マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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始めるのはここから―――――――――。






第百八十一話~妹は負けたくない~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――砂煙がジムの室内に舞っている。ピチューとイシツブテの戦いが終わったからだ。電気技は効かず、圧倒的にイシツブテが有利だった。この後のヒトカゲでも同じようなものだろう。ヒトカゲはひのことえんまくしか技を覚えていないのだから…。

挑戦者とジムリーダーとのバトルは、ジロウが勝つのだろうと…タケシの家族が観戦席から見ていて…全員がそう思っていた。

 

 

 

「行くよ、ヒトカゲ!」

『カゲェェェ!!!』

 

 

「ヒトカゲ…イシツブテには有利じゃないポケモンだね」

『ラッシャイ!』

「私たちはそういうの気にしない…お兄ちゃんだって不利なポケモンでも戦って…余裕で勝ってきたんだもん…だから私たちは絶対に負ける気はない!」

『カゲカゲェ!』

 

 

 

ヒトカゲが強く咆哮を上げる。その声はまるでやる気に満ちている強い鳴き声でもあった。イシツブテがそのヒトカゲのやる気に満ちた声にまた声を上げ、ヒトカゲを倒すためにジロウを見て指示を待つ。ヒナはジロウが口を開くのをじっと見つめていた。

 

ヒナはピチューが倒されたときに見たある反撃方法を考えていたのだ。ピチューにはできなかった指示…たまごから生まれた時からずっと一緒にいるヒトカゲだからこそできるであろう指示であって…ある意味無謀ともいえるだろう考えだった。でもヒトカゲは一度ヒナの方向を見てから力強く頷き、大丈夫だという意志を示す。その様子にヒナも笑みを浮かべて頷いた。

そしてジロウはそれをすべて見ていた。ジロウはただ思い出していたのだ。まだジムリーダーじゃなかった頃に見たサトシとタケシの勝負を…あの時、弱点でもあるはずの岩タイプを相手にピカチュウだけで戦った電撃を…力強い一撃を思い出していた。ヒナとヒトカゲの強い絆が…まるでサトシとピカチュウのようだと感じていたのだ。

 

ジロウもまた笑みを浮かべて懐かしいという感情になりながらも口を開く。

 

 

「……イシツブテ、ころがる!」

『ラッシャィィイ!!』

 

「…ヒトカゲ大きくジャンプしてから回転して!」

『カゲカゲ!』

 

「何をやってるんだ?それだけじゃあまたイシツブテにやられるだけだよ!」

『ラッシャァァァア!!!!』

「分かってる…ころがるはジャンプしても避けられなかったっていうのはね…でもこれはどう?ヒトカゲ、向かって来たイシツブテを尻尾で叩きつけて!」

『カゲェェェェ!!』

「何…!?」

『ラッシャァァアアアッッ!!?』

 

 

ジャンプした後回転していたヒトカゲに迫ったイシツブテ。でもヒナはその様子に焦ることなく指示をする。回転していたために強い勢いのまま尻尾がイシツブテに向かって強打された。強打したイシツブテはそのまま地面へと激突し、ピチューが倒れた時のような状況が広がった。ただし予想していたこととは真逆で、あっけなく終わってしまったイシツブテの戦いに周りにいる皆がその様子を見て驚愕している。

 

ヒナはただ反撃をすることだけを考えていたのだ。イシツブテは転がっていき強い威力のある攻撃をしようとしたけれど避けたヒトカゲを追うためにジャンプをした。そのため勢いは多少弱まり、空中の高い場所にジャンプしていたヒトカゲにぶつかろうとしていた時はほとんど威力はない状態だった。それでもジムリーダーのポケモンだからこそ通常のポケモンより強い威力はあったけれど、ヒトカゲにとっては兄のポケモンたちによる強いたいあたりよりマシだと感じていたのだ。ピチューの時は避けるのに必死であまり大きくジャンプすることができず、低空で避けていた。つまり、ジャンプ力はあまりなかったのだ。だからこそ強い威力のまま直撃してしまい戦闘不能になったのだろうとヒナは考えている。

