妹も兄も久し振りの再会である。
「ひ、久しぶり…お兄ちゃん…」
「よぉヒナ。何で俺が怒っているのか…分かっているよなぁ?」
「スイマセンでしたァァ!!!」
「………………はぁ」
こんにちは妹のヒナです。マサラタウンで説教を受けて、その後聞いた話によると…次に兄から連絡が来た時に私と話をするように言ってあったらしいです。まあつまり、兄からの説教ですよね…。
マサラタウンでの出来事から、オーキド博士たちに怒られ、母に怒られ…そしてフシギダネたちや伝説たちにこっぴどく叱られました。まあでもそれは私たちが望んでやった行動の代償だと思えば仕方ないと諦められます。それに反抗もできないぐらい怒られるようなことをしたのは事実ですから反省しなければと思いすべてを受け入れました。
怒られたのに一番怖かったのは母の笑顔か…それともフシギダネ達との説教か…まあどっちも怖かったです。気温は温かいというのに母やフシギダネ達といた時は温度が下がり、まるでブリザードかふぶきで荒れているような気がしましたから…真冬の寒さを味わったような感じがしたと感じました。
…それにミュウツーから伝言で兄の説教もあるぞと言われて逃げようかと思ったぐらいだ。
でも、フシギダネたちや伝説たちの説教は今回一緒に同行してくれたミュウツーが慰め、カスミさんからの電話もあったらしく、あまり叱るなと言ってくれたからすぐに済んだ。まるでお姉ちゃんみたいな感じがしたからミュウツーのお姉ちゃんとでも呼ぼうかなとその時私ではなく隣にいるミュウツーを睨むマサラタウンのミュウツーを見ながら思った。マサラタウンにいるミュウツーは…ミュウツーのままでいいかと思ったり…。
まあそんなこんなで、今現在兄の説教を受けている状況である。私の後ろで隠れながらも様子を窺うピチューとリザードを兄がちらりと見て、それからため息をついていつもの優しい笑みを浮かべた。兄が笑みを浮かべたと思ったらピカチュウが肩に乗って私たちを見る。おそらく先程見えなかったピカチュウは足元にいたのではないかと思った。説教するなら兄だけで十分だと聞いていたのだろう。でもって笑みを浮かべたことにもう兄は怒っておらず大丈夫かと思ったらしい。
「…聞いたよ全部。だからこそお前が家出したのにも納得した。それに勝ったんだろ?本当に良かったな。それにリザード、お前は勝負で進化したんだなおめでとう…!」
『ピィカッチュ!』
「お兄ちゃんにピカチュウ…ありがとう!」
『ガゥゥ!』
『ピッチュ!』
「それにしても…ヒナのリザードは進化しても素直だな…良かったな俺のリザードンの時みたくならなくて」
『ピィカ…』
「ははは…まあ素直にならなくても私はあきらめないけどね!」
『ガゥ…ガゥゥ!!』
『ピッチュピチュ!』
兄はリザードンがヒトカゲからリザードへと進化したときのことを思い出しているのだろう。兄のリザードンはヒトカゲから進化してリザードになった時に一時期グレた…。でも兄は素直にならなくても諦めずに直接話し合いをして…よく喧嘩をするようになったけれど、命令を聞かなくなったということはない。その後いろいろとあったみたいだけれど、でもリザードが素直にならなくなって…バトル好きになり、そしていろんな経験をしてからあの強いリザードンになったのだろうと思った。
でも私のリザードはヒトカゲから進化してもいつもと変わらず…いや、ちょっといろいろと…うんまあ私たちに対して物凄く過保護になったけれど、でも優しいのはいつも通りだ。ピチューも身体が大きくなり、金色で派手になったリザードと何も衝突することなく、今までと同じようによく一緒に技の練習をしている。つまりはいつも通りの変わらない日々を過ごせているのだ。
リザードが優しくて素直なままでいることに兄は安心し、ピカチュウは良かったとため息をついているのを見て私たちは苦笑してしまった。たとえ私のリザードが素直にならなくても…グレてしまったとしても私とピチューは諦めず、兄のリザードンのような関係を作り上げていきたいと思っている。喧嘩をしたとしても、絶対にずっと一緒にいるし諦めるつもりはない。だからどんなリザードになったとしても、私たちの仲が変わることはないと断言した。その私の言葉にリザードは笑みを浮かべて頷き、ピチューは自信満々で何度も頷いていた。その様子を見た兄とピカチュウは良かったなと優しくリザードに言い、笑みを浮かべていた。
…もしかしたら電話ではなく直接会ったのなら…私たちの頭を撫でるかもしれないと思うほど、兄は優しい表情を浮かべていた。
「ああそうだ…お前に紹介したい仲間がいるんだ…ちょっと待ってくれ」
