兄がホウエン地方での旅を終えて帰ってくる。
こんにちは妹のヒナです。久しぶりに兄がマサラタウンに帰ってくるようです。え、ホウエンリーグがどうなったかって?兄のことですからもう想像通りですよハイ。それで久々に兄に会えるからちょっとドキドキしています。
あ、この場合ドキドキというのは嬉しさ半分怖さ半分ですよ。
『…ヒナ、お前はサトシの妹だろう。何故サトシが帰ることに怖がらなければいけない?』
「うるさいミュウツー心読むな」
『…………………』
あ、そう言えば少し前に来たルカリオがフシギダネの手伝いをするようになってました。もちろんオーキド博士たちにも挨拶をして、全員が歓迎してくれてましたよ。
手伝いといっても、ミュウツーたちのバトルを止めることはもちろん、博士たちのお手伝いを積極的にやっています。…これじゃあ休んでいるのかなとも思うけどね。でもルカリオ自身は毎日満喫しているようです。
あとルカリオがすることは手伝いだけではありません。
ルカリオは母から作られたお菓子を食べて、あまりの美味しさに驚き、料理の才能に目覚めました。
最近ではチョコレートケーキを作ることにはまっています。そして母の手料理を作りたいと弟子入りして、今ではケーキもポケモン用と人間用で分けて作るという細かな力をつけていましたよ。
もはやルカリオシェフと呼んだ方がいいくらいいろんなお菓子や料理を作り、そして今回兄が帰るということで母とともに豪華な食事を作ろうと張り切っています。
…まあそんなわけで。
「お兄ちゃん帰ってこないかなー?」
『カゲカゲェ?』
『まだ帰っては来ないだろう。予定の時間よりも早すぎる』
「でもそろそろ帰ってきそうな気がするよ…。というか、ミュウツー今日はおとなしいね?いつもならとっくに他のポケモンたちと喧嘩しに行ってフシギダネに説教されてる頃なのに」
『…ふん。今日のところは勘弁してやるさ』
なるほど、もしかしたら兄に会いたくて今日は暴れないのかもしれない。それかもしくは兄とバトルしたくてしかたないかもしれない…かも?私とヒトカゲはじっとミュウツーを見つめて何を考えているのか視線で問いかける。だがミュウツーは気にせずマサラタウンを見下ろすだけだった。
『…あ、誰か来たみたいだな』
「え!?…ってここからじゃ見えない」
『カゲッ!?カゲカゲ!!』
「ヒトカゲは見えるの?…やっぱりポケモンの視力って凄いんだね」
今私たちがいる場所は大樹の枝の上。ミュウツーのサイコキネシスで上まで登ってくれて、マサラタウンがよく見渡せる場所に来ていたりする。
ヒトカゲが指差した場所に目を凝らしてみると誰かが歩いているのが見えた。でも顔などは見えずやっぱりわからないままだ。
「うーん…ねえだれか分かる?」
『カゲ―…カゲェ』
『いや、サトシじゃないことは確かだ。でもオーキド研究所の中に入っていったのは見えたぞ』
「え、じゃあお客さんかな?もしかしたらお兄ちゃんの知り合いかもしれないし…よしミュウツーちょっとおろして!」
『カゲ!』
『まったく…仕方ないな』
私の頼みを聞いたミュウツーは再びサイコキネシスで地面へ降ろしてくれた。
地面にたどり着くと周りは樹海のような木々が立っているため、どちらに行けばいいのかわからなくなる。おろおろしている私たちに不安になったのか、先ほどまで大樹の枝の上にいたミュウツーが地面まで降りてきてくれた。
『…こっちだ』
「あ、うん。ありがとうミュウツー」
『カゲッ!』
『ああ…だが俺は近くまで案内するだけだからな。人の前に姿を現すつもりはない』
「分かった!じゃあお兄ちゃんきたら伝えるね!」
『……そうか』
そして私たちがよく歩いている道まで案内したミュウツーはすぐに森の奥深くまで戻っていってしまった。私とヒトカゲは戻っていくミュウツーに手を振ってからオーキド研究所まで走り出した。
チャイムを鳴らしてケンジさんに中に入れてもらい、部屋に入るとテレビなどで見たことのあるオダマキ博士がそこにいた。初めて見るホウエン地方の博士だから思わず緊張してしまった。
「あれ、君は?」
「こ、こんにちは…」
「サトシの妹のヒナです。ヒナちゃん、サトシならもう家に帰ってる頃だと思うよ」
「え!?お兄ちゃん家に帰ってきてるの!?」
『カゲェ!?』
「色違いのヒトカゲ!?」
さっきまで大樹で見ていた時は気づかなかったけど帰ってきているらしい。もしかしたらオダマキ博士が研究所に見えたから気をとられて家に帰ってたのに気がつかなかったのかな?
