旅の途中で見つけたのは…。
こんにちは妹のヒナです。ハナダジムから一番近いヤマブキシティに行こうとしている途中です。ヤマブキシティのナツメさんは今までなら一番行きたくないジムとして選ばれていたようですが、兄と戦った後どうやら変わったみたいですので大丈夫かなと思ってます。クリアガイドの本にはその時の悲惨さが書かれていてちょっと怖いんですけどね。…まあ駄目だった場合何とか頑張って逃げます。そしてヤマブキシティのジムが駄目ならもしかしたら勝てるかもしれないというタマムシシティに行こうと思ってます。
―――――そんなことを考えて歩いている最中に、目の前に行き倒れで倒れている人とポケモンが見えて驚いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
『カゲ!?』
『ピッチュ!?』
『ポケモンの方は…怪我はしていないようですね。どうかしたんですか?』
ミュウツーは人間の方はともかく、ポケモンの方を気にしているようだった。やっぱりまだ人は嫌いなのかなとちょっとだけ苦笑しながら、私はその目を瞑って呻き声を上げている人間に向かって声を出す。でも聞こえてきたのはうめき声と…お腹が盛大になる音だけだった…。
『ライッチュゥゥ……』
『…なるほど、どうやらお腹が空いているみたいですね。人間の方も目覚めてしまうようですし……なら私はしばらく離れていることにしましょう』
「へ?!どこかへ行っちゃうのミュウツー!?」
『カゲ!?』
『ピッチュ!?』
『当たり前です。ポケモンはともかく、人間の前に姿を現すつもりはないのですから…ですが勘違いしないでいただきたい。私はただこの場から離れるだけで、あなたたちの旅から離れるつもりはありませんよ』
「そっか…分かった。ごめんねミュウツー…」
『カゲカゲ…』
『ピチュピチュ…』
『…いえ、分かっていただけたならそれで良いです。それに奴等と話をつけるいいチャンスですし……』
「へ?何か言った?」
『カゲ?』
『ピチュ?』
『いえ何も…では私は行きますね』
「うん分かった…ありがとうねミュウツー!」
『カゲカゲ!』
『ピチュ!』
ミュウツーは行き倒れになっているポケモン…ライチュウから話を聞いたらしく、お腹が空いていると分かり、私たちはすぐに食べ物を渡そうとリュックを開くために動く。だがミュウツーが離れると言ったため私たちは驚き、どうして行っちゃうのか問いかけた。するとミュウツーはそろそろ起き上がるであろう人間に姿を見られて騒がれるつもりはないと言い、また私たちから姿を見せないだけだと言ってくれた。
その言葉に迷惑をかけているなと罪悪感を感じながらも礼を言って、どこかへ行くミュウツーを手を振って見送った。
そして起き上がってきた人間とライチュウが私たちを見て言う。
「oh…I’m hungry.…」
『ライッチュゥゥウ……』
「あ、そうだった!今すぐお弁当出しますから死なないでください!!」
『カゲェェ!』
『ピチュゥ!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Thank youリトルガール!!」
『ライライ!!』
「ははは…まあお腹がいっぱいになったのなら良かったです」
『カゲカゲ…』
『……ピチュゥゥ』
「No!!まだ腹は減ってるぜ!!」
『ライッチュ!』
「ええまだ食べれるんですか!?」
『カゲ!?』
『ピチュ!?』
行き倒れになった人間とライチュウはタケシさんお手製の弁当をすべて平らげてしまった。お弁当といっても、人間用をその行き倒れになった人が食べ、ピチューが食べるはずだったポケモンフーズをライチュウがすべて食べたということである。
日持ちの良い…大量に作られた弁当だったと言うのにまさかすべて食べるとは思わず私たちは引き攣った笑みを浮かべてしまった。ピチューはライチュウにすべて食べられたタケシさんお手製のポケモンフーズが空になった箱を見てちょっとだけ嫌そうな表情を浮かべ、涙目になって私に抱きついている。それをライチュウが近づき、ピチューの頭を撫でて悪かったなと謝っており、少しだけ和んだ。
「俺はマチス!リトルガールが助けてくれなかったらそのままポケモンの餌になっていたかもしれないな!」
『ライライ…』
「マチ…マチスさん!?」
『カゲ…?』
『ピチュ?』
「What?」
『ライ?』
「あ、いやあの…クチバジムのマチスさんですか?」
「Oh!That's right!!俺がクチバジムのマチスだ!」
行き倒れになっていたのはクチバジムのジムリーダーのマチスさんだった。確かに見たことある顔だったし、身体も通常の大人より何倍もあったと感じた。それにライチュウがいたことにもデジャブがあったからなるほどと納得してしまった。…というより、私カント―地方からの原作の記憶も薄れてきてるよね…兄の電話内容がなければ分からなかったかもしれないと思った。そしてヒトカゲとピチューは私が言った言葉に驚き、何度もライチュウとマチスさんを見ている。ライチュウはその通りだと胸を叩いてヒトカゲとピチューに言っているようでまたヒトカゲ達は驚愕していた。
