イッシュ地方のクリスマスはかなり綺麗だと思った。
それは、兄妹達がまだマサラタウンに帰っていない頃。イッシュ地方でリーグが終わり、Nと出会う前のことだった――――――。
「メリークリスマス!」
『カゲカゲ!』
『ピチュピッチュ!』
「まだクリスマスじゃねえだろ?」
『ピィカッチュ…』
「いやクリスマスと言っても…今日はクリスマスイブ…フッ。僕のクリスマスソムリエとしての出番だね!」
「クリスマスソムリエって…あまり必要なさそうね」
『キバキ…』
『だが、今日から忙しくなることは確かだろうな…』
こんにちは妹のヒナです。今日はクリスマスイブになります!周りは全て鮮やかなイルミネーションがポケモンの姿をしていて、とても綺麗です。部屋の窓から見えるのは大きなツリーとその周りにある飾り。イルミネーションはイッシュ地方の初心者用でもあるミジュマルとツタージャとポカブがいて、そしてさまざまなイッシュ地方のポケモンたちがツリーの周りを並んでいるような光景にヒトカゲ達が綺麗だと大はしゃぎしています。しかも明日は雪が降るとのことで…もしかしたらホワイトクリスマスになるかもしれないとちょっとテンションが上がってます。でも兄とピカチュウは何だかやる気がなさそう…?
「お兄ちゃん達どうしたの?何かやる気ないみたいだけど…」
『カゲェ?』
『ピッチュ?』
「…いや、気にすんなよ。ほらヒナたちはルカリオの手伝いをするって言ってたのにここにいてもいいのか?」
『ピカピカ?』
「はっそうだった…!行こうヒトカゲにピチュー!」
『カゲ!』
『ピッチュゥ!』
何だか兄たちに誤魔化されたような気がしたけれど、でもルカリオの手伝いをすると言ったのは事実だから慌ててキッチンに向かう。
今私たちがいる建物は、ポケモンセンターの一室。キッチン付きの大きな部屋を借りることができたからルカリオとデントが喜んでクリスマスイブのディナーを作っているのだ。明日用のケーキなども用意すると言っていたからすごく楽しみ。美味しいのは確実だからね。
「ルカリオにデント…て、手伝いに来たよ…」
『カ、カゲカ…』
『ピッチュゥ…』
―――――キッチンに入るとそこは戦場だった。
ルカリオがオーブンを設定しながらボールに入っている材料をかき混ぜていて、デントは鍋の中をかき混ぜながらフライパンで焼いている食べ物を裏返す。忙しく動いているルカリオ達の邪魔をしているんじゃないかなと思いながら、入ってもいいのか躊躇してしまった。でもルカリオがすぐに私たちに気づいたようで。笑みを浮かべながらちょうど良かったと言ってバックを渡してきた。
「これは?」
『カゲェ?』
『ピッチュ?』
『材料が足りないから買ってきてくれないか?もちろんお前たちだけで行くな。サトシかアイリスを連れて外へ出るんだぞ』
「ん、分かった…!」
『カゲカゲ!』
『ピチュピチュ!』
ルカリオが真剣そうな表情で言ったために私たちも自然と緊張し、真剣そうな表情で頷く。それに満足したのかルカリオはすぐに戦場に戻っていき料理を作っていく。
私たちは顔を見合わせて邪魔にならないようにキッチンから出てアイリスと兄を探す。兄はいつの間にか部屋から外に出ているようで、残っているのはアイリスだけだった。
「あら?どうしたのヒナちゃん」
『キバキ?』
「ルカリオに頼まれて足りない食べ物を買ってくるんだけど…私たちじゃ外に出るなって言われたから、アイリスたちも来てくれるかな?」
『カゲカゲ』
『ピチュピチュ』
「ええ、もちろんよ!」
『キババ!!』
アイリスとキバゴは笑顔で私たちの頼みを聞いてくれて、外に出てデパートに行き材料を買うために歩き出した。
外はイルミネーションのおかげで明るく、人やポケモンたちが楽しそうにしている。…もちろん恋人らしき姿も見えたけれど、どのカップルも幸せそうで私も自然と笑顔になった。皆が平和に幸せだとやっぱり嬉しいものだよね。
「あ、あれってキバゴのイルミネーションだよね!ほらあれ!!」
『カゲェ!!』
『ピッチュゥ!!』
「あ、本当ね!ほら見てキバゴ!」
『キバキバ!!』
「あ、あっちはヤナップだ!」
『カゲカゲ!』
『ピッチュ!』
「たくさんいて綺麗ね…!」
『キバァ!』
