マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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「何で…なんで?」



赤く染まった部屋で呟いていたその声は寂しげに響いていた。



部屋はところどころ何かで切り裂かれた跡や何かがぶつかったような跡が残る。






「わたしは…」





その中にいる黒髪の少女が呟く。




少女の目には生気のような輝きが消え、瞳の奥は黒く濁っていた。











「何で何でなんであんたさえいなければいないならわたしは私はワタシは私はわたしは…」






何かを叩き、殴り、蹴り飛ばす。






だが、その何かは意識がないようで喋ることはない。ただただ青黒く染まっていく部分と、赤黒く染まる部分が強く目立っていた。






「ねえ…」







「何でアンタは私じゃないの?」









第二百五十四話~妹は…~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、ヒナはそこにいた。

 

 

 

 

 

だが気を抜いていたわけではない。シゲルと一緒にいるからと周りの注意をすることを忘れなかったわけではない。

ヒナは色違いのリザードを相棒として過ごしている時点で何かしらの問題が起きることが多くあったために警戒を怠ることを止めなかった。

 

 

 

 

修行していくことでヒナたちは強くなった。色違いを欲する人間の薄暗い欲望にすぐに気づくことができた。

 

 

 

 

 

 

だがあの時、シゲルが誰かに呼び出され、ヒナたちは待っていた。

 

 

 

そして周りにたくさん眠っている卵たちとリザード達と一緒にいた。すぐに帰ってくると信じて待っていたら、ふと遠くの方で黄金色の何かがいた。

 

 

 

 

 

黄金色の何かが光り輝き―――――――そしていつの間にか、ここにいた。

 

 

 

 

 

 

「っ…リザ…ド……ピチュ…ゥ」

 

 

 

 

 

ヒナは傷ついていた。いつの間にかいたこの場所で、後にやって来たヒナに良く似た少女のせいで…。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――これは、ヒナ達がまだシゲルが外に出てからしばらく経った時の事。

 

 

 

 

『ガゥゥ…?』

『ピチュゥ…?』

「ん?どうしたのリザードにピチュー?」

 

 

 

リザードとピチューがたまごたちを撫でたり温めたりするのを止めてある場所を見つめていた。その様子を見たヒナも一緒になって見つめる。

 

 

 

 

そこにいたのは一体のユンゲラーだった。

 

 

 

「ユンゲラー?…もしかしてこの建物にいるポケモン…かな?」

『ガゥゥ?』

『ピチュゥ…ピッチュゥ!』

『ガゥゥ!』

「ピチュー、走ったら駄目だよ!」

『ピチュ…ピィッチュゥ…』

『ガゥゥ』

 

 

建物にいるポケモンと言うことはもしかしたら保護されたポケモンかもしれないとヒナたちは考えた。だがピチューが走ってからユンゲラーに突撃しようとしたのをリザードが引き留める。そしてヒナがピチューにいきなり走ったら駄目だと言うことを注意し、ユンゲラーがいるであろう場所を見た。

 

 

だが、そこには何もいない…いや、目の前にユンゲラーが立っていた。

 

 

 

『ユゥゥウン―――――――』

 

 

 

 

目の前が光りだし、何かが動くような違和感が起きる。とっさに近くにいたリザードとピチューを抱きしめようとしたのだが、気づくのが遅すぎた。

 

 

 

――――――――気がつけば、ヒナは誰もいない部屋にいた。

 

 

 

 

「ここは…?」

 

 

 

周りを見ても何もない。いや、唯一あるとすれば小さな明かりぐらいだろう。それ以外だと窓も、家具も…ポケモンたちもない部屋…ヒナにとって見覚えのない部屋に一人立っていた。

あのたまごがたくさんあった部屋から一瞬でこの灰色の壁紙に覆われた部屋に来たことを考え、ユンゲラーのあの光りはテレポートか何かの技だろうとヒナは判断する。

 

 

 

 

 

 

「っ…リザード、ピチュー!?」

 

 

 

あの時に一緒にいたはずのリザードとピチューがいないことにヒナは慌てる。部屋から出られそうな扉から脱出しようと必死に叩き、あるいは身体ごとぶつかってみたが一向に開く気配はない。

このままではいけないと、ヒナは何度も何度も扉を叩いた。

 

 

叩いて叩いて、そしてようやく開いた…と思ったら扉の先にある少女が立っていた。

 

 

少女の姿は艶やかそうな黒髪を腰まで伸ばし、そして真っ白なワンピースを着ていた。顔立ちがまるで10歳まで成長したヒナ自身のようだとヒナと関わりのある人間がここにいたならばそう感じてしまうだろうと思えるぐらい似ていた。まるで姉妹のような姿をしたヒナと少女は向き合う。

 

 

