティナが、変わってしまっていたことにサトシは驚いた。

 

 

 

 

 

「お前って…女だったっけ?」

『ピィカ…』

 

『…いろいろと理由があるだけだから気にしないでサトシ君。それに俺はちゃんと男だから!』

 

 

 

 

通常だったらここでいろいろと話し始めるだろうがサトシは今ヒナたちのことを優先的に考えているためギラティナの性別が変わったとしてもあまり気にせず行動に移した。ギラティナもいろいろと言われずに済んで良かったと思っているのか安堵のため息をついてから道案内をし始める。シトロンたちもその後に続く…が――――。

 

 

 

「………………サトシの…知り合い?」

「セレナ、落ち着いてください。えっと…あの人は一体誰でしょうか…?」

「ギラティナといって…いや、ただの仲間だよ気にしないでくれ」

『俺たちから見れば仲間であり、周りからは伝説と呼ばれている存在だ。…だがまあ普通の人間と変わらない対応で大丈夫だろう』

「そうね。ただの変人…いえ、変ポケ?だから気にしないで」

『ポチャァ』

「伝説っ…そんな対応でいいんですか!?」

「気にしなくていい……かも?」

「ハルカまで!?…ここには僕の味方はいないんでしょうか」

『シトロンと言ったな…あまり気にしていると胃に穴が開くぞ。サトシと関わると言うことはそれ相応の覚悟が必要だと言うことだけは覚えておけ』

「ルカリオ…わかりました」

「おや、シトロン君とルカリオは仲良くなったみたいだね」

『アーロン様…』

 

 

 

ただし、ギラティナを良く知らないシトロンが何も反応するわけなく、突然現れた金髪の美女に疑問を抱く。もちろん綺麗な見た目をしているからこそ頬を赤く染めていたのだが…。そしてサトシの知り合いだと分かったセレナもちょっとだけ不穏な雰囲気を漂わせながらも誰なのか聞いた。するとアーロン達が苦笑しながらもその質問に答える。ギラティナは裏世界を管理する神のような存在なのだが…まあずっと一緒にいたアーロン達から見れば少しだけお馬鹿でからかい甲斐のある仲間だと認識しているのだろう。もちろん仲間だからこそ信頼はしているのだが…ギラティナの性格は残念なため大雑把に説明されてしまったのだった。その言葉でセレナはサトシのことが好きではないのかと考えて意識と視線をサトシに移し、シトロンはその言葉に大きく反応しそれでいいのかと叫ぶがハルカが以前マサラタウンで伝説であるレックウザたちをボッコボコにしている場面を見ていたため、敬ったりせずに普通に対応すればいいかと首を傾けて呟いた。シトロンはため息をついて弱音を吐くが、イッシュ地方で一緒にいたルカリオがアドバイスをしていたり、アーロンがその様子を見て微笑んだりとなかなかにカオスであった。

 

もちろんその間にもギラティナの道案内によって反転世界の出入り口が開かれ、中へ入っていくことがあったが…。その常識から外れた出入り口にシトロンが驚愕するが、ルカリオのアドバイスもあってこのままじゃいけないと首を横に振り覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

反転世界からヒナたちがいるであろう建物への出入り口へ来たサトシ達が感じたのは冷たい冷気だった。まるでキュレムが傍にいるかのような鋭い冷気と誰もいない無人の部屋にサトシ達はいた。どうやら鏡を通してこちらに来たらしく、狭い部屋に全員が抜け出るのは少々時間がかかった。

 

だがサトシが迅速に対応し、ホウエン地方の手持ちたちを手早くボールに戻してから皆を部屋の中に入れる。そしてギラティナはすぐに反転世界への出入り口を閉めた。ピカチュウが先頭に立ち、部屋の扉を開ける。部屋の外は廊下があり、左側の廊下の奥から大きな音が聞こえてきたためサトシはすぐに行動を開始する。…ちなみに広い廊下に出たためボールの中にいたホウエン地方の手持ちたちはすぐに外に出てサトシとピカチュウの後を追っている。

 

 

 

「ヒナっ…」

『ピッカ…!』

『ジュッ』

『ズッバァァ!!』

『ヘイヘイヘーイッ!!』

『コォォォオオオッ!!!!』

『オニゴォォォオオッ!!!!!』

 

 

 

「サトシ!いきなり行動しては危険ですよ!!」

『ああいや、早く行動した方がヒナちゃん達のために良いだろうからこれで正解だと思うよ…』

『ミュゥゥ!!!』

『おいギラティナ、お前一体何を見たんだ!?』

「おそらく…君がその表情で言うということはまず最悪な状況なのは確実なんだろう?」

『アーロンの言うとおり、本当だったらもっと早く行った方が良かったんだけど…』

『ですが、私達にはサトシ達を待つと言う約束がありましたからね…とりあえず目指すべきは憎き人間への復讐です』

『…いや、人間すべてが悪いわけじゃないからね!?』

『フォォォオ…ギラティナ、あまり突っ掛からない方が良い。もはや話しかけても無駄だと思うぞ』

「ああそうだろうね。ほら、あっちのミュウツーなんて凄まじい形相だ」

『コロスツブスコロスツブス――――――』

「うわぁ殺人でも犯しそうな怖い表情…前に怒った時のティナそっくりじゃない?」

『ポチャポチャ!』

『俺あんな顔したことないから!』

 

