マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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必要なのは一体何?






第二百四十九話~妹は夢を思う~

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナちゃんをジョウト地方やここに連れてきたのは…トレーナーにもいろんな人たちがいるということを知ってほしかったからなんだ。ポケモンを物同然に捨てる奴らもいるということをね…」

「…イッシュ地方に連れて行ってくれた時も…ポケモンに対してとても酷いことをするトレーナーを見ました。でも、それは少人数だって思ってた。お兄ちゃんが何度もそんな人たちと会って…それで戦ってたから気づかなかった。…シゲルさんが連れてきてくれなかったらお兄ちゃんのこともトレーナーの現状についてもちゃんと知ることができなかったかもしれないですし…気づくことができなかったかもしれません…ありがとうございます」

『ガゥウ!』

『ピチュゥ!』

 

「礼を言うようなことはしてないよ。ただヒナちゃんたちには知ってほしかっただけなんだ。ヒナちゃんがトレーナーになって旅をすれば分かってしまう事実をね…」

 

 

 

 

ヒナ達はたまごが多く置かれている場所で話していた。

 

そこはある山奥にあるポケモンのための大きな建物だった。捨てられたポケモンたちやたまごたちがそのまま野生に戻るための補助をするという場所…現在はシゲルの案内によってたまごの広場へとやってきていたのだが、他の部屋ではいろんな人たちがポケモンたちを助けるために動いていた。だが、今ここにいるのはシゲルとヒナ…そしてリザードたちとたまごたちだけだ。

シゲルがヒナたちを連れてきたのは理由があった。ヒナたちにちゃんと今のトレーナーの現状を教えてやりたいと思っていたのだ。兄であるサトシはまだヒナに何も言わなくてもいいといったその真実を…。ポケモントレーナーは全てがポケモンを大事にしているわけではないということを…。

 

 

「ヒナちゃん。トレーナーとポケモンはどっちが有利になると思う?」

「…えっと…それは、対等ですよね?」

『ガゥゥ!』

『ピチュゥ!』

 

 

「ヒナちゃん達ならそう言うと思っていたよ…でも違うんだ。周りはそうとは言わない」

 

 

シゲルは今のポケモントレーナーの現状についてヒナたちに教えた。ヒナたちは真剣にシゲルが話す内容を聞く。

 

トレーナーとポケモンはボールに捕まった瞬間から絆が生まれると一般的にはそう言われている。ポケモンがボールに入れられ、捕まった瞬間からそのトレーナーと信頼関係を結んでいくきっかけとなる。そしてトレーナーはその捕まえたポケモンと多く関わる必要があり、そこからより強固な絆となって結ばれていくのがトレーナーとポケモンの常識と言えるであろう。

―――――でもそんな一般的な方法を、トレーナーは勘違いをしてしまう時があるのだ。ボールに入れられ、捕まった瞬間から自分の【もの】だという認識をして…使い勝手の良いポケモン…いや、物だと勘違いしてしまう。

ポケモンはトレーナーと同じ生き物だというのに、勘違いして行動するトレーナー達は捕まえたポケモンを指示を聞くだけの道具として扱い、より強い【もの】を求めて利用だけしてからすぐに捨ててしまうという行動を何の感情もなくやってしまう。そんなトレーナーをサトシは嫌っていた。…もちろんシゲルもだ。

サトシはポケモントレーナーとなって旅に出た。そこで関わってきた人間の中にはポケモンを道具として扱う奴らがいることを知り、そんな奴等に対して怒りを覚え、苛立っていた。このままの現状ではいけないということもサトシは分かっていたのだろう…。でも一般的なトレーナーがいろんな地方にいるトレーナーにその勘違いした部分を一気に払拭させるのは難しい。サトシなら時間をかけて行えばできるかもしれないが…それでもやれることは少ない…それに時間がかかればかかるほどポケモンの被害が増えていく。

だからこそサトシは、ポケモンマスターとなってトレーナー達の意識を変えてやろうと夢を持ったのだ。ポケモントレーナーとなればその権力の強さから意識改革を行うことも夢ではないと…そう信じて今もなお行動している。

シゲルはサトシからその事実を聞いて、まず最初にヒナに言わなくてもいいのかと問いかけたことがあったが、サトシは首を横に振って何も言わなかった。ヒナにはまだ旅に出る年齢ではないのだから言う必要はないと…まだ何も言わなくていいとそうシゲルに答えていた。でもシゲルはそれでいいのかと疑問に思ったのだ。サトシは幼少期にかなり問題があって人と関わろうとしない幼児だったが、今では妹が生まれ…ヒナのことをちゃんと可愛がっている。可愛がっている妹だからこそ、トレーナーとポケモンの問題について妹には話すつもりはなかったのだろう。そしてそれはイッシュ地方の旅でも発揮され、ヒナにトレーナーとポケモンの意識について知るようなことはなかった。イッシュ地方の旅で何かあれば行動し…その結果ヒナにとって疑問に思える部分を全部、兄の暴走のせいだという考えに塗り替えてしまったのだ。トレーナーが悪いことをしていたのならサトシがその行動を叩き潰し、そして意識を変えていく…それをヒナは何度も見ていた。Nとの関わりもあったが…それでもまだ、ポケモンを酷く扱うトレーナーが少人数だと思い込んでいたのだ…。ヒナが現状を知らないように…いや、分からないように…サトシが全部動いたからこその結果だった。

