「返してよ!!私のこの気持ちを!!」
「…………」
彼は何も言わない。
彼女は涙を流す。
「織斑くんのことなんて……」
言おうとした時、彼女は彼に抱かれた。
その直後、大きな爆発が起こった。
「フレア、サー、エンペラー……簪のことを……」
鼓動が徐々に小さくなる。
「頼む……」
彼は笑顔で微笑み、ブレスレットを投げる。
『『『お兄ちゃん!!(一夏!!)(一夏さん!!)』』』
彼はそのまま、海へと落ちた。
◇
数十分前……
時刻は十一時半。
砂浜には俺と簪さんが出撃の準備に入っていた。
『織斑、更識、聞こえるか?』
ISのオープン・チャンネルから千冬姉の声が聞こえる。
『今回の作戦は一撃必殺だ。短時間で決着をつけろ』
「了解です」
作戦開始の時刻になり、俺は簪を抱える。
今回のモードは白騎士で、簪を抱えて現地に運ぶのが俺の役目だ。
もし、失敗してもいいように戦闘には参加せず【最後の剣】を発動させるための、エネルギーを残すためだ。
そして、俺は福音が来る方向に飛ぶ。
「暫時衛星リンク……情報照合完了。―――簪、一気に行くぞ!」
「…………」
簪はこくとうなずくだけだった。
そして、〈雪片弐型〉を展開する。
(見えた!!)
ハイパーセンサーが『銀の福音』を捉える。
『銀の福音』はその名に相応しく全身が銀色の全身装甲だった。
「行け!!簪!!」
一気に加速し、福音との距離を縮める。
そして、光の刃が福音に触れる瞬間。
「なっ!?」
福音はそれを避けたのだ。
「敵機確認。迎撃モードに移行。《銀の鈴》、機動」
反撃に入る前に決着をつけたかが、福音の方が一歩はやかった。
俺は〈鏖殺公〉を取り出し、【最後の剣】を発動させる分だけのエネルギーを残しつつ、迎撃にあたる。
だが、簪は違った。
「簪!?どうした!!」
簪はそこから一歩も動かず、ただ下を見ているだけだった。
「…………」
だが、簪が何かを言っていた。
「夜刀神……十香」
それは、俺が女性化した時に使っている名前だった。
「そうなんでしょ…………織斑くん。あなたが夜刀神十香なんでしょ……」
ここに来て、簪は関係のない話をしてくる。
「どうしてよ……どうしてなのよ…………」
簪は涙を流してした。
「どうして……織斑くんが十香さんなのよっ!!」
その時、その意味が分かってしまった。
あの時、アイザックの話を聞いていたの簪だと。
「返してよ!!私のこの気持ちを!!」
簪が持っていた〈雪片弐型〉は光の粒子となり消えた。
(今のは、具現維持限界!! まずい―――!!)
具現維持限界が起こってしまった。
そして今は、実戦。
「織斑くんのことなんて……」
簪が言い切ろうとした時、福音が一斉射撃モードに入っていた。
(間に合ってくれ!!)
スローモーションの世界で、俺は光弾が放たれるのを確実に捉え、そして次の瞬間なは福音と簪の間に割は入っていた。
「ぐああああああっ!!」
簪をかばうように抱きしめた瞬間、光弾が一斉に背中に降り注いだ。
「フレア、サー、エンペラー……」
絶対防御を貫通し、背中は焼けていた。
「簪を……頼んだ」
ISは解除されると同時に簪を突き飛ばす。
そして、大きな水音を立てて、落ちた。
「どうして……」
簪の手元には一夏のISの待機状態のブレスレットがあった。