少しだけ【誰か】に似ている…。
「…そういえばヒナお前誰かを待ってるって言ってたけど…何か用があってこっちに来たんだろ?何かあったのか?」
「よく分からないうちにジョウト地方に連れてこられたから知らない」
『…ガゥゥ』
『ピチュゥ?』
『ガゥゥ』
『ピッチュ』
「ふん…詳しい話は知らないがジョウト地方に来るのならちゃんと目的を知ってから行動した方がいい」
「うんそれ私も思った。…けどいつの間にかここにいたんだよね…ジョウト地方に入ってから理由を聞いたけど……」
「何があった!!?」
こんにちは妹のヒナです。学校のメリープ部屋でもふもふのメリープ達と戯れながらも私たちは話し合ってます。
リザードとピチューは私たちの話を聞いていて…もしかしたら邪魔になるかもしれないと考えたらしく話をしている間に私たちから少しだけ離れて、近くにいる一回り大きなメリープに近づいて抱きつこうとしている。
それを眺めながらも私はここに来た時のことを思い出してヒビキ達に説明した。説明していた時は苦笑しただけだったのだが…いつの間にか真顔になり遠い目で話していたみたいだ。ヒビキは驚いたように私に何があったのか聞こうとして来ていて、シルバーは行動する前に確認ぐらいちゃんとしておけと心配そうな雰囲気を漂わせながらも注意された。…うんシルバーの言うことは私も凄く頷ける。
―――というかシゲルさん何で私を連れてきたんだろう…私がジョウト地方にわざわざ行く必要でもあるのかと少し考えたけどやはり分からない。ヒビキ達に会わせるために連れてきたのだとしたらちゃんと言うだろうし……そう思っているとシルバーが何か思い出したかのように話しかけてきた。
「……もしかして新種のポケモンのたまごを見に来たのか?」
「あ、それシゲルさん言ってた。でも見に来るだけで何でわざわざ私も連れてくるのかな…」
「えっ!?何だよそれ!!シゲルさんに連れてこられたのかよ羨ましいな畜生!というかたまご俺も見たいしシゲルさんに会いたい!!シルバーもサトシさんのライバルのシゲルさんに会いに行きたいだろ!!!あんなにカント―地方でのサトシさんのバトル経歴調べてたんだからさ!!!」
「…ふん、勘違いするな…たまごに興味があるだけだ」
「ははは…」
どうやらヒビキとシルバーはシゲルさんに会いに行きたいようだった。あと新種かもしれないというポケモンのたまごも見たいと言ってテンションが上がっているらしい。
…とりあえず落ち着いてと言いたい。まあ私が話しちゃったからこんなにも興奮しているということは分かっているんだけれども…それでも他の生徒たちも羨ましそうにこっちを見ているし、私達に向かって話しかけようかタイミングを計っている子もいる。そして色違いであるリザードを見て近づこうとしている子も……。だからこそ少しだけ落ち着いてほしいかなと思えた。
まあ、リザードについては色違いだからという理由で生徒が近づくのに気づいて警戒するために大丈夫だと安心しているため問題はない。それに何かあれば私自身すぐに行動しようと思っているし……。
とりあえず一番問題なのはたまごやシゲルさんに会いに行きたいという考えを持つ生徒たちだ。私としてはシゲルさんに邪魔にならない程度に見に行く予定だったし、そんなに大勢で研究所を訪れてたまごを見るとシゲルさんたちに迷惑だと考えているためにできればそのまま話しかけないでほしいと願う。……まあシルバーが周りを見て近づいてきた子たちを威嚇しているように鋭い目で睨むためにその不安は大丈夫かなと思えた。睨まれた子は怖がって近づいていないのだから…。
でもその様子を見ているとシルバーはこの学校で馴染めているのかなと心配になる。ヒビキが楽しそうにシルバーに話しかけている様子から少しだけ大丈夫だとは思うが、先程の出来事でヒビキ以外にもちゃんと交流はできているのだろうかと思ってしまうのだ。
ああ…でもまあなんとなく…シルバーなら大丈夫かなという、ついさっき初めて会ったというのに第一印象のせいで何だか確証もない信頼感があった。一人でいたとしてもあまり興味なさそうに過ごしそうな気もするし…これはこれで駄目だとは思うけど。それでもいろいろと駄目だった場合はヒビキがなんとかするだろうという考えもあるし、大丈夫か。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――その後、このままメリープ部屋にいてもふもふしている意味もないとシルバーが立ち上がってから私たちに向かって早くいくぞと言ってきたために私たちは顔を見合わせてから立ち上がってすぐに追いかける。もちろんメリープと戯れていたリザードたちも呼んでから行動した。リザードたちは驚きながらも走って私たちを追いかけてから、私の後ろを歩く。
「ねえどこに行くつもりなの?」
『ガゥゥ?』
『ピチュゥ?』
「決まってるだろう。ポケモン研究所だ」
