悪党というのは何処にでもいる。
「…へぇ」
『…ピィカ』
「そのツンとした表情もかっこいいわサトシ…!」
「セレナ…いえですがこれはサトシでなくても苛立ちますよ!」
「そうだよ!コフキムシたちを捕まえて…ビビヨンにしてから売るだなんて許せない!ポケモンは商品じゃないのよ!」
『デネデネ!!』
こんにちは兄のサトシです。ちょっと今苛立ってます。
だがそれは後にしよう…俺たちはしばらく前、ミアレシティにいた時にシトロンはハリマロンと気があったのか一緒に旅に連れてけという願いを叶え、そしてセレナがサイホーンレースの選手だったということで飛び入り参加ができるレースに俺たちも参加することになりいろいろと教えてくれたりした。まあ他にもトラブルはたくさん起きていたけどそれらについてはまだ問題ないと言っておく。
…妹に関してもタケシから連絡があって詳しい事情を知ったことで妹達は大丈夫だと分かったし安心しているからな。タケシから連絡があった時にこれから妹達はニビシティを出発すると言っていたから、トラブルが起きたり連絡がつかなくなったりするのは心配だが…やるべきことはやったし大丈夫だろうと考えておく。
そしてそんな旅の途中で出会ったのはコフキムシだった。コフキムシはある人間に捕まっていて…偶然逃げ出すことができたんだけどポケモンセンターに連れて行かなければならないほど弱っていて…そしてその後やって来たジュンサーさんから話を聞くことができた。…というかジュンサーさんも俺のことを知っていて驚いたんだけど…俺ってそんなに有名なのか…。まだそこまで有名になるつもりはなかったんだけどな。
「あら?そのコフキムシ…なんだか落ち着きがないわね?」
「え…」
『ピィカ?』
『フッフフフ…フゥゥウ!!』
「これは…進化ですね!」
「わぁ!私目の前で進化見たの初めて!!」
『デネデネ!』
コフキムシがコフーライに進化したことに周りにいる皆が驚き、そして喜んでいた。ポケモンが進化することが誰であれ嬉しいものだよなと思いながらも、コフーライが元気そうにこちらを見ている表情に笑みを浮かべる。
そしてユリーカが進化について知りたいと言ったものだから、進化には一定の条件、つまりレベルで姿形が変わるということ、そして石や場所によって変わるポケモンもいるということを教え、その後進化を拒むポケモンがいるということも教えていった。
「進化を…拒むの?強くなれるのに?」
『デネ?』
「それは興味深い話ですね…」
「サトシは…そんな状況を見たことがあったの?」
「ああ、例えば俺のピカチュウもライチュウに進化するのを拒んでるし…他にもマサラタウンには進化したくないってポケモンはいるぜ?…ヒナのピチューも進化を拒んでるしな。だからこそ、ポケモンすべてが進化したいって思ってないこと、必ずしも進化させていいというわけじゃない。ポケモンの意志を優先して…進化したくなければその通りにしてやらないといけないんだぜ」
「そうなんだ…分かった!」
「僕たちはポケモンと一緒に助け合って生きていますからね…ポケモンの意思を尊重するのは大切なこと…勉強になりました!」
「うん!サトシの言ってること…本当に凄いって思うし、私もポケモンの意志をちゃんと聞いて、進化したいのかどうか一緒に考えていくね!」
「おう」
『ピッカ!』
シトロンやユリーカは初めて聞いたという表情を浮かべていて…これからはちゃんとポケモンの話も聞くようにしようと決意をしたらしい。セレナは俺に向かって頬を赤くしながらもしっかりと頷いてポケモンの進化にも一緒に考えていこうと決めたらしい。とりあえずトレーナーとして…これからセレナたちがポケモンを無理やり進化させようとは考えないだろうと少しだけ安堵した。トレーナーとポケモンは助け合って生きていかなくちゃいけないからな…仲間となったセレナたちがトレーナーだけの都合でポケモンを振り回すだなんてことをしてほしくはないと思っていたからこそ、良かったと感じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あれ…これは…?」
「どうしたシトロン…ってこれって機械…か?」
『ピィカ?』
シトロンがコフーライに何かをついているのを発見して、それを取る。そしてシトロンがちゃんと確認したところ、電波を確認するチップ…つまり、発信機だということが分かった。
そしてこれはポケモンバイヤーであるあの悪党がポケモンを逃がさないようにつけていたという証拠になっていて…とりあえず近くにいるのならぶっ飛ばすと窓から外の景色を見る。
まあ外の景色は同じだけれど、何かあればすぐにわかるようにしておいた方がいいとピカチュウを見る。俺はピカチュウに何か激しい音などが聞こえたらすぐに対応するように頼んでおいた。ピカチュウも力強く頷いており、ポケモンセンターに来た場合はすぐに捕まえることができるだろうと考えていたぐらいだ。
コフーライは自分の仲間が捕まっていることに心配そうな表情を浮かべていた。ポケモンバイヤーを今ここで捕まえたとしてもコフーライ達を逃がさなければ意味がないと考える。たとえ戦意喪失するぐらいフルボッコにしたとしても…ちゃんとそのアジトの場所を教えるかどうかは分からない。…いや、恐怖で言ってしまう可能性の方が高いとは思うけれど、念には念を入れておこうと感じた。アジトを見つけてフルボッコにしようという考えで行こうと思った時にセレナが思いついたという表情で口を開く。
「そうだわ!…囮を回収させて、そのチップが発信する電波をつけていけば…奴のアジトを突き止めることができるんじゃない?」
