ある意味兄に近しい人物。
「ふー…ちょっと休憩!」
『ガウ…ガゥゥ!』
『ピィッチュ!』
「あ、お菓子持ってきてくれたの!?ありがとうリザードにピチュー!!」
『ガゥゥ!』
『ピッチュ!』
こんにちは妹のヒナです。ずっと勉強をしていたのですが頭が痛くなってきたために止めて、休憩をしようと思ったらずっと見守っていたリザードとピチューがお疲れと言ってお菓子や飲み物を持ってきてくれました。
リザードたちが優しく育ってくれてとても嬉しいと感激しながらも一緒に食べる。
そしてしばらくすると様子を見に来てくれた母が笑顔で私たちに向かって言った。
「ヒナちゃん、今シゲル君がオーキド研究所に帰ってきてるみたいよ。ずっと勉強してるのは偉いけどたまには外に出て、シゲル君に挨拶しに行くのはどうかしら?」
「え!?シゲルさん帰ってきてるの?!分かった行ってくる!リザードにピチューも行こう!」
『ガゥゥ!』
『ピィッチュ!』
シゲルさんはマサラタウンにはあまり帰ってこないので、本当に久しぶりに会えるのではないかと少しだけ楽しみになった。
それに兄のことで話しておきたいこともあったし…シゲルさんならば兄について相談したとしても口が堅いだろうから絶対に喋らないだろう…まあ喋ったとしても兄がキレるだけだから平気だろうと思う…うん…きっと大丈夫なはず。
まあ問題が起きたその時に考えていこうと思いながらも家を飛び出し、走り出した。
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「こんにちは!シゲルさんいますか!?」
『ガゥゥウ!』
『ピッチュゥ!』
「あ、ヒナちゃん!こんにちは。シゲルなら博士と一緒に森にいるよ」
「ありがとうございますケンジさん!行こうリザードにピチュー!!」
『ガゥゥ!』
『ピチュ!』
オーキド研究所に来るとケンジさんが笑顔で迎えてくれて…今シゲルさんはオーキド博士と一緒に森に行っていると話してくれたために私たちも後を追うために走る。
おそらく迷いの森の方には行ってないとは思うから、いつもオーキド博士が歩いている方へ向けて私たちは走り出した―――――――。
そして見つけたのはシゲルさんとオーキド博士が一緒に歩いていて、何かを話している光景だ。でももしかしたらわざわざこんな森の中で話すのだから…誰かに聞いてほしくない内容かもしれないと私たちはとっさに草むらに隠れて様子を窺う。
すぐに草むらに入っていてもシゲルさんやオーキド博士は私たちに気づかない。もちろんそれは今まで修行した成果でもあり、かくれんぼなどで頑張ったからこそシゲルさん達に気づかれることはないと安堵した。
「大丈夫…そうかな…?」
『ガゥゥ…?』
『ピチュ…?』
シゲルさんとオーキド博士の表情が楽しそうにしているように見えるから、今まで病気や怪我なく過ごしてきたのか、研究はうまくいっているかについての会話なのかなと思い、私達が近づいても大丈夫だろうと判断しようかどうか迷って相棒に聞こうとリザードの方を見た時だった…。
『ミュゥ?』
『レビィ?』
「ッッって!!…なんでミュウとセレビィがここにいるの…!」
『ガゥゥ…!!』
『ピチュゥ…!!』
『ミュゥゥゥ!』
『レッビィィ!』
『フォォォオ…楽しそうだから来た』
「ダークライもいるし…シゲルさん達に見つかったら大変なことになるよ!」
『ガウゥウ!!』
『ピッチュ!!』
リザードたちの近くで私たちを見ているミュウとセレビィに気づき、とっさに大声を出してしまいそうになったが両手で口を塞ぎ、すぐに小声で何でここにいるのか問いかける。
でもミュウとセレビィは楽しそうにしていて…そしてその近くの木の影から姿を現したダークライがちゃんと説明してくれた。私たちはこのままではシゲルさん達に見つかるかもしれないという焦りと、何でミュウ達はこんな見つかりやすい場所にいて危機感を持っていないんだろうという呆れの感情が巻き起こった。
