マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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兄にとっては思い出したくない話…。


第百二十四話~兄にとっての黒歴史~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?サトシの幼少期時代?」

「そう。あのサトシが子供の頃はかなり暴れてたって本当かい?」

 

 

シゲルがマサラタウンに一時休暇として帰ってきている頃、ケンジが前にオーキド博士が言っていた言葉を思い出してサトシの幼馴染であるシゲルに聞いていた。

ケンジにとってサトシは一般的なトレーナーからは常軌を逸しているトレーナーであると認識している。旅をしている間に出会ったポケモンや伝説、そして悪党に対する反応もそうだが、何かあった際の行動力は凄まじい。一目で強いと分かるポケモン相手にも恐怖心などを見せず、むしろ敵だと分かればすぐに台風のごとくぶっ飛ばす。時にはピカチュウの電撃で…ポケモンの技で…そしてサトシ自身の拳で戦う。

少しの間に旅に同行してケンジはそれがよく分かったから、幼馴染であるシゲルにとってはサトシのことを人外か何かだと思っているのかもしれないとケンジはちょっとだけ考えてしまった。

 

だからこそ、ケンジは聞きたくなったのだ。

サトシが子供の頃にかなりいろいろとやんちゃをしていたという時期のことを――――――――。

 

 

「…そうだね…話をしてもいいかな…」

『ブラッキ』

 

 

シゲルは足元にいるブラッキーを撫でながら苦笑しつつも、ケンジの質問に答えてくれた。そして始まった話はまだサトシとシゲルがポケモンを持てない頃……。

サトシの妹であるヒナがまだ、生まれていない頃の話をしてくれた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「サトシ…君ねえ…ポケモンを持たない人間が森の中に入るなとおじいさまに言われただろ!!!」

「……………………」

 

 

サトシが草むらの奥の…トキワの森へ直進しようとしていたのをシゲルが見つけたため、シゲルは行くなと言って怒鳴る。だがサトシは無表情でシゲルのことを一度だけ見てからすぐにまた森に向かって歩き出そうとする。そのためシゲルはサトシの腕を掴み、これ以上行くなと言ってサトシの行く手を遮る。

 

 

「って僕の話を聞いているのかい…サトシ!!!」

 

「………離せ」

 

「ッ…」

 

 

サトシはただ自分の腕を掴んでいるシゲルの手が気に食わないらしい。シゲルに向かって強い敵意の持った目で睨みつけてきたのだ。幼いシゲルはそれが堪えたのか思わず息を止め、掴んでいた腕を離してしまう。そのせいで自由になってしまったサトシは森の中へと入って行ってしまった…。

 

 

「………サトシ」

 

幼いシゲルはただサトシと一緒に遊びたいと思っていただけだ。他の子供たちとは違うその態度。オーキド博士の孫だからという理由で接してこない……というよりほとんど無関心で何も言ってこないサトシに興味を持ち、一緒に遊んでみたいと思っていたからこそ、よくトキワの森に入って行こうとするサトシに注意をして、森の中に入るなと言っていた。親切心から…そして仲良くなりたいからこそ言った言葉だった。だがサトシはそれが余計らしく、むしろ辛辣さが増していった。最初は無表情でそれを見て、シゲルの言葉を無視して森の中に入って行ってしまったのだけれど、だんだんと苛つきが増してきて、今では出会っただけで睨み付けられたりするようになってしまった。その鋭い目つきにシゲルは何回も泣いてしまったことがあるぐらい怖い思いをした。

 

でも、それでも幼いシゲルにとっては最初にサトシに興味を持ってしまったきっかけのせいでサトシのことを諦めきれなかった。サトシに何回も森の中に入るなと言っているのにその言葉に耳を貸さず、大人たちの説教にも堪えず…そしてサトシの母であるハナコさんが息子のことを心配して泣かせてしまったというのに森の中に入るのを止めず、大人たちや大人たちのポケモンが連れて帰らないといつまでたってもマサラタウンに戻ってこないサトシだとしても…それでもシゲルは諦めきれなかった。

 

 

「……よし」

 

 

シゲルはオーキド博士や大人たちがよく注意していた約束を破るという決意をした。いつもならここでサトシが森の中に入って行ったと大人たちに知らせて、サトシを連れ戻しに大人たちが森の中を行くのを見送るのがいつもの日常だけれど、今回は違っていた。サトシがどうして森の中に入るのかは分からない。

 

森の中に入るだけじゃない…前にキャンプに参加した時もサトシが楽しそうに遊んでいる皆から離れてどこかへ行ってしまった時があった。その時はキャンプの最初っからいなくなってしまい…そのままマサラタウンに帰ってこないのではないかと心配したことがあった。だがその時は遠くからキャンプに参加しに来た女の子も一緒にいなくなっていて、結局は最終日に見つかったらしく大人たちに連れられて2人が…サトシが帰ってきて安心したという記憶が残っている。

