マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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『――――――――――――――っ』





暗い暗いその場所から何かが聞こえた。




悲鳴と怒声、そして懐かしいような声が響く。



だが、それよりも大きく、心に直接聞こえる声。








(どうしたの?痛いの?…大丈夫だよ、リザード)







悲しい声が、頭に響いた。







第二百五十五話~傷つくモノと傷ついたモノ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ませば、そこに広がるのは一面の黄色。

 

 

 

 

 

「っっい゛!?」

 

 

 

 

『ピイッチュウ!!』

『落ち着きなさい、ピチュー。ヒナが痛がっていますよ』

『ピッチュ…』

「痛た…えっと、ピチューにミュウツー…姉さん?」

『いいえ、他にもいますよ』

『レッビィ!!』

『マァナ!!』

『キュゥゥウ!!』

『ロメッ!』

 

 

 

 

ヒナが目を覚ますと、そこは清潔そうな白い部屋だった。フカフカのベットで眠っていたようで、ヒナが目覚めた瞬間に強く抱きついて来たピチューに驚く。ミュウツーがヒナを強く抱きしめたピチューに言い、そして微笑んでいた。その表情は人間のように泣くのを堪えているようにも見える。そしてヒナはようやく現状を知った。ミュウツーたちが【あそこ】から助けてくれたのだと…また、助けられてしまったのだと知ったのだ。

 

そしてヒナがピチューとミュウツーのことを呼ぶと、ミュウツーが横に一歩移動しヒナに後ろにいるポケモン達を見せた。

そこにいたのは、ヒナが無事だと分かり、安堵したことによって涙を浮かべるポケモン達の姿があった。ヒナが目覚めたことによって近づこうとするのだが、ミュウツーがサイコキネシスでその動きを止めたことによってヒナが抱きつぶされずに済んだ。ミュウツーの後ろにいたのはセレビィ達にメロエッタにラティアスにマナフィ…そしてーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルカリオ…?」

 

 

 

 

泣きそうになっている周りとは違って、表情を険しくさせたルカリオがそこにいた。

 

 

 

『……』

「ルカリオ…」

 

 

 

ルカリオが近づいたことによって、ピチューがヒナの頭からお腹に移動して抱きつく。離れることはせず、ずっと泣きだしているピチューの頭を撫でながら、ルカリオを見つめた。

そして、ルカリオはヒナの頭を優しく撫でた。その行動に一瞬怯えた様子をみせたヒナを見て、少し苦しそうな表情を浮かべながらも…。

 

 

 

 

 

『心配したんだぞ、ヒナ…無事で良かった』

「ご、ごめんなさい」

『謝ることじゃない』

「うん…ありがとう、ルカリオ」

 

 

 

 

ヒナは何故ここにいるのか、そして何故怪我をしているのかをちゃんと覚えていた。忘れていれば、ヒナの胸に広がる痛みはなくなるはずだと、叶わない願いを感じながらも。

 

 

 

そしてヒナは目覚めてから感じていた違和感をルカリオたちに向かって口に出して言う。

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ…リザードは?リザードは何処なの?」

 

 

 

 

 

いつも一緒だったリザードがいないことと、あの赤い炎の記憶を思い出して不安になる。

そして、ピチューがヒナの言葉によって悲痛の声をあげ、周りにいるポケモン達が何も言わないことに嫌な感情が込み上げてきた。

 

 

 

 

「リザードは、リザードは何処?ねぇピチュー、何処にいるのか分かる?」

『………』

「は、ははは…ねぇ、冗談でしょ?リザードは、ちゃんといるよね?隠れてこの近くに、いるんだよね?」

『ヒナ…』

「ルカリオ、リザードは何処?」

『っ…』

『ヒナ、それは…』

 

 

 

 

 

 

誰か、リザードはここにいると…驚かすためにわざと隠れているのだと答えてほしいと思い、わざと笑う。ヒナの瞳が傷ついた色に染まっていても、苦しそうに笑っていても、この部屋にいるポケモン達は、何も喋らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、ちゃんと生きているよ」

 

 

 

 

だが、部屋に入ってきた人間は別だった。悲しい表情を浮かべ、ヒナを見つめる少女…ヒカリとポッチャマとシェイミ、真剣な表情を浮かべている青年…アーロンが、部屋に入ってきたのだ。

 

アーロンは言う。リザードは生きていると。

その言葉にヒナは涙を浮かべた。

 

 

 

 

「リザードっ…良かった」

『ピッチュゥ…』

「君のリザード…いや、リザードンは酷く混乱しているんだ、今はティナとミュウが側にいるよ」

「っなら、早く側にいかないと…!」

「無茶よ!ヒナちゃんの身体は―――――――」

「私の家族なの!早く会って大丈夫だよって言わないと!!」

『ピチュ…』

 

 

ピチューが悲しそうにヒナを見つめる。そしてヒカリとポッチャマが顔を見合わせてどう言おうか迷っているような仕草をする。その行動もヒナにとって不安にさせる要因となった。

そして、アーロンの言葉で一つだけ気になることがあったが…ヒナはそのことに気づかない。

 

 

 

 

「リザード…リザードっ」

『ピチュゥ…ピィッチュゥ!』

「ピチューもリザードに会いたいよね?リザードに、大丈夫だよって言わないと…安心させないといけないんだから…」

『ピチュゥ!!!』

 

 

 

ピチューが違うと首を横に振る。それにヒナは気づかない。ただただ、長い間ずっと一緒にいたリザードに会いたいと言う言葉しか心になかったからだ。弟のように可愛がっているピチューの言葉も、心を傷つけられた今のヒナには届かない。

 

だからこそ、周りの様子にも、雰囲気にも気づかない。ヒナは気づこうとしない。

 