とにかく早くいつもの迷いの森の方へ行ってと言うが、ミュウやセレビィはともかく、ダークライは微妙に嫌そうだ。
「…何かあったの?」
『ガゥゥ?』
『ピチュ?』
『……ミュウツーたちとサトシのポケモンたちによる乱闘が発生しているんだ…』
『ミュミュゥ!!』
『レッビィ!!』
「ああ…なるほど…」
『ガゥゥ…』
『ピチュ…』
ダークライの言っている言葉にすぐ納得してしまった。そして同時にまたかという意味で私たちは苦笑してしまう。
…つまり、ミュウツーたちが先に喧嘩をして、その次に兄のポケモンたちを巻き込むような乱闘へ突入したということだろう…ダークライの表情からその悲惨さは凄まじいらしく…これだとフシギダネがその乱闘を見つけてからソーラービームを放つまではまだまだ時間がかかるかもしれないと思ってしまった。
「あれ?ヒナちゃん?どうしてここに…」
「なんじゃヒナ…誰かと話しているようじゃったが…なにかあったのか?」
「うぇ!?い、いやなんでもないです!!…久しぶりですねシゲルさん」
『…ガゥゥ』
『…ピチュ』
「…?…ああ久しぶりだねヒナちゃん」
ダークライたちと話し合っているうちに声の音量が大きくなっていたらしく、シゲルさんたちがこちらに近づいていることに気づかなかった…。
シゲルさん達が私たちに気づいて話しかけ、私たちは勢いよく立ち上がってぎこちない声色で話す。そしてちらりとダークライたちのいるところを見たが、もうそこにはミュウ達の姿が何処にもいなくて…おそらくどこかへ行ったのだと…ああいや、木の影がゆらゆらと不自然に揺れているからおそらくはまだそこにいるのだろう…そしてミュウとセレビィはもしかしたら姿を消して隠れているのかもしれない。
でもシゲルさんやオーキド博士は気づいていないようだったから本当に良かったと安堵した。とりあえずこういう危機感は本当に二度と起きないでほしいと願う…けれど無理だと考えて少しだけ落ち込んだ。
そうしている間にもシゲルさんとオーキド博士がここで立ち話はなんだからと言って研究所へ戻ることになった。私たちも一緒に行き、ダークライたちに小さく手を振ってから行く。歩いている間に先程話していた場所をこっそりと振り向くとミュウ達が姿を現してこちらに向かって笑顔で手を振っているのが見えて…まあ気づかれないようにしているならマシかと納得して笑みを浮かべた。
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オーキド研究所に着いた私たちはまず最初にシゲルさんだけで話したいと言う。それにオーキド博士たちがお互い顔を見合わせてからしょうがないと苦笑し、客間へ案内してくれた。そこでケンジさんが出してくれたお茶を飲みながら笑顔でシゲルさんが話しかける。
「でも本当に大きくなったねヒナちゃん…リザードたちもちゃんと育成されてて安心したよ」
「ありがとうございます!…あ、そうだ。あの…お兄ちゃんについて話をしたいと思ったんですけど…今大丈夫ですか?」
『ガウゥウ…?』
『ピチュ…?』
「なんだい?僕にできることなら何でも聞いてくれ」
「実は――――――」
私が話した内容は兄とセレナさんに関する内容だった。幼い頃から兄と一緒にいてくれたシゲルさんだからこそ話せる内容でもあり、これからどうすればいいのだろうという私のちょっとした悩みの相談だった。
それは、電話で話した時にセレナさんが兄のことを好きだと私たちが知った時の話であり…何か起きた場合に相談しようと思ったけれど、でもこのまま放っておいていいのかという疑問とセレナさんと兄のこれからの関係について不安に思い、少しでも私に何かできることがあればいいと思いながらもシゲルさんに話しかけたのだった。