知っているポケモンや兄たちの手持ちのポケモンがイルミネーションになっているとすぐにアイリスと一緒に見て回り、でもあまり遠回りをしているとルカリオ達に怒られると分かってデパートに向かいながら見て歩く。そしてデパートに到着し、必要なものをメモしてある紙を見ながら買っていく。その後また帰り道にイルミネーションを見ながら、ヒトカゲ達ははしゃぎながら歩いていく。寒くなってきたから兄が買ってくれたマフラーのおかげで首元が温かい。もちろんコートも着てるから寒いだなんて感じないんだけどね…。
そう思っていると、隣りで歩いていたアイリスが私を見て口を開いた。
「…そういえば、ヒナちゃんの欲しいものって決まってる?」
『キバァ?』
「欲しいもの…もちろん平穏かな……」
『カゲェ…』
『ピチュゥ…』
「ふふ…確かに私たちの旅ってトラブルばかりよね…!」
『キバキバ…!』
欲しいものと聞かれたために、つい今までの惨状を思い出して平穏だと言ってしまった。でもアイリスとキバゴは今までの旅を懐かしいと思い出しながら問題起きてばかりだったなぁと呟いている。まあもちろんそれって兄のせいもあるんだけどね…たまにアイリスたちの暴走もあるけど…兄がやらかしてしまったり暴走したり…本当にいろいろあったなと思う。
「…でも、やっぱり今も楽しいから…みんなの幸せを願っておく!」
『カゲ…カゲカゲ!!』
『ピチュゥ!』
「ヒトカゲとピチューも私と一緒?」
『カゲェェ!!』
『ピッチュゥゥ!!』
「あ、良いわね…私たちも一緒よ!」
『キバキバ!』
ヒトカゲとピチューが私に近づいて抱きついてきたから、私も一緒になって抱きつく。そしてアイリスとキバゴが笑みを浮かべて抱きついて団子みたいになってる私たちに向かって手を広げて抱きつき、皆で笑い合った。久々に平穏な一日を迎えたし、とりあえず皆が悲しまないような問題解決をしていこうと思う…まずは兄の暴走を止めることかな…うん。まあできないだろうけどさ…。
――――――――そして、帰ってきたらかなり部屋が凄いことになっていた。テーブルには料理が並んでいてとても美味しそうな香りがしている。そしてもう忙しくないのかデントが部屋の装飾をしていて、何時の間に設置したのか小さなツリーが電飾によって淡い光を煌めかせている。そのツリーに興味深げに見つめているのは帰ってきて真っ先に近づいたヒトカゲとピチューとキバゴだ。もちろん私も綺麗だと思いながら近づく。
アイリスはその間に買っていた食べ物をルカリオに渡していた。
「綺麗…これデントが用意したの?」
『カゲカゲ?』
『ピチュゥ?』
『キババ?』
「フフン!その通りだよ!クリスマスと言ったらツリーは確実。そしてそのツリーを輝かせるために必要な電飾も完璧な位置に設置し、星もこのツリーに合う大きさを用意したよ!まさにグレイトなテイストだね!」
「そ、そうなんだ…」
『カゲェ…』
『ピッチュゥ…』
『キバキバ…』
「何時の間にツリーなんて用意したのよ…」
「それは君たちが買い物に行った後、少し手が空いたタイミングで予約したツリーが届いた時さ!!」
「よ、予約なんてしてたんだ……」
『カゲカゲ…』
『ピチュピチュ…』
「まさにデントらしいと言えるわね…」
『キバァ…』
私たちはデントの興奮した様子にちょっとだけ引き気味になりながらも、ツリーが綺麗だと感動する。窓から見える大きなツリーと、部屋の中にある小さなツリーが合わさって色鮮やかに光る色に…マサラタウンにいる皆にも見せたかったなと思ってしまった。でもこの感動を帰った時にお土産話として話して、マサラタウンでクリスマスを迎えた時に同じようなことをしようと思った。綺麗なんだから皆で分かち合わないといけないよね!
『出来上がったぞ』
「待ってました!イッツ・クリスマス・タイム!」
「いや待ちなさい…今日はクリスマスイブなんだから落ち着きなさいよ」
『キバァ…』
「あはは……ってそういえばお兄ちゃんはどうしたの?」
『カゲェ?』
『ピチュ?』
『ああ、サトシなら確か電話があるとジョーイから連絡があって部屋から出て行ったが…』
私たちは何があったんだろうと思いながら外を出て兄を探しに行く。すぐに食べられるように設置してある料理が冷めないうちに食べたいから、兄を連れ戻してクリスマスイブを楽しまないとねと思いながらも…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてやって来たのは、電話前の兄の姿。でも何だか兄とピカチュウが凄く苛ついた様子で話しているような…?