ヒトカゲは、ピチューとは違って長い間一緒に修行をしてきたからこそ、かくれんぼやおにごっこという伝説達や兄のポケモン達との死闘のような修行をしてきたからこそその力は強く、スピードも倍以上あった。だからヒトカゲは回転してさらに威力を強めたまま、やって来たイシツブテを回転した反動で叩き落とし、カウンターのように地面へと激突させることができた。

土煙がまたバトル場に舞う。そして見えてきたのはイシツブテが倒れているという状況だった。

 

 

「っ…イシツブテ戦闘不能!ヒトカゲの勝ち!」

 

「ありがとうヒトカゲ!」

『カゲカゲ!』

 

「…ただのたたきつけるというポケモンの技ではなく、状況を判断して行った力…か…」

「ジロウ」

「分かってる。タケシ兄ちゃんの言うとおりだ…幼いからと油断していたよ。これからは挑戦者とみて、ちゃんと本気出して戦おう…ハガネール!!」

『イワァァアアア!!!』

 

 

 

状況を判断して反撃してきたヒナとヒトカゲにジロウは幼いからという認識を止めたようだった。たとえサトシの妹だとしてもまだまだ幼いヒナにトレーナーとしての力はないと考えていたのだ。でもその考えは違っていた。ただポケモンの技で攻撃してくるのではなく、身体を使った攻撃をしてきた。ポケモンの技でなくてもバトルはできるというサトシの行動と似たように、予想外なやり方で勝利を手にしたのだ。だからこそジロウは本気で戦おうと考えていた。そしてその考えからボールに出したハガネールもジロウの感情を感じ取ってやる気を出した鳴き声を上げる。大きな身体のハガネールはヒトカゲと比べてとても迫力があった。ハガネールは火に弱いタイプだ。だがジロウはただひたすらハガネールで全力を出して戦いたいと考えていた。岩タイプに弱いピチューやヒトカゲで全力で向かって来たからこそ…ジロウも同じように戦いたいと思ったのだった。

タケシはそれを見て少しだけ苦笑していた。普通だったらここで火に強く、頑丈なポケモンをジロウが出していただろうと考えていたからだ。でも予想とは違ってジロウはハガネールを出してきた。それはヒナたちのバトルを見たからこそ…ある意味彼女たちのバトルスタイルに影響が出て火に弱くても戦ってもらいたいと感じたのだろうと思っていた。

そしてそんな迫力のあるハガネールにヒトカゲは怯えることなく睨みつけ、攻撃してきたらすぐに避けようと体勢を整えていた。

 

そしてタケシの試合開始の合図を両者とも待つ。どう戦うのか、どう勝利していこうかと考えながらも。

 

 

「…ではこれより、ヒトカゲ対ハガネールの試合を開始する…試合開始!」

 

「ハガネール、りゅうのいぶき!」

『イワァァアア!!!』

「ヒトカゲ、ダブルひのこ!」

『カゲェェェエ!!!』

 

ハガネールのりゅうのいぶきとヒトカゲのひのこが試合開始とともに衝突する。ひのこの威力はかえんほうしゃよりも劣るが強く、りゅうのいぶきとなんとか拮抗していた。そしてハガネールとヒトカゲの放った技は衝突したことによって爆発し、大きな黒い煙を巻き起こす。爆発によって大きな風も起きたが、ヒトカゲとヒナはただ前を見てハガネールの攻撃に当たらないように注意していた。

 

「ハガネール、アイアンテール!」

『イワァアア!!』

「じっと見て…左に避けてからもう一度ひのこ!」

『カゲェェ!』

『イワァァア!?』

 

「大丈夫かハガネール!…よしヒトカゲに向かってしめつける!」

『イワァァアアア!!!!』

「避けてヒトカゲ!」

『カゲェ…!?』

「ヒトカゲ…!!」

 

