インフィニット・ストラトス ~紅の騎士~   作:ぬっく~

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第36話

「これは・・・・・・」

 

楯無が声を発すると、中央のエンペラーが両腕を広げながらくっとあごを上げた。

 

「うふふ、ふふ。いかがして?美しいでしょう?これはわたくしの過去。わたくしの経歴。様々な時間軸のわたくしの姿たちですわ」

 

「なーーー」

 

「うふふーーーとはいえあくまでこの『わたくしたちの』は、わたくしの写し身、再現体に過ぎませんわ。わたくしほどの力は持っておりませんので、ご安心くださいまし」

 

ねェ、とエンペラーが続ける。

 

「それでは、始めましょうーーー刻々帝(ザアアアアアアフキエエエエエエル)

 

学年別トーナメントの時に現れた時計がエンペラーの影から出現する。

 

「さあーーー」

 

エンペラーが、くるりと回る。

 

「終わりに、いたしましょう」

 

「・・・・・・ッ、舐めんじゃーーーないわ!!」

 

叫んだのは、楯無だった。

 

「うふふ、ふふ。あなたにそれはできますかしら?」

 

言って、エンペラーが左手の短銃を掲げる。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉---【一の弾(アレフ)】」

 

すると文字盤の『Ⅰ』の部分から影が染み出し、エンペラーの握る短銃に吸い込まれていった。

そしてその銃口を自分の顎に当てーーー引き金を引く。

瞬間。

 

「が・・・・・・ッ!?」

 

その場からエンペラーの姿が掻き消え、それと同時に、楯無が横に吹き飛ばされた。

 

「あッはははははは!見・え・ま・せんでしたかしらァ?」

 

「っーーー」

 

楯無は空中で方向を転換すると、虚空を蹴るようにしてエンペラーに猛進した。

だがエンペラーの身体がまたも霞のように消え去ると、次の瞬間には楯無の後方に出現して、その背中に踵を振り下ろす。

 

「く・・・・・・!」

 

しかし楯無がキッと視線を鋭くすると同時に、一瞬エンペラーの動きが鈍くなった。

楯無がエンペラーの腹部を両断するように、蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を横に滑らせる。

だがエンペラーは寸前のところで身をかわすと、くるくると回りながら給水塔の上に着地した。

 

「ふふッ、さすがですわ!もう()()()()()()わたくしの動きに対応するだなんて!」

 

「確かに・・・面白い能力だけど、私の水のナノマシンとは相性が悪いんじゃない?」

 

「ああ、ああ、そうでしたわねぇ。じゃあーーー」

 

再び、エンペラーが目にも留まらぬスピードで楯無に向かっていく。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉---【七の弾(ザイン)】!!」

 

と、その途中、文字盤の『Ⅶ』から染み出した影が、エンペラーの歩兵銃に吸い込まれていった。

そして即座にその銃口を楯無に向け、放つ。

 

「無駄よ・・・・・・ッ!」

 

ハイパーセンサーがその程度の銃弾が避けられるわけがない。

だがーーー

 

「馬鹿な・・・・・・?」

 

千冬は呆然と声を発した。

 

ーーー楯無の身体が、空中に飛び立った状態で、完全に停止していたのである。

 

「更識・・・っ!」

 

千冬が呼びかけるも、楯無は動かない。

反応を示すこともない。

まるで、その場で楯無の()()()()()()()しまったかのように。

 

「あァ、はァ」

 

エンペラーが笑い、楯無の身体に何発もの銃弾を放っていく。

エンペラーが握っているのはどちらも、単発式の古式銃である。

しかし一発銃を撃つたびに、エンペラーの足下から影が滲み出、弾となって銃口に装填されていったのだ。

そして数秒のあと、エンペラーが地面に降り立つ。

それと同時に、

 

「がーーーぁ・・・ッ!?」

 

絶対防御をすり抜け、その身に幾発もの弾丸を受けた楯無が、全身から血を流して地面に落ちていった。

 

「きひひひひひひ、あらあら、どうかしましたのォ?」

 

「なーーー、今の、は・・・」

 

「更識!」

 

千冬は叫ぶと、地面に膝を突いた楯無に駆け寄った。

 

「織斑ーーー先生、危険です。離れててください・・・」

 

「馬鹿、何を言う!」

 

だが、〈刻々帝(ザフキエル)〉の前で銃を握ったエンペラーが【七の弾(ザイン)】を装填し、楯無と千冬に放つとーーー先程のように、停止してしまう。

その隙に、無数のエンペラーたちが群がってくる。

 

