「~~~♪」
「……………」
俺の両手に荷物で塞がっていた。中には色んな漫画から同人誌が十冊以上入っている。
ちなみに買ったのは俺ではない。目の前で今だに買い漁っている年季の入ったデニムのボトムスに、くたびれたダウンジャケット、ついでに口元が隠れるほどにマフラーを巻いた
「なんでこうなった……」
俺は何故この娘の荷物持ちをしている? のかが分からなかったが彼女は俺の言葉を聞き逃さずに聞いていたのかその答えを教えてくれた。
「あなたが
「え?」
あの人? また、分からないキーワードに俺は悩まされた。
そんなこんなを考えているうちに彼女はどんどん奥へと進んで行く。俺はその後を追う。
全ての始まりは四時間前の事だった。
◇
「嫁! 今から秋葉に行くぞ!!」
土曜日の午前9時。ラウラが俺の部屋に入って来る否や秋葉に行くぞと言い出したのだ。
その場にいたフレヤやマルモロは目を丸くしてラウラを見ている。
「何故だ?」
「クラリッサが言っていたのだが、“秋葉は日本で唯一の
「……………」
ラウラは現役軍人だ。今のご治世では戦争をやっているところは全くと言ってない。強奪とかはまだあるが。
そして、ラウラが所属する部隊……IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長をやっている。そんで、その副隊長が日本の少女漫画のファンで、そこから日本文化の知識を得ているためかその内容はかなり偏っていることは俺の専用機たちから聞かされていた。
その被害を一番に受けているのがラウラだったことは言うまでもない。
「嫁よ! 早速行くぞ!」
今日は特に予定がなかったから、ラウラの誘いを断ることなくついて行くことにした。
本音を言えば秋葉には一度も行ったことがない。
どう言う所なのか少しワクワクさせながらラウラの後ろをついていく。
◇
IS学園から秋葉原まで一時間。俺は秋葉原駅電気街口側の改札前に立っていた。
休日だからか、駅にはかなりの人が見受けられる。近年は観光地としても有名になったからか、外国人の姿もちらほらと確認できる。
弾とかからちらほらと聞いていたが、実際見てみるとすごく違って見えた。
そこかしこに貼られた広告はアニメやゲーム関連のものが多数を占め、まるで知らない世界にやってきたような感覚さえ覚えてしまう。一種の非日常感というかトリップ感がこの街に人を集める一つの要因なのかもしれない。
「では、ゆくぞ!」
ハイテンションのラウラは目を輝かせながら歩きだした。
しかし……
「……………」
上下左右前方後方を見わたすが……ラウラがいない。
いわゆる迷子だ。
俺は思わず顔に手を当ててしまった。ラウラのハイテンションに付いて行けなく、18になってなお迷子になるとは思ってもいなかった。
「とりあえず、連絡……」
ポケットからスマホを取り出そうとした瞬間、誰かに声を掛けられた。
「少年よ♪」
その声に何故か聞き覚えがあったが、その人は全く知らない人だった。
年季の入ったデニムのボトムスに、くたびれたダウンジャケット、ついでに口元が隠れるほどにマフラーを巻いた女性で、女性は呼吸するたびに、かけていた眼鏡がうっすらと白く曇る。
「えっと……」
「ふむふむ。
「はい?」
そう言って彼女は俺の腕を掴んで俺を何処かに引っ張っていく。
ここであることに気付いた。流石に知らない女性に連れて行かれるのだ俺は抵抗する。しかし、全くと言ってもいい
結局連れて来られ、とある建物の前で足を止めた。
「はい、ここだよ!」
「ここ……って」
「うん、コスプレショップ」
「なんで!?」
俺が素っ頓狂な声を上げると、彼女はあははと楽しげに笑った。
「なんでって……わかってるくせにぃ。ほら、入った入った」
「わ……っ、お、押すなって」
俺は、彼女に押し切られるような格好で店の中に入っていった。
店内には、色とりどりの衣装が並んでいた。アニメキャラクターの衣装から、職業別のコスチュームまで、幅広い品が取り揃えられている。
彼女は「ほっほー!」とラウラの時と同じように目を輝かせると、それらを物色し……三着のコスチュームを手にして、俺の前に戻って来た。
「はい! じゃあここで選択肢です!」
「へッ!?」
「少年があたしに着させたいコスチュームはどれ!
