ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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7話 vs仁村

「へくちっ。うう、ひどい目にあった……」

 

巡がつぶやく。

 

事が終わった後に帰ってきた匙には事情が分からなかった。

聞いても誰も答えてくれないし、ソーナは無言の笑顔ですごく怖かった。

 

「まったくね。でも、元々巴柄が話を広げたせいでしょう?」

 

「翼紗が無駄に反応したせいでしょ!」

 

バチバチと二人の目から火花が飛び散る。

どうやら何らかが原因で二人が喧嘩して、他にも飛び火して大事になったようだ。

冷静な真羅が参加したのは意外だが、何の会話だったのだろうか?

 

「なによ」「やるの?」

 

「……(キッ」

 

「「なんでもないです!」」

 

第二ラウンドに突入しかけたが、ソーナのひと睨みで鎮火させられた。

よっぽど説教がこたえたらしい。どことなく顔色が青い。

 

「はぁ、無駄な時間をかけてしまいました。さっそく訓練に入りましょう」

 

ソーナのため息に全員の肩がびくりと震える。もう見なかったことにする。

 

「訓練って、どこでやるんですか?まさかここでやりませんよね?」

 

「こちらにある私の自宅地下まで転移で直接ジャンプします。時間がもったいないので」

 

ソーナの足元から大き目の魔方陣ができる。この陣の中に入れってことか。

 

全員が入り終わると、景色が一変する。

大きな部屋だ。いや、部屋というより訓練場だな。

 

「さぁ始めましょう。サジ、神器を出しなさい」

 

言われた通り神器を発動させる。左手にトカゲ・・・龍の頭らしきものが装着される。

 

「『黒い龍脈』の能力はラインを伸ばし相手を拘束するものらしいです。試しに伸ばしてみなさい」

 

地味な能力だな、オイ。まぁ、ないよりマシか。

ソーナに向けて神器を発動させる。

 

「伸びろ!ラインよ!」

 

龍の口が開き舌らしきものが伸びてソーナの腕に絡まる。

 

「やっぱりトカゲじゃん!?」

 

あまりのトカゲっぷりにビックリだよ。

コレのどこら辺に龍要素があるの!?

皆声には出さないが笑っている。同じことを考えたのだろう。

 

「このラインを離せますか?」

 

「……やってみます」

 

戻れと念じると簡単に離れて戻ってきた。意外と簡単だな。

 

「よろしい。留流子、相手をしてあげなさい」

 

「はい!会長!」

 

仁村が匙の前に立つ。

 

……え?

 

「いやいやいや、まさか仁村相手に戦えと?」

 

「そうですよ?なにか問題でも?」

 

大ありだろ!?

 

「女子となぐり合うのはちょっと」

 

「……なるほど。まぁ、やってみればわかりますよ」

 

いいからやれって事か。なんだか意味深な笑いだな・・・。

 

「ふふん、準備はいいですか?」

 

仁村はやる気満々のようだ。仕方ない。

 

「いいぜ、来いよ」

 

大けがだけはさせないように気を付けるとしよう。

 

「じゃあ……行きますよ!」

 

一瞬で間合いがつめられる

 

速い!?嘘だろ!?

 

仁村から蹴りがくる。

距離、タイミング的にこの蹴りはかわせないと判断した匙は防御の態勢に入る。

なんとか仁村の蹴りを防御することはできた。

しかし、その小さな体から生み出された蹴りは防御したはずの匙をそのまま壁際まで蹴り飛ばした。

 

「痛!?……なるほどね。こりゃあ油断してた」

 

たった一度の蹴り。しかしこれで全部わかった。

先ほどのソーナの笑みの意味は今の匙では仁村に敵わないのがわかっていたのだろう。

仁村も本気ではない。その証拠に余裕そうにわらっている。

そしてあの細い体でここまで強烈な蹴りが出せるのは、おそらく魔力というヤツだ。

 

全部合点が行った。だからこその訓練か。

 

「匙先輩、大丈夫ですか?手加減したつもりなんですが?」

 

なんだか凄く得意顔だ。

ちょっとだけカチンときた。

 

女子を、しかも後輩を殴るのには抵抗がある。それは変わらないが、それ以外でもいくらでもやりようがある。

相手の呼吸は既にわかった。

相手はこちらが勝てないと油断していて付け入る隙はある。

 

「どうします?もう少し手加減しましょうか?」

 

「その心配はないさ。なんならもう少し本気を出しても構わないけど?ちょっと調子にのってる後輩にお灸をすえてやるよ」

 

本気で心配してくれていたのだろう。その言葉に少しムッとした表情をする。

 

「……じゃあ、もう少しギアを上げていきますよ!!怪我しても知りませんからね!!!」

 

先ほどよりも速く距離をつめられる。しかし、油断しなければ目で追える。

仁村が蹴りの態勢にはいる。

 

