勝負をするための旅ができるよう、妹は全力で挑む。
こんにちは妹のヒナです。
これからタケシさん達に頼むことは怒られるか冗談だと思われるか…そのどちらかだと思いながらも気合いを入れて私はヒトカゲ達と一緒に頭を下げた。
ここで言い訳をしたらジム戦ができるのかどうかわからない…昨日、タケシさんに親切にしてもらった分嘘はつけないと…良い言い訳が思いつかず、無駄に何かを言わない方がいいと思っているからこそ、私たちは言い訳をせず、直球で頼み込んだのだ。
「お願いします!ジム戦させてください!」
『カゲェ!』
『ピッチュゥ!』
「ヒナちゃん…?」
「…ヒナちゃん。君は今何を言っているのか分かっているのか?」
「分かってる…分かってて私たちはここまでやって来たの!!」
『カゲカゲ!』
『ピチュピチュ!』
「……………………」
頭を下げる私たちにタケシさん達は困惑していた。まあ当り前だと思う。私のような年齢が幼くてまだトレーナーにもなれない子供がこうやってニビシティまでやってきて無茶なことを言っているのだから。
トレーナーになってからジム戦すればいいという声には今じゃないと駄目なんだと首を横に振って否定し、何があったのかと聞かれたら口を閉ざした。これは私達の問題であって…おそらく私たちのバトルについて話をしてしまったらタケシさんからマサラタウンにいる皆に…そして兄に話されてしまうだろうからだ。ここで言い訳をしてしまったらそれは嘘になってしまうかもしれないということも考えていた。だからこそ私は口を閉ざす。兄たちに知られないように…兄たちに知られるということはつまり私たちの力で解決することができなくなるのと同じことだった。だからこそ私たちは何も喋らず、ただひたすらジム戦をしてくださいとそう言い、頭を下げ続けた。
やがて、仕方がないという表情でタケシさんが私たちに優しい声で話しかけた。
「ヒナちゃん…ジムバッチが必要ということと理由を喋りたくないのは分かった。けれどそれだけだと俺たちは…ジロウはバトルを受けるつもりはないよ…ちゃんと話してもらわないと俺たちは何もできないんだ」
「……………でも私たちは自分でやらないといけないから…お兄ちゃん達が聞いたら絶対に解決しそうだから…」
『カゲェ……』
『ピチュゥ……』
「…分かった。サトシ達にはヒナちゃん達の行動を邪魔しないように言っておこう…だから話してごらん?何があったのかを…」
「……分かりました」
『……カゲ』
『……ピチュ』
タケシさんの声は優しく…まるで説教する母や兄のように私に問いかけてきているようだった。確かに迷惑をかけ過ぎたという感情はあるし、罪悪感もある。マサラタウンでは私たちがいないことで絶対に酷い状況になっているんだろうなという考えがあるぐらいだ。私たちのことを心配しているポケモン達、人間たちがいると言うのも分かっていた。
…怒られるのは覚悟の上で行動してきたけれど、今ここで何も話さなければタケシさんたちはジム戦を受けてくれないだろう。このままマサラタウンに連れ戻される可能性があるだろう。そう感じたからこそ私たちはお互いに顔を見合わせて考える…。
タケシさんは兄たちに邪魔をしないように言ってくれると話してくれたし…それを信じてみようと考え私は重い口を開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…そうか。その子供たちにジムバッチを3つ集めてこいと…」
「……………マサラタウンに連れ戻されたとしても…たとえジム戦が受けられないとしても、私たちは絶対に3つのバッチを集めます。タケシさん達には本当に迷惑をかけています…けれど私たちはこれだけは譲れない…!」
『カゲェ!』
『ピッチュゥ!!』
「…いや、だがそれは無茶というものだ!」
「でも…!」
『カゲカゲ!』
『ピチュ!』
「…いいよ。ジム戦受けても」
「ジロウ…!?」
