マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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この世界では孤独だと…彼はそう心から信じて疑わなかった。


性根というのは、なかなか変えることができないと彼女はそう無意識に感じていた。





第百七十一話~兄とセレナの過去話~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトシが幼い頃。そして妹が生まれていない頃の話。

 

その頃のサトシはマサラタウンの住人にとって問題児として認識されていた。幼児の頃から町の外に勝手に出ようとして、どこかへ行く放浪癖のある変な子供であり、マサラタウンの住人である大人たちや子供たち、そして母であるハナコに対しても冷たく接していることから、本当に普通の子供なのかと言われ恐れられていた時期もあった。もちろんそんな騒動はオーキド博士の手腕によって解決したのだけれど、でもそれでもサトシの母や、周りにいる人間達への傷は癒されず、そしてサトシも妹が生まれるまでは何もかもすべてを拒絶していた。

 

 

そんな頃に出会ったのが、セレナだった――――――。

 

 

 

 

「サ、サトシ!今日こそ一緒に遊んでもらうからな!」

「知るか。1人で勝手に遊んでろよ」

「サトシ…!」

 

 

シゲルから一緒に遊ぼうと言われてサトシは不機嫌そうな表情で舌打ちをしてから森の中へ入っていく。シゲルは少しだけ涙目になってサトシの後ろ姿を見ていた。サトシ達が参加したポケモンサマーキャンプはオーキド博士が主催で行われた。トレーナーでない子供たちとのポケモンの交流、そして旅における野宿の仕方などを教える意味も込められていたのだ。サトシはそのキャンプに参加するつもりはなかったのだが、母からの無言の圧力とシゲル達による強制連行によって参加させられてしまい、現在不機嫌な表情でそのポケモンサマーキャンプから逃げようとしていたのだった。

 

森に入ったサトシはただひたすら歩いていた。ポケモンたちがサトシのことを見て、そして逃げるか様子を窺うか…サトシを知るポケモンたちは普段人間には攻撃しないがいつもサトシのせいで痛い目に遭ってきたために攻撃するかどちらかを選択してくる。サトシは逃げたり様子を窺ってきたりするポケモンは放っておいて、攻撃してくる奴は全て2倍返しにしていた。いつも通り、サトシは森から遠く離れた外へ出ようとしていたのだ。

 

 

そんな時にある声が聞こえてきた。

 

 

 

「うっぅ…ママぁ…!!」

 

「……子供か」

「…だ、誰?」

「チッ…」

 

 

サトシは麦わら帽子をかぶった少女を見て、面倒そうな表情を浮かべて舌打ちをした。その音に少女は驚き、そして怯える。サトシは少女から見ると恐ろしい表情をしている子供であり、いじめっ子のように攻撃してくるかもしれないという恐怖心があったのだ。でもサトシはそんな泣いている少女を一瞥し、サトシが歩いていた後ろの方向を指差してからただどうでもいいという声色で言う。

 

 

「…あっち行けばキャンプ場だからまっすぐ歩け」

 

「…え?」

 

サトシが言った言葉に少女は泣きはらした目を見開いて小さく呟く。でもサトシはそんな少女などもう気にしていないようでそのまま先へ進んでしまった。どこかへ行こうとするサトシに少女は怖いというよりも気になったのか立ち上がってから走って行く。

 

 

「ねぇ待って…どこへいくの…!?」

「俺に構うな…ッ!」

 

 

近づいてきた少女に苛ついたサトシはキャンプ場へ戻れと言おうとした。だが後ろを振り向いたら少女が足を挫いて近くにあった崖のような場所に落ちそうになっている光景が見えてきたのだ。いくら冷たく接していたとしてもこれはヤバいだろうと感じサトシは思わず少女を助けようと動いた。崖に落ちていく少女をサトシが走って飛び上がり、恐怖心で目を瞑る少女を抱きしめて身体を捻りサトシ自身が地面に激突する形で落ちた。

少女を助けようとした結果、落下したときの衝撃から幼いサトシの身体は傷つく。でも小さな痛みや血が流れる感触もサトシは気にせず、恐怖心から少女はサトシに強くしがみついていた…だがサトシはそれが煩わしくなり近くに落ちていた麦わら帽子を拾ってから少女に握らせて無理矢理離れ、崖の上を見上げた。崖は断崖絶壁のようになっており、登りきることはできるだろうと分かった。だがこの少女を置いていくことはサトシにはできなかった。どんなに冷たく接触したとしても少女はまだ幼く、こういったトラブルに慣れていないと分かっていたからだ。そしてここから置いていくと命を落とす可能性もあった。最初に出会った場所ならばポケモンたちは人に慣れていて攻撃することはめったにないだろう。だがここは崖の下の森の奥深く…。ポケモンたちは人に慣れているかどうかさえ分からず、攻撃してくる奴らもいるとサトシは分かっていたからだ。そんなことを考えていたサトシに、少女はただ泣きながら麦わら帽子をかぶってから近づき、手を掴んだ。

