妹にとっては【普通】だとそう心から認識している。
ヒトカゲが一撃で倒れてしまうほどの威力と強さを持つギャラドスの攻撃にヒナたちは戦意を失うどころかやる気に満ちていた。
普通だったら一撃で倒れてしまったことによる衝撃で戦闘意欲がなくなり、最悪な可能性だとギブアップするという事態もあり得たはずだったのだ。でもヒナたちはそれよりもヒトカゲが頑張ってくれたことを知っているからこそ、約束を必ず守ってこのジム戦に勝ちバッチを貰おうと奮闘していた。…つまり、この戦いは負けられないと思っているのだ。ヒトカゲが頑張ってくれた分絶対に勝とうと、ただひたすらそれだけを考えてピチューと一緒にやる気になってギャラドスを睨みつける。
そして審判であるサクラによって試合は開始され、ギャラドスが鋭い威嚇をして怖がらせてきた。ピチューは一瞬だけその威嚇を見て萎縮してしまったが、すぐにやる気を取り戻し、こちらも負けじと睨みつける。その様子を見たカスミは今までのギャラドスと戦っている時の挑戦者のことを思い出して…彼等との違いにさすがサトシの妹だと感心してバトルをするために口を開いた。
「ギャラドス、もう一度ハイドロポンプで倒しちゃいなさい！」
『ギャォォオオオオオ！！！』
「ピチュー尻尾を使ってジャンプして回避！」
『ピッチュゥ！』
ピチューが立っている場所はゆらゆらと揺れている不安定な足場だ。そのため身体の大きなギャラドスが動くとすぐに大きく揺れてしまうため、先程そのせいで思ったように回避ができずヒトカゲが倒れてしまった原因になってしまった。不安定な足場は時に動くことが困難になる妨害となってしまう。
だからヒナはピチューに向かって尻尾で足場に向かって叩きつけるようにジャンプしてと指示をしたのだ。普通にジャンプするのならば足に力を入れて不安定になっている足場から大きく飛ばなければいけないが、足場のことを気にせず尻尾をうまく使ったことでゆらゆらと揺れる足場から大きくジャンプすることができた。
それだけじゃない。ピチューは無意識で尻尾に電気を込めていたために大きくキラキラと光り輝きながらジャンプしたのだ。そのキラキラとした輝きは水滴と重なって煌びやかに光る。まるでハルカのアゲハントがやるアピール技のようだと…ピチューが尻尾に込めた電気は本当だったら必要はないはずだが、アピール技などがあったらすぐにやろうとするピチューだからこそやってしまった行動だろうとヒナは思う。
カスミとサクラはジャンプして電球の光と水場の水滴とピチューの電気が綺麗に光り輝く光景に、まるでピチューが星空の近くで踊っているようだと感じてしまった。サクラがその光景に綺麗だわぁと思わず呟いてしまったほどだ。そのため空中にいる間にピチューが引き起こした光景を見てくれていたため、足場に着地することができた。ピチューが再びギャラドスを見て警戒するため、ここはバトルなのだとカスミが気を引き締めて迎え撃つ。
「ピチュー、そのまま10まんボルト！」
『ピィッチュ！』
「ギャラドス、かえんほうしゃで防ぎなさい！」
『ギャァァアア！！！！』
ピチューの10まんボルトとギャラドスのかえんほうしゃが衝突して爆発した。その爆発は暴風のような状態になってしまったためにピチューが少しだけ飛ばされ、空中で回転しようとしてもがいて近くにあった足場に着地しようとしたというのに再び水面がゆらゆらと激しく揺れたために足場が不安定になり体勢が崩れてプールの水に落下した。でもピチューは泳げるためにすぐに足場に向かって泳ごうとする。それを見たカスミとヒナがお互い口を開いて言う。
「ギャラドス、今のうちに倒すわよ！あばれる！！」
『ギャォオオオオオオ！！』
「水なら電気が伝わる！ピチュー、そのまま10まんボルト！」
『ピチュゥゥゥウ！』
『ギャォォオ！！？』
