たまごには何かわけがある。
「あれやばいよ絶対!!はやくシゲルさんに連絡しないと…!!」
『ガァァアアアウ!!!!』
『ピィッチュゥゥウ!!!!』
「いやそれよりも追いかけるのが良いって!!あれじゃあたまごが危ない!!」
「おいもたもたするぐらいなら先に行くぞ…!」
「ちょっと待って…ああもう!!」
こんにちは妹のヒナです。突然ですが研究所を襲撃した黒服の覆面集団の黒服たちにたまごを奪われてしまい現在追いかけている途中です。まあそれでももう黒服集団の姿は見えなくなってしまっているのですが…。
一体何があったのか…それは私たちもよく分からない。たまごが元気にゆらゆらと揺れていて、そろそろたまごからポケモンが生まれてくるかもと笑顔で見つめていたらいきなり大きな地響きが研究所内で起き、そして研究員の悲鳴が聞こえてきたのだった。その大きな音に私たちはすぐたまごを守りながらも扉の近くに向かって警戒した。扉の向こうには何かがいるらしいけれど、今開けたら絶対に部屋に入ってくるだろうと考えて開けずにリザードとピチューにすぐに攻撃ができるように指示した。音から判断して…どうやら扉の向こうには人間たちが襲撃したようだった。たまごを守るために私たちは攻撃体勢を整える。
――――そして私たちのいる部屋に扉を破壊してやって来た集団に向かってリザードがかえんほうしゃを放ち、ピチューが10まんボルトで追撃する。でもそれらは黒服集団が出したユンゲラーによって躱され、私たちはサイコキネシスで宙へ浮かされ、もがいている間にたまごを持っていかれてしまった。彼らが逃げる際にサイコキネシスの効果がなくなり、地面に落とされたからこそ、今奴らを追うことができたのだ。
でもこのまま私たちが追っていてもちゃんと黒服集団に追いつくのかどうかさえ分からない。それにこのまま走っていて方向は大丈夫なのかさえも分からない。
…しかも研究所を襲撃されたために先程追う際に建物内にいた研究員たちを見たが彼らはほとんどが怪我をして動けないか気絶しているという状況だった。もちろん怪我をしている研究員はなんとかジュンサーさんに連絡をとろうとして電話をしていたのだが…あの散乱した研究所の中では森に行ってしまったシゲルさんたちにすぐ連絡することはできないだろう。連絡できたとしても、すべてが手遅れになってしまう可能性が高い。
…たまごを助けるためにも急いで覆面集団の黒服たちを追った方が良いのは分かる。けれどそれで私たちがたまごを助けることができるかどうかは分からない。というよりも彼らはポケモンを使って攻撃してくるだろうし、私たちはリザードとピチューでどうにかしなければならないと…その時は考えていた。だからこそ心配だったのだ…ヒビキとシルバーはポケモンを持っていないし、攻撃でさえまともにできない。怪我をしてしまったらどうするつもりかと…でもこのままでは黒服集団に逃げられてしまい、たまごが危ないと…いろんな意味で不安だった…。
シルバーが舌打ちをしてポケットから笛を取り出してから吹くまでは。
「うわっシルバーが笛吹いたらポッポがやって来たんだけどどうしてなの!!?」
『ガゥゥ!?』
『ピチュゥ!!!』
「奴らに逃げられてしまっては本末転倒だからな。ポッポたちに協力して奴らを見つけてきてもらう」
「いや待って!その笛は何なの!!?」
『ガゥゥ…!?』
『ピチュゥ?』
「父上から頂いた普通の笛だ。ポッポたちと仲良くなったのもこの笛のおかげだったりするが…」
「それ絶対ただの笛じゃないよね!!?というか父上って何者!!?」
『ガゥゥ!?』
『ピチュゥ…?』
「ああそうだ。こいつもある意味チートだった…」
ヒビキがため息をついてシルバーを見る。
シルバーはただマイペースに…笛に呼ばれて集まってきたポッポたちに覆面黒服でたまごを持ち出した奴らを追ってほしいと言った。その言葉を聞いたポッポたちは分かったと頷いて空を飛びながら私たちから離れる。おそらく覆面集団を見つけに行ってくれたのだろう…というか野生だというのにちゃんとシルバーの頼みを聞いているから、人に懐いているのは分かるが…シルバーの行った方法がまるでポケモンレンジャーのキャプチャーの力によって野生のポケモンなのに指示を聞き、ちゃんと指示を聞くかのようだった。だからシルバーが…いや、笛諸々がとてもすごいと思えた。
普通の野生だったらそんなこと有り得ないと言うのに……。まあヒビキが仕方ないというかのようにため息をついた時点で諦めた方が良いのだろう…。兄が暴走するかのように、シルバーもやらかすときはやらかすのだと認識して…とりあえず走り続けた。
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ポッポたちがようやく見つけた覆面集団はどうやらアジトのような建物にいるらしい。これならシゲルさんに連絡してすぐになんとかしてもらえるかもしれないと思ったのだけれども…ヒビキとシルバーがそのアジトから逃げられては困るとばかりに先を行こうとした。