私たちの言葉と行動にタケシさんたちは苦笑していた。おそらく兄のぶっ飛んだ行動と似ていると思ったのだろう。兄の暴走に近い行動だと思っているのだろう。
普通なら3つのバッチを集めろと言った時点でその勝負は止めているはずだ。それなのに私たちはその勝負を受けようとしている。ジムバッチを3つ集めろという条件も…相手はジムリーダーに勝ったことがある強いポケモンで挑むと言う不公平な勝負にも…何も言わずにその約束を守ろうとして行動していることにタケシさん達は驚き、呆れている。
でも私たちは止めるつもりはない。あの三人組がヒトカゲやピチューを弱いと嘲笑ったことに対する認識を改めてもらうために…ジムバッチを3つ集めることができるという条件をすべてできてこそあいつらに心の底から謝ってもらえると思っているからだ。いつもだったらこのようなトラブルがあったとしても、兄たちが…兄のポケモン達や伝説達が私たちを守ろうとするだろう。でも今回だけは許せなかった。ヒトカゲやピチューは弱くないという認識をすべて撤回してもらう…そのために私たちはニビジムにやって来たのだ。
でもタケシさんたちは微妙そうな表情を浮かべていて…もしかしたらこのままジム戦を受けてくれないのかもしれない。そうなったら他のジムに行かなければと思う。もしも連れ戻そうとしたらすぐに逃げようという考えも出てきた。それぐらいタケシさんは微妙そうな表情をしていたのだ。タケシさんは兄と一緒に旅をしてきて…そして私達も話をしたことがあったしかなり良い人だからこのような無茶を言ったとしても私たちの言葉に納得し、仕方がないと言って挑戦できると思った。タケシさんと知り合いだからということ、兄の暴走をすべて見てきたタケシさんだからこその行動だった。でも駄目ならば他のジムへ行こう…なんとしても3つのジムバッチをゲットしなければいけないのだから。…そう思っていたら、ジロウさんが私たちに近づいてジム戦を了承してくれた。その表情は力強く、ジムリーダーとしてのやる気に満ちていたのだ。
そしてジロウさんの言葉にタケシさんが驚いていて…ジロウさんがタケシさんに向かって口を開いた。
「ヒナちゃんのトレーナーとしてバッチを集めて戦うという覚悟と度胸を認めただけだよ。でもこれだけは約束してほしい…トレーナーになった時にまたバトルしてもらうということを」
「ジロウさん…もちろんです!」
『カゲカゲ!』
『ピチュピチュ!』
「…はぁ。仕方がないな…じゃあジム戦の審判は俺がしよう!」
「いいんですか…ありがとうございます!」
『カゲェ!』
『ピッチュ!』
ジロウさんの言葉を聞いて、タケシさんも仕方がないと納得したらしい。小さくため息をついていたけれど、タケシさんがジム戦をしてもいいということ…そして審判をするということを言ってくれた。だから私たちはその言葉に喜び、また深く頭を下げる。ジロウさんやタケシさんの手が私たちの下げた頭を撫でていく。頭を下げているために表情は見えないのだけれど、おそらく苦笑していたのではないかと思った。
・・・・・・・・・・・・・・・
「では、使用ポケモンは2体。ではジムリーダーと挑戦者、2対2の試合を開始する……試合開始!」
「行くぞイシツブテ!」
『ラッシャイ!!』
「よし…行くよピチュー!」
『ピッチュゥ!』
「…でんきタイプは無力だというのにピチューできた…ね。ピチューとヒトカゲしかいないとしても、やっぱりサトシさんに似てるのかな?」
ジロウさんがイシツブテに対してピチューを出してきたことに面白そうな表情を浮かべている。でもまあピチュー以外だとしてもいわタイプに弱いヒトカゲがいて…ある意味ジロウさんとの戦いはやばい状況だと思っているんだけどね…でもそれはジロウさんは知っていることだ。私たちのポケモンも…その苦手なタイプのことも…。そして私たちはそれを知っていたとしても、何としてもジムバッチを貰うためにやって来たんだ…!
