マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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――――――――――時間は遡り…ヒナたちが連れ去られた頃の話へ






第二百五十六話~兄は冷静に見えてそうじゃない~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーキド研究所からの電話は、サトシやピカチュウ…そしてセレナ達の表情を変えるのに十分な内容を伝えていた。そしてその電話の内容によってサトシとピカチュウはキレた時によく見せる無表情となり、それを見たセレナが出会った頃のサトシの懐かしい表情みたいだと頬を赤く染めている。

もちろん今はふざけている場合ではないため、セレナがいつものようにサトシ大好き!などと言った言葉を大きな声で叫んだりしてはいないが…。

 

 

 

 

 

「カント―地方へ行こう」

『ピィカッチュ』

 

 

 

「ええ、それが妥当ね…ヒナちゃんの身に何かあったとしか思えないわ」

「カスミの言うとおりかも…このままにしておけない!」

「私も、ヒナちゃんを助けたい…それに義妹が行方不明になった原因をちゃんと燃やさないといけないし…!」

「だよねだよね!困ってるなら助けないと!」

『デネデネ!』

「そうですね…それでは行きましょうか!」

 

 

 

言っている内容は時折物騒だが…それでもみんなの気持ちは一致していた。もちろん、セレナの義妹発言には誰もツッコミなんていれないぐらい真剣に考えているぐらいには…。

 

 

「あ、ねえ待って!…行くってどこに?」

『デネ?』

 

 

ユリーカが何かを思い出したかのような声を出してサトシ達を立ち止まらせる。ユリーカの言葉は正論であり、これからカント―地方へ向かうサトシ達が何処へ向かわなければいけないのか分からないということだ。だからこそシトロンたちは微妙そうな表情でユリーカを見て俯き、このまま行っても意味はないと思ったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――サトシとピカチュウを除いては。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だ。俺たちにはちゃんと協力者がいる…なぁ、いるんだろう?ミュウ」

『ピィカッチュゥ!』

 

「え、ミュウって…ちょっと待ってまさか…!?」

「ミュウって何?ポケモンなの!?」

『デネデネ?』

「ミュウ?聞いたことないわね…」

「伝説のポケモンですよ…それもポケモンたちの始祖に値すると呼ばれている生き物です!」

「ああなるほど、よく分かったかも」

 

 

 

 

『ミューゥ…』

 

 

 

ミュウが来たことによってセレナたちはそれぞれ反応を示す。カスミは顔を引き攣らせ、シトロンは驚愕して眼鏡をずり落とす。そしてセレナはずかんを開いてエラー表記になったことに対して首を傾け、ユリーカとデデンネは笑顔で現れたミュウに近づいて行った。そんなカオスな雰囲気の中…ハルカだけが、納得しているような表情を浮かべていたのだった。

 

 

突然サトシ達の前に現れたミュウは元気がなさそうだ。だがサトシにとってそれは当たり前だろうと思えた。ミュウにとってもヒナたちは我が子のように接してきた大切な仲間であり家族なのだから。ヒナたちが行方不明になったということは、ミュウ達の強い加護から掠め取って行ったのと同じ意味になる。伝説たちのプライドをズタズタに折られたのと同時に、ヒナたちがどうなったのか心配しているからこそ元気がないのだと…そうサトシとピカチュウは思えたのだった。

 

 

 

 

「何があったのか聞くつもりはない…が、俺の言いたいこと…分かるよな?」

『ピィカ』

 

 

『ミュ…ミュゥ!!』

 

 

ヒナが行方不明になったということは、ヒナ達自身が伝説たちに見守られている状況ではただ連れ去るという行為は困難だろう。

だからこそ、何故ミュウ達の守りからヒナたちが連れ去ることができたのかサトシは分からない。それに、伝説たちがヒナたちを可愛がり、大切に思っているのは心底分かっているからこそ責めるつもりはない。

いま大切なのは、ヒナたちを探し、助け出すと言うことだろうとサトシは言葉にせずともそう言った。

 

 

ミュウはやる気を出し、テレポートをしてミュウツーたちにサトシが動くということなどを知らせるために動く。

 

サトシとピカチュウもやるべきことを果たそうと歩き出すが―――――――。

 

 

 

 

 

「ちょっ!?ちょっと待ってくださいよサトシ!何故あの伝説のミュウがいたのかを教えてください!」

「ねえねえサトシはあのミュウと知り合いなの?私も友達になれるかな?ミュウってマサラタウンにいるの?」

『デネデネ!!?』

「あんた伝説ホイホイだからちょっとは納得いくけど…でもミュウがあんたの近くにいるって何でわかったのよ?それにヒナちゃん達のことも知ってたみたいだし。どうしてなのか教えなさい!」

 

 

 

 

「…質問ならハルカに聞いてくれ。俺はポケモンセンターに行く」

『ピィカッチュ』

 

 

 

 

「あ、待ってサトシ!私も一緒に行く!」

 

 

 

サトシが質問に答えずに不機嫌なまま歩き出したことによってシトロンとユリーカは戸惑い、カスミはため息をついて仕方ないかと諦める。そんなシトロンたちに対してハルカは苦笑しつつもマサラタウンの現状を説明していった。ポケモンセンターへと歩かず、その場で話を聞いているハルカを一瞬だけ見たセレナはすぐに思考をサトシへと移した。後でまた合流しようとサトシが言ってきたために、ハルカ達と別れる形で行くことになったのだが、セレナは嫌な予感がしていた。

 

 

(大丈夫…だいじょうぶ。サトシがいるんだから)

 

 

その予感が当たらないでほしいとセレナは願った。あの幼い頃のキャンプ地で怖い目に遭った頃のように…サトシが、皆が怪我しなければいいとそう願いながらも…。

 