「なるほど…!では僕の出番というわけですね!!」
シトロンがなにやらコフーライのついていた発信機をたどる装置を発明したらしいけれど…それって大丈夫なのかとちょっとだけ心配になった。いつも最後の最後には発明した機械が爆発することが多いため…いやでもまあ何とかなるかと俺とピカチュウは顔を見合わせて苦笑した。
そしてその後、コフーライに進化したと言うことでポケモンバイヤーが罠ではないかと考える恐れがあることについての話になり…セレナが言ったように囮の話になった。捕まえたコフキムシがコフーライに進化したとで他のポケモンがコフーライに変装しても、ばれることはなくただ進化したと考えるだけだろうと言うことで罠の可能性については無問題だと分かったけれど、囮を誰がやればいいのかということ、またコフーライに囮をやらせるのはできないということで皆が悩む。
「どうしよう…コフーライには囮でまた危険な目に遭わせるのはできないし…」
『ピカピカ!ピカッチュ!!』
「…ピカチュウ。やってくれるのか?」
『ピカピ!ピカッチュゥ!!』
「大丈夫なのピカチュウ?」
「危険な目に遭う可能性もあるのですから…それでも平気ですか?」
『ピッカァ!』
「ピカチュウがやりたいって言うんなら俺は止めないぜ…アジトに着いたら暴れてもいいしむしろフルボッコにしてほしいぐらいだ」
『ピカピカ!ピッカッチュゥ!!』
「頼んだぜピカチュウ」
『ピッカ!』
「あ、なら私がピカチュウを立派なコフーライにしてあげるわ!!」
「よ、変装の天才!」
『デネデネ!』
「ふふ!私に任せなさい!」
ピカチュウがやる気を出したようでコフーライに変わって自分が囮になると言ってきた。シトロンやセレナ、ユリーカが大丈夫なのかと心配していたけれど、ピカチュウの殺る気に満ちた表情に大丈夫なのだろうと悟ったのだろう。…ジュンサーさんが引いた表情をするぐらいには気合いに満ちていた。セレナたちは俺たちと旅をして慣れたのかちょっとだけ暴れたとしても動じない。だから、ジュンサーさんのような反応が少しだけ懐かしいと思えた。…まあいいか。
とにかく、俺はピカチュウを止めるつもりはないし、むしろピカチュウがアジトに行って、即電撃で倒してしまえば大丈夫だという気持ちがあった。俺の相棒で信頼できるピカチュウならやり遂げてくれるだろう。
セレナがやってくれたことは白い布をコフーライの模様などに似せて…そしてピカチュウに被らせるというやり方だった。白い布や黒い布…他にもいろいろと布を出して重ね合わせて針で糸を通したり、目となる部分にはピカチュウがちゃんと見えやすいように穴をあけていたりした。手伝った方がいいのか話しかけたら大丈夫すぐに終わるよと言う返事が来て…あっという間にコフーライの布を被ったピカチュウという状態になった。
「よし。これならいけるな…!」
「ええ、我ながらうまくいったわ!」
「あとはあの檻の場所まで戻る必要がありますね…探してなければいいんですが…」
「大丈夫だよ!絶対にうまくいくからね!」
『デネデネ!』
『ピッカッチュ!』
『フフィゥゥウ!』
その後、檻に変装したピカチュウを入れて、俺たちは近くにあった草むらに隠れる。でも後ろから来る可能性を想定して草が多く茂っている場所で隠れていた。そしてしばらくしたらポケモンバイヤーであるダズがやってきて、檻ごと回収していった。
―――その後はまあいつも通り発信機を追っていたのだがシトロンの機械が壊れて爆発してしまい、途中で見失ってしまったり、ヤヤコマに頼んで空からアジトを見つけてもらったりした。
そしてようやく見つけたアジトでは、かなり凄まじいことになっていたようだった。
「見つけた…!」
「……ってあれ?気を失ってるみたいね?」
「ピカチュウがやったんでしょうか?」
「でもこれで解決したんだよね…!」
『デネ?』
「ピカチュウ、平気か?」
『ピカピ!ピカピカ!』
ピカチュウはコフーライの変装を解いていて…そして近くにはポケモンバイヤーのダズやポケモンのホルードが気を失っていた。おそらくピカチュウがやったんだろうけど…さすが俺の相棒だと思えるぐらい周りが凄まじい惨状になっていた。
アイアンテールで攻撃したのか…地面が抉れており、まるでじわれのような状態になっている。そしてピカチュウの電撃によって焼けた跡が残り…そして木々が何かの衝撃で折れた状態になっていた。でもシトロンやユリーカ、セレナはそんな光景よりもコフキムシやコフーライ達が無事なことに喜んでいたりする。
「…良かったなコフーライ」
『ピカピカ!』
『フフィフゥゥウ……ビヨォォオオ!!!』
「コフーライがビビヨンに進化した…?」
「見てください…こっちもです!!!」
「凄い凄い!」
『デネデネ!』
檻から出され、解放された集団のコフキムシ達やコフーライが一斉に進化を始めて…そして最終的には全員がビビヨンになった。様々な模様をした綺麗なビビヨンはそのまま空へと飛びあがり…このまま自分たちの居場所へ帰っていくのだろうと分かったのだった。
「じゃあなビビヨン…」
『ピッカッチュ!』
「また会えたら会いましょう!」
「ポケモンバイヤーに見つからないように気をつけてくださいよ!」
「またねビビヨン達!」
『デネデネ!』
「……この状況は一体何!?」
『ライボゥ?!』
「あ、やべえ忘れてた…」
『ピィカ…』
ビビヨン達が飛び去っている状況と、気絶しているポケモンバイヤーがいる光景に、遅れてやって来たジュンサーさんが叫んだのは仕方ないことだと俺たちは苦笑した。
兄の心境。
あの後やり過ぎだと怒られたが、被害はなかったから良しとする。