迫力のあるハガネールがヒトカゲに勢いよくやってきて、力強いアイアンテールが放たれる。その威力はまるでポケモンの攻撃にある【じしん】のように地面を揺らすほどの力強い威力のあるものだった。そしてそんな普通のポケモンから見たらすぐに逃げそうなハガネールの迫力を恐れず、ヒトカゲはじっと前だけを見てヒナの指示を聞き、ハガネールの攻撃を左にジャンプして避けた。そしてジャンプしたままハガネールに向かってひのこを放つ。

ひのこに直撃したハガネールは大きく身体を反らせて叫び声をあげた。鋼タイプなハガネールだからこそヒトカゲのひのこは効果抜群だったのだ。でも倒れることなくヒトカゲを睨みつけ、ジロウの指示に従って尻尾を巻きつけてつよくしめつけた。避けようとしたヒトカゲだったが、アイアンテールを避けてジャンプしていたために空中で避けられることなく、そのままヒトカゲはハガネールに締めつけられた。

苦しそうな声を上げるヒトカゲに、ヒナはただ拳を握りしめ、前を向いて大きな声で叫んだ。

 

「っ!…頑張ってヒトカゲ!もう一度ハガネールに向かって≪猛火の炎≫!!!」

『カゲ……カゲェェエエ!!!』

 

『イワァァアアアア!!!!?』

「ハガネールッ!…しめつけるを解除して離れろ!もう一度りゅうのいぶき!!」

『ッッ!!』

 

「逃がしちゃ駄目よヒトカゲ!もう一度ひのこ!」

『カゲェェエエ!!!』

 

 

しめつけられたままのヒトカゲが、ハガネールの顔に向かって力強い大きな炎を放つ。締め付けていたために直撃したハガネールは悲鳴を上げていた。ジロウはその声を聞いてすぐにヒトカゲから離れ、りゅうのいぶきで攻撃するように言うが、逃げようとするハガネールを追ったヒトカゲはヒナの指示を聞いてひのこを放った。その大きな炎によってハガネールはまた悲鳴を上げ…そしてその大きな身体が地面に倒れ込んだ。攻撃することなく、あっけなく倒れてしまったのだ。いや、あっけないと感じているのはバトルが終わったからこそだろう。実際にはヒトカゲの方も大きなダメージを負っていた。ハガネールと同じく…ハガネールの強い威力のある技を受けてしまったからこそ倒れそうになっていたのだ。

でもそれを踏ん張り、何度も直撃した炎の攻撃だったからこそ…ハガネールにとって弱点だった炎だからこそできた勝利だと、ヒナは感じていた。

 

 

「…ハガネール戦闘不能。ヒトカゲの勝利!よって勝者、挑戦者ヒナ!」

 

 

「やった…やった!!ヒトカゲやったよ!」

『カゲェ!』

『…ピッチュ』

「ピチューもほら頑張った!ありがとうヒトカゲにピチュー!」

『カゲカゲ!』

『ピチュピチュ!』

 

 

「…ヒナちゃん。よく頑張ったね…勝者の証であるグレーバッチだ」

 

 

「ありがとうございますジロウさん!」

『カゲ!』

『ピチュ!』

 

「あ、えっとこんな時は…グレーバッチ、ゲットだぜ?」

『カゲカゲ!』

『ピチュピッチュ!』

 

 

すぐに負けてしまったために落ち込んでいたピチューだったが、ヒナとヒトカゲの励ましによって元気を取り戻し、すぐに勝利したことを喜ぶ。そしてジロウがハガネールをボールに戻し、バッチを持ってヒナに渡してきた。その証であるグレーバッチは、ある意味ジムリーダーに勝った印であり、ヒトカゲとヒナ…そしてピチューの絆の強さの証明にもなった。

 

ヒナは兄が旅してきたとき、よくジムリーダーに勝利してバッチを貰っていた時に言うセリフを思い出してそれを声に出して言う。そしてその言葉にヒトカゲとピチューも兄のピカチュウのように一緒になって声を出して喜び合った。その様子を微笑ましそうに見ていたタケシたちであったが、タケシが一度真剣そうな表情をしてからヒナに近づく。