止めようとはしたのだがヒビキ達は止まらず、リザードとピチューもたまごをちゃんと取り返しに行く気満々で…ポッポたちは役目を果たしたとばかりにどこかへ行ってしまったというのにこのままでは突撃したとしてもすぐに倒される可能性の方が高く、行っては駄目だと考えた。たまごのことは心配だけど…それでも黒服集団に勝てるかどうかは分からない。そしてヒビキ達が無傷で済むかどうかも分からない…。だから止めたかったのだが…何を言っても聞かず、彼らは前に進もうとしていた。
ヒビキ達が何をしても止まらないからこそ、私は仕方がないと諦めて…シゲルさんたちの目印になるのか分からないけれども、ピチューに頼んで10まんボルトで空へ向かって放ってもらう。これはフシギダネがよくするソーラービームの応用だ。
マサラタウンに帰ってきていて、しばらくオーキド研究所にいたシゲルさんならこの空へ放たれる10まんボルトの意味が分かるだろうと思う。それにこの森ならもしかしたら野生のピチューもいるかもしれないという可能性がある…森の中なのに、ほのおタイプのかえんほうしゃを空に放って覆面集団が見てしまい疑問を持たれるよりは大丈夫かと思ったためにピチューの10まんボルトを指示したのだった。
ヒビキとシルバーはそんな私たちを気にせず、どうやって中に入ろうかと迷っているらしいが…本当にこのままで平気なのかなと不安になってきた。
アジトを見ると黒服集団の2人が扉の前で立って見張っている。それを見てヒビキがバットのような大きな木の棒を手に持ち、シルバーは拳ぐらいの大きな石を手に持って見張っている彼らを睨む。私はため息をついてからリザードとピチューを見た。リザードとピチューはヒビキ達と同じくやる気十分のようだ。
…そして、ヒビキは戦闘準備万端という感じで頷き、口を開いた。
「…よしやるぞ」
「ああ…」
「ああもう…リザード、ピチュー…指示出すから協力してね」
『ガゥゥ…!』
『ピチュゥ…!』
「っ!?何だお前等…!!?」
「部屋にいたガキ共か!?大人しくしてもらうぜッ!?」
「そうはいくかァァア!!!」
「ふんッ!!!」
「ぐはぁ!」
「なっ卑怯だぞポケモン使わないで殴ってくるだなんて…!!」
「じゃあ期待にお応えして…ピチュー軽くアイアンテール!」
『ピィッチュ!』
『ガウゥ…!』
「ごふぁあ!!」
見張っていた2人に向かって私たちは走り出す。彼らは研究所を襲撃していたために私たちの姿も見ていたらしく、すぐに攻撃しようとボールを取り出してきた。
でもそれを見てヒビキが木の棒で殴ったりシルバーが石を顔面に向かって投げてボールを投げないようにしたりと行動してくれたおかげでバトルにならずに済んだ。そのおかげで黒服集団の1人はヒビキとシルバーに攻撃されたせいで昏倒し、地面に倒れてしまう。それを見てもう1人が非難するかのように叫んだのだが、ポケモンを使うという言葉を聞いてピチューとリザードがやる気を出したために攻撃を指示した。
ピチューに死なないように軽くアイアンテールをしてもらったのだが、何を思ったかリザードも一緒になってアイアンテールもどきをしたためにその攻撃した覆面を少し焦がしながらも昏倒させることに成功したのだった。…本当に大丈夫なのかな。
――――その後すぐに扉を開けようと奮闘するが、なかなか開かない。鍵がかかっているのかとヒビキが悔しそうに言い、私がリザードのかえんほうしゃで燃やそうかと考えるのだが、シルバーが消しゴムのような小さなものを取り出しその扉に設置したことであっけなく開いた……というより吹っ飛んだ。
「ええええええええ!!!?」
『ガゥゥ!!?』
『ピチュゥ!!?』
「ちょっおいこれ爆弾かよ!!!」
「いや違う。簡易お助けマシーンだ。どのような事態が起きてもこの機械一つで助けることができる。崖から落ちても海でおぼれていてもこれ1つあれば簡単だ。ちなみにこれも父上が開発した」
「すげえな父上!!」
「いや本当に何者なのシルバーの父上って…!!」
『ガゥゥ…!』
『ピチュゥ…!!』
爆発したことによって扉は吹っ飛び、中に入ることができた。でもこの衝撃と物凄い音で奴らに気づかれたのではないかという不安もあるために…早くたまごを見つけなければと行動を開始する。
でもその間にも、シルバーの父上というのはどういう人なんだろうと私たちは疑問に思ったのだった。ヒビキは苦笑していたためにもしかしたらシルバーのことをよく知っているのかもしれないと考え、この騒動が終わったら後でちゃんと聞いてみようということも考えた。…まあその前にたまごを救出しないとね。
妹の心境。
いろいろと不安が多いけど…なんとかなる…はず。ヒビキ達が危なくなったらすぐに助けよう…。