ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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8話 vs巡

「なんていうか、本当にあなたは意外な事ばかりですね。なにか武術でもやっていたのですか?勝ち方は別として、留流子を三度も地につけるとは思いませんでした」

 

ソーナがいち早くあっけにとられていた状態から回復する。

 

「まさか、そんなものやったことありませんし、教えてもらったこともないです。

……まぁそれなりに場数は踏んでいますが」

 

ただの喧嘩ですけどね、とまでは言わない。せっかく中学の自分を知っている人間が誰もいない駒王学園を選んだのだから、言う必要もない。

 

「うぅ……。もうお嫁に行けません……」

 

仁村は顔がまだ赤く、スカートを押さえている。余程恥ずかしかったのだろう。

 

「安心しろ。誰かはもらってくれるさ」

 

「……俺がもらってやるよ、とは言ってくれないんですね」

 

ジト目で仁村が睨んでくる。

 

「無責任なのは嫌いなんだ」

 

「むぅ、匙先輩いじわるです」

 

「で、会長。これで今日の訓練終わりですか?」

 

今日は疲れたからもう休みたい。

 

「まだ悪魔の駒の特性の話はすんでいませんよ?」

 

まだ終わってないってことですか……。

 

「本当は説明だけするつもりだったのですが、サジがどこまでできるのか気になるので訓練を続けましょう。巴柄」

 

「はい会長」

 

今度は巡が相手か。確か騎士と言っていた。

悪魔の駒によって特性が違うということは、なにかがズバ抜けて強化されているか、特殊な能力を持っているかだな。

 

「元ちゃん、留流子は私や翼紗と比べると実力は弱い方。勝ったからって調子にのっちゃだめよ?」

 

「さぁどうだろな、案外お前の方が相手をしやすいかもな」

 

さっそく煽りにかかる。

 

「へ、へぇ。言うじゃない。上等よ!ボコボコにして巡様って言わせてあげる!」

 

頬がピクピク動いている。

お前も耐性低いな。

 

「じゃあ万が一俺が勝ったらどうする?」

 

「一日なんでも言うことを聞いてあげるわよ?万が一どころか億が一ありえないけどね!」

 

なるほど。耐性云々より只沸点が低いだけだコイツ。

ただ正直無理がある。先ほどの戦いを見られているし、巡がどんな戦い方をするのか分からない。

 

まぁ煽るだけ煽っとくか。

 

「一日中ご主人様って呼ばせてやるよ。メイド服も着せてな」

 

ブチィッ

 

なんか切れる音が聞こえた。

 

「会長、早くやりましょう」

 

木刀を取り出し、匙を睨む。

本来日本刀が武器なんだろう。木刀ということは怒っても多少の手加減はしてくれるらしい。

ただ単に殺さずボコボコに出来るからかもしれないけど。

 

「いつでもどうぞ?」

 

匙はあくまで余裕の表情を崩さない。

 

「そう……。じゃあ、行くわよ!!ぶっ飛ばしてあげる!!!」

 

巡の姿が消える。

 

「は!?」

 

あまりの突然の事に何が起こったのか分からなかった。

状況を把握しようと周りを見るが、既に背中をとられていた。

 

「『騎士』の特性は機動力の向上。留流子と一緒すると……痛い目見るわよ?」

 

「うお!?」

 

背中に走る衝撃。

仁村の時と違い、完全に無防備だったからモロに攻撃を受けてしまった。

コレは結構痛い。

 

「今ならごめんなさい巡様って言えば、許してあげないこともないわよ?」

 

「……嫌だね」

 

「あっそ、お望み通りボコボコにしてそう呼ばせてあげるわ!!」

 

また匙の目の前から消える。

 

「(元ちゃんはどうせ女子の私を攻撃できない。そういう所は嫌いじゃないけど、甘いわね)」

 

匙の後ろをとる。

 

「(これでジ・エンドよ!!)」

 