でも偶然だとしてもいいチャンスだと思えた。ジムリーダーが私たちの目の前で行き倒れになり、助けたと言う状況になっているのなら、ジム戦をしてもらうことができるかもしれないと考えたからだ。ある意味恩をバトルで売ってもらうような行為だけれど…それでもジムバッチの3つ目を手に入れるために仕方がないと決意する。
私は真剣な表情でマチスさんを見る。マチスさんは私の水筒の水を飲んでいて、どうかしたか?と笑みを浮かべて言う。
「あの…マチスさん…私はヒナ。ある勝負をしていて、ジムバッチを3つ集める旅をしてマサラタウンからここまで来ました。だからジム戦受けさせてください!!」
「ジム戦?No…俺はリトルガールからのバトルは受けないぞ」
『ライライ』
「何で…ですか!?」
『カゲカゲ!』
『ピチュピチュ!』
「もしもそれが本当だとしたら…その幼さで旅に出た度胸は認めてやる。でもリトルガールには俺のジムは無謀だ。他のジムを受けろ」
『ライライ』
「それは…見た目だけで弱いと決めつけていると言うことですか?それとも弁当の恩を返さないと…」
『カゲ!!』
『ピチュゥ!』
「No!!そんなわけないだろ!リトルガールには感謝しているさ。でも、そんなまだまだ進化も何もしていないbaby相手じゃ勝ち目ねえよ」
『ライライ』
「…………」
『カゲカゲ!!』
『ピッチュゥゥ!!』
つまり、マチスさんは私たちに親切心で言っているのだろうと思った。でもそれは余計に弱いから勝負は止めとけと言っているような内容だというのも感じてしまった。でもそれを聞いたヒトカゲとピチューが負けないと言うこと、強いんだと鳴き声を上げる。それはライチュウが肩をすくめたことによってただの負け犬の遠吠えのようになってしまった。だからこそ、私たちは悔しいと言う感情と、マチスさん達がこのまま頼み込んだとしても勝負を受けてくれないと言うことが分かって顔を俯かせた。ヒトカゲとピチューはいまだにライチュウを睨みつけているけれど、それは勝負ができないと言う諦めと、トレーナーになった時に勝負するからその時は覚悟しろよという決心のようにも感じてしまった。だからこそ、仕方がないと私たちはマチスさんと別れてから目標であるヤマブキシティに行こうと決意する。
だが、マチスさんが何かに気づいたような表情をして私に問いかけてきた。
「そういえばリトルガール…マサラタウンから来たっていったな?」
「え、はい…マサラタウン出身ですから」
「Oh…なら【サトシ】という少年は知っているか?」
「ああ…【サトシ】は私の兄です」
『…カゲカゲ』
『…ピッチュ』
「ほう…リトルガールのBrother…面白い」
『ライライ…!』
恐らくマチスさんは兄と戦ったことを覚えているんだろうと思った。いったい何をやらかしたんだろうと言う考えと…兄という言葉を聞いて興味を持ったという表情になったマチスさんに、もしかしたらと期待する。兄はカント―地方を旅に出る時から…ずっとやらかしまくっていたのは分かっているからだ。もしもマチスさんが兄について知っていて…そしてその強さに興味をもっているのだとしたら…【サトシ】の妹である私ともバトルできるのではないかと思ったのだ。年齢で判断するよりも…トレーナーじゃないからと考えるよりも、兄の非常識で圧倒的な強さを見てきたのなら、私とのバトルを受けてくれるかもしれないと思った。私は兄と違って一般のトレーナーと変わらない人間だからマチスさんに失望されるかもしれない。でも今はバトルできるきっかけがあれば何でもよかった。たとえ失望されたとしても…バトルを受けてくれれば、マチスさんに勝てればそれでいいと思えたのだ。それにマチスさんも兄のことを覚えていて、私に興味を持ったような表情でじっと見つめている。
そしてマチスさんは私の帽子越しの頭を撫でて力強く言った。
「OK!!リトルガールの勝負受けて立とう!サトシの妹であるリトルガールのバトルに興味を持ったからな!」
『ライッチュゥ!!』
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
『カゲ!カゲカゲ!!』
『ピチュピチュ!』
私たちは頭を下げてマチスさんの言葉を喜ぶ。ヒトカゲとピチューについてはバトルできるから絶対にライチュウに勝ってやると気合いを入れているようだ。なんにせよこれは全て兄のおかげだと考え、複雑な気持ちになりながらも、私たちはクチバシティへ向かうことになった。
妹の心境。
お兄ちゃんの妹でも私はそこまで強くない…でもマチスさんに勝てればいいんだから…!