インフィニット・ストラトス ~紅の騎士~   作:ぬっく~

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第48話

旅館の一室ではカオスが起こっていた。

 

「イチカ! おなかすいたぞ、イチカ!」

 

「だーりーん! だーりーん!」

 

「あ、あの……いちかさん」

 

「みんなちょっとおつきなさい! って、あ! マル、それわたしのおかしじゃないの!」

 

「イチカ! ごはんがたべたいぞ、イチカ!」

 

「くく、ちいさきものよ。さまつなことにこうでいするは、おのがわいしょうさをろていするにほかならんぞ?」

 

「しゅこう。ひとつくらいいいではないですか」

 

「って、あんたも! かえしなさいよー!」

 

「う……っ、うぇぇぇぇぇぇ……」

 

『ああっ、ほら、だいじょーぶ、だいじょーぶ』

 

「くーくくく! いちどわがりょうちにはいったものはかえせぬなー!」

 

「とうぼう。かえしてほしかったらつかまえてみるがいいです」

 

「だーりーん! だーりーん!」

 

「…………」

 

無言で頬に汗を垂らしながら、織斑一夏は頭を抱えていた。

ただでさえ呪いで女性化している時に、ひっきりなしに響く甲高い声と、バタバタという足音が容赦なく叩いていく。

今、臨海学校の俺が寝泊まりしている寝室には、6人の子鬼……もとい、小さな女の子たちの姿があった。

皆、歳は10にもならない。

ただでさえ手のかかりそうな年代である。

加え、それぞれが思い思いに泣いたり、叫んだり、一夏を引っ張ったり、追いかけっこをしたりしているのである。

なぜこうなったかと言うと…………

 

 

 

 

「作戦終了と言いたい所だが……」

 

旅館に戻るなり、鬼が待ち構えていた。

 

「篠ノ之と更識は重大な命令違反を犯した。 それなりの処罰が下るだろうから、覚悟しておけ」

 

「「はい……」」

 

セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットは正式な依頼なので問題はなかったが、俺の場合は行方不明だったので何とも言えない状況下に置かれている。

とりあえず、不問ということで決着がついた。

その後は睡魔に襲われたので俺は部屋で寝ることにした。

その後に、とんでもない事件が起こるとはこの時、誰も思っていなかった。

 

 

 

 

「ただいま、くれっち」

 

「お帰り、束ちゃん」

 

束は旅館に戻るなり、姿をくらましファイのいる海岸へと向かった。

そして、ファイの隣に座り、先程の戦闘データを見ていた。

 

「一夏くんも思いっ切ったことをやるのね」

 

「〈破軍歌姫〉だっけ? あれには束さんも脅かされたよ。まさか、操縦者とコアのシンクロ率を一時的とはいえ、引き上げることが出来るなんて」

 

ISのコアと操縦者のシンクロ率を上げることは、ISに指示するまでのラグを少なくなるということなのだ。

戦場ではそれが大きく左右することがある。

SEの消費量から、操縦者にかかる負担が少なくなると言うおまけがついているのだから。

 

「そう言えば、いっくんは〈ウィッチ〉を使わなかったけど……」

 

「あれね……あれだけは“戦闘”用じゃないから、使わなかったんだよ」

 

「どう言うこと?」

 

「〈ウィッチ〉の天使は〈贋造魔女(ハニエル)〉と呼ばれているわ。しかもこれ……魔法の箒なんだよね」

 

「へ~」

 

「対象の年齢を変えたり、変形させたりと色々できるの。だから、戦闘ではあんまり使えないんだよ……これが」

 

「すごい効果を持っているんだね」

 

「まあね」

 

海が近くにあるので、そこから流れる風は不思議と涼しかった。

 

「それで、紅葉。お前の目的はなんだ?」

 

ふと、木の影から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「教えたいけど、まだ教えられないな……ちーちゃん」

 

木の影から姿を現れたのは千冬だった。

 

「盗み聞きなんて、趣味が悪いよ。ちーちゃん」

 

「そう言うお前達もそうだろ?」

 

「そうかもね」

 

束、ファイ、千冬……この3人が同時に出会うのは何年ぶりだろう。

最後に出会ったのは学生時代が最後。

お互いにそんなに変わっておらず、昔のことを見ているようだった。

 

「紅葉……あれはなんだ?」

 

「簪ちゃんのIS?」

 

「そうだ」

 

「私の最新作。第四世代型IS機、『折紙』だよ」

 

「騎士だけでは物足りなくなったのか?」

 

「ちょっとちがうね。『折紙』も一応、騎士だよ」

 

「なに?」

 

「騎士は全部で10機以上あるんだよ」

 

「まだ、あるというのか……紅葉」

 

「そうね。でも残りは私が管理しているから大丈夫だよ」

 

ファイは七騎士だけではなく新たな騎士を作り、プレゼントしたのだ。

さらにまだ騎士のコアを所持していると言う、危険分子へとなっていた。

 

「まあ、それだけじゃないんだけどね」

 

ファイはポケットからUSBメモリーを取り出し、束に渡す。

 

「束ちゃん、これ一夏くんと簪ちゃんのISデータね」

 

「ああ、そいうことね」

 

束はそれを受け取ると、千冬の元にいく。

 

