仲良くなるために必死だった。
「ねえキモリ…僕の言うことを聞いてよ…」
『キャァモ』
「ほら、あの木に向かってはたくだってば!」
『……キャモ』
「だからただ立ってるだけじゃないっていってるのに…」
――――マサト達の今いる場所は森の入り口近く。
マサトは現在キモリと仲良くなろうと必死に交流を続けていた。オダマキ博士からポケモンを貰った時は本当に喜んだものだ。キモリはあのサトシのジュカインの真似をして枝を口に銜えてクールを気取っているからますます気に入り、選んだのだから。だがキモリはマサトと仲良くなろうとはしない。…いや、仲良くなろうとしないというより、マサトのある指示を聞かないだけなのだ。
問題を起こしたりはしないのだが、キモリと技の練習をするためにマサトが技を指示するのを無視しているだけなのだ。その行動こそマサトに頭を抱える原因となっていた。普段はマサトの後ろを歩き、本当にやらないといけないことはちゃんとやる良い子なのだが、いざ技の練習となると何もせずただマサトにそっぽを向き立っているだけ。どうしてなのか原因も分からずマサトは悩んでいた。
「どうしてキモリは僕の言うことを聞かないんだろう…キミは僕と仲良くなりたくないの?」
『キャモキャモ』
「…首を横に振ってるのは否定の仕草だよ」
『キャモ』
「…じゃあ何で仲良くなりたいのに技の練習はしたくないの?」
『………………』
キモリはマサトの言葉に何も言わず、後ろを向いた。その態度は言いたくないということだと分かり、マサトは苦笑した。仲良くなりたいというのはキモリの意思表示から伝わったからそれについては問題ない。ただキモリは技をしないだけが問題だと分かったから少しだけマサトは安心したようだった。
(サトシも言ってたからね…ポケモンが何かやりたくないことは強制的にやっちゃ駄目だって…)
マサトはキモリを見ながらもサトシと旅をしてきたときに言われた言葉を思い出していた。ポケモンがやりたくないことは何か原因があるもので、それを人が強制すると余計に悪化するからやめた方が良いということを。そして見たことがあった。あるトレーナーが出したポケモンが嫌そうな表情でトレーナーの指示を聞いてバトルをしている光景を。そしてやりたくないと抵抗したポケモンにトレーナーが怒った様子でポケモンを叩いて強制的にやらせていた場面を―――――――。だが、その時のトレーナーはキレたサトシにボコられ、ポケモンに無理強いをするなと説教されていたから何とか解決した。
今目の前にいるキモリも似たような感じなのだろう。技を出したくないというその様子は何か悩んでいるのかとマサトは首を傾けつつも、後ろを向いて銜えた枝をひょこひょこ上下に動かしているキモリに問いかける。
「君は…サトシのジュカインのようになりたいと言っていたよね?だけどバトルはやりたくないし技も出したくない…それはジュカインのようになりたいということじゃない気がするんだ」
『キャモ…』
「でも君は技を出したくない…どうしてなのか教えてくれないかな?僕、キモリの力になりたいんだ!」
『……………………』
キモリはマサトの方を向き、何か喋ろうかどうかと悩んでいた…だが意を決して口を開き話そうとした、瞬間だった――――――。
『バゥゥウウウ!!!!』
「うわッ?!ポチエナの集団だ!!」
『キャモ!!』
森の中からポチエナ達がマサト達に向かって襲いかかってきたのだ。おそらくポチエナたちはキモリを手持ちに持つトレーナーだと勘違いをして襲ってきたのだろう。だがマサトはまだトレーナーにもなっていないただの子供だ。キモリと仲良くなろうとしているただの子供なのだ。
それにキモリは技を使おうとしないため、ポチエナ達に攻撃することは不可能だとマサトは一瞬で考え、冷や汗をかいた。
「逃げようキモリ!」
『キャモ!』
『ガゥゥ!!』
『バウバウゥ!!!!』
「うわ…後ろにもいる!?」
『キャ、キャモ…』
ポチエナ達の中の何匹かが逃げようとしたマサト達の前に出てきて…周りを取り囲んだ。それを見たマサトはキモリを抱きしめてしゃがみ、キモリを守ろうとする。
『キャモ!?』
「大丈夫だよキモリ!君は絶対に僕が守るからね!!」
『バゥゥウウウ!!』
『キャモォォオ!!!!』
キモリを庇っているためポチエナ達はマサトを標的にして襲いかかってきた。鋭い牙がマサトの身体に突き刺さろうとしてくる。その光景を見たキモリは目を見開いてやめてと叫ぶ。自らを選んだトレーナーと仲良くしたいという気持ちと、技を放ちたくないという気持ちを考えて、マサトを選んだ瞬間だったーーーー。
『キャモキャモ!!』
『バゥゥ!?』
『ガゥウウ!!!??』
「これは…りゅうのいぶき!?」
マサトが見た技はキモリが普通覚えるはずのない技だった。強烈な技が放たれたせいでポチエナ達は怯え、逃げていく。それを見たキモリは鼻で笑い、怯えるならかかってくるんじゃないわよと逃げていくポチエナの後ろ姿を見ながら考えていたりする。
…そして恐る恐るマサトの方を向いてみた。キモリはある事実に恐れていたからだ。
だがマサトはしばらくの間無言で立っていたが、すぐに優しげな笑みを浮かべてキモリの頭を撫でた。
「キモリ、ありがとう…僕のために技を使ってくれたんだよね。はたくを使わず…りゅうのいぶきで倒してくれた。本当にありがとう!」
『………キャァモ』
キモリは照れながらもマサトの顔をしっかりと見た。いつものようにそっぽを向かず、真正面からじっと顔を見て少しだけ笑みを浮かべていたのだ。それに気づいたマサトはその事実を口に出さず、ただ笑ってありがとうと言ってキモリを抱きしめた。
そしてキモリは技を放つのを躊躇することはなくなった。キモリの技は通常とは違っていて、はたくを覚えておらずりゅうのいぶきを覚えていたのだった。
マサトはポケモン図鑑などを持っておらず、通常のキモリが放つ技しか覚えていないと考えていたからこそのすれ違いだったからだ。
そしてその後キモリは小さく鳴き声をあげてマサトに伝えていた。…技が違っていたから、普通のキモリじゃないからと捨てられるのではと思っていたらしいということ、サトシのジュカインのような技を覚えていきたいということをマサトにその言葉が通じないと分かっていてもきちんと口に出して伝えていたのだ。だがマサトにその言葉が通じずとも、キモリの悩みを吹っ飛ばしジュカインのようになりたいという願いを叶えようと言うだろうとキモリはそう考えていた。
マサトはりゅうのいぶきを見てもただ笑っているのだから、もう大丈夫だとキモリは安心した。マサトの方もキモリの技は凄いと思い、目の前にいるキモリとパートナーになることの幸せを感じていた。
――――――――マサトとキモリの仲は良くなり、後の相棒としての一歩となった瞬間だった。