彼にとっては初対面。
妹にとっては……。
「あ、そうだ勉強よりも見せたいものがあるんだ!!だからちょっと来てくれ!!」
「え、いや何処に!!?」
『ガゥウ!?』
『ピチュゥ!?』
「行って見れば分かる!!」
こんにちは妹のヒナです。現在ジョウト地方の学校にやってきています。
シゲルさん達は研究所でたまごについていまだに話し合っているらしく、かなり時間がかかるのかなと思えた。
そんな時にヒビキからノートを自分の持っていたバックに入れてから私の手を掴んで走り出す。リザードとピチューが走り出した私たちに驚いてすぐに一緒に追いかけてきたのだけれども…一体何処に連れて行くんだろうと考えながらも転ばないように走り続けた。
―――――――そして見えてきたのはある部屋に敷き詰められた真っ白な毛布…ではなくメリープが大量発生している光景だった。
羽毛がたくさんあってもふもふで学校の生徒たちもメリープ達に戯れている。私たちは笑顔でメリープ達を見た。
「メリープ!しかもふわふわもふもふ!!」
『ガゥゥ!』
『ピィッチュ!!』
「へへ!…だろ?ここのメリープ野生よりもおっきく育てようとして今頑張ってるところなんだぜ!」
「うん凄い!イッシュ地方で見たメリープよりもふもふだよ!!」
『ガゥゥウ!!』
『ピチュピチュ!』
『メェェエエ!』
メリープの身体を覆う綿毛が前に見たメリープよりも大きくてしかもふわふわな感触に私たちは驚く。まるでマシュマロのように柔らかくてとてもふわふわだ。このまま寝てしまっても良いぐらい感触が気持ちよくて…メリープはそんな私たちの反応にどうだ凄いだろう?とでも言うかのように笑顔で触らせてくれた。
ヒビキは自分の事のように喜びながら部屋の遠くの方にいるメリープを大量に呼んで私たちに向かって突進させていた。突進されるだけでも通常だったら痛いと言うのに、メリープは前髪ができているかのように顔の方もふわふわ過ぎて全然痛くない。むしろもっと来てほしいと思ってしまった。リザードとピチューはメリープの群れに自ら突撃しており、そのふわふわな部分を堪能していた。
「ねえどうやってメリープをふわふわもふもふにしたの?」
「お?何だ知りたいのか?」
「うん知りたい」
「…へへ!ヒナがそこまで知りたいって言うんなら仕方ねーから教えてやるよ!!」
「はいはいこの哀れなマサラ人に教えてくださいな」
「それはな――――――」
「―――――メリープの食事にマトマのみを入れて他のきのみとブレンドしただけだ」
「………ん?誰?」
ここの学校のメリープは特殊らしいからどうやって育てたのか気になり、話を聞いてみることにした。ヒビキに質問すると、なにやら楽しそうに私に向かって笑顔で教えてやるよ!と言うため、私は少し苦笑しながらも聞こうとする。でも、その言葉にヒビキが笑顔で頷いてからメリープの育成方法について説明しようとしたのだが、ある少年の声でそれは遮られてしまった。
声がした方向を見ると私のリザードとピチューをよく観察している赤毛の少年がいて…こちらに向かって近づいてきた。
――――というか私たちに向かって近づいている赤毛の少年が以前見たことあるような気がしたんだけど…気のせいかな?