「さて、私もそろそろ行くわ」

 

ファイは柵の上に立った。

 

「そう言えば聞き忘れるところだった。くれっちはこの時代をどう思う?」

 

束にしては面白い質問だった。

 

「今の時代を作れるのは、今を生きている人間だけだよ……ってね」

 

昔、とある白髪の爺さんが言ってたことをファイは口にした。

 

「今度は多分、学園祭かな……」

 

そう言って、ファイは飛び降りた。

その後のファイの行方を知る者はいなかった。

 

「束はこの後どうするんだ?」

 

「IS学園に入学しようかな~」

 

ファイから渡されたUSBメモリーの意味は一夏と簪の専属整備師をしてほしいと言う意味合いだった。

だから、手っ取り早く整備するなら、IS学園にいた方がいいと束は考えたのだ。

 

「そうか、騒ぎだけは起こすなよ」

 

「保証は出来ないけどね」

 

2人は恋人の様にいちゃいちゃしなが旅館へと向かっていった。

 

 

 

 

暗闇の中、最初に感じた違和感は、匂いだった。

石鹸のような、花のような、芳しい香り。

明らかに自分のものではないそれが、不意に一夏の鼻腔をくすっぐってきたのである。

 

「ん……」

 

小さなうめき声を上げながら身じろぎし、横になったまま背筋を伸ばす。

すると今度は、手の甲に何やら柔らかく温かい感触が生まれ、それと同時に「きゃっ」という小さな声が聞こえた。

 

「へ……?」

 

一夏は混濁する意識を無理矢理覚醒させると、目をごしごしと擦りながらむうりと身を起こした。

最初に目に入ったのは、大きく膨れ上がった布団だった。

剥ぎ取るとそこには…………

 

「きゃっ」

 

6人の女の子が寝ていたのだ。

 

「ふふ……おはよう、一夏くん」

 

一夏の隣に添うように横になっていた下着姿の女性が、怪しく口元を緩め、色っぽい仕草で髪をかき上げてきた。

年の頃は20代中頃といったところだろう、すらりと長い手足に豊満な胸元。

モデル顔負けのプロモーションを誇る美女である。

 

「……ん、ああ、おは―――」

 

一夏は寝ぼけ眼のまま返事を返そうとし―――途中で言葉を止めた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

脳がその異常事態を理解すると同時に、一夏はその美女から距離を取るように後ずさった。

 

「な……ステフ……ッ!? おまえ、なんで……」

 

そして、狼狽に満ちた声で、女性の名を叫ぶ。

そう。

一夏はその女性を知っていた。

ステファニー。

つい先程、一夏が契約した騎士の1人である。

 

「それは簡単ですわ。それがこんどから発動する呪いなのですから」

 

後ろには浴衣姿のエンペラーが立っていた。

 

「あら? エンペラーちゃんはもういいの?」

 

「もう十分に探索しましたので」

 

エンペラーは戸を閉め、お茶を入れ始めた。

一夏は、もう一度目を擦り、ついでに頬をつねる、自分が寝ぼけているのではないことを確認する。

 

「あ、ははは……」

 

現在、この部屋には子供が6人にステフとエンペラーの2人。

そして、俺がいる。

マジで頭が痛くなってきた。

と、一夏がそんなことを考えていると、不意に部屋の戸が開いた。

 

「一体どうした、さっきからうるさいぞ」

 

そして、実の姉が入ってきたのだ。

先程の大声で様子を見にきたのだ。

 

「…………って」

 

千冬は戸を開けたまま部屋を見回すと、半裸状態のステフと、のんきにお茶をすするエンペラーと、布団の中で雑魚寝する子供が6人いた。

千冬はそんな一夏を見つめ、ピクッと眉の端を揺らした。

 

「一夏……やったのか?」

 

一夏は首をブンブンとふり、否定した。

 

「それもそうか、今のお前には息子がいないもんな……とりあえず、説明をしろ」

 

千冬は逆らったら、生きて帰れるかわからいオーラを出していた。

 

「簡単なことですわ。これが今回から発動する呪いなんですわ」

 

答えたのはエンペラーだった。

 

「一夏さんは全ての騎士と契約しましたんで、呪いがまた1つ増えたのですわ。それも、使用した騎士のコア人格が一人歩き出来ると言う呪いを」

 

つまり、女体化+コア人格の実体化と言う非常に厄介な呪いが新しく生まれたことだった。

 

「今回は一夏さんは、全ての騎士を使ったので全員実体化と言う結末になりましたわ。しかもステファニーさんの悪戯付きで」

 

そい言って、エンペラーは布団にいる6人に目を向けた。

 

「〈贋造魔女〉で子供の姿にされておりますのでお気お付けてくださいまし」

 

布団にいる6人には見覚えがあった。

そこにいたのは「フレア」、「アクア」、「マル」、「モロ」、「ライラ」、「サー」と残りの騎士たちが寝ていたのだ。

 

「どうしますか?」

 

「……あとで考えておく」

 

さすがに千冬もこの非常に頭を悩ませていた。

 

「とりあえず、朝食をもらってくる……人数分な」

 

そう言って千冬は部屋を出て行った。

この後、カオスな環境へと変わったのは言うまでもなかった。


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