インフィニット・ストラトス ~紅の騎士~   作:ぬっく~

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第49話

一夏は小さく息を吐いてから顔を上げ、寝室で暴れる回るリトル・モンスターたちに目を向けた。

一人は、お腹が空いたと連呼する、白夜色の長い髪と水晶の瞳が綺麗な女の子。

一人は、今にも泣き出してしまいそうな、左手にパペットを着けた女の子。

一人は、口に飴をくわえ、髪を二つに括った、勝ち気そうな女の子。

一人は、その女の子から飴を奪って逃走する、いたずらが好きそうな女の子。

一人は、いたずら好きそうな女の子と瓜二つの顔をした、ぼうっとした表情の女の子。

一人は、皆より少し背の高い、とても声の綺麗な女の子である。

皆、黙ってさえいれば可愛らしい女の子たちだ。

だが―――重要なのはそんなことではなかった。

一夏は改めて彼女らの顔を順繰りに眺め、ごくりと息を呑んだ。

サー、アクア、フレア、マル、モロ、そして、ライラ。

彼女らは一夏のISたちであり、七騎士のコア人格たちなのだ。

 

「イチカ! イチカ!」

 

「う、うう……」

 

「この、まちなさいよっ!」

 

「ふはは! ここまでくるがいい!」

 

「ちょうしょう。そのていどですか」

 

「だーりーん! だーりーん!」

 

「わかった! わかったからとりあえずみんな一旦落ち着いてくれ……!」

 

しかし一向に、皆はおとなしくならなかった。

 

「お邪魔しますよ、織斑くん」

 

一夏が学級崩壊したクラス担任のような調子で困り果てていると、不意に寝室の戸が開き、一人の女性が入ってきた。

一夏のクラスの副担任、山田真耶である。

 

「山田先生!」

 

「大変なことになっていますね」

 

真耶はそう言うと、状況を把握するように寝室を見回したのち、ゆっくりと前方に手を伸ばした。

そして、寝室を駆け回っていたマルとモロの首根っこを捕まえてその動きを止める。

 

「のあッ!?」

 

「しょうげき。くはっ」

 

急に動きを止め

られたマルとモロが、目を白黒させる。

だが真耶は落ち着き払った様子でその場に膝を突くと、優しく諭すように二人に目線を合わせた。

 

「人の物を取ってはいけませんよ。君たちも、自分のお菓子を勝手に食べられたら嫌でしょ?」

 

真耶が言うと、二人は気まずそうに口ごもった。

 

「ぐむ……」

 

「……はんせい。すみません」

 

「はい。これで大丈夫ですね」

 

真耶がぽん、とマルとモロの肩を叩く。

すると二人はフレアの方に向き直り、ぺこりと頭を下げた。

 

「ふん……すまなかったな」

 

「しゃざい。もうしません」

 

などと、一人ずつ話かけ、騒がしかった皆をいとも簡単に宥めてしまった。

何とも鮮やかな手管である。

 

「すみません……助かりました。俺だけではどうにもならなくて……」

 

「これでも私、保育士の資格を持っておりますので」

 

真耶は笑顔で答える。

 

「それで、今日は?」

 

「そうでした。食事の準備が出来ましたので、来てもらえますか?」

 

「わかりました」

 

言って、俺たちは移動を開始した。

 

 

 

 

ここはIS学園の生徒が泊るだけのことがあるだけ、食事は豪華だ。

セシリなどの人の関係で納豆などは出ないけど……

そんな中、俺たちより先に来ていた人がいた。

 

「おはよう。簪」

 

「おはよう」

 

そこにいたのは簪だった。

他の生徒は別の所で食事を取っているので、ここには俺と簪に騎士たちしかいないはずなのだが、簪の隣に肩に触れるか触れないくらいの髪に、人形のような顔が特徴的な少女がいたのだ。

 

「そちらは?」

 

少女は立ち上がり、ぺこりとお辞儀をした。

 

「初めまして、簪様のパートナーの『折紙』です」

 

少女は簪のIS……折紙だったんだ。

 

「えーと……つまり、簪も?」

 

「私には、影響はなかったんだけど、ISの擬人化は発動してしまったみたいなの」

 

簪も俺と同じくISが擬人化を起こしてしまったが、特に問題はなかったそうだ。

 

「とりあえず、朝食を摂るか」

 

「うん……」

 

その後、遠くから騒ぎ声が聞こえた。

後で千冬姉に聞いた所、束さんがIS学園で暮らすことになったらしい。

それと、俺たちのISの専属整備師を担当することにもなっていた。

 


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