「はぁ!?お前…学校を無断で抜け出すつもりかよ!!」
「え、いやシゲルさんが…たぶんしばらく時間がかかると思うけど…それでも呼びに来るみたいだから大丈夫だよ?…」
「何時になるのか分からないならこちらから行けばいい。それに話し合ってる間に見れば迷惑にはならないだろう」
「だから何でそうなるの!!?」
『ガゥゥ!!?』
『ピチュゥ!!?』
「悪いこいつ考えたらすぐ行動するやつだったわ」
「それ物凄く悪い予感しかしないよ…」
「おう俺もだ…」
『ガゥゥ…』
『ピッチュ…』
シルバーがそのまま外に出ようとして歩いていくために私たちは微妙に大丈夫なのかと心配しながらも歩いていく。
一度、ヒビキに向かってシルバーを止められるか聞いたのだけれども、無理だと即答されたために私達は苦笑してしまった。おそらく学校でも何かシルバーがやらかしたことがあるみたいだとヒビキの反応から察したからだ。
ポケモンについて大事にしている所もあるみたいだし、傷つけるというような行動はしてないと今までの言動から感じられたけれど…それでももう少し人のことを考えてから行動してほしいと思ってしまった。まあ一度考えたらすぐに行動する一直線な部分はトレーナーによくある行動原理だし…仕方ないかと諦めた。でも研究所に着く間に何とかしなければ……。
――――多分、シルバーは自由に毎日を過ごしているのだろう…皆を巻き込みながらだけれども…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うわぁやばい着いちゃったよ…」
『ガゥゥ…』
『ピチュゥ…』
「引き返そうぜ今すぐに!」
「何を言ってるんだ馬鹿かお前は」
「シルバーのほうが馬鹿だろ!!」
「はぁ…」
『ガゥ…』
『ピッチュ…』
シルバーを止めようとしていたというのに…すぐに着いてしまった研究所の入り口で私たちは立ち止まっていた。
来てしまったからには今すぐ戻るか研究所にいろいろと事情を話して入った方が良いとは思うけれども…シゲルさんに怒られる未来しか見えないために私が先に行動して研究所の扉を開けることはできない。もちろん引き返すという選択肢もあるにはあるが…それはシルバーのせいで無理だった。シルバーって本当に頑固だ。
そしてヒビキもおそらく私と同じだろうと思えた。…それにヒビキの場合は無茶をやったために母にトラウマになるレベルで怒られた例があるためにこういう行動は自分から先にやりたいとは思えないらしい。…というかもしかしてこの学校に行く理由の一つとしてマサラタウンで会うかもしれない母から離れるためにジョウト地方にやってきてしまったのかと考えてしまったけれど…まあ有り得ないだろうとすぐに思考を目の前の扉に移す。
…私たちがどうすればいいのか迷っているのを見てシルバーが待ちわびたという感じですぐに扉に近づいて開けようと…いや、ノックをしようとする。
それを見た私たちはシルバーを止めようと動いた。
…ちなみに、急に行動したシルバーにリザードとピチューが呆れながら見ていたりする。
「ちょっ!待ったシルバー!」
「おい待て!!もしかしたらシゲルさんや研究員の人たちが忙しく話し合ってるかもしれないだろ!!!ノックは駄目だノックは!!」
「何を言ってるんだ馬鹿が。勝手に扉を開けるのは無礼になるしそもそも鍵がついていて開けられるわけがない。それにこの研究所の扉はチャイムがない構造だ。だからノックをする必要があるだろう馬鹿が」
「馬鹿を二度言う理由も分かるし礼儀とかも分かるけど!そもそも私達待っていればシゲルさんが来る予定だったんだからね!!だから来る必要はなかったんだよ!!」
「そうだヒナの言うとおりだ!!だから戻ろう今すぐに!!」
「ここまで来たのなら戻るのも手間だ。行くぞ」
「わぁぁああ待って待ってぇ!!!リザードとピチューも止めて!!」
『ガ、ガゥゥ!!』
『ピィッチュゥ!!!』
「ほらシルバー止めろ!!」
「……何やってるんだいヒナちゃん…それに君たちも」
「うわ見つかっちゃった!!すいませんごめんなさいシゲルさん!!」
『ガゥゥ!!!?』
『ピィッチュゥ!!?』
「ほらシルバー土下座するぞ土下座!!ヒナのおばさんから教わった土下座見せてやるからお前もやれ!!!」
「こんにちはシゲルさん。今お時間よろしいでしょうか?」
「……え…ああ大丈夫だよ」
「無視かい!!!」
「あーもう!」
『……ガゥゥ』
『……ピィッチュ』
何処までもフリーダムなシルバーに私たちは翻弄されつつも、ツッコミを入れた。その様子にシゲルさんが苦笑しながら扉を開けて私たちに中に入るように言う。騒いでしまったことで研究所のみんなに物凄く迷惑をかけてしまったし邪魔になっただろうと居心地悪くなりながらも研究所内へ入って行った。
妹の心境。
とりあえずシルバーはお兄ちゃんに説教されればいいと思う…。