イッシュ地方を旅させなければいいのではないかとシゲルは聞いたことがあったが…サトシはイッシュ地方の旅をさせてヒナ自身の力になってくれればいいと思ってもいた…つまり、サトシがヒナのことを考え行動した結果があのイッシュ地方の旅なのだ。

シゲルはサトシがヒナに現状を教えない理由を分かっていた。…関わらせてしまえば、ヒナは何か自分にもできることはないかと探すはずだからだ。マサラタウンを家出した時、リザードとピチューを蔑み…そしてジム戦に挑むきっかけとなった出来事から…その行動力はサトシと同等なのだと分かっているから…。

 

でも、それでもヒナに何も言わないということがシゲルにはできなかった。ポケモンとの絆を大切にしているヒナだからこそ、サトシのように妹同然に見ているシゲルだからこそ、すべてのトレーナーが優しいのだという誤解を与えたくなかったのだ。いろんな地方で旅をしていて分かるかもしれない問題を…色違いのリザードを持つヒナだからこそ、今知ってしまえばある程度は回避できるかもしれないとそう望んでのことだった。

ヒナから見れば、イッシュ地方を旅した時に何度も目にしていたし分かっているはずのことだった…。ヒナはポカブを捨てたあのスワマとの一件もあって、すべてのトレーナーは優しいなどとは思ってはいない。それでもシゲルから話を聞かなければトレーナーとポケモンの現状を…サトシの夢を知ることはできなかっただろう…。

 

ヒナ達はシゲルから話を聞いて頷いた。

 

 

「あの…シゲルさん…このたまごたちはどうなるんですか?」

『ガゥゥ…』

『ピチュゥ…』

 

 

「この子たちは生まれた後、ある程度成長するまでは育てるよ。その後自然に戻れるようにするんだ」

「たまごたちは…幸せになれるでしょうか…?」

『ガゥゥ…』

『ピチュゥ…』

「…大丈夫だよヒナちゃん。必ず幸せになれるようにする。そう考えて作られた施設なんだから」

 

 

「たまごたちが幸せになれる。いや幸せになる…そう言ってもらえて良かったです…!」

『ガゥゥ!』

『ピチュゥ!』

 

 

ヒナ達が良かったと優しい笑みでたまごたちを撫でながら言う。

たまごは撫でられたからなのか…それとも優しい人がいると感じたのか、時々ゆらゆらと揺れていた。それを見てピチューが嬉しそうになってたまごに抱きつき、リザードに乱暴に抱きついたら駄目だと叱られ、ヒナにたまごも嬉しいのが分かるんだねと言われていた。ピチューはリザードの言う言葉に頷き、慎重にたまごを抱きしめ、ヒナに向かって笑みを浮かべる。そんなピチューの様子にリザードとヒナがお互いに顔を見合わせて苦笑しながらも、ピチューの抱きしめているたまごを撫でた。

シゲルはそんなヒナたちの様子に微笑んだ。ヒナたちはトレーナーになる前に出会い、一緒にいることを望んだとても珍しい関係なのだから…。

リザードがたまごだった頃に生まれ…そしてピチューはイッシュ地方を旅していた頃に出会い、一緒に来ることを望んだ。ボールで捕まえるという通常とは違った彼女たちの関係を…シゲルは全てのトレーナーのあるべき目標として見ていた。サトシとピカチュウたちの関係もある意味珍しいと言えるだろうが…サトシ達の関係はバトル好きな性格と似た者同士が集まるという言葉で納得できる部分があったために微妙だろうと感じてはいた。…まあそれでも捨てられたポケモンたちや弱いと蔑まれたポケモンたちもサトシの手持ちにいるということや、そんなポケモンたちが強くなりたいと望むままに力を貸したことでサトシのことを知る人間にとってトレーナー達の目標となってはいるのだが…。

シゲルは研究に没頭していて…サトシに協力できないことも多々あるけれど、それでもトレーナーの考えがヒナたちのようになればいいと…そう望んでいたのだ。

 

 

「シゲルさん。たまごたち以外にも…ポケモンに会えますか?私たちは、すべてを見ていきたいって思うんです…トレーナーの問題も…ポケモンたちの気持ちもすべて」

『ガゥゥ!』

『ピチュゥ!』

 

 

「ああ…そうだね。一緒に見に行こうか」

 

 

 

ヒナ達はこの建物に集められたポケモンたちのすべてを知りたいと望んでいた。捨てられたポケモンや人間に傷ついたポケモンのことをすべて…だからこそシゲルは頷き、笑みを浮かべてヒナの望む通りにしようと思ったのだ。

 

 

 

(ああ、サトシには後で怒られるだろうけど…それでもいいか)

 

 

シゲルはこの建物での真実をヒナ達に教えるということをサトシに言っていない。そのことを考えて…少しだけ目を細めてサトシに怒られるであろうと予測した。

でも、サトシに言ってしまえばヒナには絶対に何も言うなと忠告するかもしれないからこそ、シゲルは何も言わずに行動したのだ。

 

 

自分にはできないことをやってしまう兄妹のことを信じて…。

 

 

 

 

 

 

 




To be continued…?






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