「だから…帰れないって言ってるだろ!!!何度言えば気が済むんだ!!」
『ピカピカッチュ!!』
「お、お兄ちゃん…ってちょっと待って電話前にいるのって誰?」
『カゲェ?』
『ピチュゥ?』
電話で兄が話している相手を見ると、何やらトレーナーらしき集団がカメラに映ろうと中心に集まりながらも嘆き悲しんでいる様子が見えた。私たちは顔を見合わせながらその様子を見る。
「お願いしますサトシ様…あなたがジムリーダーになってもらわないと困るんですよぉ…上司が…!」
「サトシ様ぁ!私のこと踏んでください…!」
「むしろ今罵倒してくださいサトシ様!!!!」
「チャンピオンになってくれないとヤバいんです…もう僕の胃がやばくてやばくて…!」
「サトシ様!私にゴミを見るような目をしてください!!いやむしろそのまま放置もいい…!」
「……はぁ…切るぞ」
『ピッカァ』
切るぞと言われ、待ってくれという悲鳴が聞こえてきたような気がするけれど、その前に兄とピカチュウがため息をついてちょっとだけ不機嫌そうにもう何も映っていない電話を睨みつけていた。
私たちはそれに苦笑しながら兄たちに近づいて話しかける。兄とピカチュウは私たちに気がついたけれど、誰なのか問いかける前にすぐに部屋に戻ろうと言って歩き出してしまったため電話の相手が誰なのか分からず…結局歩いて部屋に戻りながら聞いてみた。すると兄とピカチュウはまた嫌そうな表情を浮かべて、質問に答えてくれた。
「ねえお兄ちゃん…あの電話の相手って誰なの?」
『カゲェ?』
『ピチュゥ?』
「ああ、いつもバトルしてくれって頼むトレーナー達だよ」
『ピカピカ…』
「バトルって言ったかい?サトシだったらすぐにそのバトルを受けると思ったよ」
「そういえばそうね?サトシって売られた喧嘩は買う主義でしょ?それなのにバトル受けないって…」
『キバァ…?』
「あいつらの居場所と…あといろいろと問題ありすぎるからな…」
『ピカピカ…』
「居場所?」
『カゲ?』
『ピチュ?』
「まずカント―地方オレンジ諸島ジョウト地方ホウエン地方シンオウ地方…まあつまり…今まで旅してきた中で出会ったトレーナー達が集合してバトルしてくれってたまに催促するんだよ」
『ピカァ…』
『それなら…サトシだったら喜んでやると思うが?』
今まで旅をしてきた中で出会ったトレーナー達に再戦のバトルを挑まれるというのは面白いと兄が言っていたから、私たちは首を傾けて疑問に思った。兄だったらやると思ったのに…何で受けないんだろう?
でも兄とピカチュウが長いため息をついた後、すぐに話してくれた。
「そりゃあバトルの再戦だけだったら喜んで受けたけどな…最近だとチャンピオンたちの刺客もやってきて、チャンピオンになれだのジムリーダーになってくれだのうるさくてな…しかも普通のトレーナー達も踏んでくれだの罵倒してくれだの気持ち悪くなってきたからあまり引き受けたくないんだ…」
『ピィカ…』
「あ、そういえばさっきも踏んでくださいって言葉が聞こえたような…」
『カゲカゲ…』
『ピチュピチュ…』
『……おいサトシ…ヒナの教育に良くない発言を言うのは止めろ!!』
「ルカリオ…文句言うなら俺じゃなくて発言したあいつらに言ってくれないか?」
『ピィカッチュ?』
「はは…何だか大変そうなテイストだね…」
「まあこれから頑張りなさいよサトシ…」
『キバキバ…』
…なんだか微妙な雰囲気になってしまったけれど、部屋に着いたらその空気は消し飛んでしまった。湯気が立ち込め美味しそうな香りがする料理の数々と大きなケーキ…そして部屋に置かれているツリーを見て笑顔になり、兄とピカチュウも気分を変えてクリスマスを楽しむことにしたようだ。
とにかく、明日も楽しまないとね…!
「メリークリスマス!!」
『カゲカゲ!』
『ピチュピッチュ!』
妹の心境。
ケーキも料理も美味しかった…明日が本当に楽しみ!