①ナース服
②メイド服
③『プリズマ☆イリヤ』マジカルルビーフォーム。
さあ、選択開始!」
叫び、彼女が制限時間を示すように「ちっちっち……」と言い始める。
ちなみに彼女の手には、ナース服とメイド服と、ピンク色の魔法少女のコスチュームが握られていた。
「え、いや、突然そんなこと言われても……ていうか最後のやつだけジャンル違わないか!?」
訳が分からず連れてこられ、いきなり選べって!
「ああもう、何が何だか……!」
俺は混乱の中、ビッと彼女の持っている服を指した。
「じゃあ①! ①で!」
「①ね?」
「……ああ」
「ホントね? 絶対後悔しないね?」
「た、たぶん……」
「マジカルルビーフォームじゃなくてホントにいいのね?」
「いやそんなに着たいなら最初から選択肢にするなよ!?」
たまらず俺が声を上げると、彼女はヒラヒラと手を振った。
「冗談冗談。今はサービスタイムだからねー。少年の希望が最優先だよ」
「別に希望ってわけじゃ……」
「やっぱりあれなの? 昔入院してたとき美人の看護師さんイタズラされて以来、白衣にそこはかない劣情を催すようになちゃったの?」
「勝手なストーリー捏造しないでくれるかな!?」
俺が叫ぶと、彼女がまたも可笑しそうに笑った。
「じゃあ、ちょっと待っててね。すぐ着替えるから」
そしてナース服を手にしたまま、目の前にあった試着室へと入っていく。
カーテンを閉めてすぐ、服を脱ぐような衣擦れの音が聞こえてくる。俺はなんだか妙な気分になって頬を染めながら視線を外した。
するとしばらくしてから、彼女が声を発してくる。
「あ、少年少年。覗くなら今がベストタイミングかも。今鏡見て気づいたけど、穿きかけのストッキングがやべえ、超エロい」
「いやホントに何言ってんの!?」
カーテン越しに聞こえてくる言葉に、俺は思わず喉を震わせた。
「えー、だってほら、これ凄くない? 予想外の相乗効果だよこれ」
と、彼女がそんなことを言ったかと思うと、次の瞬間、試着室の内側からカーテンがシャッと開かれた。
「は……ッ!?」
予想外の事態に、俺は身体を硬直させた。
何しろ彼女はまだ着替え中であり、ナースキャップは被っているものの、服は袖を通しただけでまだ前のボタンを閉じておらず、黒の下着が露出した状態だったのである。しかもそれで足の途中までストッキングを上げている者だから、彼女の言うとおり、とにかくやべえ超エロい格好だったのだ。
「ねー、エロいっしょ。やーこれは新発見だわ」
「いいからちゃんと服来てくれ!?」
俺は絶叫じみた声を上げると、開けられたカーテンを慌てて閉め直した。
◇
その後は彼女の荷物持ちをされ、人通り買え終え駅に着くと持っていた荷物を全て引き取った。
「いや~、助かったよ」
「聞きそびれたけど、貴方は誰なんですか?」
「あや? そう言えば名乗っていなかったね」
そう言って彼女は俺の頬を触れる。その瞬間、俺は教会にある長い木製の椅子に座っていた。
「……!?」
「これで、もう私が誰だかわかったかな?」
この感覚は知っていた。
後ろからガシャンガシャンと音を立てて歩いて来る。
「君はまさか……」
「騎士シリーズ番外個体。ファイの作品が一人、二亜さ」
銀色の白騎士に乗った彼女に俺は何も言えなかった。
「少年とはまた近い内に出会える気がするね」
そう言って空間が崩壊してしまった。
「……よ」
気づいた時には二亜はいなかった。
「嫁よ!」
「あ……」
代わりにラウラがいた。
「何処に行っていたのだぁ!」
「ああ……すまん」
「まあ、無事だったからよい」
ラウラの手元にはいくつもの袋があり、本人は満足したみたいだった。
「私を置いて行った罰だ!」
そう言ってラウラの荷物を持たされた。
なんか今日は荷物持ちが多いような気がする。