…あの時のような辛い気持ちはもう二度としたくはないと思っているシゲルだからこそ、サトシの後を追いかけるという決心をして走り出した。

 

 

――――――――そして見つけたのは幼いサトシの後ろ姿。ただひたすら前を見て歩いている姿に…トキワの森の奥へ行くのだろうかとシゲルは思いつつも、サトシに話しかけた。

 

 

「サトシ!!」

「帰れ…ガキが森の中に入って来んな…」

「ガキって…君も子供だろう?」

「うるせえお前には分からないことだ」

「…?」

 

 

サトシと話しているということにシゲルは嬉しそうに口を開きつつも、サトシの言葉に疑問を感じてしまった。まるで自分は子供じゃないと言いたいようなそんな感じがすると思ったからだ。

何のことだろうとサトシに話しかけようとした…その時だった。

 

 

 

『ギェァァァァァァァァアアアア!!!!!!』

 

 

 

「っ!?…な、ポケモン!?」

「…チッ、オニドリルか…めんどくせえな…まったく…」

「サトシ!そっちへ行ったら駄目だ―――――」

 

 

 

「うるせえよ…どいつもこいつも…!」

 

 

 

サトシが目の前に現れた強暴そうなポケモンを見て舌打ちをして睨み付けた。そしてそのまま子供にあるまじき超脚力でジャンプをしてオニドリルの顔面に蹴りを入れて吹き飛ばす。その強さに…そしてその大胆な攻撃にオニドリルは驚き目を見開いた。もちろんシゲルもそんなサトシの意外な一面に驚き…そして畏敬の念を抱いてしまった。シゲルよりも身長が小さくて幼く…とてもか弱い身体にあるサトシの強い力。オニドリルを凌駕するほどの強さを見せたのだ。

 

 

「オニドリル…俺に襲いかかってきたんだから…お前も俺に潰される覚悟があるってことでいいんだよな…なあ?」

『ッッ!!?』

 

 

「サ、サトシ…」

 

 

「………………はぁ」

 

 

オニドリルは目の前にいる小さくて幼いサトシを恐れて飛び去ってしまった。その姿を見てサトシはため息をついて…シゲルに視線を向ける。シゲルはサトシと目が合ったことに少しだけオニドリルのように怒られるのではないかと考え…恐怖していた。

でもサトシは、本当に疲れたようなため息をしてから、シゲルの頭に手を置いて乱暴に撫でてきた。その行動にシゲルは驚き、目を見開く。サトシはすぐに頭を撫でるのをやめ、そしてシゲルの腕を掴んでマサラタウンの方向へ歩き始める。腕を引っぱられたシゲルはそのまま歩きだしたけれど、何故トキワの森に入ったというのにマサラタウンに戻ろうとするのか疑問で頭がいっぱいになってしまっていた。今までのサトシの反応だったら、シゲルのことを置いてどこかへ行ってしまうというのに…何故自分を連れてマサラタウンに戻るのだろうということ、そして先程頭を撫でてきたのはなんでだろうと考え…口を開いた。

 

 

 

「サトシ…どうしてマサラタウンに帰ろうとしているんだい?…今までの君だったら、そんなこと―――」

「うるせえ黙れ。俺がやりたいからやってるだけだ」

「……サトシ」

 

 

 

シゲルは少しだけ笑みを浮かべて、サトシに引っぱられるがままマサラタウンへと歩いている。サトシはシゲルのことを放ってはおけなくて、帰ろうとしてくれているのだろう。いつもならそのままどこかへ行ってしまうというのに…大人たちの制止を振り切ってどこかへ行ってしまうというのに今はシゲルを連れてマサラタウンへ帰ろうとしているのだ。シゲルは考えていた。サトシは冷血無表情な人外だとよく言われてきていたみたいだけれど、こんな形でサトシの優しさに触れ、人間らしい一面を知ることができたから良かった…嬉しいと思えたのだ。

 

 

その後、マサラタウンに帰ると大人たちが心配していて、サトシ達に説教していたこともあったけれど、幼いサトシはそれを無視し、そして幼いシゲルは大人たちの説教をちゃんと聞きながらも今までにあったことを思い出して、そして反省していたということがあった――――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「――――ということさ」

『ブラァ…』

「な、なんか子供の頃のサトシもいつも通りだったんだね…ちょっとだけ辛辣なだけで…しかもオニドリルにポケモンなしで勝っちゃうだなんて…」

「サトシのやることにいちいちツッコんでいたら身が持たないからね…適度なスルーも大切だよ」

「ああうんそうだね…さすがサトシの幼馴染…」

 

 

 

 

ケンジはシゲルの言う昔の話を聞いて苦笑していたけれど、でももうサトシだからという言葉で納得できるということと、シゲルがスルーも大切という言葉を言ったおかげで引き攣った笑みだけで済んだと言える。

 

 

 

 

 

 

―――――――本日も、マサラタウンは平和だ。

 

 

 

 

 

 


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