 

 

「…怪我してる…わ、私のせいで…ごめんなさい!」

「気にすんな…それよりも行くぞ」

「え…どこ……?」

「キャンプ場」

 

 

サトシの身体は服が擦り切れて汚れていた。腕は落下したときにできたのか、それともその途中で崖にぶつかった時にできたのかパックリと割れ、大きな切り傷ができていた。そして背中は少女は服を着ているせいで気づかないが地面に激突したせいでできた大きな青あざが痛む。骨を折るという重症にはならなかったが、そんな傷だらけになった理由が自分のせいだと気づいた少女は泣いて謝った。でもサトシはそんなことどうでもいいという態度で首を横に振り、崖に沿って歩いていくぞと言う。少女はサトシの傷を気にしていたが、サトシが歩き出したせいで慌てて後を追う。そしてサトシの後ろを歩き始めた。

歩いている場所は森林のせいで日差しがこないとても暗い場所。ちゃんとした道もないため草をかき分けて進む。その静寂な空気に少女は耐えられなくなり、前を歩くサトシに向かって話しかける。

 

 

「ねぇ…わ、私はセレナって言うの…君の名前は…?」

「………………………」

 

 

少女…いや、セレナと名乗り、そしてサトシの名前を聞こうとするが、サトシは何も答えない。そんな冷たい態度をとるサトシにセレナは俯いたまま黙り込み、ただ歩いていく。

 

 

「痛っ…私もう歩けない…!」

「…はぁ」

 

 

だがその途中でセレナは足を怪我していたこと、そして崖に落ちる途中で挫いた部分が痛みだし、泣きながら座り込む。サトシはため息をついてセレナを見て立ち止まる。そして周りを確認し、セレナに近づいて手を伸ばした。

 

「な、なに…?」

「お前がそうしてると余計に時間がかかるんだよ」

 

 

サトシはただそう冷たい口調で言い、セレナの腕を引っぱって自身の背中に背負う。視界が一気に変わり、サトシの背中に背負われたことに気づいたセレナは驚いて降りようと暴れる。でもサトシがセレナに向かって暴れるな!と怒鳴ったためすぐにおとなしくなった。そしてサトシは自分の背中の痛みを無視したまま歩き続け、森の先にある小さな川でセレナを降ろした。セレナは地面に座る形で降ろされたことに驚き、サトシに近づこうと立ち上がる。だが足が痛み、すぐにまた座り込んだ。セレナはただ自分のせいでこうなったこと、サトシが傷ついても泣き言を言わずにいるというのに自分の足が痛んだことに泣いて歩けないと情けないことを言ったことに沈んだ気持ちになった。サトシはそんなセレナを気にせず川に向かって歩き、そしてポケットにあるハンカチを取り出して川の水で濡らす。ただ水に濡らしただけで絞らず、泣き続けているセレナにサトシが水に濡れたハンカチをセレナの足に当てた。

 

「冷たい!?」

「応急処置だから泣き言言うな」

「うぅ……」

 

土や泥で汚れた足をハンカチに染み込んだ水で洗い流し、そしてまたサトシが川に向かって歩く。先に自分の怪我して血を流している部分を洗い流した。そしてセレナに使ったハンカチを綺麗に洗い、今度は絞って冷たくなっているハンカチを持って近づく。座ってただサトシの行動を見ているセレナの怪我している足に結ぶ。その対応にセレナは驚き、目に涙を浮かべていたがサトシに怒られたくないと泣き言は言わなかった。でも涙はぼろぼろと零れ落ちる。サトシはそれをただ無言で見つめていた。

 

 

 

「これでもう痛くないだろ」

「…ぅ…痛い…!」

「…捻挫にはなってないし、ただのすり傷だ。最後まで諦めずに立て」

 

 

