マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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全力を出すことはトレーナー達にとっての礼儀である。






第百九十三話~妹たちは勝敗を決した~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトル場には緊張感が漂っていた。すべてを叩き壊してしまいそうなライチュウの雰囲気と、電撃がバトル場に流れていたのだから。それらに萎縮されず、ヒトカゲはただひたすら勝ちたいという気持ちでライチュウを睨みつけていた。アイアンテールを土壇場で使えるようになったピチューの分まで戦うという強い思いでいたからだ。ヒナと一緒に勝負に勝つと心から誓ったからこそ、そしてピチューの勝負を無駄にしないためにも…ヒトカゲは卵から生まれて間もない頃の泣くことしかできなかった弱さを捨て、ライチュウを睨み付け泣かず震えることなく向かい合った。

 

マチスとライチュウはただひたすらこの目の前にいるヒナとヒトカゲが気に入っていた。まだまだ幼くてトレーナー未満だと言うのに勝負に諦めることなく、レベル差や進化の差にも食らいついて絶対に勝ってやるという覚悟を見せる彼女たちに、さすがサトシの妹だと考えていたのだ。

マチスたちが思い出すのはサトシとの勝負。サトシはマチスのライチュウよりもとても小さなピカチュウを連れて勝負に挑んできた。今のヒナのような表情をして、ジム戦をお願いします!と言ってきたのだ。その時のマチスとライチュウは連勝していて油断しきっていた。まだライチュウに進化していないという見た目で判断し、そして子供だからと笑ったことに…勝負の後はものすごく後悔したものだとマチスたちは考える。

サトシとピカチュウの圧倒的なコンビネーションとその力の実力の差が、バトルで瞬殺されるという事態になってしまったのだ。その時、なぜ負けたのか何度も何度も考えていた。後悔し、ジムリーダーを辞めてしまおうかと考えた時もあった。

だが、負けたということのおかげでマチスとライチュウは自身に欠けていたものを見つけることができたのだ。ただ勝つことが強さのすべてじゃない…本当に強いのはトレーナーとポケモンとの絆の強さなのだと知ることができた。

 

だからこそ、サトシの妹であるヒナにその力を見せてやりたいと…いつかまた、サトシとバトルできることを考えてそう心に誓っていた。

 

 

 

「okリトルガール?準備はいいか?」

『ライライ?』

 

「はい、大丈夫です!!」

『カゲカゲ!』

 

「…では、ライチュウ対ヒトカゲの試合を開始する…試合開始!」

 

「ヒトカゲ、回転して猛火の炎!」

『カゲェェエ!!』

 

「oh!Wonderful!!」

『ライ…!?』

「ライチュウ、10まんボルトで吹っ飛ばせ」

『ライライッチュゥゥウ!!』

 

 

試合開始と同時にヒトカゲとヒナの攻撃が始まる。それは通常のポケモンの技とは違って独自に開発されたと思えるものだった。ジャンプしてから回転し、炎をまき散らすソレは、まるでほのおのうずのようだとマチスは感じていたのだ。…いや、あるいはうずしおのように…それかとても大きな炎の竜巻のように凄まじいものだろう。

燃え盛る炎が竜巻のようにライチュウに襲ってくるのを見てマチスは口笛を吹いて絶賛しながらもライチュウに10まんボルトの技で吹っ飛ばすように指示する。ライチュウはその指示を聞いて10まんボルトで吹っ飛ばしていった。その時竜巻型の炎が10まんボルトに当たって爆発し、キラキラと炎の粉がバトル場の周りに散っていく。ヒナの後ろでオレンのみを食べ、フラフラになりながらも頑張れと一生懸命声を出していたピチューはその光景を見て目を輝かせた。自分もこのような技を使ってみたいと、そう考えてしまったのだ。

一方ヒナとヒトカゲは回転して放った技が効かないと言うことに少しだけ焦りながらも、攻撃をするために動く。

 

「ヒトカゲ、走りながら連続ひのこ!」

『カゲカゲ!』

 

「そう来るか!ならこっちは構えて、そして全て躱せ!!」

『ラーイ!』

 

 