 

 

「普通に談笑しながら真面目そうな表情で走っているという光景に僕はツッコミを入れるべきでしょうか…」

『ミュゥゥ』

『諦めて先に進むべきだろうな』

 

 

 

 

そしてアーロン達は音のした方へ、サトシ達の後を追って走って行ったのだった。もちろん話はしているのだが…意識はヒナたちの救出にしか向いておらず、走りながらの会話に後ろから必死について来ているシトロンは微妙そうだ。

 

そろそろ胃に穴が開きそうなシトロンに、ミュウとルカリオは肩を叩いて慰めたのだった…。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

――――――そうしてようやく来たのは大きな扉の前、サトシ達が飛び蹴りのような形で開けて見えてきたのは凄惨な光景だった。

 

 

 

 

 

 

「ヒナ…?」

 

 

 

 

 

 

 

「なぁんだ…もう来ちゃったの」

 

 

 

 

 

 

赤く燃え上がるその中心にいた傷ついた少女の姿。髪の毛は乱雑に切り刻まれ、所々に切り裂かれたような深い切り傷、肩から見えるかみつかれたような跡、そして一部分が紫色に染まった肌…。部屋に滲み出ている赤い血のような跡。

 

 

…いつもの元気で可愛い少女の姿が変わり果てていることに対して、サトシ達の理性を引きちぎるのには十分な光景がそこにはあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!――――――――――――――殺す」

 

 

 

 

 

 

 

サトシが真っ直ぐ見たそこにいたのは、歪んだ表情で笑う一人の少女。サトシ達と同じぐらいの年齢であろう少女がそこにいた。

サトシが突然笑い出したことにシトロンやヒカリ、ポッチャマがビクリと震え、恐怖で後ろに一歩下がる。その分キレたポケモンたちが前に出ていき、サトシを先頭とした殺る気十分の集団が出来上がったのだった。

ハルカももちろんその中に含まれていたが…それよりも倒れているヒナに駆け寄り、アーロンと共に緊急処置を施していく。ミュウもヒナに近づいていやしのはどうで治していこうとするが、酷い怪我のせいでなかなか治らない。その事実にミュウは泣き、アーロンとハルカも険しい表情を浮かべていた。

 

セレナは自分のやるべきことを考え、倒れているヒナが再び人質とならないよう近づいてからフォッコとヤンチャムをボールから出して警戒する。…まあアーロンがいる時点でその警戒は無意味なのだが…それでもセレナにとって今の自分にできることを精一杯行おうとしていたのだった。

 

 

 

 

 

ヒナの顔によく似た少女は笑みを浮かべながらサトシ達を見ていた。まるでサトシ達が来るのを知っていたかのように…まるで、すべてを見通しているかのように。

 

 

 

 

「覚悟はいいか?」

『ピィカッチュゥ…!』

『ッッ―――――――――――――――!!』

 

 

 

 

 

「覚悟ってなぁに?…ああ、もしかしてこの子に対する覚悟だったりするのかしら?」

 

 

 

 

 

「…………………………」

『ピィカッ!!?』

『ジュルァ…!』

『ズッバァ!!』

『コォォオオオ!!』

『ヘイガッ…!』

『オニゴォォオッ!!』

『リザードにピチュー…!』

『もはやこの人間に生きる意味などないッ…!!』

『フォォオオオ…倒さねばならないということだろうな…!』

 

 

 

 

ヒナに似た少女が笑みを浮かべながらも横に一歩移動する。その少女の真後ろにいたのは、ヒナの仲間であるはずのリザードとピチューの姿。首には、イッシュ地方で見たことのある首輪がしてあるのが確認できた。あの首輪は、ポケモンや人間を操ってきたものであり…リザードとピチューが操られてしまったという事実にもサトシ達は怒る。

 

 

だが、少女はそれだけでは終わらない。パチンと指を鳴らして何故かその首輪を外す。瞳に生気が映ったリザードとピチューに、サトシ達はリザードたちが離れた瞬間を狙って少女を攻撃しようと考える。

 

 

 

 

――――――――だが、それはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガゥゥ?………ガ…ァ……ァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リザードッ?!」

『リザードが…進化した!?』

「いや待ってくれ…様子がおかしい…まさかっ!?」

 

 

 

 

 

 

リザードが真っ先に見たのは、傷ついたヒナの姿。自らが燃やし、止めを刺そうとした相棒の姿だった。ピチューは正気に戻ったのと同時にすぐに床に倒れて気絶し、ミュウの手によってヒナの近くへテレポートされる。