 

 

 

 

 

『ヒナ…話を聞け!あの子は―――――』

「いや、ルカリオ…会わせてあげよう」

『アーロン様!?』

「そんなっでも今のリザードンに会わせたら…!」

『ポチャァ!!』

『ミィィ…ヒナに何かあったらサトシが心配するでしゅよ…!』

『ロメッタッ!!』

『キュゥゥウゥ!!!!』

『人間よ。ヒナにこれ以上心を壊せと言うのですか…!あのリザードンに会わせてしまったらそれは…!』

 

 

「このままここにいるよりもずっといいだろう。それに、何もせず会わないままだとヒナちゃんやリザードンのためにならない。ただ無意味に傷つくだけだ…ヒナちゃん、リザードンに会わせてあげよう。ついてきなさい」

『アーロン様…』

 

「大丈夫だルカリオ。私はもう、間違えない」

 

 

 

 

「…はい」

『ピチュ…!』

 

 

 

ヒナはアーロン達の言葉を他人事のように聞いていた。それは、つい最近まで心が壊れそうになるぐらい痛い目に遭ったせいか、ただリザードに会いたいと言う気持ちが強いせいか…それ以外のせいかもしれない。アーロンは周りにこのままではいけないと諭し、そしてヒナの様子を見て真剣に言った。

周りもこのままではいけないと思ったのだろう。ヒカリが涙を浮かべ口を手で押さえて嗚咽を漏らさないようにするぐらいには、ヒナの様子は酷い。いつものような優しい笑みも、楽しそうにポケモンたちと一緒にいる様子が想像できないほどやつれていたのだ。ヒナの見た目もその雰囲気を助長させているのかもしれない。腰ぐらいまであった艶やかな長い髪は肩まで乱雑に切り刻まれてしまっている。瞳には生気がなく、ただリザードに会いたいという言葉しか言わなかった。

 

 

 

だからこそ、アーロンはリザードに…いや、リザードンに会わせるために行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アーロン!?何でヒナちゃんを連れてきたんだよ!!?』

『ミュゥゥ!!!?』

「これが彼女たちにとっての最善だ」

『会って傷つくことが最善か!?ふざけんな!』

『ミュゥ!!』

「何もせず心だけが死んでいくよりずっといいだろう…それにこのまま会わないより今ここで会った方が良い」

『っ…サトシ君になんて説明したらいいんだ…』

『…ミューゥ』

「それは私がやろう。ティナはオーキド博士に頼まれたことをやってくれ」

『…っ…はぁ…もうどうなっても知らないからね!…ほらこっち』

『ミュゥ』

 

 

 

 

 

ヒナは気がつけばこの世のものとは思えない空間に来ていた。アーロンがヒナとピチューを連れてギラティナの反転世界へやって来たのだ。もちろんヒナの足元には不安そうな様子のピチューがいる。ミュウツーたちもヒナたちの傍にいようとしたが、アーロンが大丈夫だと言って連れてこなかった。だから今ここにいるのはミュウとギラティナとアーロン…そしてヒナとピチューだった。

ギラティナがため息をつきながらも前へと進む。ヒナとピチューも一緒にギラティナについて行く。

 

 

そしてやって来たのはある大きな大樹が光り輝く、洞窟の中。まるでギラティナの近くで浮いているミュウが棲むはじまりの樹のようだ。周りは緑色に光り輝く透明な水晶で覆われ、洞窟の中心で、大樹を茫然と見つめている黒い生き物がいた。

 

 

「リザード…っ!」

『ピチュ…』

 

 

ヒナの声に反応して、黒い生き物…いや、リザードンが後ろを向く。ピチューはその姿を見て苦しそうに俯いた。その姿を見てミュウがピチューを静かに抱きしめる。そんなピチュー達に気づかないヒナがリザードンに向かって微笑み、近づこうとした。

 

 

 

『グォォォォオッ!!!!』

 

 

「っ!リザー…ド?」

 

 

リザードだった頃よりも強力な炎を吐き出し、威嚇する。その姿にヒナは驚く。ようやく会えたと思ったのに、リザードの表情が泣きそうに歪んでいると言うのに、何故拒絶するのだろうかとヒナは疑問に思う。だからこそ一歩一歩近づく。それに気づいたリザードンは黒い翼を広げて飛び上がり、ヒナから離れていく。

 

 

 

「なんで?大丈夫だよ。もう何もないの…!」

 

 

 

『グォォォォォオオオオッッ!!!!!』

 

 

 

 

来るなとばかりに炎を吐く。そのリザードンの行動と表情が一致せず、ヒナは困惑した。ただ離れないでほしいとばかりに、ヒトカゲだった頃からよく抱きしめるようにヒナが両腕を上げて近づいても、リザードンはそれを受け入れない。空を大きく飛び上がり、ヒナから離れていく。

 

 

 

 

ヒナは目を大きく見開き、どうして…何で…と呟いた。手を伸ばし、もう届く距離にいないリザードンの元へ走る。

 

 

 

 

 

『グォォッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げないで…行かないでッリザードン!!!!!」

 

 

『グォォォオオオオッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

飛びあがり離れていくリザードンを見て、ヒナはただ子供のように両膝を地面について泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






一方その頃のカロス地方では――――――。





「ほらサトシ!言ってあげなさい!あの言葉を!!」
「そうだよサトシ!早く言ってあげて!!」
『デネデネ!!』
『ピィカッチュゥ…』







「……あ、愛してるぜ…セレナ」


「ッッ!!!?わ、私も愛してるわサトシィ!!!」




「まさにカオスですね…」
『リィマ…』
「セレナの愛って凄まじい…かも?」
『バッシャァ?』





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