これからの準備を始めた…。
「じゃあ俺ちょっと行ってくるな!」
『ピッカ!』
「へ?どこに…?」
『カゲカゲ?』
『ピチュピチュ?』
「私たちも一緒じゃ駄目なの?」
『キバキ?』
「ああちょっとカント―に行ってすぐ戻ってくるから先に白の遺跡の方に向かっててくれ」
『ピカチュ』
「ちょっちょっと待ってくれ!サトシ君今カント―に戻ると言わなかったかい!?」
「言ったけど?」
「いや、イッシュからカント―までどのくらいの距離があると思ってるのお兄ちゃん!?」
『カゲカゲ!』
『ピチュピチュ!…ピチュ?』
「ピチュー…あのね。ものすごく遠いんだよここからだと…」
『カゲカゲ』
『ピチュ!?』
『…デントにヒナたち。サトシがアレなのはいつものことだろう…』
「ああうんそうだね……」
「ルカリオの言うことに否定できない…」
『カゲェ…』
『ピッチュゥ…』
「お前ら…そろそろキレるぞ」
『ピカピカ』
「まあサトシなら大丈夫よね。何かあったら私たちに連絡してね!この先のポケモンセンターで待ってるから!」
『キバキバ!』
「…おう。じゃあまたな!」
『ピッカ!』
――――――こんにちは、兄のサトシです。現在カント―地方に戻ろうと思い妹達といったん別れて歩いています。俺とピカチュウはカント―地方のある場所に向かうからです。
今いる場所は山の頂上。現在の時刻はおそらく深夜。山の頂上からだと星空がとても綺麗だ。今日は満月らしく夜空がとても明るい。ピカチュウも星空を眺めてとても綺麗だとはしゃいでいた。ポケモンたちがほとんど寝静まっている頃に俺たちはその頂上にある大きな木の上に上り、大きな声で叫んだ。
「おーいレックウザ!!いるなら出てこいよ!!」
『ピカピカァァア!!!』
『ギャォォオオオオオオオオオッッ!!!!!!!』
レックウザの名を大きな声で呼び、しばらく待っていると星空の一部が輝き、そこからレックウザが舞い降りてきた。大きな叫び声を上げながらこちらに降りてくるレックウザに俺とピカチュウは笑みを浮かべる。レックウザが様々な地方の空で飛んでいるため、無事に呼べてよかったと思えたからだ。もしも大きな声を出してもいなかった場合はレックウザではなくミュウを呼ぼうと思っていた。ミュウは神出鬼没で来ない時などないぐらい俺たちの近くにいることが多い。だからミュウの名を呼んでテレポートで送ってもらおうと思っていたけれど、今回はレックウザが近くに飛んでいたから助かった。
俺とピカチュウは目の前にいるレックウザに向かって口を開いて言う。
「わざわざ悪いなレックウザ。ちょっとだけカント―地方に飛んでもらっても構わないか?」
『ピィカ?』
『ギュァァァァァアッッ!!!!!!』
大きな声で叫んでいるレックウザは俺の頼みに頷いてくれたのだろう。レックウザが頭を下げて俺たちを乗せやすくしてくれる。俺とピカチュウはお互いに顔を見合わせてからレックウザに乗り、カント―へ出発する。行く場所はもう決まっているからだ。
「さあ行こうか…ロケット団のアジトへ!!」
『ピッカァ!!!』
『ギュァァァアアアアッッ!!!!!!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やって来たロケット団のアジトは変わらずにその場所にあった。夜中に出発した俺たちだったけれど、日が昇る頃に到着できたようだ。眠いけれど我慢してロケット団のアジトでサカキと交渉するために用意された場所で待つ。
今回の交渉はプラズマ団についてだ。マグマ団やアクア団のようにはいかないだろう。けれど、今のロケット団ならプラズマ団の情報について持っているだろうからこちらに訪れた。情報といってもプラズマ団が何を狙っているのか、これからどう活動しどう阻止していくかを考えるために来ただけだ。最近のロケット団は情報収集も仕事の一環として行っており、国際警察とも手を組んでやってることが多いと以前ハンサムさんと別れる前に密かに教えてもらったためにこちらにわざわざやって来た。…まあ情報が何もなかったとしてもプラズマ団をぶっ潰すことを優先すればいいかと決意した。プラズマ団が俺たちの旅を邪魔して、平穏を消そうとするのなら叩き潰すまでだ。
…それにしても、以前のロケット団なら絶対に国際警察などと関わり合いにならなかっただろうが…ずいぶんと変わったものだと俺たちは考えていた。少しづつだが、ロケット団の方針も変わってきていて、世間に対して良くなってきているなら本当に良かった。何かあったらすぐに動くつもりだけどな。