止めを刺そうとしたとき。

 

「シャア!!」

 

巡に向かって拳が飛んできた。

 

「ちょお!?女の子は殴れないんじゃないの!?」

 

突然の事だったが、ギリギリ躱せた。

目の前の男は間違いなく顔を狙ってきた。女子である自分のだ。

 

「今、顔狙ったでしょ!?乙女の顔に殴りかかるなんて頭おかしいんじゃないの!?」

 

「は?乙女?どこにそんな乙女と呼ばれる奴が存在するの?」

 

つまり匙にとって巡は乙女ではないということらしい。

 

「……」

 

あまりの事に開いた口がふさがらない。まさか乙女であることを否定されるとは思わなかったらしい。

 

匙も本当なら殴りたくないが、先日蹴り飛ばされた恨みもある。なにより負けるのが嫌だ。

信条を曲げなければ勝てないのなら、そんなものゴミ箱にでも捨てる。

いや、そもそも信条なんて物は持っていないのかもしれない。

匙元士郎とはそういう人物なのだ。

 

「ふ……ふふふ。まぁ良いわ。どうせ速度に関しては私の方が上なんだから。あんたが察知できない速さで動けばいいもの」

 

「その通りだけど、そんなの許すわけないだろ?」

 

「なに言って……ってああ!!」

 

巡の足元にはいつの間にかラインが繋がれていた。

 

「機動力を削ぐのにこれ程の物はないな」

 

ラインを引っ張る。巡は足が持って行かれないようにこらえるしかない。この状態で動けば仁村の二の舞になってしまう。先輩の意地としてそれだけは避けたかった。

 

「離しなさいよ!……きゃあ!?」

 

ギリギリと拮抗状態が続いていたが、突然力引っ張られる力が緩んだせいで倒れてしまう。

 

「繋いだ状態で伸ばす事も出来るみたいだな」

 

使い道はなくはないが、もうちょっと別のなかったのか?

 

「なんてことすんのよ!痛いじゃない!!」

 

「……ピンクか。自称乙女は嘘じゃないらしいな?」

 

仁村とまったく同じ手段を使う。卑怯?知るかそんなもん。

 

「ッ~~~~~~~~~~~!?」

 

スカートを押さえ、声にならない叫び声が上がる。

見ている周囲から軽蔑するような視線をうけるが、こうしないと勝てないのだ。

 

「ほらほら、押さえないと見えるぞ?」

 

ラインを引っ張ることで足が動く。立とうとすれば強く引っ張られ、また尻餅をつかされる。座っていれば攻撃ができない。

 

「離せ!変態!最低!」

 

「安心しろ、別にみたところで何の感情も抱かないから」

 

「私に女のとしての魅力がないってこと!?なんかそれはそれで腹が立つ!!」

 

変な方に誤解を受けたが、まぁいい。些細なことだ。

 

「ああ、もう!こんなの切ってやる!」

 

どこからともなく日本刀を取り出してきて、ラインを切ろうとする。

 

「させるか!!」

 

ラインを引っ張る。これが切られたら不味い。それこそ勝利の生命線なのだ。

 

ガィィン

 

「「は?」」

 

二人の声が被る。

え?日本刀はじいた?

 

「え!?嘘でしょ!?なんで切れないの?この!このぉ!」

 

ガィィン ガィィン ガィィン ガィィン

 

スゲェこれ。刃物をはじいてる。

 

「「……」」

 

視線が交わる。気のせいか?なんだか涙目だ。

 

「えっと、引き分けって事にしない?」

 

グィッ

 

「ちょっと待って!?お願い!なんで切れないのよ!これ結構業物なのよ!?」

 

スカートを押さえながら器用に刀を振るう。しかし、全部はじかれる。

 

「わかった、認めるから!!負けを認めるから!もうヤメテェ!!!」

 

ここに2戦目の勝利が確定してしまった。

 


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