立とうとしたのだが、足を痛がりまた座り込むセレナを見たサトシはため息をつきながらも立ち上がって手を伸ばす。セレナはサトシの手を恐る恐る掴む。サトシは掴まれたセレナの手を引っぱり、立ち上がらせる。その勢いは強く、サトシがセレナを抱きしめる状態になってしまったがすぐに離れてそして空を見上げた。森林は川の部分にまで草花が及んでいたが、日の光はちゃんと見えていた。そしてその日差しがもうすぐ夕焼けに近づいているということも分かり、このままだと野宿になるだろうとサトシは理解した。そのためまたサトシは歩き始める。セレナはサトシに礼を言おうとしたが先に歩いて行ってしまったために慌てて後を追いかけて行く。

夕暮れになり、そして日が沈んだ後にようやく見つけたかなり大きな洞窟へ歩みを進める。

 

 

「こ、ここに入るの…?」

「もう夜だしキャンプまで遠いから仕方ないだろ」

「…ぅ…怖い…!」

「はぁ…ほら入るぞ」

「うん…」

 

 

セレナがサトシの手を握り、離れないでと小さく呟く。その言葉にサトシは面倒だとため息をつきながらも握られている手を無理やり離すことはなかった。洞窟の中に入り、朝が来るのを待つ。サトシは座った後洞窟の入り口と奥の方に異常がないか注意深く見つめていた。注意深く見ているのはポケモンたちに攻撃されないようにするためだ。そんなサトシの隣に座ったセレナが暗くなった周りに怯え、恐怖で泣き出す。

 

 

「ぅ…ママ…」

「…お前………」

 

 

 

『ラッタァァァアッッ!!!!』

 

 

隣りで震えて泣きだしたセレナにサトシは何かを言おうと口を開くが、洞窟の奥から現れたラッタ達のせいで遮られた。ラッタ達はサトシとセレナに牙をむこうと歯をカチカチ鳴らして近づこうとする。よく見るとラッタ達だけじゃなくコラッタの集団もいた。先頭にいる大きなラッタがこの集団のボスか何かだろうと考え、サトシは立ち上がる。セレナは急に現れたラッタ達にも怯え余計に泣いてしまっていた。そしてセレナは立ち上がりサトシの腕を掴んで逃げようと叫んだ。

 

 

「こ…ここにいたら危ないよ……逃げようよ!!」

「逃げたら追われるぞ。それよりもやるべきことがあるから邪魔すんな。怖いならお前はそのまま座って目を閉じとけ」

「そ、そんなことできない…!」

「いいからおとなしくしてろ!!!」

 

 

『ラッタァァァアアアッッ!!!』

 

 

「チッ…!」

「きゃぁ!!」

 

 

サトシの腕を掴んだセレナの手を離すためにサトシは諭すように言う。だがセレナは泣きながら首を横に振ってサトシの腕を抱きしめるように強く掴んで離さない。そんなセレナにサトシは怒鳴る。サトシはこのままだとセレナが攻撃に巻き込まれるということ、そしてラッタ達が動き出すことを分かっていたから焦っていたのだ。

ラッタ達は興奮したように叫びながらサトシ達に向かって突進してくる。サトシは仕方ないとばかりに後ろで震えて腕を掴むセレナを一度無理矢理離してから抱え込むように抱きしめて飛び上がる。飛び上がったサトシ達にラッタ達は驚いていたがまた着地したところを狙って襲ってきた。セレナを抱えたままなため避けきれないと感じたサトシはまた空中で回転し、ラッタ達の攻撃をもろに背中で受けた。その衝撃は強く、セレナは目を見開いてその瞬間を見ていた。

そして吹っ飛ばされたことによってこの後起きる怪我の可能性を理解したサトシはセレナに怪我がないように彼女の頭を抱えたまま転がり、壁に激突する。その衝撃で背中の痛みが鋭く身体中に駆け巡ったためサトシは舌打ちをして泣いているセレナを引きはがしてラッタ達を鋭く睨みつけた。

ラッタ達に向かって歩き出すサトシをセレナはただ座りこんで泣いていた。サトシの後ろにいて座り込むセレナは全てを理解していた。サトシの背が血で赤く汚れた原因は…自分を庇ったからできた傷だと分かったのだ。

 

セレナはただラッタ達への恐怖心と、サトシが庇ったという事実に泣いてその光景を見ていた。

 

 

 

「集団で襲いかかってくる根性は気に入らねえな…覚悟しろよ鼠野郎!!」

 

 

『ッ…!?』

 

 

サトシが一番大きなラッタに向かって強く殴り、吹き飛んでいく。そして強い一撃を受けたラッタが気絶し、その様子を見た他のラッタ達やコラッタ達がサトシが只者じゃないことに気づいて怯え、逃げていく。気絶したラッタもすぐに起き上がってサトシに対する恐怖で逃げて行った。