――――――まあ、それは良いとして。
「………………………」
「あーっと…君、どうしてここにいるんだ?」
『ピィカ?』
「………………………」
目の前にいる赤毛の子供がいることに俺とピカチュウは困惑し、どう対応していけばいいのか困っていた。子供の方はニドランのぬいぐるみをギュッと抱きしめて俺たちを睨んでいた。妹と同じぐらいの年齢だというのに鋭い眼光だと感心する。見た目は真っ赤な髪を肩ぐらいまで伸ばし、女の子のような顔をしているのだけれど、その目の鋭さのおかげで男の子だとすぐにわかった。
まだ早朝の時間だからサカキが来るのはもうちょっとしてからだろう。だがこの子供は俺たちが待っていてくれと言われた場所にいた。どうしてなのかはわからないし、この子供が理由を言わないため、俺とピカチュウは苦笑しながら話しかけた。このままこの子供と何も話さないよりはマシだと思ったからだ。
「あー…じゃあ君の名前は?俺はサトシって言うんだ!それでこっちが相棒のピカチュウ!」
『ピッカ!』
「……………………シルバー」
「そっか、シルバーか!よろしくな!」
『ピカピカ!』
シルバーという子供はピカチュウを興味津々な様子で睨みつけ…いや、見つめていた。眼光が鋭いから睨みつけているように見えたけれど、ただ妹と同じような感じでポケモンに興味があって見つめていただけだと理解する。ピカチュウに目配せしてシルバーの近くに行ってもらい、ピカチュウはそのまま笑顔で挨拶をした。でもシルバーはニドランのぬいぐるみをギュッと抱きしめてどうすればいいのか俺に視線で問いかけてきた。そのため俺は笑顔でピカチュウ抱き上げてからシルバーに向かって近づけていく。シルバーはそんな俺たちに困惑しているようだった。触ってみたいけれど大丈夫なのか分からないという…妹が以前していたような表情を浮かべていた。
「ほら、大丈夫だぜ。ピカチュウは攻撃したりしないよ」
『ピカッチュ!』
「…撫でてもいい?」
「ああ大丈夫だ!」
『ピカピカ!』
「…っ!」
シルバーはピカチュウの頭をそっと撫でて笑顔になった。そしてもっと撫でようとニドランのぬいぐるみを近くにあった椅子に置いて両手でピカチュウを撫で始める。ピカチュウはその優しげな撫で方に笑顔で鳴き、もっとやってくれと言う。そのピカチュウの声が伝わったのかシルバーは先ほどの眼光の鋭さが消え、普通の小さな男の子のようにピカチュウを撫でたり抱きしめたりするようになった。でもピカチュウはそれを嫌だと思わず、妹と接している時のようにシルバーの頭を撫でてありがとうと礼を言う。その微笑ましい様子に少しだけ気分が癒された。
シルバーの方は満足したのか抱き上げたピカチュウを俺に渡してくる。俺はピカチュウを肩に乗せてから口を開いた。
「ピカチュウを触った感想は?」
『ピィカ?』
「嬉しい…です!!」
「そっか。それは良かった!」
『ピカピカ!』
「――――――サトシ」
「サカキ…久しぶりだな」
『ピカッチュ…』
シルバーと盛り上がっていた時にやって来たのはサカキだ。サカキはペルシアンを連れて部屋に入り、そしてシルバーを見た。
シルバーは慌てたようにサカキにお辞儀をしてから、椅子に置いていたニドランのぬいぐるみをつかみ、俺たちに笑顔で手を振って部屋の外に出て行く。俺たちも笑みを浮かべながら部屋の外に出て行くシルバーに手を振って、そしてふと疑問に思ったことを首を傾けてサカキに問いかけた。
「あの子…シルバーはどうしてここにいるんだ?」
『ピカピカッチュ?』
「あれは私の息子だ。どうやら世話になったようだね」
「は?息子!!?」
『ピッカッチュ!?』
サカキに息子がいたとは思わなかった…サカキってなんだか独身のような感じがしたというか…いやこれは失礼か。ああでもあの眼光の鋭さは確かに父親似だと俺とピカチュウは納得できた。まあ今のロケット団ならシルバーも楽しく暮らせるだろうし、安心かなと思う。それにサカキがシルバーを見た時の表情が親の愛情があるように見えたから大丈夫だろう。それにもしも妹と会えたら良い友達になれそうだ。
「それでサトシ……今回きた目的は?」
「ああそれなんだけどな―――――――」
俺たちは話し合った。プラズマ団のこと、新しい情報と…そしてプラズマ団の目的について様々なことを話しあい対処する方法を考え、どうプラズマ団を潰していくのかを考え始めた――――――――。
兄の心境。
シルバーね…何か聞いたことあるような名前だったな…?