つまり、兄がセレナさんを泣かせないのか…傷つけることがないのかが主な相談でもある。カロス地方に行ってしまった兄が暴走してしまった場合に確実に止める人もしくはポケモンがいないからこそ、セレナさんに恋愛でのトラウマを作ってしまうのではないかと次第にそう考え、大丈夫なのかと不安に思ったからだ。電話で話した時はまだ大丈夫かなと安心していたけれど、兄のことを考えていくと次第に不安が増していく。それに過去兄がやらかした話もあったからこそ、私たちは余計に不安になる。
―――――それは幼い頃、兄の暴走は恋愛でも効力を発揮し、野生のポケモンに襲われそうになったという女の子を助けたことがあったそうだ。だが、その時に女の子が惚れて付き合ってくれと言われ迫られ…ある意味ストーカーに近いレベルまで執着されたことがあった。その時は女の子が兄と付き合ってもらえないのは周りのせいだと何故か変な解釈をしたらしく、母達に迷惑をかけてしまい、兄がブチギレて暴走した。つまりその後兄が物凄い同情したくなるレベルで女の子を泣かせてしまうような事態になったたということなのだが…。その時の兄の鋭い毒の入った言葉で何で俺を好きになったのかやそんなのただの気まぐれにすぎないやその他諸々…まあいろいろと兄がやらかしたのを知ってしまっているからだった。いろいろについては割愛する…その方が気持ちとしては楽になるからだ。
とにかく、セレナさんが大丈夫なのかどうなのか…それだけが私の心配だったのだが、シゲルさんは驚いたような表情をした後優しい口調で私たちに向かって話してくれた。
「そうか…サトシのことを好きな子が一緒に旅をしている…なら見守った方が良いんじゃないかな?」
「え…見守る…ですか…?」
『ガゥゥ…?』
『ピチュ…?』
「うんそうだよ…見守った方が良い。第一、サトシに好意を持った時点でその子に対する態度は容赦がなくなるのをヒナちゃんも知っているだろう?なのにサトシはその…セレナさんという人には仲間として接している。それはつまり、ほとんど答えが決まっているようなものだよ」
「…もしかしたらお兄ちゃんはセレナさんと付き合うかもしれないと」
『ガゥゥ』
『ピチュ』
「まあまだ可能性の話だけどね…でも大丈夫だよ。サトシは暴走する時はするけれど…それでも仲間だと認めれば容赦なく排除しようとはしないからね…」
「…でももしかしたらっていう可能性もありますよね。途中でお兄ちゃんがセレナさんを敵認定してしまった場合は…」
『ガゥゥ…』
『ピチュゥ…』
「その時は、サトシには非がないってことになるね。サトシは身内や仲間に対しては甘いし…敵だと思われたのならばそれはサトシを傷つけるような行動をした時だ」
「…………」
『…………』
『…………』
シゲルさんの言っている言葉には納得した。兄が仲間だと認めている時点で大丈夫だということも…セレナさんが自ら兄を傷つけるようなことをしなければ敵認定されて排除されるということも…。
まだまだ不安はなくなったわけではないため、私たちは微妙そうな表情を浮かべている。その表情を見たシゲルさんが苦笑して私たちの頭をそれぞれ撫でてくれた。
「大丈夫だよヒナちゃん。サトシのことが本当に好きなら絶対に何も起きない」
「……そう…ですね。分かりました…ありがとうございます」
『ガゥゥウ…』
『ピチュ…』
シゲルさんが撫でてくれたことによって少しだけ不安が消え、これからどうなるのかカロス地方での兄たちの行動が気になった。今度電話してきたら今どうなっているのか詳しく旅の話でも聞いてみようかなと思う。
妹の心境。
シゲルさんしばらくこのマサラタウンで休暇するって言ってたし…後で研究所の話でも聞いてみようかな?