その様子を見たサトシはため息をついてセレナが座っている方を見るために振り向く。だが振り向いた瞬間彼女のふんわりとした髪が目の前に広がっていた。サトシはセレナに抱きつかれたということ、そして彼女にラッタ達によって負った怪我はないことに気づく。

 

 

「う…ぐ…ごめん…なさい…ごめんなさい!」

 

「…気にすんな。お前のせいじゃない」

 

 

ただ小さくため息をついて、泣くなという意味でセレナの頭を撫でる。だが抱きつかれているためセレナの顔は見えないけれど、彼女の身体の震えは止まったということ、そして謝罪の言葉が聞こえなくなったことにサトシは心の底で安堵した。小さな少女であるセレナに心の傷をつけるつもりはなかったからこそ、ラッタ達による襲撃がきっかけでトラウマを作るかもしれないという可能性はもうないだろうと思ったからだ。そしてサトシはすぐに抱きついているセレナを引きはがし、離れた場所に落ちている麦わら帽子を拾って彼女の頭に被らせてから座らせる。そして自分も座り込み身体中の痛みを無視してまた周りを見る。

セレナはサトシを心配そうな表情で見つめ、まだ何か言いたいことがあったのか、口を開く。

 

 

「い、痛くない…?」

「平気だ」

「…ごめんなさい」

「だから謝るな。お前のせいじゃねえだろ」

「私…自分のハンカチ今持ってなくて…だから…その…」

「気にすんな」

 

「……あの…名前は…」

「……サトシ」

「っ!…さとし…サトシ…」

 

 

サトシの名前が聞きたいセレナは一度言おうとしたがすぐに口を閉ざし顔を俯かせる。自分のせいでこうなったことに今更名前は聞けないだろうと思ったからだ。でもサトシはそんなセレナを見て、仕方ないと考えてから口を開いて自身の名前を言う。そしてセレナはその名を聞いて何度もその名前を繰り返して言う。少しだけ煩わしいと感じるが、サトシは怒鳴ろうとはしなかった。それは身体中が痛いのを我慢しているせいか、それとも今日は散々な目に遭ったからかは分からない。でもセレナが泣いて余計に煩くしているよりはいいかとそう納得させ、洞窟の外を見た。洞窟の外は暗く、月明かりだけしか光はない。ポケモンたちの声が洞窟の外から聞こえ、また静寂になる。その鳴き声から洞窟の外にもポケモンがいるということ、洞窟にいた方が安全だということを理解する。季節が夏だから寒く感じないが、それでも居心地は良いとは言えなかった。でも外で寝るよりはマシだろう。

そう考えていた時に、セレナがまた口を開いて言う。

 

 

「ね、ねぇ…サトシは何処へ行こうとしてたの?」

「……自分のいるべき場所」

「いるべき?…それってどこなの?」

「さぁ…どこだろうな……」

「…?」

 

 

 

サトシは自嘲気味に笑い、セレナから問われた言葉を考える。いつもいつもマサラタウンから外に向かうのに理由はなかった。ただ自分の居場所はここじゃないと感じていたからいつも逃げ出していた。【サトシ】にはなりたくないと思っていても周りはそうだと言うことに…そして自分のことを知らない周りの人間たちに…そしてポケモンたちにすべて消えてしまえばいいと願った。すべてが消えて…そして夢だと思い込みたい。自分のいるべき世界へと戻りたいとそう願っていた。でもマサラタウンにいたらそれは叶わない。サトシとして生きていかなければならないという事実を受け入れる必要があったからだ。だから逃げていた。どこに行くのかわからず、ただひたすら迷子のように前だけを向いて歩いていく。前には何も見えず、…ゴールは何処にあるのか分からなくても、ただひたすら歩き続けた。歩き続ける先に答えはあるのだろうかとサトシはふと考えた。見たくない真実に…ただひたすら目を背けていた。

そんな時に、セレナはサトシの表情を見て…サトシの手を握り言う。

 

 

 

「な、何があったのか教えて!…サトシは何処に行きたいのか…私も一緒に探すよ!」

「はは…無理に決まってるだろ」

「……何で?」

 

 

 

セレナが一緒に探そうと言ってきたのだけれど…どこに行きたいと言う答えは見つからず、背けていた真実を言う。何で無理なのかセレナはまた質問してきたため、サトシは自嘲的な笑みを浮かべてから口を開く。すべては、この現状を叩き壊してしまいたいと思ったからだった。普通だったら言わないであろう【それ】を、サトシは口に出して言う。