「てりゃあ!」

 

かわいらしい声とは裏腹に蹴りは先ほどよりも鋭い。

でも、だからこそ意味がある。

 

蹴りをしゃがんで躱す。目で追えるのならそう難しいものじゃない。

勢いのついた蹴りが空回りし、バランスを崩す。

 

「はれれ?……きゃん!?」

 

そのまま軸足を払うと、仁村は尻餅をつく。

 

思わぬ反撃にあい何が起こったのか分からず、目を白黒させている。

 

「どうした?さっきより攻撃がぬるいぞ?」

 

仁村を見下ろしながら煽る。

もちろんそんなことはないし、今の蹴りもタイミングが悪かったらクリーンヒットしていた。

だが余裕を見せ、煽ることで大体の奴は冷静をかく。不意打ちを食らった奴は尚更だ。

 

「むむっ、ちょっと油断しただけですから!二度目はありませんよ!!!」

 

ほら、煽り耐性のない奴はすぐに挑発にのってくる。

冷静を欠いた攻撃ほど予測しやすいものはないからな。喧嘩の常套手段ってヤツだ。

 

仁村は床から飛び起き、攻撃の態勢にはいる。しかし体に余計な力が入っているのがよくわかる。

 

「てりゃあ!!!」

 

今度はパンチで攻撃してくる。

蹴りは軸足を払われてまたバランスを崩されると思ったのだろう。その認識は間違ってはいないが、甘い。

 

パンチを躱し、伸びきった腕を引っ張り、もう一度バランスを崩してやる。

 

「あれ?……きゃ!?」

 

ついでに足を引っ掛けることも忘れずに。

 

今度は前のめりに倒れる。

鼻を押さえているので、顔面から倒れたらしい。

 

「匙先輩!さっきから戦い方がズルいです!」

 

「ズルいとは失礼な。これが俺流の戦い方だ」

 

正攻法では勝てないのなら、相手を観察し、煽り、自分のペースに巻き込み、相手の嫌がることをする。

たとえ汚いと罵られようが、結局は勝てば良いのだ。

勝てば官軍負ければ賊軍、素晴らしい言葉だ。

 

仁村の顔が膨らむ。

どうやら納得がいかないらしい。

 

「次は絶対ないんですから!!三度目の正直です!!」

 

「二度あることは三度あるって言うけどな。ハッハッハ」

 

「むぅうううううううううううう!!!!!」

 

更に煽ってやると面白いくらいに頬が膨らむ。

どうやら怒りが最高潮に達したらしい。

 

「でりゃあああああああああ!!!!!」

 

今度は勢いにまかせた突進。パンチもダメなら体当たりか。

でもそれでもやり方は変わらない。

 

「ほいっと」

 

ギリギリで避け、足を引っ掛ける。

 

「そうそう何度も倒れません!!!……あぅ!?もぉなんでぇ??」

 

二度あることは三度ある、だった。仁村は何度も体制を崩され涙目である

対策として倒れかけたのをすぐさま足を出してこらえようとしたのだろう。

そんなもの単純すぎて、いちいち予想しなくてもわかることだ。

 

しかし倒された。理由は簡単。こらえようと出した足にラインを伸ばし引っ張っただけ。

物は使いようだな。

 

床から立った仁村は深呼吸をやり始めた。

 

「すーはー、すーはー、よし!!!」

 

どうやら冷静になったみたいだな。顔つきも変わった。おそらく次は本気でくる。

おそらく同じ手もきかないだろう。そろそろ頃合いか。

 

「仁村!」

 

「なんですか?もう惑わされませんよ!!」

 

そうだろうな。だからこそ今なんだよ。

そうして最終兵器の爆弾をもってくる。

 

「今日は白と緑の縞々なのか?」

 

匙の意味不明な言葉に首をかしげる。

 

「……?……?……ッ!?」

 

バッとスカートを押さえる。

そう、戦闘は制服のまま行っていた。そんな状態で蹴りをすればスカートの中が見えて当然。

別に匙自身は見ても何の劣情も抱かないし、気になって戦闘が行えないなんてこともない。≪記憶≫のせいでそういった感情も冷めているから。

 

しかし仁村本人は別だ。意識してなかったとはいえ見られてしまったのだ。そしてこのまま続ければもっと見られるかもしれない。好意的に思っている人に自分のあられもない姿が。

 

仁村は顔を真っ赤にしてスカートを押さえながら動きを止める。

匙はスタスタと近づいていき、デコピンを一発。

 

「あうぅ!?」

 

額を抑える仁村。もう戦いは出来なさそうだ。

 

「会長!一人戦闘不能です」

 

ポカンと見ていたソーナたちの方に向かって叫ぶ。

最低の勝ち方だが、匙はスッキリした顔をしていた。

 


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