妹の日常が少しだけ変化した。
こんにちは妹のヒナです。
つい先日私のもとにヒトカゲがやってきました。今はポケモントレーナーになれないので未来の相棒です。
そんなヒトカゲだがちょっとだけ色違いなせいで周りはみんな大騒ぎしていた。
例えばオーキド博士の場合はヒトカゲが色違いだからと少し興奮していた。それに怯えたヒトカゲが私の後ろに隠れ、オーキド博士はそんなヒトカゲにもっと近づいて抱っこしてしまった。
「おぉ!ヒトカゲの色違いか!ちょっと研究を―――」
『カゲェー!!』
「熱ッ!!」
「ダメだよヒトカゲ、ひのこは重傷を負う可能性が高いからね。出来ればひっかくとかにしよう?」
『カゲ…カゲッ!』
「そ、そう言う問題かのォ」
少々の傷を負ったオーキド博士は乾いた笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくれた。
ヒトカゲが私に懐いているから、トレーナーとしては戦えないけれど、一緒にいても大丈夫だと言ってくれた。
ケンジさんも色違いのヒトカゲに「観察させていただきます!」と嵐のごとく一気に近づいてきて描いていった。
母は「あら、お友達ができたの?良かったわねぇ。よろしくね?ヒトカゲちゃん」と言ってヒトカゲの頭を優しく撫でていた。
兄のポケモンたちもヒトカゲが来たことに喜び、歓迎してくれた。フシギダネと私でヒトカゲを連れてオーキド研究所の周りを案内し、花畑で遊んだ。色違いとか関係なく、ヒトカゲと一緒にいれて本当に嬉しいって思う。
「生まれてきてくれてありがとうね。ヒトカゲ」
『カゲェ!』
まあそんな楽しい毎日に、一つだけ気がかりなことがあるんだけどね…。
「……やっぱり、いる?」
『カ…カゲ』
「うわぁ…誰なんだろ」
小さな声でヒトカゲと話し、こっそりと後ろを窺う。最近、私たちの近くに何か気配を感じることが多いのだ。ヒトカゲもそれを感じていて、怯えて私に抱きついてくることが増えた。
でも気配は時々感じるだけで怖いとは思うけれども、特に気にしなければ済む話だった。ヒトカゲも私にくっついていれば何の問題もないらしく、もしかしたら兄のポケモンの悪戯か何かかと思った。
兄のポケモンだったら、ゴーストの仕業かと思ったんだけど、それは違っていた。前に一度ゴーストが遊びに来たときも、気配を感じたのだ。でもフシギダネたちは何も言わないし、私とヒトカゲだけが感じていて、すこし気味が悪い。
そしてこの日を境に毎日気配を感じるようになった。私とヒトカゲは、毎日遊んでいても、家で食事をしていても、何かいると分かってしまったのだ。
「…よし」
『カゲ…カゲカゲッ』
「だいじょーぶだよヒトカゲ」
この気配が害をなすものだったらそのままにしていてはだめだ。私はヒトカゲを守ると覚悟を決めているのだから。
このまま気配を無視していては、ヒトカゲのためにもならない状況を、どうにかしなければいけない。
怯え、震えているヒトカゲを優しく撫でてから私は後ろの方を振り向いた。
「そこにいるのは誰なの!?」
『カゲカゲッ!!』
私が気配のいる方へ叫ぶと、ヒトカゲも勇気を振り絞って大きな声を出して前へ出ようとする。そのまま勢いよく気配のする方へ行かないように、私は足元にいるヒトカゲを抱き上げ、気配の方を強く睨む。
「いるのは分かってるのよ!でてきて!!」
『カゲーッ!!』
『―――――――――キューンッ』
「……………え?」
気配のする空間が歪み、目の前に現れたのは大きな赤いポケモンだった。
私は実際に目の前で見たことはなかったポケモン。兄が一度助け、原作フラグを大いに叩き折って救ったポケモンの一匹…。
「なんでここにいるの?ラティアス」
『カゲェ?」
『キュー…』
目の前にいるラティアスは兄が救ったポケモンのだろう。兄は旅で出会ったラティアスだけでなく、原作では死んでしまったラティオスも助けた。
その時何をしたのか知らないが、兄はものすごく疲れた表情で「全力ダッシュって大切だったんだな…」とテレビ電話のむこうで呟いていたのをよく覚えている。
…それで何でそのラティ兄妹の一匹がこっちにいるの?
『キュゥ…キューン』
「あ、ごめんね。君の言ってることわからないんだ。あと、さっきは怒鳴ってごめんね」
『カゲ…カゲ?』
ヒトカゲは首を傾げて私とラティアスを交互に見つめる。そういえばさっきまで悪者かもしれないと怒鳴ってたからなんで謝るのか疑問に思っているよね。
でももしかしたら目の前にいるポケモンは兄に会っていないラティアスという可能性もあるから、一度確認してみようと思う。
「…えっとお兄ちゃんと出会ったラティアスだよね?」
『キュゥ!』
「やっぱり。ヒトカゲ、大丈夫だよ。お兄ちゃんの友達の、ラティアスだよ」
『カゲ!カゲカゲ!!』
私の言葉にようやくヒトカゲは悪者ではないと分かったようだ。兄のことは毎日のように話していたし、どんな人かもなんとなく分かっているから安心したのだろう。まだ兄と連絡がついていないけど、いつかついた時はヒトカゲのことをたくさん話していかないとね。
まあその前にラティアスについて聞きたいことがたくさんあるんだけれども…。
「ねえ何でラティアスは私たちのことずっと見てたの?」
『キュー!キューン!』
『カゲ…!カゲカゲェ!!』
「え、なに?どういうこと?」
私はポケモンの言葉をすべて理解できないから、何を言っているのかわからない。
ちょっとした仕草で遊びたいとか、お腹すいたとかは伝わるんだけど…ラティアスが何を言っているのかは伝わらないかな…。
でもヒトカゲは違うようだ。納得したような表情を浮かべたヒトカゲは私の腕から降り、ラティアスのもとへ近づいた。そしてポケモン同士で話してから、また私の方へ近づく。
「ヒトカゲ、ラティアスは何がいいたいの?」
『カゲェ!!』
「………あ、なるほどね」
ヒトカゲが先程まで遊んでいたボールを手に持ち、私に渡してきた。そしてラティアスの方を見て、また私の方を見て笑いかける。
もうそれだけで何が言いたいのか分かった。なるほど、とても簡単なことだ。
「ラティアス、私たちと遊びたいの?」
『キューン!!』
それが正解とでも言う様に、ラティアスは私の近くで飛び回る。
私たちを見て、遊びたかったからいつも近くにいたのだと理解した。まあもしかしたらラティアス自身が伝説だから、遊んでもらえるかどうか心配で気配を消して様子を窺っていただけなのかもしれない。
でも、もう必要のないことだ。私はラティアスにボールを見せて微笑んだ。
「ラティアス、ヒトカゲ。ボール遊びしよっか?」
『カゲェェ!!』
『キュ――ンッ!!!』
そしてその後、毎日のようにラティアスがオーキド研究所に来るようになり、夕方近くには迎えに来たラティオスの姿が見えるようになった。
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…あ、そういえばあとでフシギダネ達にミュウツーの通訳で聞いてみたんだけど、やっぱり気配は感じていた上でラティアスだと分かっていたらしく、危害を加えないみたいだから何も言うつもりはなかったんだってさ。
妹の心境。
今度は花畑に行ってのんびりしようかな?