「ピチュー…まずは回り込んで!…10まんボルト!」
『ピッチュ!』
「速い!?……でもイシツブテには電気技は効かないよ!」
『ラッシャァァ!!』
イシツブテにはピチューの10まんボルトは効かない。それは知っている。でもジロウさんはピチューのスピードが想像以上に早いということに驚いていたらしい。ピチューの10まんボルトを跳ね除けたイシツブテを見て…私は指示をするために口を開く。
「…できるピチュー?」
『ピチュ…ピッチュゥゥゥウ!!!』
「……イシツブテ、ころがる!」
『ラッシャイィィ!!!』
「ピチューいったん回避に動いて!大きく右にジャンプ!」
『ピチュ!』
ピチューがまだ未完成なアイアンテールを何とかイシツブテに向けて発動させようとするがうまくいかない…それをみたジロウさんは何も反応せずイシツブテに攻撃を指示する。凄まじい勢いと力強い威力のあるイシツブテのころがるにアイアンテールをしようとするピチューがその攻撃を受けそうになったが、すぐに私の声に反応して右にジャンプした。
私はピチューがアイアンテールを覚えていないということが致命的なのだと感じていた。ピチューは電気技が主であり…スピードは兄のピカチュウに比べると遅いが、一般的なピチューよりも速い。それこそ普通のピチューがでんこうせっかするぐらいの速さで反応することができたことに…これは私たちが修行をしてきた成果なのだと感じていた。ピチューの努力が速さとなって表れたのだ。
だからとにかくまだ発動できないアイアンテール以外にも電気技で攻撃していく。アイアンテールができなくっても…兄のピカチュウも電気技でイシツブテを倒したと聞いたからこそ、無理だと思っていても諦めるつもりはなかった。
「ピチュー…回転式10まんボルトよ!」
『ピッチュゥ!!』
「アイアンテールができなくっても、電気技でダメージを押し通すのよピチュー!」
『ピッチュゥゥウウ!!』
「ッ…さすがはサトシさんの妹…でもそれじゃあ倒せない!イシツブテ、もう一度ころがるだ!」
『ラッシャイィィイ!!!』
「やばい…ピチュー後ろに下がってそのまま左にジャンプ!」
『ピチュ!…ピチュ!?』
「おっと、それは無理だよ…!」
『ラッシャイ!』
「ピチュー!!?」
『ピッチュゥゥ!?』
ピチューの回転式10まんボルトはほうでんのように周りに影響が及ぶ技である。10まんボルトが効かないとしてもある程度のしびれは出てきている…はずだと考えながら…とにかくダメージを増やしていくために攻撃の手を休めない。
でもジロウさんはただ感心しているだけで、焦ったような表情は浮かべていなかった。
ピチューがまた避けようとしたのを予測したのか、イシツブテがジャンプして避けたピチューを追って、空中で大きな衝撃と共にピチューがイシツブテの攻撃に当たってしまう。その衝撃は強く、地面にピチューが叩きつけられるほどだった。叩きつけられた衝撃で土煙が舞い、イシツブテ達が隠れてしまう。
そして大きな砂煙の後、見えてきたのは、イシツブテとピチューの試合の結果だった。
タケシさんがその様子を見て口を開く。
「…ピチュー戦闘不能!イシツブテの勝ち!」
「…ピチュー…頑張ったね。本当にありがとう!」
『ピッチュゥ…』
「しばらく後ろで休んでて…本当にありがとうねピチュー」
『ピッチュ…!』
「絶対に負けるつもりはない…行くよヒトカゲ!」
『カゲェェェ!!』
ピチューが倒れてしまった今、私はヒトカゲで戦うしかない。
でも、ピチューが負けたからと諦めるつもりはないし、頑張ったピチューの分まで戦うと余計にやる気が出てきたぐらいだ。ヒトカゲも頑張ったねとピチューの頭を撫でてから、私の声に気合十分の咆哮を上げた。イシツブテにも…次に来るであろうポケモンにも絶対に負けないと、私とヒトカゲはやる気に満ちていた。
To be continued.