―――――――不機嫌な表情で歩くサトシの後ろをついて行くのは、心配そうにサトシを見つめるセレナただ一人だけであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ねえサトシ…誰に連絡するの?」

 

「幼馴染」

『ピィカ…』

 

 

サトシ達がやって来たのはポケモンセンターの通信施設となっている場所。つまり、電話が置いてある場所までやって来たのだ。椅子に腰かけ電話をかけようとしているサトシの姿にセレナは誰に連絡するのか気になり質問した。その声にサトシはただ一言感情のこもっていない声で答える。

セレナは幼馴染と言う言葉にキャンプ場にてサトシと別れた後に見かけた幼い少年を思い出した。あの時の幼い少年はサトシは何処かと動揺し泣きながら大人たちに詰め寄っていたが…もしかしたらその時に見かけた子かもしれないとセレナは考える。

 

 

そしてようやく電話がつながり、画面に見えてきたのは少々疲れた表情をしている少年―――シゲルだった。

 

 

 

「やあサトシ…その様子だと今の状況が分かっているみたいだね」

「まあな。…最後にヒナに会ったのはシゲルだったんだろ?何があったのか詳しく教えろ」

『ピィカッチュ!』

 

 

 

「ああ…ヒナちゃんがいた部屋の監視カメラを調べたらユンゲラーが突然現れて、大きな光によってヒナちゃん達が消える様子が見られたんだ。おそらくテレポートで連れ去られたのだろう」

「………居場所の特定は?」

「だいたいなら特定できてるよ。…おおよそだけど、テレポート出来る範囲から考えるとカント―地方のある場所が示されたんだ…でもまだ細かい位置まで分かってはいない」

「…いや、助かる。その資料をこっちに送ってくれないか?」

「分かった…サトシ、ヒナちゃん達を連れ去ったのはもしかしたらかつてのロケット団のように悪い奴らかもしれない…油断はしないでくれ。それと、何かあれば僕を呼んでくれよ…サトシ、本当にすまなかった」

「謝るな。シゲルはヒナのためを思って行動したんだろ?まあ今度会ったときは覚悟しておけとは言っておくけどな」

「ははっ…ありがとう、サトシ」

 

 

 

疲れた表情を少しだけ微笑みに変えたシゲルとの通信を終わらせたサトシはすぐにこちらに送信されてきた資料となるデータを紙に写し、立ち上がった。近くで見守っていたセレナは険しい表情でサトシの後をついて行く。

 

 

 

――――――そしてポケモンセンターを出て歩いた先にはハルカの話を真剣に聞いているシトロンたちの姿が見える。

 

シトロンたちはどうやらマサラタウンに伝説たちがいること、その理由について知ったようだ。サトシがやって来たと同時に微妙そうな表情を浮かべていたり、目を輝かせていたり、呆れた様子でため息をついたりとそれぞれが反応していた。それはそうだろう…伝説が人の前に現れるというだけでも珍しいというのにその伝説がマサラタウンに集合しているのだから…しかもヒナたちを守り、我が子のように接していたり…サトシのポケモンであるフシギダネ達と交流したりと凄まじく平和に暮らしているということさえ想像がつかないのだろう。

だからこそ、シトロンたちに近づいたマサラタウンを変えてしまった元凶であるサトシを見て微妙な雰囲気となってしまったのだった。

 

 

彼らの雰囲気が分かったサトシはすぐに口を開いて牽制した。

 

 

 

「言いたいことはあるかもしれねえが…それは後で聞く。大体の場所も分かったことだし、カント―地方に行くぞ」

『ピィカッチュ!』

 

 

 

カント―地方に行くと言う言葉でシトロンたちはすぐに表情を変えて真剣な様子でサトシを見た。セレナはサトシの隣に来て一緒に話を聞く。

そのまま行くかと思ったが、サトシは手に持っていた紙を一度見てから考えるような仕草をして…そしてユリーカを見た。

 

 

 

 

 

「…とりあえず、ユリーカとカスミはここで待っていてくれ」

『…ピィカッチュ』

「ええっ!?何でなんで!!私も行きたい!!」

『デネデネ!!』

「いえ、サトシの言うとおりですね。ユリーカはまだトレーナーじゃないんだから、危険な目に遭うかもしれない場所に連れていけないよ」

「でも…でも!!」

『デネ…!』

「ユリーカちゃん。私と一緒に待ってようね。サトシは強いし大丈夫。それに無理に行ってユリーカちゃんが傷ついたら皆が後悔するから…だからここで待っていましょう!」

「ユリーカ、カスミさんと一緒に待っていてくれるかい?」

「……………うん」

『…デネ』

 

 

 

ユリーカは不機嫌そうな表情を浮かべてしまったが、それでもサトシは自ら決めた意志を覆そうとはしない。ユリーカはヒナと同じ年齢であり、まだトレーナーになっていない幼い少女と言っても過言ではない。ヒナのように連れ去られては危険だと考えているからこそサトシはここでカスミと一緒に待っているように言った。本当ならシトロンたちも一緒に待っていてほしいのだが、サトシが何かを言う前にトレーナーだから自分の身は守れるということや助けに行きたいという言葉を伝えてきたため、カント―地方に連れて行くことを決心した。

 

 

ようやく、ヒナを助けに行けるとサトシは帽子を深くかぶり直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…じゃあレックウザで移動するか、ミュウに連続テレポートしてもらうか、それともギラティナの反転世界から一気にカント―地方に行くか…どれにしようか?」

『ピィカッチュ?』

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

サトシの言った言葉に、数名を除いて絶句していたのは仕方ないことだと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 




To be continued.



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