マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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冷静でいられないことによって勝利を手にすることはできないと彼は知っていた。





第二百五十七話~兄達はカント―地方へ戻る~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはカロス地方のとある森の奥深く。ユリーカとカスミと一時的ではあるが別れ、サトシとピカチュウについて行けばそこには光と闇があった。

 

 

 

―――――――それは、人間が見てはならない領域。

 

 

 

 

 

サトシだからこそ…いや、サトシと共にいるからこそ許された光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

「…よろしく頼むぜ、クレセリアにダークライ」

『ピッカァ!』

 

『クゥゥゥウウウッ!!』

『フゥゥウ…ああ、任せておけ』

 

 

 

 

「シャベッタァァアアアアアッ!!」

「え?喋るポケモンって普通じゃないの?私ずっと普通だと思ってたかも…」

「でもニャースも人間の言葉を喋るってサトシに聞いたわ。もしかしたらそう珍しくないのかしら?」

「いやいやそんなわけないですからね!!!」

 

 

 

「…さっさと行くぞ」

『ピィカッチュ…』

 

 

伝説が目の前にいることやポケモンが喋ったことに対してシトロン以外はもはや慣れてしまったのだろう。そしてダークライやクレセリア自身もシトロンの反応を見てああこれが通常の反応だ…というような表情をしている。だがそんな戯言にキレているサトシとピカチュウが聞くわけもなく。電撃でビリビリと放っているピカチュウと、凄まじい冷気を発しているサトシに圧倒されてすぐに行動を開始した。…当然ここでもセレナが頬を赤く染めていたりするが騒いだりはしなかった。

 

 

 

 

「ねえサトシ…このままカント―地方へ行くの?」

「ああ…」

 

 

 

 

これ以上の言葉をサトシは言わなかった。それは連れ去られてしまったヒナのことを心配する気持ちと、早く行きたいという苛立ちが込められていたからだろう。クレセリアとダークライもそんなサトシの感情を読み取ったのか真剣な表情のまま何も言わない。

サトシがクレセリアの背に乗ったため、セレナたちもそれぞれポケモンの背に乗った。そしてダークライとクレセリアは空へ飛び上がり、サトシ達を乗せてカント―地方へ飛んでいく――――――――。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「サトシ…!?」

「サトシ…来ると思っておったぞ」

 

 

 

「すいませんオーキド博士…先に仲間たちを紹介しなければいけないんですけど…」

「それよりもやるべきことがあるんじゃろう?また時間がある時で十分じゃ」

「ありがとうございます博士」

「…森の中に行くんだろうサトシ。皆そこに集まってるはずだよ」

「分かった。ありがとうケンジ」

 

 

サトシ達は数時間もの間カント―地方へ向けて飛んでいた。途中でシトロンたちの体力が持たないだろうとクレセリアとダークライが気をつけて飛んでいたためシトロンたちの体力は尽きることなく、早く到着することができた。そしてカント―地方のオーキド研究所に降り立ったサトシ達を見たケンジとオーキド博士はダークライやクレセリアを見て驚いていたが、サトシだからと納得し、ヒナを探しに来たのだと察する。サトシと一緒にやって来たシトロンたちをちゃんと紹介しなければならないとサトシは思ったが、そんな時間はないだろうとオーキド博士たちが微笑み、森に急げと言ってきたためサトシは走る。もちろんピカチュウやダークライ、そしてクレセリアもサトシの後に続いた。

シトロンたちはオーキド博士たちに一度礼を言ってからすぐにサトシの後を追いかけた。

 

 

 

――――――森の中は静寂に包まれていた。ただ異様なのはポケモンの声がしないことでもなく、森の中だけ自然の風などが感じられないことではなく…鋭い冷気のような殺気があたりに包まれていたことだけだ。

ポケモンの姿が見えず、ただただ森の奥へ進むたびにその殺気が大きく感じられる…。

シトロンは少しだけその殺気を身体に感じて怯えてしまったが、いつもサトシの傍にいたためか…それともこの数時間の間に慣れてしまったのかすぐ頬を両手で叩いて気持ちを切り替える。心の奥底ではこの冷たい殺気を怖がってはいたが、サトシ達の足を引っ張るつもりはないと考えて前へ進んでいったのだった。

 

 

そして見えてきたのは大勢のポケモンたちが集まる光景…。その中に人間の姿も何人か見えていた。

 

 

「この状況で会うことになるとは思ってもみなかったよ…サトシ君」

「ええ…俺もそう思ってますよ、アーロンさん」

「サトシ…」

「悪いなヒカリ。旅している途中で呼び出しちまって…」

「そんなことないよ!ヒナちゃんが大変なことになってるんだから…ミュウがいきなり来た時は驚いたけどね…」

『ポッチャァ!!』

『ピィカッチュゥ…』

 

 

「…誰なの?サトシの知り合い?」

「うん。あそこにいる女の子はヒカリって言って私たちと同じようにサトシと一緒に旅したことがある仲間なの。それであの青い帽子をかぶった人がアーロンさんで…過去にいた人間…かも?」

