再会したのは…。
こんにちは兄のサトシです。カロス地方に来て初めてジム戦をし、ジムリーダーであるビオラさんに勝つことができました。その時にある少女に出会ったのですが、何だか様子がおかしいです。
「あの…サトシ…!」
「サトシの知り合いですか?」
「いや…えっと悪い……誰?」
『ピィカ…?』
今いる場所はポケモンセンター。ピカチュウと新しくゲットしたヤヤコマをバトルの後だからということでジョーイさんに体力を回復してもらうために預かってもらっていた。でもその後無事に回復したピカチュウたちをジョーイさんから返してもらった時に、ジム戦を見学していた少女がポケモンセンターに走ってやって来て、頬を赤く染めて俺を見て名前を呼ぶ。その声にシトロンが反応し、知り合いかどうか俺に聞いてきた。でも俺は全然記憶にないため一度考えてから首を横に振る。その答えに少女は少しだけ悲しそうな表情を浮かべていたが、すぐに笑みを浮かべて俺に近づいてから口を開いた。
「サトシは覚えてないかもしれないけど…私は覚えてるよ!あの時出会ったことを…ポケモンサマーキャンプのことを…」
「ポケモンサマーキャンプ?…え、ちょっと待ってくれ、それってもしかして小さい頃の話か?」
「ええそうよ!思い出してくれた?」
「どうしたのサトシ?何かすっごく眉間に皺寄ってる!」
『デネデネ!』
「こらユリーカ!…でも、どうしたんですかサトシ?」
『ピカピ?』
ユリーカに指摘されるのは仕方ないと思う。それぐらい俺にとって昔の話はされたくないのだから…。まあつまり…何というか、子供の頃の話は俺にとって思い出したくない黒歴史のようなものだ。
妹が生まれていない頃の俺はかなり荒れていて問題児だった。まあ荒れているというよりマサラタウンの外に出て行こうとすることが多く、喧嘩を売られたらそれが人間であろうとポケモンであろうと数倍返しにしていたぐらいなんだけどな…いや、これは荒れていると言われても仕方ないか。
…今となってはたまに懐かしいと思えることもあったし、子供だったから仕方ないと受け入れていた時もあった。でもそれは自分自身で思い出す範囲でのことだ。いまだにシゲルから聞かされる話にも耳を塞いでそれよりポケモンバトルしようぜと話を逸らすこともあったりするというのに、この目の前にいる少女は俺が記憶していない昔に出会い、いろいろと知っているという…だからこそ聞きたくないような…聞かないと目の前の少女のことを思い出せないような微妙な心境になった。
そして少女…いや、セレナはそんな俺の表情ににこやかに笑みを浮かべて言う。
「ポケモンサマーキャンプで私たちは迷子になったの。その時にある約束したんだけど…ねえ、サトシ…覚えてる?……私と一生添い遂げるって約束を…!」
「え、いや………ヒトチガイジャナイデスカ?」
『ピィカ…』
「サ、サトシ…」
「ええお嫁さん!?…凄い!お兄ちゃんもサトシを見習わないと!!」
「ユリーカ!小さな親切、大きなお世話だよ!」
「はぁーい…」
「ちょっと待て!俺は別にそういう約束した覚えは…覚えてないから知らねえけどでも女の子と付き合うとか絶対にしないしましてやお嫁さんとか添い遂げるとか俺が約束するわけないだろ!!」
セレナの爆弾発言にシトロンが顔を赤くしていて、ユリーカはシトロンのお嫁さんとなる少女を見つけようと気合いを入れていてピカチュウは首を傾けて困惑していた…そして俺はそんな兄妹とピカチュウを視界の隅で見つつ、大きな声で叫ぶ。
俺はそういう約束はたとえ覚えていなくてもするつもりはないと考えていたからだ。だいだい俺は前世では女だったし…そういう恋愛などといったことには興味ない。異性と付き合うという気も全くありえないと心の底から考えているからだ。でもセレナはそんな俺に対して悲しそうな表情も、ショックを受けたという様子もなくただ笑みを浮かべて頷いていた。
「知ってるよ。サトシが女の子と付き合う気がないってこと。サトシの秘密も…あの時全部、サトシが教えてくれたから…」
「あの時って……」
何だか嫌な予感がしてきた俺は必死に思い出そうとする。そんな冷や汗をかく俺に近づくセレナは俺の手を優しく握りしめ、ポケットからハンカチを取り出して言う。
「あの時、私が怪我をした時にサトシが助けてくれたの。…サトシだって傷だらけになっているのに私のことを心配してくれた…その時に借りたハンカチなの」
「ハンカチ…待て…ちょっと待ってくれ…セレナってもしかして麦わら帽子をかぶったあの…」
「そう!あの時一緒に森の中を歩いて…そして約束したの!」
「いやでも俺は……って約束してないからな!俺は記憶にないし…!」
「そんなことない!お願い…思い出して。私たちがあの時一緒にいて、話したことを…。サトシ、私はあなたのことを出会った時からずっとずっと………」
「…………………」
「サトシ、ここは思い出すべきですよ」
「うんそうだよ!じゃないとセレナが可哀想!」
『デネ!!』
『ピッカ…』
「分かってる…けどなぁ…」
ハンカチを見て、俺は昔あった出来事を思い出した。でも俺は…あの時泣いていたセレナにかなり酷い対応をしたような記憶があるんだけど何でセレナは俺に対してこんなにも好意的なんだと疑問に思った。そして約束したという記憶はないと思う。でもセレナはそんなことないと言って少しだけ目を潤ませてこちらをじっと見ていた。必死に思い出してくれと泣きそうな表情になりながらも言うセレナにシトロンやユリーカ、そしてピカチュウが思い出せとセレナに同情するため、俺も何とか必死に思い出す。でも俺は絶対に添い遂げるだなんていう約束はしないはずだ…だから思い出そうとしても約束なんてしていないという、そんな安心感があった。約束なんて絶対にしていないという、過去の自分に対してそう言いきれる信頼感があった。
「サトシ…」
頬を赤く染めて、瞳を潤ませ…そして上目遣いになって思い出してほしいという祈るような声で俺の名前を言うセレナに…何で俺なんだという疑問と、俺なんかよりも他の男を好きになれば幸せになれるのにという微妙な感情があった。とにかく約束はないということについて思い出さなければと俺はセレナと出会ったあのポケモンサマーキャンプの記憶をたどる。
――――――――そして思い出すのはあの麦わら帽子の女の子だった。
To be continued.