突然すぎて拒否できない。
「…あの、マサラタウンに帰りたいんですけど」
『ガゥゥ』
『ピッチュ』
「駄目だよ。ようやくシンジ君やジュン君がシンオウ地方へ帰ったし、せっかくなんだから少しぐらい僕と勉強でもしようか。いつもはシンジ君と勉強しているんだろう?僕もヒナちゃんに教えたいことがたくさんあるからさ」
「いや勉強ってマサラタウンでもできますよね!!?何で私達ジョウト地方に連れてかれてるんでしょうか!!?」
『ガゥゥ!!』
『ピチュゥ!!』
「…ははは!」
「え、笑って誤魔化した…!?」
『ガゥゥ…!?』
『ピチュ…!?』
こんにちは妹のヒナです。現在私たちはジョウト地方のアサギシティからワカバタウンのウツギポケモン研究所へ向かっている途中です。
シンジさんとジュンさんはシンオウ地方のバトルフロンティアに呼ばれているとのことでマサラタウンにいつまでもいることができないと言って帰っていくことになった。私たちはマサラタウンで遊んでもらったり勉強で教えてもらったりした分のお礼をしようと考え、きのみで作ったお菓子をシンジさん達に渡し、マサラタウンから見送った。…ちなみにその時シンオウ地方で仲間になった兄のポケモンたちが私たちと一緒に少し泣きそうな表情で見送ったのは仕方ないことだと思う。
―――そしてその翌日、シゲルさんはジョウト地方に用があるとのことでシンジさん達と同じようにマサラタウンを出発することになった。その時にシゲルさんから私たちも港まで来てくれないかと言われ…首を傾けて疑問に思いつつもそれに了承し、シンジさん達に渡した同じようなお菓子を持って見送ろうと港まで行く。
でもその後船のチケットを私達の分まで買っていたらしいシゲルさんから言い訳ができないように爽やかな笑みを浮かべられたままあれよあれよといつの間にかアサギシティに向かう船に乗せられてしまったのだった。
…船に乗せられる瞬間までそのことに気づかずにいた私自身が馬鹿だと物凄く後悔した。港に行ったのはシゲルさんと…そして私達しかいなかったのだからマサラタウンへ戻る方法なんてなかったんだと今更気づいたことにも余計に後悔が高まる。…おそらく母やオーキド博士、そしてケンジさんにはもうシゲルさんから話をしているのだろうと考えて少しため息をついた。
…とりあえずマサラタウンに帰って来た時、ラティアス達になんて言ったらいいんだろうと必死に考えるけれども思い浮かばない。…まあシゲルさんがそんな顔せずにせっかくジョウト地方に来たんだから楽しみなよと言っていたために私はため息をついてそれに頷いた。…ちなみにリザードとピチューは周りを見て楽しそうにしている。私がジョウト地方を楽しむかと決めた瞬間からリザードたちも楽しもうと決めたらしい。
「……そういえばシゲルさんってシンオウ地方の研究所に移ったんですよね?何でジョウト地方の研究所に行くんですか?」
『ガゥゥ?』
『ピチュゥ?』
「ああ…そういえば言ってなかったね…ジョウト地方で新しく発見されたポケモンのたまごが見つかったそうなんだ。調べ終わったポケモンの生息分布から発見されたたまごらしいんだけど…どうやら模様が見たことのない部類だったそうなんだ」
「…あ、じゃあ新種かもしれないってことですか?」
『ガゥゥ?』
『ピチュ?』
「そうなるかもしれないけど…でももしかしたら生息分布が変わった可能性も出てきてね。あとそれ以外にもいろいろと…僕がやるべきことはその土地の調査なんだよ」
「そうですか…あ、じゃあ私たちもそのたまごが見れるかもしれないってことでしょうか?」
『ガゥゥウ!!』
『ピッチュゥ!!?』
「はは…そうなるかもしれないね」
どうやらシゲルさんから聞いた話だとポケモンのたまごがもうとっくに調べ尽くした土地から見つかったらしい。しかもそのたまごは見たことのない模様をしていて…もしかしたら新種か、それともその土地のポケモンの生態が変わったかもしれないとのことだった。