 

 

 

 

 

「…………………なあ、お前は…転生って信じるか?」

 

「てん…せい…?」

 

 

 

サトシが言う話は、通常ありえないであろう真実だ。どうせ信じてもらえないだろうと言う考えがあったから…そして自分自身このまま世界を見ず、ただひたすら生きていることに限界を感じたからこそセレナを利用してすべてを吐き出すように言う。ある意味、魔が差したのだ。信じなくてもいい、ただ人に喋りたい。自分自身の感情をすべて吐き出してしまいたいという思いがあったからこそ話し始めた。だが、そのサトシの話をセレナは真剣に聞いていた。サトシの話を遮ることなく…手を握りしめたまま話を聞いていたのだ。

そして妹についての話をし終えた時に、セレナが小さく呟く。

 

 

 

「妹がいるの…?」

「…いやいない……【ここ】にはいない」

 

 

 

サトシはその時、信じてもらえないだろうと考えていたというのに予想を裏切ってちゃんと聞いていてくれたこと、そして信じてくれたことに少しだけ救われた。救われたと感じるけれど、それでもまだ心の底にぽっかりと穴が開いているかのような感じはしていた。サトシは自分自身の居場所がどこにもないと感じていたからだ。

 

セレナはそんなサトシの顔を見て、決意したようにまた口を開いた。

 

 

 

「…サトシの行きたい場所が見つからないなら…居るべき場所がないなら…私が一生あなたの…サトシの居場所になる!」

「…そうか」

 

 

 

幼いセレナは固く誓い、サトシに向かってそう叫んだ。サトシはセレナの言葉に小さく頷いて、そして明日キャンプ場に向かうから寝ろと言う。サトシの傍にいることに安心しきったセレナはその言葉に頷いてサトシに寄りかかったまま目を閉じた。

サトシはそんな眠ってしまったセレナの言った言葉を信じず、成長すればすぐに忘れてしまうだろうと考えていた。幼いセレナだからこそ、そんな決意をしても無駄だろう…忘れてしまうだろうとサトシは考えていたからこそ、頷いて話を終わらせたのだ。サトシはまた自嘲気味に笑みを浮かべながらも…太陽が昇るのを待つ。

 

 

 

 

――――――そしてようやく朝になり、サトシ達はキャンプ場へと無事に戻っていくことができた。怪我をしているサトシは大人たちによって移動させられ、怒られながら治療された。そしてセレナはというとカロス地方へ戻るために大人たちによってサトシから引き離され…そのまま2人は言葉を交わすことなく別れることになったのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「…ってことがあったの」

「いやだからそれ約束したって言わねえだろ!!」

 

 

 

完璧に思い出したサトシはセレナがシトロンたちに向かって話す言葉に反論した。セレナが説明する話は転生者という部分はあえて話していなかった。サトシがその話をすることを嫌がるだろうという考えで言わなかっただけだがある意味正解だろう。

そしてカロス地方に来た時、他の地方で有名だというサトシがニュースとしてテレビに映っていたのを見て、会いに行こうと決心して家を飛び出したということも話してくれた。

 

セレナの説明にでてきた居場所がないという部分は勝手にシトロンたちによって歪曲され、シトロンはキャンプ場であった話を聞いてよく無事…いや怪我はしていたみたいですがキャンプ場に戻ることができましたねと安堵しており、ユリーカはサトシがまるでお姫様を悪から救う王子様みたい!と言って頬を染め目をキラキラ輝かせていた。

ピカチュウはただ微妙そうな表情でサトシを見ていて…そしてデデンネはそんな話にサトシに分が悪いから諦めろとばかりに小さく鳴き声を上げる。

 

セレナはサトシが反論しようとも、誓った言葉を取り消すようなことはしない。ただ真剣な目で頬を赤く染めサトシの手を握り、口を開く。

 

 

「私はサトシの傍にいたい。ずっとずっと…あの時から…サトシ、大好きよ…!」

「いやちょっと待て…それとこれとは話が別だっていうか幸せになるなら俺以外の男を好きになれよお前ェェ!!!」

「幸せになるならサトシの傍しかありえないわ!!」

 

 

「サトシ…もう諦めましょう」

「そうだよサトシ!責任もってセレナと添い遂げなきゃ!」

『ピィカ…』

『デネデネ…』

 

 

 

「俺に味方はいねえのかよ畜生ッッ!!!!」

 

 

 

 

 

――――――こうして、サトシ達に新たな旅仲間であるセレナが加わったのだった。

 

 

 

 

 

 


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