少女が扉を開いて部屋の中に入ってきたために、ヒナは警戒し後ろに一歩下がる。

そして少女はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

 

「初めましてと言うべきかしら?」

 

 

 

 

「っあなたは誰!?…リザードとピチューは何処!!?」

 

 

 

 

「初対面なのに失礼ね…まあ仕方がないか」

 

 

 

少女は笑みを消し、無表情になりながら言う。その豹変にヒナは驚き、また一歩後ろへ下がった。だが一歩下がることによって少女も前へ進み―――――距離が縮まってしまった。

拳一つ分の距離で話し合うその光景は異様だと言えるだろう。ヒナは逃げようと動くが、それを少女が阻むため行動に移せない。少女の後ろに開いている扉があって、そこから逃げられるというのに、少女のせいで逃げられないでいた。

せめてヒナの身長がもう少し大きければ…せめてヒナの年齢が少女と同じだったならば、何かが変わっていたかもしれない。だからこそ、現状を変えることは難しかった。

 

 

 

 

「さあ、楽しみましょう?オリジナル…いいえ、ニセモノ」

「オリジナル…ニセモノって…っ」

 

 

 

「あなたには関係のないことよ」

 

 

 

ヒナが無意識に口に出して言った疑問を遮るかのように少女がヒナの頬を強く叩く。叩かれた衝撃によってヒナは倒れ、赤く染まった頬を手で押さえる。

 

 

その姿を見た少女は機嫌が良くなったのか…ヒナによく似た見た目と表情が、また笑顔に変わる。

 

 

 

 

 

 

「私…私ね、あなたでいーっぱい遊びたいって思ってたの!人間ってどこまでやったら壊れないのか、あなたで試したいって生まれた時からずっとずっとずっとずーっとそう考えてた!たとえば…ポケモンの技って人間にどこまで通用すると思う?」

 

「何をっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部終わったら、リザードたちに会わせてあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は、ヒナは何も覚えていない。ただただリザードとピチューのことを考えていたということだけだ。ヒナは覚えてはいないが、あの部屋から逃げてリザードたちを見つけ出そうとしたこともあった。だが、それは全て少女によってその意識を叩き潰された。薄暗かった灰色の部屋が赤く赤く染まっていく。行動を切り捨てられた、反抗や抵抗の意識を潰された。

 

――――そして時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

突然起きたこの日々に、ヒナはリザードたちのことを思って生きていた。立てなくなったとしても、動けなくなったとしても必死に生きる希望を捨てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいこれで終了!」

「ぁ…」

 

 

 

 

―――――――気がつけば、少女は笑顔でヒナに向かって言う。

 

まるで昔からの親友のように接する少女に恐怖と負の感情を抱きながらもヒナは必死に腕に力を入れて動こうとした。これでようやくリザードたちに会えるのだと…終わったのだとそう信じていた。そう信じることしかできなくなっていた。

 

 

 

でもヒナが懸命に立ち上がろうとするのを見て不機嫌になった少女がすぐに蹴り上げる。その衝撃で宙に浮きあがったヒナはすぐに地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

「もう焦らないで少しは待ってくれてもいいでしょう!リザード達なら扉の向こうにいるんだから。ほら、会わせてあげるわ」

「っ……」

 

 

 

少女はここに来てから乱雑に切り刻まれたヒナの髪の毛を強く握り、顔を上げさせる。そして近くにいたポケモンに扉を開かせた。

 

 

 

 

「リザー…ド……ピ…チュ…」

 

 

 

ヒナは目を見開いてその姿を見る。ようやく会えた家族の姿だと言うのに…その姿は変わり果て、【あの】首輪をつけたリザードとピチューが静かに立っている光景だった。

 

 

予想はできたはずだった。髪の毛を強く掴む少女が普通に会わせてくれるだなんてないだろうと冷静に考えたらできるはずだった。だが少女はヒナのその思考をすべて叩き潰していた。少女はただ、ヒナに向かって言ったリザードたちに会わせるという言葉を信じて懸命に生きようとする哀れなヒナを嘲笑っていたいだけなのだ。

 

 

 

 

 

ヒナの腕を掴み、部屋の奥にある壁へと叩きつける。その衝撃でヒナは一瞬息を忘れてしまったがすぐに咳き込みながらもリザードたちを見た。

 

 

 

 

 

少女は笑って、リザードたちの近くへ行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!

 

 

 

 

これで最後よニセモノ!!全部全部ぜーんぶアンタが大切な仲間の手によって終わらせてあげるわ!!ほら行きなさいリザード…かえんほうしゃ!!」

 

 

 

『……………』

 

 

 

 

 

 

「リザー…ド…」

 

 

 

 

 

 

 

ヒナの目の前が、赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃え尽きて終わらせる…赤く染まるニセモノにはピッタリでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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