『ピィッチュゥ！！？』
ギャラドスが暴れたことによってピチューがギャラドスの尾にぶつかり、ピチューの10まんボルトが水を伝ってギャラドスに当たった。つまりは両者相打ちの状態なのだ。そしてギャラドスが大きく暴れてしまったことでプールの水が大きく波打ち、ピチューは流され、溺れそうになる。それを見たヒナは大きく拳を握りしめ、何かを思いついたと言うような表情で叫んだ。
「ピチュー！？…そうだ、ピチューなみのり！」
『ピチュ…ピチュピッチュゥゥウ！！！』
「そんな！？…まだよ！ギャラドスかえんほうしゃ！」
「させない！ピチューなみのりしたまま10まんボルト！！」
『ギャォォオオオ！！！？』
『ピィッチュゥゥウウウ！！！』
「ギャラドス！！」
ピチューが必死に足場まで溺れかけながらも泳いでいるのを見て、ヒナが周りを確認する。ギャラドスが暴れたことによって波が大きくなっていることに気づき、これならマサラタウンで練習したなみのりができるだろうと考えてヒナが叫んだのだ。その叫び声に反応したピチューはうまく波を発生させた場所から泳いで、大きな波にタイミングを合わせて泳いでからなみのりを発動させた。
ピチューがなみのりを使ったことに驚いたカスミたちは驚愕の声を上げる。だが、カスミはまたすぐに反撃するためにかえんほうしゃの指示を出すが、ピチューの電撃を伴うなみのりに、水に浸かっていたギャラドスは電撃によって痺れ、かえんほうしゃを放つことができなくなった。そしてなみのりだけだとギャラドスは倒れないと考えたピチューはそのまま10まんボルトをほうでんのように放つ。電気によってキラキラと光る大きな波はギャラドスを飲み込んだ。
ピチューはそのまますぐに足場へ戻り、水中に潜っているであろうギャラドスを待つ。でもなかなか出てこないギャラドスにどうしたのかと待っていたら目を回した状態で浮かび上がってきて…勝利したのだと確信した。
「ギャラドス戦闘不能！ピチューの勝利！よって勝者はヒナちゃん！」
「やった？…勝った！！勝ったよピチュー！」
『ピチュピッチュ！』
ピチューが足場からジャンプしてヒナの元へ向かい、思いっきり抱きつく。勢いのある衝撃にヒナはピチューを抱きしめたまま一度身体ごと回転してしまったが、笑顔でやったね！と喜びあっていた。カスミはギャラドスをボールに戻し、お疲れさまと言って労わる。そして喜んでいるヒナ達の近くまで行き、話しかけた。
「ヒナちゃん…これ、約束のブルーバッチよ」
「ありがとうございますカスミさん！」
『ピッチュ！』
「良かったわねヒナちゃん」
「はい！」
「次にバトルするときは負けないから覚悟しときなさいよ？」
「う…分かってます！でも次も負けませんから！」
『ピチュゥ！』
ブルーバッチを見つめて、ヒナとピチューは気分が急上昇する。ようやく手に入れたジムバッチの2個目に、あともうちょっとでバトルできると考えていたからだ。次にジム戦するのは何処になるのだろうという気持ちもある。でも絶対に3個目のジムバッチもバトルで勝利してみせると意気込んだ。
「…あ、そうだ…ブルーバッチ、ゲットだぜ！」
『ピチュピッチュ！』
兄が良くしていたようにバッチを持って笑顔で決め台詞を言う。その声にピチューが反応してジャンプして鳴き声を上げた。今は休んでいるはずのヒトカゲのボールがゆらゆらと揺れていたからおそらく嬉しいのだろうと感じて、ヒナはまた笑顔になった。
ドォォオ…！
『――――――――――！？』
『―――――――――――！！？』
『―――――――――！！！！』
「あれ？…ミュウツー…ラティアスの声…？」
『ピチュ？』
「どうしたのヒナちゃん？」
「何か気になることでもあるの？」
「…いえ、なんでもないです……気のせいかな…？」
『ピィッチュ…？』
さてミュウツーたちは何て言ってたでしょう？