『ピカ!』
「うん…え?紹介ってユリーカっていう子?」
『ガウ?』
『ピチュ?』
「いやユリーカ達」
『ピッカ!』
そう言って兄とピカチュウは電話している所から離れていく。見えないけれどしばらく待っていると何か大きな声が電話の向こうから聞こえてくる。そしてその大きな声がしだいに喜んでいるような歓声となって聞こえてきた。
帰ってきた兄とピカチュウは後ろに喜んでいるような三人の仲間を連れて戻ってきた。
「セレナ、シトロン、ユリーカ…紹介するよ。ヒナとリザードとピチューだ」
「うわぁ初めまして!私ユリーカ!それでこっちはデデンネ!よろしくねヒナちゃん!それにリザードにピチュー!」
『デネデネ!』
「初めまして。僕はシトロンと言います。サトシからヒナちゃん達の話をたくさん聞きましたよ。ぜひ仲良くしてください!」
「あ、うん…よろしくお願いします!」
『ガウゥ!』
『ピチュ!』
金髪の兄妹らしき人たちから微笑まれながら私たちによろしくと言う。その言葉に兄は一体私たちの何を話していったのか気になりながらも、笑みを浮かべてこちらこそよろしくと伝えた。
そしてその後、後ろにいたのは10人中10人が美少女と認識して彼女を見るために振り返るだろうと確信できるほどの可愛らしい女の子が頬を赤く染めながらこちらをしっかりと見て言う。
「こ、こんにちは…私はセレナ!いつかサトシの嫁になるから、私のことは義姉として仲良くしてね!」
「え、うん…………えッ!!?」
『ガウゥ!?』
『ピチュ!?』
「あー悪い…セレナ」
「…ごめんなさいサトシ。でもこれだけは譲れない…絶対にサトシのことは諦めたくないから…!」
「それは旅が終わってから決めるって言っただろ?ヒナが混乱するから止めろ」
「…分かった。じゃあヒナちゃん、旅が終わってから義姉としてよろしくね?」
「それ全然解決してませんよ…サトシもいい加減諦めてください」
「そうだよ?セレナ絶対に諦めようとしてないんだから」
『デネ…』
『ピィカ…』
「うるせえそんな目で俺を見るな!」
「お兄ちゃんに恋愛フラグが立っている…ってこと…?」
『ガゥゥ?』
『ピチュ?』
美少女…セレナさんは兄のことが大好きで、いつか兄に嫁ぐからそれ以降も仲良くしてねと言ってきたのだと分かった。そんないきなり私達に嫁になるからよろしくというセレナさんの大胆な行動が、すべて兄のためにやっているのだと分かったためにある意味尊敬する。兄が大好きなことを表情や行動に出し、かなり積極的に兄に近づこうとするセレナさんの様子に兄は困惑していると見えた。
まあ兄は前世女だったということもあるし…そういう恋愛系でのフラグは今までの旅でも全て叩き潰してきたから…こういったセレナさんとの様子は初めて見たとそう私は感じ、驚愕してしまった。何よりも兄がセレナさんが自分を好いているという事実を知っているのに何もしていないということ、セレナさんを邪険に扱っていないということに驚いたのだ。
兄は敵を見なし、邪魔者だと感じたらすぐにそういう存在をこちらに近づかせないように徹底的に排除する。もちろんそういうのは嘲笑や敵意、そして恋愛を含む感情があった場合のみすぐさま行動し徹底的に潰してしまおうと考える兄が…まさかセレナさんのように大好きだと分かっているというのにそのまま仲間として近くにいさせていること自体が凄いと思えた。
そして現在電話先で争っている兄達を見ながらも…兄がセレナさんに向けて言う声が、今まで敵だと認識して来た相手に対して発する冷たい声とは感じず、むしろシトロンさん達と同じように接しているということが分かって私は少しだけ複雑な心境になった。今はまだセレナさんに対して表向きは冷たいのだけれど、内心ではかなり許しているということや仲間として認めているということからセレナさんにもチャンスはあるかもしれないと思えたのだ。
つまり、これはセレナさんの行動次第によっては兄も恋をするのを諦めるかもしれないということ、セレナさんを受け入れるかもしれないということだった。妹の私としては複雑であり…一生独身として過ごすよりは兄のことが大好きなセレナさんと一緒にいた方が良いかもしれないと思えてしまう…。
「…まあ、これはお兄ちゃん達の問題だろうし…とりあえずベイリーフ達には言わないようにしないとね…」
『……ガウゥ』
『……ピチュ』
兄とセレナさんの恋は、進展する可能性もあるかもしれないと考え、私たちのことを忘れて争っている様子に電話を切ろうかどうか悩んだ。
妹の心境。
とりあえず何かあったら恋愛マスターに相談しよう…。まあ役に立つかは分からないけれど。