そう私が考えている間に、ヒビキが少しつまらなそうな表情で口を開く。
「何だよシルバー。せっかくヒナに教えるチャンスだったのに邪魔すんなよ」
「お前の場合感覚で説明するから分かりやすく言ったまでだ。それよりも…ヒナと言ったな。このピチューと色違いのリザードを育てたのはお前か?」
「え、うん…そうだけど…?」
「そうか…なら言っておく、素早さの能力が通常よりも上だと見たが攻撃力をもっと上げた方が良いんじゃないか?大体観察して分かったが特攻が上がりすぎているような気がする…あとお前にかなり懐いているように見えるがピチューは進化させるつもりはないのか?まあサトシさんのようにピカチュウを進化させないという例があるからピチューもそうだとは思うが…それでもピチューのためにちゃんとした育成方法を考えた方が良いだろう。素早くてもピチューの能力だと一般的には弱いと分類されるからな…あと――――」
「――――――――はいそこでストップ!!ヒナが混乱してるから止めろ!!!!」
「え、なに…何なの?私たち貶されたの?」
『ガゥウ…?』
『ピチュ…?』
「いや違う!!こいつこんなんだけど結構いい奴なんだ!!」
「誰が良い奴だこの帽子野郎が」
「誰が帽子野郎だこのツンデレ赤毛野郎が!!」
「おうふ…」
『ガゥゥ…』
『ピチュ…』
シルバーと言う少年は初対面だというのにリザードとピチューのことについて一気に話し始めてしまったことに私たちは驚いて反応できなくなってしまった。しかもシンジさんのように少し目つきが悪いのか…それとも話に夢中になっているのか話していくごとにだんだん目が鋭く…そして怖くなってきていると感じてしまい一歩後ろへ下がるがシルバーはそれよりも二歩前へ私に向かって進んでしまったために距離を詰められる。
リザードとピチューに興味をもってくれてるのは良いけどいつまで話しているんだろうと困惑した。
…そしてそんな私たちにヒビキが気づいてすぐに大声でシルバーから離してくれた。
リザードとピチューの育成方法が間違ってると言うような感じで話す言葉や弱いという言葉に少しだけ貶されているのかと困惑しながらも首を傾けてシルバーに向かって聞いてみた。でもシルバーが反応するよりも先にヒビキが違うと言って首を横に振った。そしてシルバーがそんなヒビキのフォローに嫌そうな表情で睨みながら悪口とは思えない言葉で文句を言い。その言葉にヒビキも言う。
何だか仲が良いんだか悪いんだか分からないヒビキ達の様子に私たちは戸惑いながらも話しかけた。
「えっと…シルバーだっけ?よろしくね…私はヒナ」
『ガゥゥ』
『ピチュ』
「ふん…シルバーだ。見たところこの学校の生徒じゃないらしいが…転入者か?」
「いや違うぜ!ヒナはカント―地方からこっちに用事があって来たんだ!」
「…って何でヒビキが私のこと説明するのよ」
『ガゥゥ…』
『ピチュゥ…』
「いいだろ少しぐらい」
「ん…カント―地方…ヒナ?……ああもしかしてサトシさんの言っていた妹とはお前の事か?」
「あれ?お兄ちゃんを知ってる…というか会ったことがあるの?」
「前に一度だけ会ったことがある……だが、あのサトシさんの妹と言うならば余計にリザードとピチューの育てかたを考えろ!!確かに一目で見ればわかるぐらいリザードとピチューの一般的な能力値は高いが…それでも育成が間違ってトレーナーになった時に妹(笑)と言われたらどうするつもりだ!!」
「いや…え?」
「リザードとピチューの食事にはちゃんときのみをブレンドして入れてるか!?ちゃんとバトルの技を特訓してるか!?サトシさんの妹というからにはそれぐらいはしているんだろうな!!」
「…えっとまあ一応やってるけど」
「ならば[ポケモン全育成応用編]という本は読んだか!?基礎だけだとサトシさんの妹だと皆に認められないぞ!!!」
「いや認めるって…」
「特攻を上げるだけじゃなくそれ以外もちゃんとやれ!あと技の威力も上げろ!!やるべきことをやってこそサトシさんの妹といえるだろうが!!!」
「……うんごめんヒビキ。ちょっとシルバーの言ってることよく分かんない」
「悪い。でもこいつツンデレだから気にすんな…ヒナの事心配して言ってるんだよ」
「誰がツンデレだ誰が!!」
「そこを聞き取るなよ!」
とりあえずシルバーが心配して私たちのことを言っているのは分かった。おそらく兄が有名になりすぎているからこそ、家族である私がいつか一般的なトレーナーとして旅に出るということに心配なのだろう…。兄と血の通った家族だからと比較されやすいために、兄が優秀であればあるほど一般的なマサラ人である私のことを残念だと思われる。まあ今まではそうではなかったけれども、ヒビキとの戦いで少しだけ分かった気がした。これから数年後にトレーナーになった頃…そして兄の夢が叶った時…私はおそらくポケモンマスターの妹として期待されてしまうだろう。そしてその時に才能がない私は皆にどう見られ…そしてどう言われるのかをシルバーは初対面だと言うのにすぐに分かってしまったようだった。
リザードとピチューを兄のポケモンたちのようにもっと強く…そしてあのポケモンマスターの妹だと胸を張って言えるようになれとそういう感じで心配しているのだ。まあ少し言い方はマサラタウンで短い間だけ一緒にいたシンジさん+○○タイムの時のデントのようだと思ってしまった。
まあでも、初めて私のリザードとピチューを見たというのに能力値等を言い当てたことが凄いと思えるし、シルバーはちゃんと私たちを見てリザードの色違いだのサトシの妹だのという意味で騒がず……そして心配しながらも私たちのことを考えて話してくれたみたいだから嬉しいと思えた。
――――ちなみにリザードとピチューはシルバーが暴走し始めた頃、早々に離脱してメリープのもふもふを堪能していた…ちょっとうらやましいと思えたけど仕方ないか。
妹の心境。
やっぱりシルバーってどっかで見たような…いや、気のせいかな?