走りながらひのこを放つ。だがそれらすべてをジャンプし、そして尻尾で叩きつける姿にレベル差と実力の差が分かってしまいこのままでは駄目だと感じたヒナがヒトカゲを見て【頷いた】。その頷きを見たヒトカゲも一緒に頷いて、そして行動に移す。それはクチバジムに行く前に話していた作戦であり、リスクを伴うであろう戦いになるかもしれない行動だった。

ヒトカゲがライチュウに向かって接近してきたため、マチスが笑みを浮かべて口を開く。

 

「それじゃあ意味がねえ。ライチュウ、メガトンキック…何ッ!?」

『ラ、ライ!?』

 

「よし今よヒトカゲ!猛火の炎!!」

『カゲェェエエ!!』

 

 

接近してきたからこそ、ライチュウとマチスはそのまま迎え撃つつもりでいたのだろう。だがヒトカゲはそのまま攻撃しようとしてきたライチュウを避けて、後ろへと回り込んできた。そのスピードの速さとヒトカゲが技を放たないということにマチスとライチュウは驚く。

バトルに勝つという闘争心が強く感じ取れたからこそ、接近戦をしてくるのだろうと…すぐに攻めに来るのだろうと思い込んでいたのだ。でもヒトカゲはその考えよりも予想外な動きをしてきたことによってライチュウとマチスの動きは一瞬止まる。

隙ができたと判断したヒナが大きく声を出して叫び、指示を出した。その声を聞いたヒトカゲがライチュウの後ろからかえんほうしゃには劣るが凄まじい炎をライチュウに向けて放ったのだ。直撃を受けたライチュウは痛そうな声を上げて地面に倒れ込む。だがすぐに起き上がり、ヒトカゲを見た。でも直撃を受けた背中が痛むのかふらついていて…そして時折身体に炎のような燃える痛みの声がライチュウから聞こえてきた。

 

 

「shit!!やけどか!!?」

『ラ…ライ…』

 

「よし状態異常!次で決めるわよヒトカゲ!」

『カゲカゲ!!』

 

 

ライチュウは背中を庇うように動き、ヒトカゲがすぐに攻撃できるように動こうとする。ヒナとマチスもすぐに指示が飛ばせるように相手を見て……そしてお互い口を開いた。

 

「ライチュウ10まんボルト!!」

『ライ…ライッチュゥゥウウウ!!!』

 

 

「ヒトカゲ!猛火の炎!!」

『カゲェェェエエ!!!』

 

 

凄まじい電撃と炎がバトル場に炸裂し、衝突する。技同士の衝突によって爆発し、大きな黒い煙があたりに包み込まれた。爆発によって突風まで巻き起こったバトル場に…勝敗はどうなったのか、そしてヒトカゲとライチュウは無事なのかとヒナとマチスは考えながら、じっと黒煙の中心を見つめる。やがてそれらが収まり、バトル場の光景がはっきりと見えるようになった。

 

…そして見えてきたのは2体が目を回し倒れている姿だった。その光景に口を閉ざし、拳を握りしめるヒナとピチューを見つめたマチスが声を出す。

 

 

「…審判!」

 

「あ、はい!…ライチュウとヒトカゲ共に戦闘不能。挑戦者のポケモンが2体倒れたことにより、ジムリーダーマチスの勝利!」

 

 

ヒナは帽子を深くかぶり、後ろにいるピチューを優しく抱きしめてからヒトカゲの元へ向かう。ヒトカゲはしばらくの間目を回していたが、ヒナに抱きしめられたことによって目を覚まし、勝負はまだ終わってないとばかりに立ち上がろうとする。でもそれを制したのはヒナだった。

 

 

『カゲ…カゲカゲ!!』

 

「もういいの…もういいのよヒトカゲ!…ありがとう」

『……カゲカ』

『ピィッチュ…』

「ヒトカゲもピチューも…本当に良くやってくれたわ。勝負を最後まで諦めなかった…私の指示がおいつかなかったし、ちゃんと努力が足りなかっただけ…だから、ごめんね」

『カゲ!カゲカゲ!』

『ピチュピチュ!!』

「違うって言ってるの?…ありがとうヒトカゲにピチュー…でも、負けちゃった」

『カゲ…』

『ピチュ…』

 

 

ヒトカゲにオレンのみを食べさせたヒナは、そのままピチューと一緒に抱きしめてありがとうと言う。その声に反応したヒトカゲとピチューはヒナの話を聞いていた。自分のせいだとヒナが自身を責めるような言葉を言うと、すぐに違うと言って首を横に振る。それを見たヒナはまた抱きしめてありがとうと言う。