そう思って驚いているとオダマキ博士が私の後ろにいた色違いのヒトカゲに感動し近づいてヒトカゲを抱き上げていた。
『カゲッ…カゲェェ!!』
「うわごめんよ!驚かすつもりはなかったんだ!」
「ああほらヒトカゲ、大丈夫だからね」
『…カゲ?』
「うん。大丈夫だよ」
ヒトカゲは興奮していたオダマキ博士にビックリして泣きだし、ひのこを出して攻撃してしまった。すぐさまオダマキ博士の手から降ろされたヒトカゲだったが、それでも泣いて怯え私の手を掴んでくる。
私はヒトカゲを抱きしめて大丈夫だという意味で背中を優しく叩き落ち着かせる。その光景を見たオーキド博士たちは感嘆とした声を上げていた。
「さすがヒナじゃな…ほれ、サトシのもとに行かなくて良いのか?」
「あ、行きます。ごめんなさい押しかけて!行こうヒトカゲ!」
『カゲカゲッ!!』
私とヒトカゲは一度オーキド博士たちにお辞儀をしてから外に出て森の中に入る。
森の出入り口で私とヒトカゲは大きな声を出して叫んだ。
「すぅぅ…ミュウツゥゥウ!!みんなぁぁあ!!!お兄ちゃんが帰ってきたんだってぇぇえ!!!!」
『カゲカァァアゲェェェエッッ!!!!』
『っっ――――――――』
森の中から様々なポケモンの声がするからたぶん伝わったことだろう。まあミュウツーに伝わればいいかなと思って叫んだだけだし、もしも聞こえていなくても、お兄ちゃんのことだから一度くらいはオーキド研究所に来るだろうから大丈夫だと思う。
そう納得してからヒトカゲと共に家まで一気に走り出した。
『…ヒナ』
「うわっとと!あれルカリオ!?家にいたんじゃなかったの?」
『カゲェ?』
『料理に使う調味料が足りなかったから買って帰る途中だ』
「あ、じゃあ一緒に帰ろう!お兄ちゃんもう帰ってきてるみたいだからさ!」
『そうか、サトシが帰ってきたのか…!』
道の途中でルカリオに会い、私とヒトカゲは急停止して話しかけた。
ルカリオの肩からぶら下げた青色のショルダーバックがあるため、おそらくその中に足りないと言っていた調味料があるのだろう。
そして兄が帰ってきているという言葉にルカリオは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
私とヒトカゲはお互い笑い合ってそれぞれルカリオの空いている手を掴み、歩き出した。
真ん中はルカリオで左右には私とヒトカゲがいる。それはまるで家族みたいな状態だなと私は考え、笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんもう家でのんびりしてるかな?ままと旅のこと話してるかな?」
『さぁ…帰ってから確認すればいいだろう』
『カゲカッ!』
「そうだね。早く帰って確認しなきゃね!」
ちょっとだけ気持ちが早足になりつつも、私たちは家にいるであろう兄のもとへ向かって行った。
妹の心境。
兄に会ってはやく話がしたい。