 

そして唯一起きていたリザードは…己がした所行に慟哭を上げた。相棒であり大切な家族を傷つけてしまったという事実に、炎を燃やす。

 

 

その悲しい叫び声が、怒りが身体を光らせ…黒く染まったリザードンへ進化させてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、クロから聞いた話だとここで進化させるつもりなかったんだけどなー」

 

 

 

 

『グォォォオオオオオオッッ!!!!!!』

 

 

 

「リザードンっ…待て!止まれ!」

『ピィカァ!!』

『待て、リザードンが正気ではない!このままだと…』

『クッ…仕方がありません…ここは気絶させてでも…!』

『いややめろ!あのリザードンも怪我をしている!無理をさせてしまっては危険だ!』

『じゃあどうしろと言うのですかルカリオ!!』

『ああもう何もたもたしてるのあいつは…!!』

「ティナ…このままだと危険よ!」

『ポチャァ!』

『分かってるよ!!でももう少しなんだ!』

 

 

 

リザードンは周り全てが敵だと思っているのだろう。ある意味混乱状態になっているリザードンから放たれた炎は全てを燃やすように威力が高く、サトシ達の手持ちなら簡単に避けたり防いだりすることは簡単だが…ヒナの相棒であり、妹分であるリザードンを無理やり止めるすべが思いつかない。無傷のまま眠らせればいいのだが、ダークライがいる時点でそれは不可能と言っても良いだろう。もちろん近くで眠っているヒナやピチューにも危ない。

 

ダークライがすぐにその事実を知ってここから離れようとするが、この混乱の中では難しい。だからこそ、サトシが最低限の怪我で済むようにリザードンに向かって行動した時だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミーの出番でしゅね!!』

 

『ロメッタッ!~♪~♬!』

 

 

 

 

『遅いよシェイミ!』

『むっこれでも頑張ってきたんでしゅよ!ミーに感謝するでしゅ!』

『分かってるよありがとう!!』

 

 

 

 

扉から飛び出してきたのは二体のポケモン。シェイミとメロエッタだ。どうやらギラティナが事前にシェイミにお願いしていたらしく、シェイミがイッシュ地方でメロエッタを探したのだろう。部屋に入ってきた瞬間すぐに事の重大さを知ったメロエッタが歌を歌ってリザードンの正気を戻そうとする。歌を聞いているうちに暴走状態でなくなり、次第に落ち着いてきてリザードンは床へ倒れ込んだ。それを見たジュカイン達ホウエンの手持ちたちがすぐさま助けに入るのをサトシは横目で確認しつつも、少女へ一歩近づく。

 

 

 

 

「あーあー…もう終わっちゃった?おもちゃが壊れていくのを見るのは楽しいのに…」

「っ…お前」

 

 

「でも楽しかったよ!流石は【お兄ちゃん】だね!これはお礼!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――――――――コ ロ ス 」

 

 

 

 

 

 

 

「私の…私のサトシに何するのッ!!!!!???」

 

 

 

 

 

 

何の警戒もなく軽やかに近づいた少女がサトシに向かって行く。攻撃するかと思ったサトシが避けようとしたが、その行動が読めていたらしい少女が素早く動き、サトシの頬を掴んで、深く深く口づけをする(・・・・・・・・・・)

 

キスされるとは思ってもみなかったサトシが一瞬動きを止めたが、すぐに少女に殴りかかろうと腕を振りかぶった。

 

 

 

だが少女は楽しそうに笑ってそれを避けた。

 

 

 

…ちなみに、その光景を見たセレナが絶句し、周りも恐怖のあまり一歩下がった。

 

 

 

アーロンはヒナのために近くにいるが…アーロンやセレナ以外の全員がサトシに近づく勇気がなかった。むしろ離れた。サトシの相棒であるピカチュウもだ。

 

 

 

そんな隙をつかれてしまったのだろう。少女がユンゲラーをボールから取り出してテレポートし、逃がしてしまったのも…サトシが怖いからという理由以外他にない。ミュウが恐る恐るテレポートしてユンゲラーを探しても…もうどこかに行ったのか見つけることができなかった。

 

 

 

「あ、あの…サトシ?」

『ポッチャァ?』

『ピカピ…?』

「あ、大丈夫じゃないかも…」

 

「………………コロス」

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですかセレナ?」

 

「……………アハハハハ!大丈夫だよシトロン!ただ殺したい相手ができただけだからね!」

「ヒィ…!」

 

 

 

 

「……それよりも早くヒナたちを病院へ運び込むぞ」

「は、はいッ!」

『ッッ!!!!!!!』

 

「ああそれが妥当だろうね」

『何でアーロンはこんな雰囲気でも普通の対応していられるわけ?』

「おかしいのかいティナ?」

『…いや、別に』

 

 

 

 

 

周りが異様な雰囲気の中、ヒナたちは人も治療できる大きな病院…いや、ポケモンセンターへ運ばれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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