俺は職員室を後にし、2002号室にいた。
「暇だな……」
残る後処理はこの呪いを除いて特にはなかった。
その為、やることが特になかったのだ。
しかもIS学園は臨海学校を終えてすぐなので、今日一日は授業がないのだ。
「一夏さんは冒険って興味がございますか?」
「冒険?」
「ええ。今の一夏さんは我々に近い存在ですので隣界を経由して別の世界に飛ぶことが可能なんです」
「へ~。そんなことが可能だったんだ」
エンペラーからの話は暇つぶしの冒険をしないかの提案だった。
「ですが、そこに居られるのは半日程度が限界なので注意してくだいまし」
「ああ。わかった」
俺はエンペラーの言う冒険をすることにした。
半日程度ならちょうど暇つぶしになるのでよかったからだ。
「では……」
エンペラーは腕を真上に上げた。
「素敵な冒険を祈っておりますわ」
俺の視界が徐々にぼやけ始め、やがて黒い世界へと落ちていった。
◇
―――ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ―――――――――
商店街の各所に設えられた街頭スピーカーから、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
「警報……っ!」
士道が叫ぶと同時にスピーカーから避難を促すアナウンスが流れ始め、辺りにいた買い物客たちが、慌ただしく最寄りのシェルターへと向かっていった。
だが、士道はシェルターに避難しなかった。
空間震警報が鳴ったと言うことは、精霊が出現すると言うことである。
今すぐ〈フラクシス〉と連絡を取り、転送装置で回収してもらわねばならない。
「琴里!」
「聞こえているわよ。今から転送するからそこにいなさいよ」
士道はそのまま、〈フラクシス〉を経由して空間震の発生現場へと転送された。
「ここは……」
〈フラクシス〉から空間震の発生現場に転された士道は、辺りに広がる光景を見て、思わず頬に汗を垂らした。
直径1kmに及ぼうかという強大な広大な範囲が、綺麗に整地されたかのように円状に削り取られている。
空間震。
空間の地震と称される突発性災害の特徴だ。
士道はその中心に立つ一人の女性に目が止まった。
「あいたたた……。もう少し優しくして頂戴よ、もう!」
一般人が着ているごく普通の服装を着た黒髪で長髪の女性は誰かに怒っていた。
『何よあれ……』
「どうした、琴里」
インカムからは妹の驚きの声が聞こえた。
『士道……しっかり聞きなさいよ』
「お、おう」
『今回の精霊は……7体いるわ』
「はあ?」
これは驚くのも当然だった。
一度の現出で7体もの精霊がでたのだから。
しかし、士道の目に映ったのは一人の女性だけなのだ。
『映像では精霊の本体は1人しかいないけど、霊力が7体分あるのよ』
それは、不可解な精霊だった。
◇
俺はエンペラーに異世界へと飛ばされ、気付いたらクレーターの中心に立っていた。
「さて、ここは何処なんだ?」
周りを見渡すと一人の男子が渕の所で何かをしていた。
とりあえず、話を聞くために彼の元へと向かった。
「こんにちは、少年」
「ああ、こんにちは……」
急に話掛けられたのがよくなかったのか、彼は少し驚いていた。
クレーターの渕まで来たので自分のいる場所がよく見えた。
「随分と色んな物が壊れているようだけど……」
「あんたが起こした空間震でなったんです」
「……そうなの」
大体の状況を理解した俺はある天使を出現させた。
「―――さあ、仕事よ、〈
「な!?」
虚空から一本の箒のような物を取り出し、その箒をくるりと一回転させ、柄尻を地面に突き立てる。
すると箒の先端部分がぶわっと展開し、目映い光を放った。
次の瞬間、街が元通りの姿へと戻っていた。
「〈
◇
「嘘でしょ……」
〈フラクシス〉ではその光景を見て、非常に驚いていた。
「観測結果がでました」
そして、その結果に琴里は席を立ち上がる程だった。
「あり得ない……。あの精霊に十香、四糸乃、狂三、八舞姉妹、美九、七罪、私の霊力を持っているなんって……」
士道が今まで封印して来た精霊の霊力を彼女は所持していたのだ。
琴里は奥歯を噛みしめ、すぐさまに士道に連絡する。
「ダメです。先程、何者かのジャミングが発生しました」
「このタイミングで!?」
徐々に事態が悪い方向へと進んで行く。
琴里はただその場で見ていることしか出来なかった。
◇
「琴里! 返事を……」
「あ。ゴメン、ここ一帯にジャミングを放たせてもらったよ」
〈
「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はマドカ、織斑マドカね」
とりあえず、偽名を使いこの場を後にすることを考えた。
「当分は会えないと思うから、封印なんて考えない方がいいよ。士道くん」
「!?」
マドカと名乗った精霊は俺の能力を知っていたのだ。
「ASTもそろそろ来る頃だから、私は逃げらせてもらうよ」
そう言って〈
◇
〈フラクシス〉に戻った士道は琴里から聞いた情報に驚いていた。
「あの精霊に十香たちの霊力を持っている!?」
「ええ、そうよ」
新たな精霊が創造以上の力を持っていることに船内は緊張の空気に包まれていた。
「そのマドカだっけ? 彼女の行方はわかったの?」
「残念だが、消息は不明だ。ただ、まだ消失はしていないことはわかっている」
目の下に隈があるメガネをかけた女性が答える。
「令音は引き続き捜索を」
「了解した」
令音は引き続き捜索する。
「とんでもない精霊が現れたわね」
琴里はチェッパチャプスを銜え、不愉快な顔をしていた。
◇
無人の建物の中で、一夏は今後のことを考えていた。
「まさか、DALの世界に来るとは思っていなかったぜ」
何時かは名前を聞かれると思っていたから、一夏は偽名を使ってその場から逃げてきたのだ。
しかも、冒険先がここだとは一夏は思ってもいなかった。
「とりあえず、半日はゆっくりしたかったな……」
贋造魔女を使えば、カメラ程度はごまかせる。
それに通貨は俺のいた世界と同じだったから、お金には困らなかった。
「とりあえず……遊びますか」
一夏は贋造魔女を使い、カメラのみ映らないようにする。
そして、そのまま外へと出て行った。