「離せーーー!!」

 

千冬は声を上げる。

だが、どうしようにもなかった。

専用機持ちは救出を試みるがーーー数に差がありすぎた。

後方から、左右から取り囲まれて攻撃を加えられ、その場に取り押さえられてしまう。

そうなったなら、もう千冬に為す術はなかった。

両手をそれぞれエンペラーに取られ、その場に押さえつけられる。

時間にして、5分にも満たない出来事だった。

しかし、それも当然だ。

相手は()()()()なのだーーー代表候補生では差がありすぎる。

雄一対抗できるであろうロシア代表の楯無が、天使によって無力化された瞬間、勝敗は決していたのだ。

 

「ぐ・・・」

 

両腕を取られ、地面に押さえつけながら、千冬はなんとか言葉を発した。

 

「ーーー」

 

近くには専用機持ちも千冬と同じように取り押さえられている。

千冬の位置からだと、楯無の姿だけしかが確認できない。

空から屋上に落ちてきたのはわかったが、夥しい数のエンペラーの姿によって、視界が遮られていたのだ。

 

「うふふ、ふふ」

 

そんな中、悠然と微笑みながら、銃を握ったエンペラーが千冬の方に近づいてきた。

 

「ああ、ああ、悔しいでしょうね。大事な生徒がこんなにもボロボロにされていくのですから」

 

「や・・・っ、やめなさいエンペラー!織斑先生に近づくな!」

 

専用機持ちがもがくが、エンペラーたちの拘束から逃れることはできなかった。

エンペラーはくすくすと笑うと、千冬の目の前で足を止めた。

と、そこでエンペラーは何かを思いついたのか眉をぴくりと動かした。

 

「ふふーーーそうですわ」

 

言って、左手に銃を預け、右手を頭上に掲げる。

すると、ビリビリと空気が震えだした。

 

「エンペラー、おまえ何をーーー」

 

「うふふ、ふふ。あなたには絶望を差し上げることにしましたわーーーこのまま行けば、わたくしとあなた以外みんな死んでしまいますわねえ」

 

「や、やめろ・・・ッ!」

 

エンペラーが笑い、右手を握る。

すると、周囲に耳障りな高音が響き始めた。

 

「ふふ、ひひひ、ひひひひひひッ!さあ!あなたに、絶望を刻み込んで差し上げますわ!」

 

「やめろーーー!」

 

エンペラーはそんな千冬の懇願を無視し、右手を振り下ろした。

エンペラーがーーー笑う。

けらけら、けらけらと。

 

「あーーーッははははははははははははははははははははははははーーーっ!!」

 

瞬間、IS学園の周囲の空から凄まじい音が響きーーー地震のように空気が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

「あーーーはぁ・・・・・・?」

 

数秒のあと、その笑い声は疑問符によって上書きされた。

エンペラーが、怪訝そうに辺りを見回す。

それはそうだろう。

確かに空がずれるかのような、耳障りな音が響いた。

近くで爆弾でも爆発したかのように、空気が震えた。

 

「これは・・・どういうことですの・・・?」

 

エンペラーが不審そうに眉を歪める。

すると、

 

「ちょっとやり過ぎよ・・・〈ナイトメア〉」

 

上空から、凛とした声音が響いてきた。

 

「ーーーっ、お、お母様」

 

エンペラーが頬をぴくりと動かし、右手に銃を握り直して顔を上に向ける。

そして千冬も顔を上げーーー目を見開いた。

空が、赤い。

最初の感想はそれだった。

屋上の上。

千冬やエンペラーたちの頭上に、一人の女性の姿があった。

白い白衣を着た女性。

赤よりさらに濃い紅の髪が風でなびく。

だが、千冬がその女性に目を奪われた理由は、それだけではなかった。

呆然と、口を開く。

 

「紅、葉・・・?」

 

そう。

騎士シリーズの開発者でISの生みの親である。

そこにいたのはーーー炎龍寺 紅葉だった。

 

「システムログイン。ID『※※※※※※』」

 

ファイは何かを唱えると、周りにパラメーターなどが表示される。

 

「システムコマンド。プロジェクトID『赤騎士』を生成(ジェネレート)

 

そして、ファイは光に包まれ、そこに現れたのは赤騎士を纏ったファイだった。

 

「ーーー焦がせ、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

それは、あの赤騎士の天使である戦斧だった。

 

「さあーーー悪い子にはお仕置きをしなきゃね。ナイトメア」


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