 

「ヒナちゃん…君はこれからどうするんだ?」

「え…えっと。これからカスミさんのいるハナダジムに行こうと思ってます」

『カゲ!』

『ピチュ!』

 

「そうか…なら俺もハナダシティまで一緒に行こう!」

「え…でもタケシさんは確かポケモンドクターを目指しているはずですよね?忙しいはずなのに…私たちの旅に同行しなくても…」

「大丈夫!これから俺の行く場所もハナダシティだ…それにヒナちゃん達をそのまま放っておくだなんてことできないからな」

「タケシ兄ちゃんの料理は美味いから。一緒に旅してもらった方が安心だよ」

「タケシさん…ジロウさん…ありがとうございます!」

 

タケシはヒナたちと一緒に旅をするということを決心したようだった。タケシは頷いてくれたことに安心していた。タケシがハナダシティに用があるということを口実にヒナ達と一緒に旅ができる。その事実にタケシを含めて皆が安心したのだ。

それは、ヒナ達だけで旅をするということが心配だったから…そして森の中で出会った時に見た栄養バーときのみだけという食事の内容が酷かったからこそだろう…。たとえサトシが伝説たちに見守っておいてくれという話をしていたとしても、幼いヒナたちを放っておくことはタケシたちにはできなかったのだ。

ジロウもタケシたちの様子を見て、心配になって一緒に行こうかと思っていたが、ニビジムのジムリーダーとしてやらなければいけない仕事があるため旅に同行することはできないという考えもあった。少しだけ残念に感じていたが、タケシがいるなら大丈夫だろうと言う安心感もあったのだった。

 

 

「…ああそうだ。サトシに連絡しなくちゃだな」

 

 

小さな声で言った言葉は喜んでいるヒナ達には届かない。サトシに言わなければいけないのは、子供たちとの勝負の条件と、ニビジムのジムに勝利したということ。そしてこれから一緒にハナダシティに行くということだった。

おそらくサトシはジムリーダーに勝利したことに喜んでいいのか子供たちとの理不尽な勝負に怒っていいのか微妙そうな表情を浮かべるだろうとタケシは長年一緒に旅をしてきたからこそ分かる予測をして、小さく笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「…あ、そうだ。ヒナちゃん!これあげるわ!」

「ばぶぅ!」

「えっとこれって…帽子?」

『カゲ?』

『ピチュ?』

 

 

タケシの妹達が出発しようとしていたヒナたちを連れて部屋に戻って、ある帽子をヒナに渡した。その帽子は赤い模様が特徴の白い帽子だった。その帽子を渡した妹であるヨモコ達が笑みを浮かべてヒナに向かって口を開く。

 

「旅をするならサトシさんみたいに帽子をかぶったらどうかなって思ったの。それにこれ絶対にヒナちゃんに似合いそうだし…旅の餞別としてもらっていって!!」

「そんな…悪いですよ…!」

『カゲ…』

『ピチュピチュ!』

「大丈夫よ。この帽子誰も使ったことないし…ヒナちゃんに似合うと思うから使ってほしいの!」

「そ…う…ですか?」

「そうよ!」

「ばぶぅ!」

「私たちはヒナちゃんにあげたいって思ってるの!だから遠慮しないでもらって!!」

 

 

ヨモコ達はニビジムで圧倒的強さを見せたサトシさんのように戦おうとするヒナにつけてほしいと心底思っていたのだ。それはバッチを手にしたことを祝うためでもあり、あと2つのジムに勝ってほしいという願いを込めて渡したかったのだ。ヒナは貰えないと言うのだけれど、ヨモコ達は無理やり頭にかぶらせて似合うから貰ってと言ってそのまま返させないようにした。

 

ヒナは少し戸惑っていたけれど、そのヨモコ達の好意に笑顔で頷き、ありがとうと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 





妹の恰好は帽子をかぶったことによってファイアレッドリーフグリーンの女主人公の方を幼くした感じになりました(ただし男主人公が持つ大きなリュックを背負っている)


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