インフィニット・ストラトス ~紅の騎士~   作:ぬっく~

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風騎士
擬人化名 壱原マル、壱原モロ
フルネームはマルダシ、モロダシ

土騎士
擬人化名 ライラ・ローレライ
765事務所に所属
本名ではなく誘宵美九としてプロデュースしている。


第64話

『―――これより、第二十五回、IS学園文化祭、天命祭を開催いたします!』

 

 天井付近に設えられたスピーカーから実行委員長の宣言が響くと同時に、各展示場が拍手と歓声に包まれた。

 IS学園の生徒が待ちに待った、天命祭の始まりである。

 正面入り口から近い露店には主に飲食関係の模擬店が、奥には、様々な研究発表やお化け屋敷などの簡易アトラクションが集められていた。

 今一夏がいるのは一組。争奪戦の勝敗を握る重要な拠点である飲食ブースだ。

 だが、そんな重要拠点にいるはずの一夏は今、地面に手を突いて全身から暗い空気を発していた。

 

「おっ、おぉぉ……」

 

 理由は至極単純なものである。

 一夏はゆらりと顔を上げ、辺りを見回した。周囲には様々な模擬店が展開されている。たこ焼き、クレープ、そして音に聞くこだわりのメンチカツ。

 だが、一夏たち一組の必勝策はそんな生やさしいものではなかったのだ。

 一夏は頭をぐりんと回し、自分の背後に聳えている看板に目を向けた。

『メイドカフェ☆AIESU』

 その無慈悲な名称を頭の中で反芻してから、視線を下にやる。そこには、

 

「おお! ひらひらだな!」

 

 フリルのいっぱいついたエプロンの裾をつまんでひらひらさせながら笑うサー(ステフに高校生サイズにしてもらった)や、

 

「ぷ、くく……い、一夏、御主、おなごの格好もなかなか似合うではないか」

 

「不覚。失笑を禁じ得ません」

 

 一夏の姿を見て含み笑いを漏らす、サーと同じ装いのマル、モロなどが見受けられた。

 そこまでを再確認し、一夏はさらに視線を下へ。自分の装いを見直した。

 ―――その、サーや壱原姉妹たちとまったく同じデザインの衣装を。

 濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のエプロン。ついでに頭部には、これまた可愛らしいフリルで飾られたヘッドドレスが着けられている。

 一言で言うと、これ以上ないくらいのメイドさんスタイルだった。

 

「なんで……こんなことに……」

 

 女体化で女性服も大概ではあったが、さすがに一夏も、人前においてメイドさんコスプレをさせられる日がくるとは思ってもいなかった。なんだか男の子の心の大事な部分が汚されてしまった気がして、再びがっくりと肩を落とす。

 と、そんな一夏の肩に、ポン、と優しく手が置かれる。―――のほほんさん(メイドバージョン)だ。背後には、同じ格好をした谷本と夜竹も見受けられる。

 

「どーしたのオリムー。そろそろお客さんがくるよ~」

 

 言ってビッと親指を立ててくる。一夏はゆらゆらとその場に立ち上がった。

 

「……あの、これって」

 

「うんうん。似合っているよ」

 

「いや、ていうか……なぜ俺までがメイドなんです」

 

 普通なら執事服を着る俺がメイド服を着ているのだ。

 

「たっちゃんがオリムーは女装させるといいよって言ってたからしてみました~」

 

 のほほんとした口調で理由を説明してくれた。

 たっちゃん? 確かのほほんさんの家って更識の使用人の家系だから……。

 

「あの女かぁぁぁ!!!」

 

 脳裏で笑う楯無の顔が浮かぶ。

 

「だからオリムーは入り口に立って客寄せパンダをやっててよ。ホールスタッフにはガチの接客を教え込んであるから安心して呼び込んじゃって」

 

「そそ。できるだけ派手にお願いねー。もう行列作っちゃう勢いで!」

 

「うんうん、天真爛漫絶世美少女に、タイプ別双子、それに長身気弱系ときた日にゃあ、もう釣れない男は熟女好きか同性愛者くらいのもんよ」

 

「…………」

 

 いつの間にか気弱系にカテゴライズされていた。複雑な心境で苦笑する。

 それと同時に、正面入り口の方から夥しい数の足音が響いてきた。

 どうやら、お客様……もとい『ご主人様』と『お嬢様』がやってきたらしい。

 

「さ、じゃあここはよろしくねー!」

 

「みんな集まって」

 

「あー、みんな、ここは一夏ちゃんに任せていくから、ちゃんと指示に従ってねー!」

 

 言って、ののほほんさん谷本夜竹が店の中に引き込んでいく。

 

「え……っ、ちょ―――」

 

 店の前に残されたのは、一夏、サー、壱原姉妹、そして選りすぐれた客引きメイドさんが10名ほどである。それら皆が、今し方客引き隊長に任命されてしまった一夏に目を向けてきていた。

 

「え、ええと……」

 

 一夏は困り顔で頬に汗を垂らすと、コホンと咳払いをした。

 

「その、とりあえず、皆さん、頑張ってください」

 

『はいっ!』

 

 一夏の声に応え、メイドさんたちが一斉に礼をする。きちんと手を前で合わせた綺麗なお辞儀である。教育指導にセシリアの専属メイドさん、チェルシーさんも呼んでいたことは一夏は知らなかった。

 ともあれ、決戦は始まった。次々と、パンフレットを手にした客が入場してくる。

 客層は様々だった。生徒の家族と思しき面々や、今仕事のない生徒、IS関連企業の人間、近隣の高校や大学生、これからここの生徒になるであろう中学生の姿も見られる。中には、背に『誘宵美九親衛隊』と刺繍の施されたハッピを着たファンの姿もあった。特別ゲストとして誘宵美九が第三アリーナでライブをするらしい。ちなみにその誘宵美九の本名はライラ・ローレライ……土騎士だ。

 それと同時に、熾烈な客引き合戦が開始される。あちこちから威勢のいい声が響き渡り、一気に展示場内が活気に満ちあふれた。

 

 

 ◇

 

 

 

「てか、なんでお前たちがここにいるのだ?」

 

「楯無さんが、“楽しんできなさい”とお金をくれたのだ」

 

 サーと壱原姉妹は諭吉30枚を見せる。

 楯無さん……一体なにを考えているのだぁ!!

 

「そ、そ、そうか…………」


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