インフィニット・ストラトス ~紅の騎士~   作:ぬっく~

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第55話

「そういえば、少し疑問がありましたわ」

 

呪いによって女体化してから3日目の朝、珍しくエンペラーが部屋にいる。

今回の呪いはどうやらエンペラーのようだ。

左目が金色の羅針盤が刻まれていたので、すぐに理解できた。

 

「なにが?」

 

「簪さんのことですわ」

 

「簪が?」

 

簪は今、一週間の謹慎処分が下されているので、ごく稀に廊下で出会う。

その度に俺の腕にしがみついてくる。

本人曰く、一緒にいたいそうだ。

 

「最初に出会った時は、純粋な生命力だと思っておりましたが、よく調べますと霊力でしたわ」

 

「それはおかしいな……。だって、簪が折紙と出会ったのはつい最近だぞ?」

 

「ええ、その通りですわ。ですから……」

 

エンペラーはその場でくるりと身を翻すと、空いている左手でスカートを掴み、大仰にお辞儀をしてみせた。

 

「調べに行きますわ。―――さあ、おいなさい、〈刻々帝(ザアアアフキエエエエエル)〉」

 

するとその声に合わせるようにして、エンペラーの足元に蟠った影から、巨大な時計の羅針盤が出現した。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉―――【十二の弾(ユッド・ベート)】!!」

 

刻々帝(ザフキエル)〉が今までに聞いたことのないような軋みを上げ、黒い輝きを放ち始める。

エネルギーの余波が雷のように弾け、辺りにバチバチと散っていった。

やがてそれらが文字盤のⅫに収束していき、そこから濃度な影が迸り、エンペラーの構えた銃の銃口に仕込まれていった。

エンペラーはニッと唇を歪めると、その銃口を一夏に向け、引き金を引いた。

 

「さあ、行ってらしゃいまし、一夏さん」

 

銃口から放たれた漆黒の弾丸は、空間に黒い軌跡を残しながら一直線に飛んでいった。

 

「ちょ!? エンペラー!!」

 

一夏の胸元に触れた瞬間、その身体を弾の回転に巻き込むように抉った。

そして、そのねじれが次第に大きくなっていったかと思うと、やがて一夏の身体は、弾道に引っ張られるように歪曲し、その空間から消えていった。

 

「さあ―――わたくしたちの戦争(デート)を、始めましょう」

 

エンペラーは独り言のようにそう呟くと、ベットへと倒れた。

 

 

 

 

―――闇に落ちていた意識がゆっくりと戻ってくる。

その時に聞こえたのは人の声だった。

 

「ここは……」

 

一夏は一人路地の中で立っていた。

そこを出るとそこはどこかの商店街だった。

 

「エンペラーめ……今度はどこに飛ばしやがったんだ」

 

再度、路地に戻り〈贋造魔女(ハニエル)〉を取り出し、服装を変える。

さすがにジャージのままでは、目立つのでTシャツとジーンズに変えた。

ジーンズの片方は太腿の際どい所まで切断して露出し、Tシャツの片方の裾も根元まで切断し、靴はウエスタンブーツ。

 

「これでよしっと」

 

とりあえず外に出ても大丈夫な服装に着替えた後は情報収集を開始した。

そこであることに気付いた。

コンビニで新聞に目を通した時だった。

 

「嘘だよな……」

 

新聞の上に記載されていた年月日が10年前だった。

 

「10年前ってことは、まだISが出来上がってからそんなに経っていない年だよな……」

 

かの有名な事件である『白騎士事件』から数か月しか経っていない。

つまり今俺がいるのは過去の世界だ。

 

「ここに簪の霊力の秘密があるのか?」

 

未だにそこが理解出来なかった。

第一世代が主流のこの時代にファイの作ったISは存在しない。

 

「もう少し情報を……」

 

その時だった。

建物の角を曲がった時、誰かが誘拐される所を目撃した。

 

「放し……」

 

「大人しくしやがれ!!」

 

「急げ!!」

 

黒いワゴン車と3人の男たちが水色の髪の少女を誘拐していた。

 

「もしかして……」

 

俺は物陰に隠れ、様子を窺った。

黒いワゴン車は少女を押し込めた後、その場を立ち去った。

 

「あれに何かあるのは間違いはなさそうだな……」

 

一夏は人目のないところで黄騎士を展開し、誘拐犯を追った。

数十分後、近くの港にある倉庫で止まる。

男たちは少女を抱え中へと入って行く。

俺は影を使い中へと侵入する。

 

「たくよ……。雇い主も何を考えているんだか」

 