でも勝負に負けたことに…そしてジムバッチを貰えないことに悔しいと言う気持ちはヒナたちにあった。帽子を深くかぶり、抱きしめられてるヒトカゲやピチューにしか、ヒナの泣きそうな表情は見えず…今は泣いては駄目だと自信に強くそう言いかける。ヒナも泣くのを我慢しているというのに、ヒトカゲやピチューが先に泣いたら駄目だと思っているからだった。でもそんなヒナたちに話しかけるのは、ライチュウを回復させて笑みを浮かべたマチスだった。

 

 

 

「no!…リトルガールもポケモンたちもよく頑張ったと思うぜ」

『…ライライ』

 

「…マチスさん…でも私たちは勝負に負けて…バッチをゲットするということができませんでした…」

『カゲ…』

『ピチュ…』

 

「ハッ!リトルガールは勝負には負けたが、バッチを渡さないとは言ってないだろ?」

『ライッチュ!』

 

「………………え?」

『カゲ?』

『ピチュ?』

 

ヒナ達は茫然としてマチスたちを見上げる。マチスはただ笑みを浮かべて、クチバジム認定のオレンジバッチをヒナたちに見せた。ライチュウ達もマチスの行動に笑みを浮かべ、ヒナたちを見つめる。

 

「ほら、オレンジバッチだ」

「…貰えないです」

『カゲ!』

『ピチュ!』

 

「What?怒ってるのか?」

『ライ?』

「当たり前です…私たちは勝負に負けて…それでバッチを貰える資格なんてありませんよ…!!」

『カゲ…!』

『ピッチュ…!』

 

勝負に負けたことは、バッチを貰えないということなのだとヒナたちは考えていた。むしろバッチを渡そうとするマチスの考えに怒りを覚えるほど、先程の勝負が無駄になってしまうではないかと感情的になりながらもそう考えていたのだ。ジム戦に挑んだからには勝負でバッチを受け取るのが普通だろう。でもマチスはそうじゃないと首を横に振って…そして力強く笑う。

 

 

「ジムリーダーは勝負に勝ったらバッチを渡すのが普通だが…相手を認めた場合も同じだ…つまりリトルガールを認めたってことさ」

『ライ』

「いえ…それでも私は…」

「okじゃあこうしよう。リトルガールがトレーナーになれる年齢になって…旅に出た時にまたバトルをしよう。その時までの再戦の証として持っていてくれ」

『ライッチュ!』

 

「…………………」

『……カゲ!』

『…ピチュ!』

「…ヒトカゲ、ピチュー…分かった」

 

 

ヒナはマチスを見つめ、考えていた。勝負をしたということでヒトカゲ達を認め、またバトルをしようという意味でバッチを渡すと言うことに…それでいいのか悩んでいたからだ。でもそれはヒトカゲとピチューが力強い声を出して頷いたことによって考えは変わる。バッチを受け取ると言うより、預かるといった方が良いかもしれない。勝負に勝ったとは言えないけれど、マチスからトレーナーとして認めたしまたバトルするから受け取れと言う言葉に…ヒナは頷いたのだ。ヒトカゲとピチューが次は絶対に負けないという覚悟を決めたことを見て、自分もその時に絶対に勝たなければと考えたのだ。だからこそ受け取った。

 

勝負に勝ったとは言えないけれど、次は絶対に負けないという覚悟として、預かっていることにしたのだ。

 

 

「…ありがとうございます!マチスさん、ライチュウ!」

『カゲカゲ!!』

『ピッチュ!!』

 

 

「いや、こっちこそ…サトシとの勝負を思い出す戦法を見せてくれて…Thank you!」

『ライッチュ!!』

 

 

ヒナとマチスは握手をして…そしてヒトカゲとピチューはライチュウと握手をして、次のバトルの約束をした。今度は絶対に負けないと言う覚悟をヒナたちが…そしてマチスたちは次も負ける気はないと言う好戦的な笑みを浮かべて考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







「………………」
『カゲカゲ!カゲ!』
『ピッチュゥ!!』


「うん――――――――帰ろう。マサラタウンへ」
『カゲ!』
『ピチュ!』




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