だからこそシゲルさんはわざわざジョウト地方までやって来たと話をしてくれた…でも、私がそれに来てもいいのかなと疑問に思うし…迷惑になるんじゃないかなとたまごを見たい反面で不安になった。でもその私の感情がすぐに分かったのかシゲルさんが私のかぶっている帽子の上から頭を撫でるようにポンッと手のひらを乗せて笑顔で大丈夫だよと言ってくれた。その言葉に笑みを浮かべて安心しつつも…早くたまごを見たいなと思いながら歩いていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっ…何でいるのよ!!!」
『ガゥゥ…!!』
『ピチュゥ…!!』
「いやそれこっちの台詞だからな!!」
ジョウト地方の研究所ではシゲルさんがウツギ博士を含めた研究員の人たちと話し合いをするらしく、たまごも今は見れないためにただ待っているのは退屈だろうからと連れてこられたある建物で見つけたのはマサラタウンで遊んだり戦ったりしていたはずのライバル…いや、帽子をかぶったヒビキがこちらを見て茫然としていたために私は微妙な表情で指差して叫んでしまった。その声に反応してヒビキも叫んでいるが…本当に何故ジョウト地方にいるのだろうか…。
「マサラタウンで会えないって思ってたけどまさかジョウト地方にいるだなんて……」
『ガゥゥ…』
『ピチュゥ…』
「あれ?言ってなかったか?俺ここの学校で寮生活をしてるんだ。マサラタウンの学校も良いけどここの方がポケモンの育成についてより詳しく知れるし…それにたまごについても博士がよく教えてくれるから楽しいんだぜ!」
「そっか…まあヒビキが楽しいなら良いけど…でもトレーナーになる頃にはちゃんとマサラタウンに帰ってるんでしょうね?」
「当たり前だろ!俺は生粋のマサラ人なんだからな!!トレーナーになったらオーキド博士からポケモンを貰うって決めてるし…それにお前と最初にバトルがしたいって思ってるんだぜ!!」
「そう思ってるんならちゃんと勉強してマサラタウンに帰ってくること!!ヒビキって勉強とかうまくいってるの?なんかそのノート真っ白なんだけど…」
「う、うるせえ見るな!!!」
『ガゥゥ…』
『ピッチュゥ…』
ヒビキはどうやらこのジョウト地方の学校に行きたいと自ら行動してこちらに来ていたようだった。確かにマサラタウンやカント―地方の学校はバトルというよりもポケモンのタイプについてやトレーナーとしてのポケモンの接し方についての勉強が主らしい。それ以外では自宅学習の子たちと同じように勉強をする。
そのためポケモンの育て方についてより詳しく知りたいという子はポケモン育成やたまごについて主に勉強するこのジョウト地方の学校が良いのだろう…。でも三人組としていつも一緒にいたはずのコウやシュウジはいないためにもしかしたらヒビキだけでこのジョウト地方の学校へ行ったのかと思った。…まあヒビキには夢があるし…積極的に行動しているんだと考えて納得した。
ちなみに私は学校を選ぶことはせず自力で勉強することを選んだためにジョウト地方やカント―地方の学校でのポケモンを学ぶと言う勉強はあまり教わってない。教わったとしても教科書に載っている基本的な事ばかりだ。…でも学校よりも自力で学習すると選んだ子供たちはポケモンと学びたいと考えたり、接したいと思うことがある。そしてそんな子供たちの将来のために必要ならちゃんと学校へ行って自由に参加できるセミナーを受けることができるようなのでポケモンに対して接することに不安な子供はいないみたいだ。
私はオーキド研究所で兄のポケモンたちと触れているし、野生のポケモンや研究所のポケモンともよく遊んでいるためにまあ大丈夫かなと思っている。それに必要だと思ったらちゃんとそのセミナーに行こうと思ってるし…とにかく今は大丈夫だろう。
でも今心配なのはヒビキがちゃんとトレーナーになれるかどうかだ。ヒビキが持っていたノートを借りて中身を見るとほとんどポケモンの絵や白紙が多く。ちゃんと授業を受けているのかが心配になった…。でもヒビキは顔を真っ赤にさせて私が手に持っていたノートを素早く取り返して叫ぶ。その姿に苦笑しながらも謝りつつ、一緒に勉強しようかと誘った。シゲルさん達の話も長くなりそうだしこれぐらいはいいかなと思ったからだ。…ちなみにその時リザードとピチューはやれやれとでも言うかのように肩をすくめてため息をついていたりする。
妹の心境。
そういえばジョウト地方に行くのは初めてな気がする…。