「知るかよ……俺たちは言われたことをやればいいだよ」

 

「そうそう。このおチビちゃんを誘拐するだけで金が入るんだからよ」

 

倉庫の中には3人の男たちがいたが、簪の姿がなかった。

別の部屋にいると判断した時、倉庫の扉が開く。

 

「雇い主が到着したようだな」

 

「あの子は何処にいるんだい?」

 

リーダーぽい男は入って来た女性に近づく。

 

「奥の部屋にいるぜ」

 

「そう」

 

そう言って、男は親指を後ろに向ける。

それを確認した女性は持っていたアタッシュケースを男に渡す。

開けると中にはぎっしりと詰まった金の束だった。

 

「確かに受け取ったぜ」

 

男は満足し、他の男たちを連れて倉庫を後にした。

女性はそのまま、足を進め奥の部屋に向かう。

そして、そこに入ると小さな少女が縛られていた。

歳としては6歳ほどだった。

だが簪としての面影があっる少女は女性が入るなりきつく睨みつける。

 

「久ぶりかしら? 簪お嬢様」

 

「なんであなたが……」

 

「決まっているわ。私が次代“楯無”になるためよ」

 

どうやら、その女性は更識の関係者らしい。

話が進むなり、目的が理解できてきた。

 

「現楯無は自分の娘である刀奈様を楯無にする気満々なのよ」

 

「それが私となんの関係があるの……」

 

「それは勿論、こうする為に決まっているわ」

 

女性はカチャと音をたて、銃を取り出す。

 

「ッ……!」

 

簪はそれを見ると子犬も様に震えだす。

女性は簪の表情を見るなり、笑っていた。

 

「楯無様は今、重大な選択を強いられているわ。あなたを助けるか刀奈様を助けるかの、二択にね」

 

どちらか一方しか助けられない。

片方を選べば、片方は死ぬ。

非常にエグイ選択指だった。

 

「さあ、あなたのお父様はどちらを選ぶのかしら?」

 

俺はいつでも出られるように黄騎士から2丁の銃を取り出す。

そして、選択の時がきた。

 

「……そう」

 

女性の電話が鳴り、内容は結果報告が言い渡された。

 

「楯無様は刀奈を選んだそうよ」

 

「いや……私は……」

 

「さようなら、簪様」

 

簪は涙を流しながら目を瞑る。

 

パァンンン…………

 

乾いた音が倉庫内に響いた。

 

「ッ!!」

 

簪は一向に痛みを感じなかったことに疑問に感じ目を開くと黄色いISを纏った女性が前に立っていた。

 

「い、インフィニット・ストラトス!?」

 

女性の放った銃弾は突如現れたISに弾かれ、簪に傷一つなかった。

バイザーで隠れた顔の為、素顔は分からなかったが、長い黒髪の女性だと言うことだけはわかる。

 

「あははは……、ちょうどここにもISがあるのを忘れては困るのよ!!」

 

女性もどうやら、ISを所持していたようだ。

だが、その選択肢は間違いだった。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

女性はマシンガンを展開しようとするが……遅かった。

女性の展開と同時に腹部に強烈な痛みが走った。

 

「ガッ!?」

 

黄色いISの手には二丁の古銃から煙が立っていた。

 

「嘘だろ……たかが銃弾でSEが8割も持っていくなど……」

 

黄色いISはさらにもう一発打ち込み、ISを強制解除させた。

それと同時に女性は気を失った。

 

「…………」

 

黄色いISは目標の撃沈を確認すと簪の方へと向く。

簪の身体のあちこっちに傷あとがあった。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉―――【四の弾(ダレット)】」

 

時間を巻き戻して傷などを復元させる弾を簪に打ち込むが、その衝撃で簪は気を失ってしまった。

 

「本当はあんまり関わるつもりはなかったのだがな……」

 

俺は簪を抱え、屋敷の方角を目指した。

そして、近くになるとISを解除し、屋敷の近くに彼女を寝かした。

 

「未来で待っているぜ……簪」

 

そう言い残し、俺は光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

次に目覚めた時はIS学園の寝室だった。

 

「お帰りなさい。一夏さん」

 

椅子に座ってこちらを見ていたのはエンペラーだった。

 

「ああ、ただいま」

 

少しばかり頭が痛かったが、特に問題なかった。

 

「それで、どうでしたか?」

 

「なんとくなくだが、わかった」

 

過去に起こった出来事をエンペラーに話すと不満足な顔をしていた。

 

「それでは、これは必然だったということですわね」

 

「ああ、俺が過去に行くのは必然だったということだな」

 

エンペラーは満足のいかない結果にため息をついた。


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