「かもって…どういうことでしょうか?」

『人間には見えないと言いたいのか?』

「うーんそういうわけじゃないかも。過去にいた人だから…でも今は違うのよね。それに私もアーロンさんとこの場で会うのは初めてだから…あと久しぶりね、ルカリオ」

『ああ、久しぶりだな』

「ポ、ポケモンがまた喋ってる…いいえ、サトシに関わるポケモンを常識であてはめてはいけない…!」

「…シトロン?何だか顔色が悪いけど大丈夫?」

「だ、大丈夫です!!」

 

 

シトロンにとってサトシの周りにいるポケモン達のほとんどが人生で一度見れるかどうかすら分からないぐらい貴重だと分かっていた。サトシの手持ちたちのレベルが高すぎるという点でも驚くべきなのだが…それ以外にも滅多に見ることができない伝説たちが当たり前のようにそこにいる時点で気絶してしまうぐらいの衝撃をシトロンに与えていた。普通だったら伝説たちがたくさんいるオーキド研究所に始めてきたセレナもここでシトロンと同じように反応するべきなのだが…彼女にとってはサトシが世界の中心であり、サトシが当たり前だと思うことはセレナにとっても当たり前なのだと考えていたために驚愕することはない。

まあ、こんな状況でなければベイリーフがサトシに恋しているセレナを見て目の敵にし、攻撃しようとしてマグマラシたちに止められるのは時間の問題だと思うが―――――。

 

 

 

「あいつは…?」

 

「ああティナなら反転世界からミュウと共に探してくれているよ。私たちも全員で探すと言ったのだが…ティナが邪魔だから外に行って待ってろと怒ってしまってね…」

「ティナは反転世界を荒らされるの嫌みたいだから…」

『ポチャァ…』

 

 

「…そうか分かった」

『ピィカ』

 

 

 

 

アーロン達との話を終えたサトシは、フシギダネ達の方を振り向く。その行動にポケモンたち全員が表情を引き締めてサトシの次の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、編成でも始めるか」

『ピィカッチュ!』

 

 

 

『―――――――――――ッッ!!!!』

 

 

 

 

サトシの言葉によって全員がヒナを救出しに行きたいと叫ぶ。もちろんサトシの手持ちだけでなく伝説たちもだ。騒ぎにまで発展しそうなポケモンたちの声にシトロンたちはそれほど連れ去られたヒナたちのことが心配なのだと理解した。

だがサトシは首を横に振って全員は連れていけないと言う。その言葉を聞いてポケモンたちはさらに騒いだ。

 

 

 

「全員でヒナを助けに行きたいのは俺も分かる。でもな、今周りで起きている事件については知ってるか?ヒナのこともそうだが…今はオーキド研究所を留守にするわけにはいかない」

『ピィカッチュ…』

『俺は行くぞ。ヒナが連れ去られたからにはその元凶を叩き潰してやらねば気が済まない…!!』

「ああ、分かってるが…ただ感情のまま怒るだけでヒナを助けられるとは思うなよミュウツー。全員で行ってヒナを助けられなかったらどうする?リザードやピチューはどうなる?…やるべきことは常に最善だ」

『クッ…!』

 

 

「ああ、話に聞いていた通り……面白い子だね」

『アーロン様…』

「…そういえば前にティナがサトシの事、大きな組織の司令官になれそうだって呟いてたの聞いたことがあるわ」

『ポチャァ…』

「サトシ…格好良い…!」

「だ、駄目ですよセレナ…今騒いでしまったら皆に怒られます…!!」

「大丈夫よシトロン。セレナもここで騒ごうとは思ってない…かも?」

「かもじゃダメですよハルカ!」

 

 

 

話し合いはギラティナたちがやって来るまで続き、サトシの指揮によって突撃するのはミュウツーとイッシュ地方にいたミュウツー、ミュウ、ダークライ…そしてホウエン地方の手持ちたちになった。ホウエン地方の手持ちが突撃部隊に選ばれたのはヒナたちを奪還するためにスピード重視にしていったからこそだとサトシは言う。大きな身体をしたポケモンは敵に早く見つかってしまいヒナたちを人質にとられる可能性から除外していったためだ。サトシ達と一緒に行けないポケモンたちは皆不満そうだったが…ヒナたちを救出し終えたら全員で突撃して瞬殺するぞというサトシの言葉でやる気を出したようだった。

カロス地方のポケモンたちはまだまだ修行する必要があるのと今回の戦いで危険かもしれないということでオーキド研究所で待っていてほしいとサトシは言う。ケロマツ達はその言葉を聞いて一緒に行くと叫んだが…それでもサトシは首を横に振って待っていてくれと言った。他にもオーキド研究所で待つポケモンたちがいるからこそ、サトシが考えて決断した言葉だからこそケロマツ達はサトシの言うことを聞いた。でも…それは自らの力がまだまだ未熟だと分かっていたからこそ、オーキド研究所でできることはすべて行おうと決心したのだった。

 

 

 

 

「フシギダネ…俺達がいない間は頼んだぞ」

『ピィカッチュ』

 

 

 

『ダネフッシ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして話を終えたサトシ達が振り向いた先にいたのは―――――――――。

 

 

 

 

 

 

『あ、終わったみたいだね』

『ミューゥ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………誰だお前」

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽に照らされてキラキラと光る金色の髪を胸まで伸ばしている女性とミュウが真面目そうな表情で待っていた姿だった。

 

 

 

 

 


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