兄は楽しく旅しているらしい。
『ミュ?』
「いやいやいやいやありえないなんでここにミュウがいるの?」
『ミュミュミュ!!』
「……おにいちゃああああああ!!!!」
どうもこんにちは妹のヒナです。
兄が旅に出て半年が経ちました。え?早すぎる?だってこの半年平和に暮らしてきたんだからしょうがないでしょ?
私は今、オーキド博士の研究所の森の中で散歩中。すると目の前にミュウが現れた!という状態だ。
思わず兄を呼ぼうと叫んでしまったけれどそれは仕方ないと思う。
なんで兄を呼んだのかだって?
兄はこの数日間マサラタウンにいるからだ。もちろん仲良くなっていたピカチュウと旅で仲間になったフシギダネ達と一緒だ。でもカント―地方では原作通りに話が進んでいるかと言えばそうではない。
兄は大会で優勝した。それはどうしてか?
そう、リザードンがグレなかったからだ。
リザードに進化したとき、兄はトレーナーとしていろいろと話し合いをしてグレないようにして解決させたらしい。…らしいというのは兄が自分で話していたことであって、隣りにいたピカチュウが兄の話を聞きながら苦笑していたのを見たからだ。
ちなみにどんな話し合いをしたのかを兄に聞いたが誤魔化され、リザードンにその話をすると風のようにすぐさま飛び去ってしまうから話し合いだけで済んだのかは今のところ不明だ。
もちろんグレなかったし、トレーナーの兄の言うことは聞くけれど、喧嘩はよくする。しかも技あり物理ありの喧嘩だ。
昨日も兄がリザードンと喧嘩したとき、話し合いではなく拳で挑んでいったのを見てやはり兄はスーパーマサラ人なのだとつくづく思えたのは私だけの秘密だ。
しかもゼニガメが喧嘩を止めようとはせず、むしろ応援していたのをフシギダネがツルのムチで叩き、ピカチュウが兄に怪我がないように慌てた様子で見ていたのは面白かった。
そんな兄とリザードンとの喧嘩。
拳や技ありで挑んだのは家族や友達なんかでよく見かける取っ組み合いの喧嘩だと思えばいいのかもしれない。
兄はポケモンに喧嘩を挑むことはあれど、本当にポケモンを傷つけようとはしないのだから。そしてリザードンも兄を本当の意味で傷つけたことは一度だってないのだ。
兄もリザードンも優しいのだから大丈夫だと私もピカチュウたちも知っているし、兄たちもお互いを認めているのだから。
まあその前に目の前にいるミュウを何とかしなければならない。
どうする?
→逃げる
捕まえる
現実逃避する
『ミュ?』
「…ここはげんじつとうひかな?」
『ミューゥ』
私は草むらで寝転がり、ミュウを見ないように心掛けた。
でもミュウは私の目の前にやってきて、楽しそうに笑っている。
人懐こく、逃げないミュウを見て、何か嫌な予感がした。
そしてそれは必ず兄関係なのだという予感は絶対に外れていないはずだ。
「あれ?ミュウじゃねえか!久しぶりだな!!」
「やっぱりおにいちゃんのせいか!!」
『ミュー!!!』
草むらから出てきた兄が旧友を見るかのような表情でミュウを見ていた。そしてミュウはすぐさま私から離れ、兄のもとへ抱きつきに行く。
伝説が兄に懐くというのはさすがだと思うけど…。
『ピカ?』
「…なんでもないよ。ありがとうピカチュウ」
『ピッカッチュウ!』
幼女がしてはいけないため息をついたのを見て、ピカチュウは私の肩へよじ登り、頭を撫でてくれた。
ちょっとピカチュウが重いけれど、でも兄が妹を慰めてくれるような撫で方に少しだけモヤモヤが消えたと感じた。
ピカチュウの方が兄のようだと思えるしすごく癒しだ。この数日間で私は兄よりもピカチュウとよく一緒にいることが増えていた。
何故ミュウがこのオーキド博士の研究所近くにいるのか。
後でその話を聞いたら、ミュウはあのミュウツーと戦ったミュウなのだと教えてくれた。
ちなみにミュウツーやミュウとの戦いで勝利したのは兄の方だったらしい。
石にもならず無傷で生還した兄がもはや人間ではない何かに見える。
ポケモンに挑むのは兄の特権か何かか、もしかしたら兄の身体は鋼以上の何かでできているのではないかと疑ってしまう。
そしてミュウツーは兄を面白い人間だと認め、兄と兄のポケモンだけ記憶を消さなかったらしい。
ピカチュウはたまに訪れるミュウやコピーたちと遊んだり、好戦的なリザードンとミュウツーがバトルするのを見ていたりと楽しくしていると兄から聞いた。
ストレスもなく楽しく旅に出ている兄が少しだけ羨ましいと思えた。
妹の心境。
いつか旅に出てみようかな?